透析を始める人はどんどん高齢に―数字で読む日本の透析医療のいま
第102回医師国家試験 G問題 第27問
国試問題にチャレンジ
我が国の透析患者について正しいのはどれか。
- a.患者数は減少している。
- b.半数が在宅血液透析を行っている。
- c.導入時の平均年齢は上昇している。
- d.欧米の透析患者よりも生存率が低い。
- e.導入原疾患の第1位は慢性糸球体腎炎である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本の慢性透析患者は長年増加を続けて30万人を超える規模となり、近年は横ばいからわずかな減少に転じたものの大規模な状態が続いています。治療の大多数は通院での血液透析で、腹膜透析は数%、在宅血液透析は1%未満にとどまります。導入時の平均年齢は人口の高齢化と保存期CKD管理の進歩を背景に上昇を続け、現在は70歳を超えています。生存率は欧米より良好で、導入原疾患は1998年以降糖尿病性腎症が第1位、近年は腎硬化症が第2位、慢性糸球体腎炎が第3位です。これらの数字は生活習慣病と高齢化という日本の医療課題をそのまま映しており、透析の選択や生活支援を考える際の基盤となります。
解答・解説
正解はcです
我が国の慢性透析療法の実態は、日本透析医学会が毎年全国の透析施設を対象に行う統計調査(わが国の慢性透析療法の現況)によって把握されている。本問はその基本的な傾向を問うものであり、次の点を押さえておけば解答できる。 ・透析患者数:長期にわたり増加を続け、30万人を超える規模となった。 ・治療形態:大多数は医療機関へ通院して受ける血液透析であり、腹膜透析や在宅血液透析はごく一部である。 ・患者の高齢化:新たに透析を始める患者(導入患者)の平均年齢は年々上昇している。 ・予後:日本の透析患者の生存率は欧米より良好である。 ・導入原疾患:1998年に糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となった。 導入年齢の上昇には、社会全体の高齢化に加え、保存期の慢性腎臓病(CKD)管理(血圧・血糖管理、レニン-アンジオテンシン系阻害薬の使用など)の進歩によって腎機能低下の進行が遅くなり、透析に至る時期が後ろにずれたこと、また高齢でも安全に透析を導入できるようになったことが関係している。
選択肢考察
- ×a. 患者数は減少している。
本問が出題された当時、慢性透析患者数は統計開始以来一貫して増加しており(当時約26万人)、その後も増え続けて30万人を大きく超えた。増加の背景には、糖尿病性腎症による導入の増加、高齢化、そして日本の透析医療の質が高く長期生存者が多いことがある。したがって誤りである。なお近年は、患者の高齢化に伴う死亡数の増加などにより患者総数は頭打ちとなり、2022年末の調査で初めて前年を下回った。現在の統計でも34万人前後という大規模な患者数が維持されている。
- ×b. 半数が在宅血液透析を行っている。
我が国の透析患者の大多数(9割以上)は、病院やクリニックに週3回程度通院し、1回4時間前後の血液透析(血液透析濾過を含む)を受けている。在宅で行う透析としては腹膜透析があるが全体の数%にとどまり、自宅に透析装置を設置して行う在宅血液透析は、患者・介助者の訓練や設備の負担が大きいため全体の1%にも満たない。半数という記載は誤りである。
- ○c. 導入時の平均年齢は上昇している。
透析導入患者の平均年齢は年々上昇しており、出題当時で60歳代半ば(約66歳)、近年では70歳を超えている。人口の高齢化に加え、保存期CKDの治療が進歩して腎不全の進行が遅くなったこと、高齢者でも透析導入が可能となったこと、高齢発症が多い糖尿病性腎症や腎硬化症が導入原疾患の上位を占めるようになったことなどが要因である。導入患者だけでなく、透析患者全体の平均年齢も上昇している。したがって正しい。
- ×d. 欧米の透析患者よりも生存率が低い。
日本の透析患者の生存率は世界的に見て良好であり、国際的な比較研究(DOPPS:透析アウトカムと診療パターンに関する国際研究など)でも、欧米に比べて死亡率が低いことが示されている。透析水質管理の徹底、十分な透析時間の確保、医療へのアクセスのよさ、腎移植が少ないため比較的状態のよい患者も透析を継続していることなど、複数の要因が挙げられている。したがって誤りである。
- ×e. 導入原疾患の第1位は慢性糸球体腎炎である。
かつては慢性糸球体腎炎が導入原疾患の第1位であったが、糖尿病患者の増加に伴い、1998年に糖尿病性腎症が第1位となり、以後その座を保っている(導入患者の約4割)。慢性糸球体腎炎による導入は減少傾向にあり、出題当時は第2位であったが、近年は高齢化とともに増加した腎硬化症(高血圧などによる腎血管障害)に抜かれ、第3位となっている。したがって誤りである。
透析療法の種類
・血液透析(HD):血液を体外に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)で老廃物と余分な水分を除去して体内に戻す。通常は週3回、1回4時間程度。血液を取り出すために内シャント(動静脈瘻)などのバスキュラーアクセスを作製する。血液透析濾過(HDF)は拡散に加えて濾過も利用し、中〜大分子量物質の除去効率を高めた方法である。 ・腹膜透析(PD):腹腔内にカテーテルを留置して透析液を注入し、患者自身の腹膜を透析膜として利用する。自宅や職場で行え、残存腎機能を保ちやすいが、腹膜炎や長期施行による被嚢性腹膜硬化症(EPS)などに注意が必要である。 ・在宅血液透析(HHD):自宅に装置を置き、患者と介助者が自ら血液透析を行う。長時間・頻回の透析が可能で予後がよいとされるが、普及は限られている。
我が国の透析導入原疾患の推移
・1998年以前:第1位 慢性糸球体腎炎 ・1998年以降:第1位 糖尿病性腎症 ・近年:第1位 糖尿病性腎症、第2位 腎硬化症、第3位 慢性糸球体腎炎
透析患者の主な死因
心不全や感染症が上位を占め、脳血管障害、悪性腫瘍なども多い。近年は感染症の割合が増えており、患者の高齢化を反映している。
POINT
・我が国の透析患者数は長年増加し、30万人超の規模に達している(近年は横ばい〜わずかな減少)。 ・大多数は通院での血液透析であり、在宅血液透析はごくわずか、腹膜透析も数%である。 ・導入時の平均年齢は上昇を続けており、現在は70歳を超える。 ・日本の透析患者の生存率は欧米より良好である。 ・導入原疾患の第1位は1998年以降、糖尿病性腎症。慢性糸球体腎炎は近年、腎硬化症にも抜かれている。
