StudyMed医師国家試験

腎臓だけの病気じゃない―多発性嚢胞腎が全身に残すサイン

第102回医師国家試験 I問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第12問

常染色体優性遺伝多発性嚢胞腎症に合併するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.高血圧
  2. b.肝硬変
  3. c.脳動脈瘤
  4. d.腎細胞癌
  5. e.褐色細胞腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は常染色体優性多発性嚢胞腎、いわゆるADPKDの腎外合併症を問う問題だ。ポイントは「この病気は腎臓だけでなく全身の病気だ」と捉えられるかどうか。それから、似た名前の嚢胞性疾患と混同しないことも大切だよ。
医学生医学生
腎臓内科の講義で、両側の腎臓が嚢胞でぶどうの房みたいに腫れたCT画像を見た記憶があります。
ドクタードクター
そのイメージで合っている。ADPKDは両側の腎に多数の嚢胞ができ、年齢とともに嚢胞が大きくなって腎機能がじわじわ落ちていく遺伝性疾患だ。原因遺伝子はPKD1とPKD2で、繊毛にある膜タンパク質ポリシスチンをつくっている。PKD1変異のほうが重症で、末期腎不全への進行も早いんだ。
医学生医学生
ポリシスチンは腎臓以外にも発現しているんですか。
ドクタードクター
そう、そこが全身疾患である理由だね。血管平滑筋や肝臓の胆管系などにも関わっていて、だから腎外にもいろいろな病変が出てくる。では選択肢を見ていこう。まず高血圧はどうかな。
医学生医学生
腎不全になれば高血圧になるのは当然なので、末期の合併症という意味でしょうか。
ドクタードクター
惜しい、そこが誤解しやすいところだ。ADPKDの高血圧は、腎機能がまだ保たれている段階から半数以上にみられるのが特徴なんだ。大きくなった嚢胞が腎内の血管を圧迫して局所が虚血になり、レニン・アンジオテンシン系が活性化される。だから降圧にはRA系阻害薬が第一選択になる。
医学生医学生
なるほど、腎不全の結果ではなく、嚢胞そのものが原因なんですね。脳動脈瘤も合併すると聞いたことがあります。
ドクタードクター
その通り。ADPKDでは一般人口の数倍、約1割に脳動脈瘤がみられ、破裂すればくも膜下出血として重要な死因になる。特に脳動脈瘤やくも膜下出血の家族歴がある人ではMRアンギオグラフィでのスクリーニングが勧められる。高血圧は動脈瘤破裂の危険因子でもあるから、この2つはセットで押さえておこう。つまり正解は高血圧と脳動脈瘤だ。
医学生医学生
肝臓にも嚢胞ができるはずなので、肝硬変も合併しそうに思えたのですが。
ドクタードクター
いい引っかかりだね。肝嚢胞は腎外病変で最も多く、成人の半数以上にみられる。ただ肝細胞の機能は保たれるので、肝硬変に進むことはほとんどない。巨大化すると腹部膨満などの圧迫症状が出る程度だ。一方、劣性遺伝のARPKDは先天性肝線維症を伴って門脈圧亢進症を来すから、そこと混同しないようにね。
医学生医学生
腎細胞癌はどうでしょう。嚢胞がたくさんあると癌も出てきそうな気がします。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、ADPKDそのものは腎細胞癌の明らかな危険因子とはされていない。腎細胞癌が多いのは、長期透析患者の萎縮腎に嚢胞が多発する後天性嚢胞性腎疾患や、von Hippel-Lindau病だ。
医学生医学生
von Hippel-Lindau病なら、褐色細胞腫も合併しますよね。CBTの過去問で、小脳の血管芽腫とセットで覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。腎嚢胞・腎細胞癌・褐色細胞腫・小脳や網膜の血管芽腫がVHL病の組み合わせだ。褐色細胞腫はMEN2型や神経線維腫症1型でも出てくるけれど、ADPKDの合併症ではない。
医学生医学生
「腎嚢胞」という共通点で混同させる選択肢だったんですね。ほかに覚えておくべき腎外病変はありますか。
ドクタードクター
膵嚢胞、僧帽弁逸脱症などの弁膜症、大腸憩室、腹壁や鼠径のヘルニアが代表的だ。臨床面では、腰背部痛、肉眼的血尿、嚢胞感染、尿路結石もよく経験する。治療は降圧と十分な水分摂取、塩分制限が基本で、腎容積が大きく進行の速い人にはバソプレシンV2受容体拮抗薬のトルバプタンが使われる。
医学生医学生
水を飲むとバソプレシンが下がるから、嚢胞の増大を抑える方向に働くということですね。
ドクタードクター
そういう考え方でいい。そして常染色体優性だから、患者さんの子どもには50%の確率で遺伝する。家族の診療や、くも膜下出血の家族歴の聴取まで意識できると、臨床で一歩踏み込んだ対応ができるよ。

まとめ

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、PKD1・PKD2の変異により両側腎に多数の嚢胞が生じる遺伝性疾患で、腎外にも病変が及ぶ全身疾患です。高血圧は腎機能が保たれた段階から高頻度にみられ、嚢胞による腎内虚血とレニン・アンジオテンシン系の活性化が関与するため、RA系阻害薬で厳格に降圧します。脳動脈瘤は約1割に合併し、くも膜下出血の原因となるため、家族歴がある場合などはMRAでのスクリーニングが勧められます。肝嚢胞は最も多い腎外病変ですが肝硬変には至らず、腎細胞癌や褐色細胞腫はvon Hippel-Lindau病や長期透析患者の後天性嚢胞性腎疾患で問題となる点を区別しておきましょう。嚢胞性腎疾患を整理して理解することは、遺伝カウンセリングや家族の診療を含めた長期管理にも役立ちます。

解答・解説

正解はa, cです

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD:autosomal dominant polycystic kidney disease)の腎外合併症を問う問題である。 ADPKDは両側の腎臓に多数の嚢胞が生じ、年齢とともに嚢胞が増大して腎臓が腫大し、腎機能が徐々に低下する遺伝性疾患である。原因遺伝子はPKD1(16番染色体短腕、症例の約80〜85%)とPKD2(4番染色体長腕、約15%)で、それぞれ繊毛に存在する膜タンパク質ポリシスチン1・2をコードする。PKD1変異の方が重症で、末期腎不全への進行も早い。 この疾患は腎臓だけの病気ではなく、全身性の疾患と捉えることが重要である。代表的な合併症は、 ・高血圧(腎機能が低下する前から高頻度に出現する) ・脳動脈瘤(くも膜下出血の原因となる) ・肝嚢胞(最も多い腎外病変)、膵嚢胞 ・心臓弁膜症(僧帽弁逸脱症など)、大腸憩室、腹壁ヘルニア である。 したがって、選択肢の中で合併症として重要なのは高血圧と脳動脈瘤である。肝病変は「嚢胞」であって肝硬変ではないこと、腎細胞癌や褐色細胞腫はvon Hippel-Lindau病など別の遺伝性疾患で問題になることを区別しておく。

選択肢考察

  1. ○a.  高血圧

    高血圧はADPKDの最も頻度の高い合併症の一つで、腎機能がまだ保たれている段階から約60%にみられ、加齢・腎機能低下とともにさらに増加する。嚢胞の増大により腎内の血管が圧迫されて局所が虚血となり、レニン・アンジオテンシン系が活性化されることが主な機序と考えられている。高血圧は腎機能低下の進行と脳動脈瘤破裂(頭蓋内出血)の危険因子となるため、厳格な降圧(レニン・アンジオテンシン系阻害薬が第一選択)が重要である。

  2. ×b.  肝硬変

    ADPKDでは肝嚢胞が高頻度(成人の半数以上、加齢とともに増加)に合併するが、肝細胞の機能は保たれ、肝硬変に進行することはほとんどない。多発肝嚢胞が巨大化すると腹部膨満などの圧迫症状を来すことはある。なお、常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)では先天性肝線維症を合併し門脈圧亢進症を来すが、これもADPKDとは異なる。

  3. ○c.  脳動脈瘤

    ADPKDでは約10%(一般人口の数倍)に脳動脈瘤を合併し、特に脳動脈瘤やくも膜下出血の家族歴がある場合に頻度が高い。破裂によるくも膜下出血は重要な死因の一つであり、家族歴のある患者などではMRアンギオグラフィ(MRA)によるスクリーニングが推奨される。ポリシスチンが血管平滑筋にも発現し、血管壁の脆弱性に関与すると考えられている。

  4. ×d.  腎細胞癌

    ADPKDそのものは腎細胞癌の明らかな危険因子とはされていない。腎細胞癌の発生が多いのは、長期透析患者の萎縮した腎に多数の嚢胞が生じる後天性嚢胞性腎疾患(ACDK)や、von Hippel-Lindau病である。ADPKDの嚢胞とは区別して理解する。

  5. ×e.  褐色細胞腫

    褐色細胞腫は副腎髄質や傍神経節のクロム親和性細胞から生じるカテコラミン産生腫瘍である。遺伝性に生じるものとして、von Hippel-Lindau病(腎嚢胞・腎細胞癌・小脳血管芽腫なども伴う)、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)、神経線維腫症1型などがあるが、ADPKDの合併症ではない。

ADPKDの概要

・頻度:遺伝性腎疾患の中で最も多く、数千人に1人程度とされる。 ・遺伝形式:常染色体優性(親が罹患していれば子に50%の確率で遺伝)。約1割は家族歴がない(新規変異など)。 ・症状:腹部腫瘤(腫大腎)、腰背部痛、肉眼的血尿、嚢胞感染、尿路結石、尿濃縮力低下。 ・経過:腎機能は長期間保たれた後に低下し、60歳代までに約半数が末期腎不全に至る。わが国の透析導入原因疾患の一つである。 ・診断:家族歴と画像検査(超音波、CT、MRI)で両側腎に多数の嚢胞を確認する。

腎外合併症のまとめ

・嚢胞:肝嚢胞(最多)、膵嚢胞、精嚢嚢胞、くも膜嚢胞 ・血管:脳動脈瘤(約10%)、胸部大動脈解離 ・心臓:僧帽弁逸脱症(約25%)などの弁膜症 ・消化管・腹壁:大腸憩室、腹壁・鼠径ヘルニア ・高血圧(約60%、腎機能低下前から)

治療

・降圧療法(RA系阻害薬)、水分摂取の励行、塩分制限。 ・バソプレシンV2受容体拮抗薬のトルバプタンは、嚢胞の増大と腎機能低下の進行を抑制する薬剤として、腎容積が大きく進行が速い症例に用いられる。 ・末期腎不全では透析・腎移植を行う。

鑑別:他の嚢胞性腎疾患

・ARPKD:小児期発症、先天性肝線維症を合併。 ・後天性嚢胞性腎疾患(ACDK):長期透析患者、腎細胞癌の合併が多い。 ・von Hippel-Lindau病:腎嚢胞・腎細胞癌・褐色細胞腫・小脳や網膜の血管芽腫。 ・単純性腎嚢胞:加齢とともに増える良性病変。

POINT

・ADPKDの腎外合併症:高血圧、脳動脈瘤(くも膜下出血)、肝嚢胞、膵嚢胞、僧帽弁逸脱症、大腸憩室。 ・肝は「嚢胞」で肝硬変にはならない(ARPKDは先天性肝線維症)。 ・腎細胞癌+褐色細胞腫はvon Hippel-Lindau病、腎細胞癌の多発は長期透析患者の後天性嚢胞性腎疾患。 ・原因遺伝子はPKD1(16番、多数・重症)とPKD2(4番)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。