幻聴は消えた、でも朝起きられない―統合失調症の「その後」を支えるデイケアという選択
第102回医師国家試験 G問題 第58問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。単身生活をして大学に通っていたが,「皆が自分の噂をする」,「学校全体がグルになって意地悪する」などと言って,1年前に実家に帰ってきた。その後,近所の人が自分の悪口を言うと訴え,独り言が目立つようになったため,両親に伴われ半年前に来院した。外来での薬物療法によって,独り言はすっかりなくなり,近所の人のことも気にしなくなった。しかし,だんだん生活がルーズになり,明け方まで起きて昼まで寝ていることが多くなった。両親は復学を期待しているが,本人はその気になれない。体重増加と朝起床しにくいのは,薬の副作用ではないかと気にしている。 方針として最も適切なのはどれか。
- a.早期復学を勧める。
- b.薬物療法を中止する。
- c.デイケア参加を勧める。
- d.入院治療に切り替える。
- e.グループホーム入所を勧める。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
統合失調症で抗精神病薬により幻覚・妄想などの陽性症状が治まった後に、昼夜逆転や意欲低下などの陰性症状が目立つ場合は、薬物療法を継続しつつ、デイケアやSSTなどの心理社会的リハビリテーションを組み合わせるのが基本です。精神科デイケアは自宅から定時に通う外来型のリハビリで、生活リズムの回復や対人関係・意欲の改善が期待でき、復学・復職への段階的なステップになります。体重増加や眠気などの副作用があっても自己判断で服薬を中止すると再発率が大きく上がるため、減量や薬剤変更、生活指導で対応します。病状が安定し家族の支援がある場合は入院やグループホームは不要であり、性急な復学は再発の危険につながります。病期ごとに治療目標が変わることを理解しておくことは、精神疾患の長期的な支援を考えるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・21歳女性。青年期に発症している。 ・「皆が自分の噂をする」「学校全体がグルになって意地悪する」:周囲の出来事を自分に結びつける関係妄想と、他者から害を加えられているとする被害妄想である。 ・「近所の人が自分の悪口を言う」と独り言(独語):悪口の幻聴(幻声)と、それに応答する独語が疑われる。 ・症状は1年以上前から続いており、学業・生活機能も低下している。 以上から統合失調症と診断できる。
現在の病状
外来での抗精神病薬治療により、幻聴・妄想・独語といった陽性症状は消えた。一方で、昼夜逆転などの生活リズムの乱れや、復学する気になれないという意欲低下が目立ってきている。これは陰性症状(意欲低下・自発性低下・引きこもりなど)が前面に出てきた状態、あるいは急性期を脱した後の回復期にみられる消耗・無気力の状態と考えられる。さらに、本人は体重増加と朝の起きにくさを薬の副作用ではないかと気にしている。
設問の考え方
急性期を過ぎた統合失調症の治療目標は、再発を防ぎながら生活機能を取り戻し、社会復帰へ段階的に進むことである。そのためには、①再発予防のため抗精神病薬を続けること、②生活リズムや対人関係・意欲を回復させる心理社会的リハビリテーションを組み合わせることが大切である。本人は家族と同居して支援を受けられ、病状も安定しているので、自宅から通える外来型のリハビリテーションが最も適している。副作用が気になるという訴えには、薬を止めるのではなく、主治医が用量調整や薬剤の変更で対応する。
選択肢考察
- ×a. 早期復学を勧める。
本人に復学の意欲がなく、明け方まで起きて昼まで寝る昼夜逆転の生活になっている。この状態で大学の授業や対人関係に急に戻ると、うまくいかずに自信を失ったり、ストレスで再発したりするおそれがある。両親の期待に合わせて急ぐのではなく、まず生活リズムと意欲を整え、段階を踏んで復学を目指すべきである。
- ×b. 薬物療法を中止する。
体重増加や日中の眠気・朝の起きにくさは、抗精神病薬(特に一部の第二世代抗精神病薬)の副作用である可能性がある。しかし、初回エピソードの統合失調症で陽性症状が消えてまだ半年程度の時期に服薬をやめると、再発の危険が大きく高まる。副作用には、用量を減らす、副作用の少ない薬に切り替える、服薬の時間を工夫する、食事・運動の指導を行う、などで対応し、薬物療法そのものは継続する。本人の不安を受け止めて説明することは、服薬を続けてもらう(アドヒアランス維持)ためにも重要である。
- ○c. デイケア参加を勧める。
精神科デイケアは、日中の決まった時間に医療機関などへ通い、作業・運動・レクリエーション・グループ活動・生活技能訓練(SST:social skills training、対人関係や日常生活の技能を練習する訓練)などを行う外来型のリハビリテーションである。定時に通うことで昼夜逆転が改善し、集団での活動を通じて意欲や対人関係の力を取り戻すことが期待できる。陰性症状は薬物療法だけでは改善しにくいため、こうした心理社会的療法を組み合わせることが重要である。家族と暮らしながら通えるので本症例の状況に合い、復学に向けた段階的なステップとして最も適切である。
- ×d. 入院治療に切り替える。
幻覚・妄想は消えて病状は安定しており、自傷他害のおそれや著しい精神症状の悪化もない。家族の支援があり外来通院も続けられているので、入院が必要な状況ではない。不必要な入院は生活の場から切り離すことになり、かえって社会復帰を遅らせる可能性がある。薬の調整も外来で十分に行える。
- ×e. グループホーム入所を勧める。
グループホーム(共同生活援助)は、家族の支援が得にくい人や、退院後に地域で自立した生活の練習が必要な人などが、世話人の支援を受けながら共同で暮らす住まいである。本症例は実家で両親と暮らし、家庭内で大きな問題も起きていない。住む場所を変える必要はなく、課題である日中の活動や生活リズムの乱れ、意欲低下は、住まいを変えるだけでは改善しない。
統合失調症の症状
・陽性症状:幻覚(特に幻聴)、妄想(被害妄想・関係妄想など)、まとまりのない会話や行動など。 ・陰性症状:意欲低下、感情の平板化(感情鈍麻)、思考の貧困、自閉・引きこもりなど。 ・認知機能障害:注意・記憶・遂行機能(計画を立てて実行する力)などの障害。 抗精神病薬は陽性症状によく効くが、陰性症状と認知機能障害への効果は限られている。
病期と治療の目標
・急性期:幻覚・妄想や興奮を抑えることが中心。主に抗精神病薬を用い、必要に応じて入院治療や電気けいれん療法(ECT)を行う。 ・回復期〜維持期:再発予防のための抗精神病薬の継続と、生活機能・社会機能を回復させる心理社会的療法が中心となる。デイケア、SST、作業療法、心理教育(本人・家族が病気と治療について学ぶこと)、就労・就学支援などがある。
抗精神病薬の主な副作用
・体重増加・脂質異常・耐糖能異常(オランザピン、クロザピンなどで起こりやすい) ・眠気・鎮静 ・錐体外路症状(パーキンソニズム、アカシジアなど。第一世代抗精神病薬で起こりやすい) ・高プロラクチン血症(無月経・乳汁分泌など) ・悪性症候群(高熱・筋強剛・CK上昇などを示し、まれだが重篤) 副作用が問題になるときは、自己判断で中断せず、減量や薬剤変更で対応する。服薬を中断すると再発率が大きく上がることが知られている。
地域での支援の場
・精神科デイケア:日中を過ごしながらリハビリテーションを受ける外来型の場。 ・グループホーム:支援を受けながら共同生活を送る住まい。 ・就労移行支援・就労継続支援:働くことに向けた訓練や就労の場。
POINT
・陽性症状が治まった後に陰性症状(意欲低下・生活リズムの乱れ)が残る統合失調症では、薬物療法を続けながら、デイケアやSSTなどの心理社会的リハビリテーションを組み合わせる。 ・副作用があっても抗精神病薬は中止しない。再発予防のため継続し、減量や薬剤変更で対応する。 ・社会復帰は段階的に進める。急いで復学・復職を求めることは再発の危険につながる。 ・病状が安定し家族の支援がある場合、入院やグループホームは不要である。
