左右の錐体路が出会う場所―四肢麻痺を起こす脳出血はどこか
第102回医師国家試験 I問題 第13問
国試問題にチャレンジ
脳出血で四肢麻痺をきたす可能性があるのはどれか。
- a.橋出血
- b.被殻出血
- c.視床出血
- d.小脳出血
- e.尾状核出血
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
四肢麻痺は左右両側の錐体路が同時に障害されたときに生じ、脳出血でそれが起こりうるのは、左右の錐体路が正中付近で近接する橋底部の出血です。大きな橋出血は昏睡、四肢麻痺、針先瞳孔、中枢性高熱、呼吸異常を呈し、予後は極めて不良です。被殻出血や視床出血は内包後脚への波及で対側の片麻痺を起こしますが一側性にとどまり、小脳出血は同側の運動失調が主体で麻痺はなく、尾状核出血は脳室穿破による頭痛や髄膜刺激症状が前景に立ちます。橋底部の両側性障害では意識清明のまま四肢麻痺と球麻痺を呈する閉じ込め症候群も知られています。錐体路の走行から麻痺の分布を考える習慣は、脳卒中の病変部位診断の基本となります。
解答・解説
正解はaです
本問は、高血圧性脳出血の代表的な出血部位ごとに、どのような運動障害が出るかを錐体路(皮質脊髄路)の走行から考える問題である。
錐体路の走行
錐体路は大脳皮質の一次運動野(中心前回)から始まり、放線冠 → 内包後脚 → 中脳の大脳脚 → 橋底部 → 延髄の錐体と下行し、延髄下端の錐体交叉で大部分が反対側へ移って脊髄側索(外側皮質脊髄路)を下る。したがって、錐体交叉より上(吻側)で一側の錐体路が障害されると、病巣と反対側の上下肢が麻痺する(片麻痺)。
四肢麻痺が起こる条件
四肢麻痺は、左右両側の錐体路が同時に障害されたときに生じる。大脳半球内では左右の錐体路は大きく離れているため、一側の被殻・視床・尾状核の出血で両側が同時に障害されることは通常ない。一方、脳幹、特に橋底部では左右の錐体路が正中を挟んで近接しているため、正中付近に広がる一つの血腫で両側が同時に破壊されうる。
考え方
5つの選択肢のうち、出血そのものが左右両側の錐体路を直接障害しうる部位は橋だけである。橋出血、特に橋底部から被蓋にかけて広がる大きな正中型(両側型)の出血では、四肢麻痺・深い昏睡・両側の針先瞳孔(pinpoint pupil)・高熱・呼吸異常などを呈し、予後は極めて不良である。
選択肢考察
- ○a. 橋出血
橋底部には左右の錐体路が正中近くを並んで下行している。橋出血は脳底動脈から出る傍正中枝(橋枝)の破綻で起こることが多く、血腫が正中にかかって両側に広がると左右の錐体路が同時に破壊され、四肢麻痺をきたす。大きな橋出血では、急速な昏睡、両側の著明な縮瞳(pinpoint pupil。交感神経下行路の障害による)、眼球の水平運動障害、中枢性高熱、呼吸リズムの異常を伴い、除脳硬直を示すこともある。一側に限局した小さな出血であれば片麻痺や、病巣側の脳神経麻痺と対側の片麻痺からなる交代性片麻痺となる。
- ×b. 被殻出血
被殻出血は高血圧性脳出血のなかで最も頻度が高く、レンズ核線条体動脈の破綻で起こる。被殻のすぐ内側を内包後脚(錐体路が通る)が走るため、中等度以上の血腫では内包が圧迫・破壊され、病巣と反対側の片麻痺をきたす。そのほか対側の感覚障害、病巣側への共同偏視、優位半球では失語を伴う。障害されるのは一側の錐体路のみであり、四肢麻痺にはならない。
- ×c. 視床出血
視床は感覚の中継核であり、視床に限局した出血では病巣と反対側の感覚障害(しびれ・感覚鈍麻、のちに視床痛)が主体となる。視床の外側には内包後脚が接しているため、血腫が大きく内包に及ぶと反対側の片麻痺を伴う。眼症状として内下方への共同偏視(鼻先をにらむような眼位)が特徴的である。脳室穿破による水頭症で意識障害をきたすことはあるが、障害される錐体路は一側であり、出血自体で四肢麻痺を生じる部位ではない。
- ×d. 小脳出血
小脳は錐体路の通り道ではないため、小脳出血そのものは麻痺をきたさない。典型症状は突然の後頭部痛、激しいめまい、反復する嘔吐、起立・歩行不能であり、病巣と同側の四肢の運動失調(小脳性協調運動障害)や眼振を示す。大きな血腫(目安として最大径3cm以上)で脳幹が圧迫されたり第四脳室閉塞による急性水頭症を起こしたりすると、意識障害が進行して致命的となりうるため、血腫除去術の適応となる。ただし、これは二次的な脳幹圧迫による悪化であり、錐体路を直接障害して四肢麻痺をきたす出血としては橋出血が該当する。
- ×e. 尾状核出血
尾状核頭部は側脳室前角の外側壁に接しているため、尾状核出血は早期に脳室内へ穿破しやすい。そのため、くも膜下出血に似た突然の激しい頭痛、嘔吐、項部硬直、意識障害で発症することが多い。錐体路(内包後脚)からは離れており、片麻痺がみられても軽度で一過性のことが多い。一側の病変であり四肢麻痺はきたさない。
高血圧性脳出血の部位別頻度と特徴
・被殻出血(約30〜40%):レンズ核線条体動脈。対側片麻痺・感覚障害、病巣側への共同偏視、優位半球で失語。 ・視床出血(約30%):視床膝状体動脈・視床穿通動脈。対側感覚障害が主体、内下方への共同偏視、脳室穿破しやすい。後遺症として視床痛。 ・皮質下出血(約10%):高齢者ではアミロイド血管症、若年者では血管奇形なども原因となる。部位に応じた巣症状、けいれん。 ・小脳出血(約10%):上小脳動脈の分枝など。めまい・嘔吐・後頭部痛・同側の運動失調、麻痺はない。 ・橋出血(約10%):脳底動脈の傍正中枝。大きいものは昏睡・四肢麻痺・pinpoint pupil・高熱・呼吸異常で予後不良。 ・尾状核出血:脳室穿破しやすく、くも膜下出血様の頭痛・髄膜刺激症状。
運動麻痺の分布と病変部位
・単麻痺:大脳皮質の限局病変、末梢神経障害など。 ・片麻痺:一側の大脳(皮質・放線冠・内包)や脳幹の一側病変。 ・交代性片麻痺:脳幹の一側病変。病巣側の脳神経麻痺+対側の片麻痺(例:中脳のWeber症候群、橋のMillard-Gubler症候群)。 ・対麻痺:胸髄以下の脊髄病変など(傍矢状部の大脳病変でも起こりうる)。 ・四肢麻痺:両側の錐体路を同時に障害する病変。脳幹(特に橋底部)、頸髄病変、両側大脳の多発病変など。
閉じ込め症候群(locked-in syndrome)
脳底動脈閉塞などで橋底部が両側性に障害されると、四肢麻痺と球麻痺(発語・嚥下不能)を呈するが、橋被蓋の網様体が保たれるため意識は清明である。垂直方向の眼球運動とまばたきで意思疎通が可能な点が特徴で、四肢麻痺を起こす橋病変の典型として知られる。
POINT
・四肢麻痺は両側の錐体路が同時に障害されたときに生じる。 ・左右の錐体路が正中近くで接近しているのは脳幹(特に橋底部)であり、脳出血で四肢麻痺をきたしうるのは橋出血である。 ・被殻出血・視床出血は内包障害により対側の片麻痺を起こしうるが、四肢麻痺にはならない。 ・小脳出血は同側の運動失調が主体で麻痺はない。尾状核出血は脳室穿破による頭痛・髄膜刺激症状が主体。 ・大きな橋出血:昏睡、四肢麻痺、pinpoint pupil、中枢性高熱、呼吸異常。
