StudyMed医師国家試験

透析を始める人はどんどん高齢に―数字で読む日本の透析医療のいま

第102回医師国家試験 G問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第27問

我が国の透析患者について正しいのはどれか。

  1. a.患者数は減少している。
  2. b.半数が在宅血液透析を行っている。
  3. c.導入時の平均年齢は上昇している。
  4. d.欧米の透析患者よりも生存率が低い。
  5. e.導入原疾患の第1位は慢性糸球体腎炎である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、日本の透析患者がどんな集団なのかを問う統計の問題だ。患者数、治療の形、年齢、予後、原因疾患という5つの切り口で、「増えているのか減っているのか」「多数派はどれか」を正しくイメージできているかがポイントになる。まず全体像から考えてみよう。日本の透析患者数は増えていると思う?減っていると思う?
医学生医学生
腎臓内科の講義で「30万人を超えた」と聞いた記憶があるので、増えている印象です。
ドクタードクター
その通り。日本透析医学会が毎年全国の透析施設を調査していて、統計開始以来、患者数は長く一貫して増加してきた。出題当時でも約26万人、その後30万人を大きく超えている。背景には糖尿病性腎症による導入の増加、高齢化、そして日本の透析の質が高く長期生存する人が多いことがある。だから「減少している」は誤りだ。
医学生医学生
でも最近、患者数が初めて減ったというニュースを見た気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。2022年末の調査で初めて前年をわずかに下回った。高齢化に伴って亡くなる人が増えたことが一因とされる。ただ、今も34万人前後という大きな規模が保たれていて、「減少している」と言い切れるほどの傾向ではない。次に治療形態だ。在宅血液透析が半数、というのはどうだろう。
医学生医学生
臨床実習で透析室を見学したとき、ベッドがずらっと並んでいて、患者さんは通院して受けていました。在宅が半数はさすがに多すぎる気がします。
ドクタードクター
実感どおりだね。9割以上は病院やクリニックに週3回ほど通い、1回4時間前後の血液透析を受けている。在宅で行う治療としては腹膜透析があるが数%、自宅に装置を置く在宅血液透析は、患者と介助者の訓練や設備の負担が大きく、1%にも満たない。
医学生医学生
在宅血液透析と腹膜透析は別物なんですね。腹膜透析は自分の腹膜を膜として使う方法でしたっけ。
ドクタードクター
そう。腹膜透析は腹腔にカテーテルを入れて透析液を出し入れし、腹膜を透析膜として使う。残存腎機能を保ちやすい一方、腹膜炎や長期施行での被嚢性腹膜硬化症に注意が要る。在宅血液透析は、自宅で血液透析そのものを行う方法で、長時間・頻回の透析ができて予後がよいとされるけれど、普及は限られているんだ。では、正解の候補である導入時の平均年齢はどうかな。
医学生医学生
社会全体が高齢化しているので、上がっていると思います。
ドクタードクター
正解だ。導入患者の平均年齢は年々上昇し、出題当時で60歳代半ば、近年では70歳を超えている。理由は人口の高齢化だけじゃない。保存期CKDの管理、つまり血圧・血糖のコントロールやレニン-アンジオテンシン系阻害薬の使用などが進歩して、腎機能低下のスピードが遅くなり、透析に至る時期が後ろにずれた。高齢でも安全に導入できるようになったことも大きい。
医学生医学生
CKDの治療がうまくいくほど導入年齢が上がる、というのは少し意外です。
ドクタードクター
良い気づきだね。導入が遅れるのは、保存期治療の成果とも言えるんだ。さらに、高齢で発症しやすい糖尿病性腎症や腎硬化症が原疾患の上位を占めていることも関係している。では生存率、欧米と比べて日本はどうだろう。
医学生医学生
日本の医療は国際的に評価が高いので、生存率は欧米より良さそうです。
ドクタードクター
そうだね。DOPPSという国際的な比較研究などでも、日本の透析患者は欧米より死亡率が低いことが示されている。透析液の水質管理の徹底、十分な透析時間、医療へのアクセスのよさ、腎移植が少ないため比較的状態のよい人も透析を続けていることなど、複数の要因が挙げられる。だから「欧米より生存率が低い」は誤りだ。
医学生医学生
最後の原疾患は、CBTの勉強で「糖尿病性腎症が1位」と覚えました。
ドクタードクター
そのとおり。かつては慢性糸球体腎炎が1位だったけれど、1998年に糖尿病性腎症が逆転し、以後ずっと首位で導入患者の約4割を占める。慢性糸球体腎炎は減少傾向で、近年は高血圧などによる腎硬化症にも抜かれて3位になっている。
医学生医学生
1位が糖尿病性腎症、2位が腎硬化症、3位が慢性糸球体腎炎。生活習慣病と高齢化がそのまま表れている順位ですね。
ドクタードクター
うまくまとめたね。発展として、透析患者の死因も押さえておこう。心不全と感染症が上位で、脳血管障害や悪性腫瘍も多い。近年は感染症の割合が増えていて、これも高齢化を反映している。臨床では、高齢の導入患者が増えるほど、シャントなどのバスキュラーアクセスの管理、フレイルや認知機能、通院手段まで含めて考える必要が出てくる。
医学生医学生
透析を始めるかどうか、どの方法を選ぶかも、本人の生活や家族の状況まで含めて話し合う必要がありそうですね。
ドクタードクター
その視点がとても大切だ。腹膜透析や在宅治療が生活に合う人もいるし、近年は高齢者で透析を見合わせるかどうかの意思決定支援も議論されている。統計の数字は、目の前の患者さんの背景を想像するための地図だと思って覚えてほしい。

まとめ

日本の慢性透析患者は長年増加を続けて30万人を超える規模となり、近年は横ばいからわずかな減少に転じたものの大規模な状態が続いています。治療の大多数は通院での血液透析で、腹膜透析は数%、在宅血液透析は1%未満にとどまります。導入時の平均年齢は人口の高齢化と保存期CKD管理の進歩を背景に上昇を続け、現在は70歳を超えています。生存率は欧米より良好で、導入原疾患は1998年以降糖尿病性腎症が第1位、近年は腎硬化症が第2位、慢性糸球体腎炎が第3位です。これらの数字は生活習慣病と高齢化という日本の医療課題をそのまま映しており、透析の選択や生活支援を考える際の基盤となります。

解答・解説

正解はcです

我が国の慢性透析療法の実態は、日本透析医学会が毎年全国の透析施設を対象に行う統計調査(わが国の慢性透析療法の現況)によって把握されている。本問はその基本的な傾向を問うものであり、次の点を押さえておけば解答できる。 ・透析患者数:長期にわたり増加を続け、30万人を超える規模となった。 ・治療形態:大多数は医療機関へ通院して受ける血液透析であり、腹膜透析や在宅血液透析はごく一部である。 ・患者の高齢化:新たに透析を始める患者(導入患者)の平均年齢は年々上昇している。 ・予後:日本の透析患者の生存率は欧米より良好である。 ・導入原疾患:1998年に糖尿病性腎症が慢性糸球体腎炎を抜いて第1位となった。 導入年齢の上昇には、社会全体の高齢化に加え、保存期の慢性腎臓病(CKD)管理(血圧・血糖管理、レニン-アンジオテンシン系阻害薬の使用など)の進歩によって腎機能低下の進行が遅くなり、透析に至る時期が後ろにずれたこと、また高齢でも安全に透析を導入できるようになったことが関係している。

選択肢考察

  1. ×a.  患者数は減少している。

    本問が出題された当時、慢性透析患者数は統計開始以来一貫して増加しており(当時約26万人)、その後も増え続けて30万人を大きく超えた。増加の背景には、糖尿病性腎症による導入の増加、高齢化、そして日本の透析医療の質が高く長期生存者が多いことがある。したがって誤りである。なお近年は、患者の高齢化に伴う死亡数の増加などにより患者総数は頭打ちとなり、2022年末の調査で初めて前年を下回った。現在の統計でも34万人前後という大規模な患者数が維持されている。

  2. ×b.  半数が在宅血液透析を行っている。

    我が国の透析患者の大多数(9割以上)は、病院やクリニックに週3回程度通院し、1回4時間前後の血液透析(血液透析濾過を含む)を受けている。在宅で行う透析としては腹膜透析があるが全体の数%にとどまり、自宅に透析装置を設置して行う在宅血液透析は、患者・介助者の訓練や設備の負担が大きいため全体の1%にも満たない。半数という記載は誤りである。

  3. ○c.  導入時の平均年齢は上昇している。

    透析導入患者の平均年齢は年々上昇しており、出題当時で60歳代半ば(約66歳)、近年では70歳を超えている。人口の高齢化に加え、保存期CKDの治療が進歩して腎不全の進行が遅くなったこと、高齢者でも透析導入が可能となったこと、高齢発症が多い糖尿病性腎症や腎硬化症が導入原疾患の上位を占めるようになったことなどが要因である。導入患者だけでなく、透析患者全体の平均年齢も上昇している。したがって正しい。

  4. ×d.  欧米の透析患者よりも生存率が低い。

    日本の透析患者の生存率は世界的に見て良好であり、国際的な比較研究(DOPPS:透析アウトカムと診療パターンに関する国際研究など)でも、欧米に比べて死亡率が低いことが示されている。透析水質管理の徹底、十分な透析時間の確保、医療へのアクセスのよさ、腎移植が少ないため比較的状態のよい患者も透析を継続していることなど、複数の要因が挙げられている。したがって誤りである。

  5. ×e.  導入原疾患の第1位は慢性糸球体腎炎である。

    かつては慢性糸球体腎炎が導入原疾患の第1位であったが、糖尿病患者の増加に伴い、1998年に糖尿病性腎症が第1位となり、以後その座を保っている(導入患者の約4割)。慢性糸球体腎炎による導入は減少傾向にあり、出題当時は第2位であったが、近年は高齢化とともに増加した腎硬化症(高血圧などによる腎血管障害)に抜かれ、第3位となっている。したがって誤りである。

透析療法の種類

・血液透析(HD):血液を体外に取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)で老廃物と余分な水分を除去して体内に戻す。通常は週3回、1回4時間程度。血液を取り出すために内シャント(動静脈瘻)などのバスキュラーアクセスを作製する。血液透析濾過(HDF)は拡散に加えて濾過も利用し、中〜大分子量物質の除去効率を高めた方法である。 ・腹膜透析(PD):腹腔内にカテーテルを留置して透析液を注入し、患者自身の腹膜を透析膜として利用する。自宅や職場で行え、残存腎機能を保ちやすいが、腹膜炎や長期施行による被嚢性腹膜硬化症(EPS)などに注意が必要である。 ・在宅血液透析(HHD):自宅に装置を置き、患者と介助者が自ら血液透析を行う。長時間・頻回の透析が可能で予後がよいとされるが、普及は限られている。

我が国の透析導入原疾患の推移

・1998年以前:第1位 慢性糸球体腎炎 ・1998年以降:第1位 糖尿病性腎症 ・近年:第1位 糖尿病性腎症、第2位 腎硬化症、第3位 慢性糸球体腎炎

透析患者の主な死因

心不全や感染症が上位を占め、脳血管障害、悪性腫瘍なども多い。近年は感染症の割合が増えており、患者の高齢化を反映している。

POINT

・我が国の透析患者数は長年増加し、30万人超の規模に達している(近年は横ばい〜わずかな減少)。 ・大多数は通院での血液透析であり、在宅血液透析はごくわずか、腹膜透析も数%である。 ・導入時の平均年齢は上昇を続けており、現在は70歳を超える。 ・日本の透析患者の生存率は欧米より良好である。 ・導入原疾患の第1位は1998年以降、糖尿病性腎症。慢性糸球体腎炎は近年、腎硬化症にも抜かれている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。