腎臓だけの病気じゃない―多発性嚢胞腎が全身に残すサイン
第102回医師国家試験 I問題 第12問
国試問題にチャレンジ
常染色体優性遺伝多発性嚢胞腎症に合併するのはどれか。2つ選べ。
- a.高血圧
- b.肝硬変
- c.脳動脈瘤
- d.腎細胞癌
- e.褐色細胞腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、PKD1・PKD2の変異により両側腎に多数の嚢胞が生じる遺伝性疾患で、腎外にも病変が及ぶ全身疾患です。高血圧は腎機能が保たれた段階から高頻度にみられ、嚢胞による腎内虚血とレニン・アンジオテンシン系の活性化が関与するため、RA系阻害薬で厳格に降圧します。脳動脈瘤は約1割に合併し、くも膜下出血の原因となるため、家族歴がある場合などはMRAでのスクリーニングが勧められます。肝嚢胞は最も多い腎外病変ですが肝硬変には至らず、腎細胞癌や褐色細胞腫はvon Hippel-Lindau病や長期透析患者の後天性嚢胞性腎疾患で問題となる点を区別しておきましょう。嚢胞性腎疾患を整理して理解することは、遺伝カウンセリングや家族の診療を含めた長期管理にも役立ちます。
解答・解説
正解はa, cです
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD:autosomal dominant polycystic kidney disease)の腎外合併症を問う問題である。 ADPKDは両側の腎臓に多数の嚢胞が生じ、年齢とともに嚢胞が増大して腎臓が腫大し、腎機能が徐々に低下する遺伝性疾患である。原因遺伝子はPKD1(16番染色体短腕、症例の約80〜85%)とPKD2(4番染色体長腕、約15%)で、それぞれ繊毛に存在する膜タンパク質ポリシスチン1・2をコードする。PKD1変異の方が重症で、末期腎不全への進行も早い。 この疾患は腎臓だけの病気ではなく、全身性の疾患と捉えることが重要である。代表的な合併症は、 ・高血圧(腎機能が低下する前から高頻度に出現する) ・脳動脈瘤(くも膜下出血の原因となる) ・肝嚢胞(最も多い腎外病変)、膵嚢胞 ・心臓弁膜症(僧帽弁逸脱症など)、大腸憩室、腹壁ヘルニア である。 したがって、選択肢の中で合併症として重要なのは高血圧と脳動脈瘤である。肝病変は「嚢胞」であって肝硬変ではないこと、腎細胞癌や褐色細胞腫はvon Hippel-Lindau病など別の遺伝性疾患で問題になることを区別しておく。
選択肢考察
- ○a. 高血圧
高血圧はADPKDの最も頻度の高い合併症の一つで、腎機能がまだ保たれている段階から約60%にみられ、加齢・腎機能低下とともにさらに増加する。嚢胞の増大により腎内の血管が圧迫されて局所が虚血となり、レニン・アンジオテンシン系が活性化されることが主な機序と考えられている。高血圧は腎機能低下の進行と脳動脈瘤破裂(頭蓋内出血)の危険因子となるため、厳格な降圧(レニン・アンジオテンシン系阻害薬が第一選択)が重要である。
- ×b. 肝硬変
ADPKDでは肝嚢胞が高頻度(成人の半数以上、加齢とともに増加)に合併するが、肝細胞の機能は保たれ、肝硬変に進行することはほとんどない。多発肝嚢胞が巨大化すると腹部膨満などの圧迫症状を来すことはある。なお、常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)では先天性肝線維症を合併し門脈圧亢進症を来すが、これもADPKDとは異なる。
- ○c. 脳動脈瘤
ADPKDでは約10%(一般人口の数倍)に脳動脈瘤を合併し、特に脳動脈瘤やくも膜下出血の家族歴がある場合に頻度が高い。破裂によるくも膜下出血は重要な死因の一つであり、家族歴のある患者などではMRアンギオグラフィ(MRA)によるスクリーニングが推奨される。ポリシスチンが血管平滑筋にも発現し、血管壁の脆弱性に関与すると考えられている。
- ×d. 腎細胞癌
ADPKDそのものは腎細胞癌の明らかな危険因子とはされていない。腎細胞癌の発生が多いのは、長期透析患者の萎縮した腎に多数の嚢胞が生じる後天性嚢胞性腎疾患(ACDK)や、von Hippel-Lindau病である。ADPKDの嚢胞とは区別して理解する。
- ×e. 褐色細胞腫
褐色細胞腫は副腎髄質や傍神経節のクロム親和性細胞から生じるカテコラミン産生腫瘍である。遺伝性に生じるものとして、von Hippel-Lindau病(腎嚢胞・腎細胞癌・小脳血管芽腫なども伴う)、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)、神経線維腫症1型などがあるが、ADPKDの合併症ではない。
ADPKDの概要
・頻度:遺伝性腎疾患の中で最も多く、数千人に1人程度とされる。 ・遺伝形式:常染色体優性(親が罹患していれば子に50%の確率で遺伝)。約1割は家族歴がない(新規変異など)。 ・症状:腹部腫瘤(腫大腎)、腰背部痛、肉眼的血尿、嚢胞感染、尿路結石、尿濃縮力低下。 ・経過:腎機能は長期間保たれた後に低下し、60歳代までに約半数が末期腎不全に至る。わが国の透析導入原因疾患の一つである。 ・診断:家族歴と画像検査(超音波、CT、MRI)で両側腎に多数の嚢胞を確認する。
腎外合併症のまとめ
・嚢胞:肝嚢胞(最多)、膵嚢胞、精嚢嚢胞、くも膜嚢胞 ・血管:脳動脈瘤(約10%)、胸部大動脈解離 ・心臓:僧帽弁逸脱症(約25%)などの弁膜症 ・消化管・腹壁:大腸憩室、腹壁・鼠径ヘルニア ・高血圧(約60%、腎機能低下前から)
治療
・降圧療法(RA系阻害薬)、水分摂取の励行、塩分制限。 ・バソプレシンV2受容体拮抗薬のトルバプタンは、嚢胞の増大と腎機能低下の進行を抑制する薬剤として、腎容積が大きく進行が速い症例に用いられる。 ・末期腎不全では透析・腎移植を行う。
鑑別:他の嚢胞性腎疾患
・ARPKD:小児期発症、先天性肝線維症を合併。 ・後天性嚢胞性腎疾患(ACDK):長期透析患者、腎細胞癌の合併が多い。 ・von Hippel-Lindau病:腎嚢胞・腎細胞癌・褐色細胞腫・小脳や網膜の血管芽腫。 ・単純性腎嚢胞:加齢とともに増える良性病変。
POINT
・ADPKDの腎外合併症:高血圧、脳動脈瘤(くも膜下出血)、肝嚢胞、膵嚢胞、僧帽弁逸脱症、大腸憩室。 ・肝は「嚢胞」で肝硬変にはならない(ARPKDは先天性肝線維症)。 ・腎細胞癌+褐色細胞腫はvon Hippel-Lindau病、腎細胞癌の多発は長期透析患者の後天性嚢胞性腎疾患。 ・原因遺伝子はPKD1(16番、多数・重症)とPKD2(4番)。
