数週間で腎臓が壊れる―半月体が教える急速進行性糸球体腎炎の正体
第102回医師国家試験 I問題 第4問
国試問題にチャレンジ
急速進行性糸球体腎炎を起こしやすい疾患はどれか。2つ選べ。
- a.ANCA関連血管炎
- b.Goodpasture症候群
- c.溶血性尿毒症症候群
- d.コレステロール塞栓症
- e.微小変化型ネフローゼ症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は数週〜数か月で腎機能が急速に低下する腎炎症候群で、病理学的には多くが半月体形成性壊死性糸球体腎炎を呈します。蛍光抗体法により、抗GBM抗体型(線状沈着:Goodpasture症候群など)、免疫複合体型(顆粒状沈着:ループス腎炎など)、pauci-immune型(ANCA関連血管炎)に分類され、日本ではMPO-ANCA陽性のANCA関連血管炎が最多です。溶血性尿毒症症候群やコレステロール塞栓症もRPGN様に腎機能が悪化しますが、病変の主座は血管であり、微小変化型ネフローゼ症候群は糸球体に炎症を起こしません。治療はステロイドと免疫抑制薬が基本で、抗GBM抗体型や肺胞出血例では血漿交換を併用します。「急な腎機能低下」を病変の場所で分けて考える姿勢は、急性腎障害の鑑別全般に役立ちます。
解答・解説
正解はa, bです
急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)の原因疾患を問う一般問題である。 RPGNは、数週〜数か月という短い期間に腎機能が急速に悪化する腎炎症候群を指す臨床的な概念である。血尿(糸球体性の変形赤血球、赤血球円柱)、蛋白尿を伴い、貧血や全身の炎症所見(発熱、CRP上昇)を伴うことも多い。病理学的には、多くが半月体形成性壊死性糸球体腎炎を呈する。半月体とは、糸球体の毛細血管壁が壊死・断裂して血液成分がボウマン腔へ漏れ出し、その刺激でボウマン嚢上皮細胞やマクロファージが増殖して、糸球体を三日月状に取り囲んだ構造である。 RPGNは蛍光抗体法での免疫グロブリン沈着パターンにより、次の3型に分けられる。 ・抗GBM抗体型(線状沈着):抗糸球体基底膜(GBM)抗体病、Goodpasture症候群 ・免疫複合体型(顆粒状沈着):ループス腎炎、IgA腎症・IgA血管炎、溶連菌感染後糸球体腎炎、クリオグロブリン血症など ・pauci-immune型(沈着が乏しい):ANCA関連血管炎。日本のRPGNで最も多く、特にMPO-ANCA陽性例が多い 一方、溶血性尿毒症症候群やコレステロール塞栓症も急激な腎機能低下を起こしうるが、病変の主座は血管(微小血管や小動脈)であり、半月体形成性糸球体腎炎を本態とするRPGNとは区別される。微小変化型ネフローゼ症候群はそもそも糸球体に炎症を起こさない。したがって、RPGNを起こしやすいのはANCA関連血管炎とGoodpasture症候群である。
選択肢考察
- ○a. ANCA関連血管炎
ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎は、主に小血管を侵す壊死性血管炎で、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA、旧称Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)が含まれる。MPAではMPO-ANCA(ミエロペルオキシダーゼに対するANCA)、GPAではPR3-ANCA(プロテイナーゼ3に対するANCA)が陽性となることが多い。腎臓では免疫グロブリンの沈着に乏しいpauci-immune型の壊死性半月体形成性糸球体腎炎を起こし、RPGNの代表的な原因である。日本では高齢者のMPO-ANCA陽性例(MPAや腎限局型血管炎)が特に多い。よって正しい。
- ○b. Goodpasture症候群
Goodpasture症候群は、IV型コラーゲンα3鎖(NC1ドメイン)に対する自己抗体(抗GBM抗体)が、糸球体基底膜と肺胞基底膜の両方に結合して、RPGNと肺胞出血を起こす疾患である。喫煙や有機溶剤の吸入、感染などで肺胞基底膜の抗原が露出することが発症の契機になると考えられている。蛍光抗体法でIgGがGBMに沿って線状に沈着するのが特徴で、しばしば多数の糸球体に半月体が形成され、腎機能が急激に悪化する。治療は血漿交換で抗体を除去し、副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドで抗体産生を抑える。RPGNを起こす代表疾患であり正しい。
- ×c. 溶血性尿毒症症候群
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は、血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)の一つである。微小血管内皮の障害と血小板血栓により、破砕赤血球を伴う溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害の3徴を呈する。典型例は腸管出血性大腸菌(O157など)が産生する志賀毒素による。急激に腎不全へ進行するためRPGNに似た経過をとることはあるが、病変は糸球体毛細血管や細動脈の内皮障害と血栓であり、半月体形成性糸球体腎炎ではない。よって誤りである。
- ×d. コレステロール塞栓症
コレステロール塞栓症は、大動脈などの粥状硬化病変(アテローム)が崩れ、コレステロール結晶が末梢の小動脈に飛んで詰まる疾患である。心臓カテーテル検査や血管内治療、抗凝固療法・血栓溶解療法を契機に起こることが多い。腎機能低下のほか、網状皮斑(リベド)、足趾のチアノーゼ(blue toe)、好酸球増多、低補体血症などを伴う。腎機能は急速に、あるいは数週〜数か月かけて段階的に悪化し、RPGNに似ることがあるが、病変は小動脈の塞栓(組織では針状の空隙として見える)であり、半月体形成性糸球体腎炎ではない。よって誤りである。
- ×e. 微小変化型ネフローゼ症候群
微小変化型ネフローゼ症候群は、光学顕微鏡では糸球体にほとんど異常がなく、電子顕微鏡で足突起の消失がみられる疾患である。小児ネフローゼ症候群の大部分を占め、急激に高度の蛋白尿を呈するが、血尿は乏しく、ステロイドによく反応する。糸球体に炎症や半月体は生じないためRPGNの原因ではない。なお成人の重症例では、腎間質の浮腫や高度の循環血漿量減少(利尿薬の過量投与を含む)により急性腎障害をきたすことがあるが、これは糸球体腎炎によるものではない。よって誤りである。
RPGNの臨床像
・数週〜数か月の経過で腎機能が急速に低下する。放置すると末期腎不全に至るため、早期診断・早期治療が重要である。 ・尿所見:糸球体性血尿、赤血球円柱、蛋白尿 ・全身症状:発熱、倦怠感、体重減少、貧血など ・高齢者に多く、日本では原因の大半をANCA関連血管炎が占める。
蛍光抗体法による分類
・I型 抗GBM抗体型:IgGの線状沈着。抗GBM抗体病、Goodpasture症候群(肺胞出血を伴う) ・II型 免疫複合体型:顆粒状沈着。ループス腎炎、IgA腎症、IgA血管炎、溶連菌感染後糸球体腎炎、クリオグロブリン血症性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎など ・III型 pauci-immune型:沈着がほとんどない。顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、腎限局型血管炎
検査
・MPO-ANCA、PR3-ANCA、抗GBM抗体、抗核抗体・抗dsDNA抗体、補体価、ASOなどで原因を推定し、可能であれば腎生検で確定する。
治療
・副腎皮質ステロイド(パルス療法を含む)に、シクロホスファミドやリツキシマブなどの免疫抑制療法を組み合わせる。 ・抗GBM抗体型や肺胞出血を伴う例では血漿交換を併用する。
RPGNと紛らわしい急性腎障害
・溶血性尿毒症症候群(TMA):破砕赤血球、血小板減少 ・コレステロール塞栓症:カテーテル操作後、blue toe、網状皮斑、好酸球増多 ・急性間質性腎炎(薬剤性など)、急性尿細管壊死
POINT
・RPGNは数週〜数か月で腎機能が急速に低下する腎炎で、病理は半月体形成性壊死性糸球体腎炎である。 ・原因の3型:抗GBM抗体型(線状)、免疫複合体型(顆粒状)、pauci-immune型(ANCA関連)。 ・日本で最も多い原因はMPO-ANCA陽性のANCA関連血管炎である。 ・Goodpasture症候群はRPGN+肺胞出血で、抗GBM抗体陽性、治療に血漿交換を用いる。 ・HUSやコレステロール塞栓症はRPGN様の経過をとることがあるが、半月体形成性糸球体腎炎ではない。
