母乳だけでは足りないもの―新生児・乳児の頭蓋内出血とビタミンK
第102回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
欠乏すると新生児期の頭蓋内出血の原因となるのはどれか。
- a.ビタミンA
- b.ビタミンC
- c.ビタミンD
- d.ビタミンE
- e.ビタミンK
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ビタミンKは肝臓で合成される凝固因子II、VII、IX、Xのγ-カルボキシル化に必要で、欠乏するとPT・APTTが延長し、PIVKA-IIが上昇して出血傾向をきたします(血小板数は正常)。新生児・乳児は胎盤移行が乏しく貯蔵が少ないこと、母乳中の含有量が少ないこと、腸内細菌叢や肝機能が未熟であることから欠乏しやすく、生後2〜7日の新生児メレナや、生後1〜2か月の母乳栄養児にみられる重篤な頭蓋内出血の原因となります。ビタミンCも出血を起こしますが、それはコラーゲン合成障害による血管壁の脆弱化であり、凝固異常とは区別します。ビタミンAは夜盲症、ビタミンDはくる病・骨軟化症、ビタミンEは溶血性貧血や神経障害と、欠乏症を機能と結びつけて整理しておくことが重要です。ビタミンK2シロップの予防投与で防げる病態であり、病態生理の理解が予防と早期発見に直結する好例です。
解答・解説
正解はeです
ビタミン欠乏症と、その中で新生児・乳児の出血、とくに頭蓋内出血の原因となるものを問う一般問題である。 血液凝固因子のうち、第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、第X因子は肝臓で合成される。これらが働けるようになるには、ビタミンKを補酵素とするγ-カルボキシル化という修飾が必要である。ビタミンKが不足するとこの修飾が行われず、凝固活性をもたない不完全な因子(PIVKA-II:ビタミンK欠乏時に出現する異常プロトロンビン)が増え、出血傾向が生じる。 新生児・乳児は次の理由からビタミンKが欠乏しやすい。 ・ビタミンKは胎盤を通過しにくく、出生時の体内貯蔵量が少ない。 ・母乳中のビタミンK含有量が少ない(人工乳には添加されている)。 ・腸内細菌叢が未発達で、細菌によるビタミンK2の産生が少ない。 ・肝機能が未熟である。 このため、ビタミンK欠乏による出血(新生児メレナなどの消化管出血や、乳児の頭蓋内出血)が起こりうる。したがって正解はビタミンKである。他のビタミンについては、それぞれの欠乏症を正しく結びつけて覚えておくことが重要である。
選択肢考察
- ×a. ビタミンA
ビタミンAは網膜の視物質ロドプシンの材料であり、上皮組織の分化の維持にも関わる。欠乏すると、暗い所で見えにくくなる夜盲症、結膜・角膜の乾燥(眼球乾燥症)、ビトー斑、角膜軟化症、皮膚の毛包角化症などをきたす。発展途上国では小児の失明原因として重要である。凝固能には関与せず、頭蓋内出血の原因とはならない。
- ×b. ビタミンC
ビタミンC(アスコルビン酸)はコラーゲン合成(プロリン・リシンの水酸化)に必要である。欠乏すると壊血病となり、血管壁の脆弱化による歯肉出血、皮下出血、骨膜下出血、創傷治癒の遅延、歯の象牙質の形成異常などをきたす。乳児の壊血病はメラー・バーロウ病とも呼ばれ、骨膜下出血による四肢の痛みが特徴である。出血は起こるが、これは血管の問題であり凝固因子の異常ではない。新生児期の頭蓋内出血の原因としては誤りである。
- ×c. ビタミンD
ビタミンDは腸管からのカルシウム・リンの吸収を促し、骨の石灰化に必要である。小児で欠乏すると、くる病(O脚などの骨変形、低身長、肋骨念珠、頭蓋癆、骨折しやすさ)をきたし、成人では骨軟化症となる。低カルシウム血症によるテタニーやけいれんを起こすことはあるが、頭蓋内出血の原因とはならない。
- ×d. ビタミンE
ビタミンEは脂溶性の抗酸化物質で、細胞膜の脂質の過酸化を防ぐ。欠乏すると赤血球膜が傷つきやすくなり溶血性貧血をきたす(特に早産児)。また神経障害として脊髄小脳変性に似た小脳性運動失調、深部感覚障害、網膜症などを生じる。凝固因子の合成には関与しないため、頭蓋内出血の原因とはならない。
- ○e. ビタミンK
ビタミンKは凝固因子II、VII、IX、Xのγ-カルボキシル化に必要である。欠乏するとこれらの因子が働かず、プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長し、出血傾向をきたす(血小板数は正常)。新生児・乳児は体内貯蔵が少なく、母乳中の含有量も少ないため欠乏しやすい。生後2〜7日ごろに消化管出血(新生児メレナ)として現れる型と、生後1〜2か月ごろの母乳栄養児に頭蓋内出血として現れる型があり、後者は後遺症や死亡につながる重篤なものである。よって正しい。
ビタミンK欠乏性出血症の分類
・早発型:出生後24時間以内。母体がワルファリンや抗てんかん薬(フェニトイン、フェノバルビタールなど)を服用している場合にみられる。 ・古典型(新生児メレナ):生後2〜7日。吐血・下血などの消化管出血が主体である。 ・遅発型(乳児ビタミンK欠乏性出血症):生後2週〜6か月(多くは1〜2か月)。母乳栄養児に多く、頭蓋内出血で発症することが多い。胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞や長期の抗菌薬投与、下痢などによる吸収障害も誘因となる。
検査所見
・PT延長、APTT延長、PIVKA-II高値。血小板数・出血時間は正常である。
予防
・日本では出生後早期、産科退院時、1か月健診時にビタミンK2シロップを経口投与する方法が行われてきた。近年は、これに加えて生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されている。 ・発症時にはビタミンKの静注を行い、重症例では新鮮凍結血漿や凝固因子製剤を用いる。
ビタミン欠乏症の整理
・ビタミンA:夜盲症、角膜軟化症、毛包角化症 ・ビタミンB1:脚気、Wernicke脳症 ・ビタミンB12・葉酸:巨赤芽球性貧血 ・ビタミンC:壊血病(歯肉出血、骨膜下出血) ・ビタミンD:くる病、骨軟化症 ・ビタミンE:溶血性貧血、小脳性運動失調 ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、乳児頭蓋内出血)
POINT
・ビタミンKは凝固因子II、VII、IX、Xの活性化(γ-カルボキシル化)に必要である。 ・新生児・乳児は貯蔵が少なく、母乳中の含有量も少ないため欠乏しやすい。 ・生後2〜7日の新生児メレナ、生後1〜2か月の母乳栄養児の頭蓋内出血が代表的である。 ・PT・APTT延長、PIVKA-II高値、血小板数は正常である。 ・予防としてビタミンK2シロップを経口投与する。
