コーラ色の尿の正体は?―「潜血陽性・赤血球なし」で見抜くミオグロビン尿
第102回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
横紋筋融解症でみられる尿所見はどれか。
- a.肉眼的血尿
- b.ウロビリン尿
- c.ビリルビン尿
- d.ヘモグロビン尿
- e.ミオグロビン尿
対話形式の解説
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ドクターまとめ
横紋筋融解症では骨格筋の崩壊によりミオグロビンが血中に放出され、分子量が小さいため糸球体で濾過されて赤褐色〜コーラ色のミオグロビン尿となります。試験紙の尿潜血は陽性ですが沈渣に赤血球はほとんどなく、この乖離がヘモグロビン尿・ミオグロビン尿を疑う手がかりで、CKの著明上昇があればミオグロビン尿、溶血所見があればヘモグロビン尿と考えます。ビリルビン尿は閉塞性黄疸や肝細胞障害、ウロビリン尿の増加は溶血や肝実質障害を反映し、横紋筋融解症の所見ではありません。ミオグロビンは尿細管を障害して急性腎障害を起こし、高カリウム血症による不整脈も致命的になりうるため、早期の大量輸液が治療の基本です。「赤い尿」を潜血反応と沈渣で整理する考え方は、救急や腎臓内科の日常診療で繰り返し役立ちます。
解答・解説
正解はeです
横紋筋融解症は、骨格筋の細胞が壊れて、細胞内にある成分が血液中へ大量に流れ出る病態である。流出する成分には、酸素を貯えるヘム蛋白であるミオグロビン、クレアチンキナーゼ(CK)、カリウム、リン、尿酸などがある。ミオグロビンは分子量約17,000と小さい。血漿蛋白とはほとんど結合しないため、糸球体で容易に濾過されて尿中に出る。これがミオグロビン尿であり、尿は赤褐色〜コーラ色になる。 本問を解くには、「赤〜褐色の尿」をきたす病態の区別が鍵になる。尿の色が赤っぽくなる原因は大きく三つに分けられる。 1. 赤血球そのものが尿に混じる(血尿) 2. 溶血によって遊離したヘモグロビンが尿に出る(ヘモグロビン尿) 3. 筋崩壊によって遊離したミオグロビンが尿に出る(ミオグロビン尿) 試験紙法の尿潜血反応は、ヘムがもつペルオキシダーゼ様活性を検出する。そのため三つとも陽性になる。一方、尿沈渣で赤血球が確認できるのは血尿だけである。「潜血陽性なのに沈渣赤血球がほとんどない」という乖離をみたら、ヘモグロビン尿かミオグロビン尿を考える。両者の区別は、血清CKの著明な上昇(筋崩壊)と、溶血所見(LDH上昇、ハプトグロビン低下、間接ビリルビン上昇、貧血)のどちらがあるかで行う。 ビリルビン尿とウロビリン尿は、ヘムの分解産物であるビリルビンの代謝経路の異常を反映する所見である。尿は褐色〜黄褐色になるが、横紋筋融解症に特徴的な所見ではない。
選択肢考察
- ×a. 肉眼的血尿
肉眼的血尿は、腎臓・尿管・膀胱・尿道のどこかで出血し、赤血球が肉眼でわかるほど尿に混じった状態である。目安として、尿1 Lあたり血液1 mL以上が混じると肉眼で赤く見える。横紋筋融解症では筋細胞が壊れるだけで、尿路から赤血球が漏れ出るわけではない。尿は赤褐色になるが、それは色素であるミオグロビンによるもので、沈渣に赤血球はほとんど認めない。したがって血尿ではない。見た目だけで「血尿」と判断しないことが大切である。
- ×b. ウロビリン尿
胆汁中に排泄された抱合型ビリルビンは、腸内細菌によって還元されてウロビリノゲンになる。その一部は腸管から再吸収されて肝へ戻り(腸肝循環)、さらに一部が尿中に排泄される。ウロビリノゲンが酸化されたものがウロビリンであり、両者をまとめてウロビリン体とよぶ。健常者でも少量は尿中に出る。尿中ウロビリン体が増えるのは、ビリルビン産生が増える溶血性貧血と、再吸収したウロビリノゲンを肝で十分に処理できない肝実質障害である。逆に、総胆管が完全に閉塞するとビリルビンが腸に届かないため、尿中ウロビリノゲンは陰性になる。いずれも横紋筋融解症とは関係がない。
- ×c. ビリルビン尿
尿中に出るのは、水溶性の直接(抱合型)ビリルビンだけである。間接(非抱合型)ビリルビンはアルブミンと結合しており、糸球体で濾過されない。したがってビリルビン尿は、血中の直接ビリルビンが増える病態でみられる。代表は閉塞性黄疸(胆石、膵頭部癌、胆道閉鎖症など)と、急性・慢性の肝細胞障害(肝炎など)である。間接ビリルビンが優位に上昇する溶血性黄疸では、原則として尿ビリルビンは陰性である。横紋筋融解症の所見ではない。
- ×d. ヘモグロビン尿
ヘモグロビン尿は、血管内溶血で遊離したヘモグロビンが処理しきれずに尿に出たものである。遊離ヘモグロビンは通常ハプトグロビンと結合して処理されるが、その結合能を超えると尿中に出る。尿潜血陽性・沈渣赤血球陰性となる点はミオグロビン尿と共通するため、混同しやすい。原因は、ABO不適合輸血、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの血管内溶血、薬物・毒物による溶血などである。横紋筋融解症で尿中に出るのは、赤血球由来のヘモグロビンではなく、筋由来のミオグロビンである。
- ○e. ミオグロビン尿
骨格筋細胞が崩壊すると、細胞内のミオグロビンが血中に大量に放出される。ミオグロビンは分子量が小さく、血漿蛋白ともあまり結合しないため、糸球体で濾過されて尿中に出る。尿は赤褐色〜コーラ色を呈し、試験紙の尿潜血反応は陽性だが、沈渣に赤血球はほとんど認めない。これが横紋筋融解症の特徴的な尿所見である。尿細管に届いたミオグロビンは、尿細管の閉塞(円柱形成)、ヘム鉄による酸化ストレス、腎血管の収縮を引き起こし、急性腎障害(AKI)の原因になる。心筋の壊死(心筋梗塞)でもミオグロビン尿をみることがある。
横紋筋融解症の原因
・外傷・圧迫: クラッシュ症候群(挫滅症候群。地震などで長時間四肢が圧迫された後、解放されて発症する)、長時間の不動(意識障害で倒れていた高齢者など) ・過度の運動: マラソン、過度の筋力トレーニング ・高体温: 熱中症、悪性症候群、悪性高熱症 ・薬物: HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、フィブラート系薬(とくにスタチンとの併用)、抗精神病薬など ・中毒・アルコール: 急性アルコール中毒、一酸化炭素中毒 ・電解質異常: 低カリウム血症、低リン血症 ・感染症・内分泌疾患: インフルエンザなどのウイルス感染、甲状腺機能低下症
検査所見
・血清CKの著明な上昇(正常上限の5倍以上が目安) ・血中・尿中ミオグロビンの上昇 ・高カリウム血症、高リン血症、高尿酸血症 ・低カルシウム血症(初期にリン酸カルシウムとして壊死筋へ沈着するため。回復期には逆に高カルシウム血症になることがある) ・アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシス ・急性腎障害によるBUN・クレアチニンの上昇
合併症と治療
合併症として、急性腎障害、高カリウム血症による致死性不整脈、区画症候群(コンパートメント症候群)、播種性血管内凝固(DIC)が重要である。治療の基本は早期からの大量輸液で、十分な尿量を保ってミオグロビンを洗い流す。高カリウム血症に対処し、腎不全が進行した場合は血液透析を行う。
赤い尿の鑑別の整理
・血尿: 尿潜血(+)、沈渣赤血球(+) ・ヘモグロビン尿: 尿潜血(+)、沈渣赤血球(−)、溶血所見(LDH上昇、ハプトグロビン低下)あり。血漿も赤く見えることがある ・ミオグロビン尿: 尿潜血(+)、沈渣赤血球(−)、CK著明上昇。ミオグロビンは速やかに腎から排泄されるため、血漿は通常着色しない ・その他: ポルフィリン尿、薬剤(リファンピシンなど)や食物(ビートなど)による着色尿では、尿潜血は陰性である
POINT
・横紋筋融解症では、筋崩壊によってミオグロビン尿(赤褐色〜コーラ色の尿)が出る。 ・ミオグロビン尿とヘモグロビン尿は、どちらも尿潜血陽性・沈渣赤血球陰性である。CKの著明上昇があればミオグロビン尿、溶血所見があればヘモグロビン尿と考える。 ・ミオグロビンは尿細管を障害し、急性腎障害を起こす。高カリウム血症にも注意し、治療は大量輸液が基本である。 ・ビリルビン尿は直接ビリルビンの上昇(閉塞性黄疸・肝障害)、ウロビリン尿の増加は溶血や肝実質障害でみられる。
