StudyMed医師国家試験

肺が「明るい」のはなぜか―心タンポナーデにない所見を病態から見抜く

第102回医師国家試験 G問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第1問

心タンポナーデでみられないのはどれか。

  1. a.奇脈
  2. b.頻脈
  3. c.脈圧低下
  4. d.肺うっ血
  5. e.頸静脈怒張

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心タンポナーデで「みられない」所見を選ぶ問題だ。丸暗記で挑むと迷いやすいけれど、心臓が外から締めつけられて広がれない、という病態をひとつ押さえれば、すべての選択肢が筋道立てて説明できる。まず、心タンポナーデとはどんな状態か言えるかな。
医学生医学生
心膜腔に液体や血液がたまって、心臓が圧迫される状態ですよね。
ドクタードクター
その通り。心膜腔の圧が上がると、心臓は拡張期に十分広がれなくなる。すると何が起きるか、血液の流れに沿って考えてみよう。心臓に戻ってくる血液はどうなる?
医学生医学生
心室が広がれないので受け入れられず、静脈側にたまる……右心不全のような状態になるということですか。
ドクタードクター
いいね。中心静脈圧が上がって、頸静脈怒張や肝腫大といった右心不全に似た所見が出る。頸静脈怒張は、血圧低下、心音減弱と並んでBeckの三徴の一つだ。では、心室に入る血液が減れば、送り出す側はどうなる?
医学生医学生
1回拍出量が減るので血圧が下がります。それを補うために脈が速くなる、つまり頻脈ですね。
ドクタードクター
そう。心拍出量は1回拍出量と心拍数の掛け算だから、交感神経が働いて心拍数を上げる。頻脈はほぼ必発の代償反応だ。さらに、収縮期血圧は下がる一方で、拡張期血圧は末梢血管の収縮で比較的保たれるから、その差である脈圧は小さくなる。
医学生医学生
脈圧低下も見られる、と。奇脈は循環器の講義で聞いたんですが、正直しくみがあいまいです。
ドクタードクター
奇脈は吸気時に収縮期血圧が10 mmHgを超えて下がる現象だ。心タンポナーデでは心臓全体の入れ物の大きさが固定されている。吸気で右心室への還流が増えると、心室中隔が左室側へ押されて左室の充満が減り、拍出量が落ちる。右と左が限られたスペースを奪い合うイメージだね。
医学生医学生
そうすると、残る肺うっ血が「みられない」所見ということになりますね。でも、心不全なら肺うっ血は起こりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。肺うっ血は、左心室が血液を送り出せず、左房から肺静脈へと血液がうっ滞する左心不全の所見。一方、心タンポナーデではそもそも右心系に血液が入れないので、右心室から肺へ送られる血液自体が少ない。肺に血液が押し寄せる状況にならないんだ。
医学生医学生
だから、肺うっ血はむしろ起こりにくいんですね。
ドクタードクター
その通り。胸部エックス線では、心陰影は水瓶型に大きく広がるのに、肺野はむしろ明るく見える。この「心臓は大きいのに肺はきれい」というギャップが、心拡大を伴う左心不全との鑑別のヒントになる。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、心エコーで心臓の周りに黒い帯が見えた患者さんがいました。あれが心膜液ですね。
ドクタードクター
そう、エコーフリースペースだ。タンポナーデでは拡張期に右房や右室が内側に押しつぶされる虚脱所見が重要で、下大静脈は拡張して呼吸性変動が乏しくなる。心電図では低電位や、心臓が液体の中で揺れることでQRSの高さが1拍ごとに変わる電気的交互脈も知られている。
医学生医学生
治療は心膜穿刺ですよね。心不全と同じように利尿薬を使ってもいいんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。答えはむしろ避けるべき。心タンポナーデの心拍出量は前負荷に強く依存しているから、利尿薬や血管拡張薬は血圧をさらに下げてしまう。第一選択は心エコーガイド下の心膜穿刺で、心破裂や大動脈解離が原因なら外科手術が必要になる。
医学生医学生
もう一つ、Kussmaul徴候もタンポナーデの所見だと思っていました。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。吸気時に頸静脈圧がかえって上昇するKussmaul徴候は、心膜が硬くなる収縮性心膜炎に特徴的で、心タンポナーデでは通常みられない。収縮性心膜炎では心膜ノック音やdip and plateauも覚えておこう。それから、心膜液は量より「たまる速さ」が大事で、急速なら100〜200 mL程度でもタンポナーデになり得る。外傷や大動脈解離、心筋梗塞後の心破裂では、少量でも急変すると心得ておきたい。

まとめ

心タンポナーデは心膜腔内圧の上昇で心臓の拡張が妨げられる病態で、静脈還流障害による頸静脈怒張、低拍出による血圧低下・脈圧低下とその代償としての頻脈、さらに奇脈がみられます。一方、右心系への流入そのものが減るため肺血流は少なく、左心不全の所見である肺うっ血は通常起こらず、胸部エックス線では心陰影拡大に対し肺野が明るいのが特徴です。Beckの三徴(血圧低下・静脈圧上昇・心音減弱)や心エコーでの右房・右室の虚脱は診断の要となり、治療は心膜穿刺で、利尿薬や血管拡張薬は血圧を下げるため避けます。Kussmaul徴候は収縮性心膜炎に特徴的な所見として区別しておきましょう。病態を血液の流れに沿って理解すれば、暗記に頼らず所見の有無を判断でき、救急の現場での迅速な対応にもつながります。

解答・解説

正解はdです

心タンポナーデとは、心膜腔(心臓を包む心膜と心臓表面との間のすき間)に液体や血液が急速に、あるいは大量にたまり、心膜腔内圧が上がって心臓が外から圧迫され、拡張が妨げられた状態である。心臓が十分に広がれないため、静脈から戻ってくる血液を心室が受け入れられず、1回拍出量が減る。 この病態から生じる所見は、大きく次の3系統に整理できる。 1. 心臓へ戻れない血液が体静脈側にたまる → 中心静脈圧上昇、頸静脈怒張、肝腫大など(右心不全に似た所見) 2. 1回拍出量が減る → 収縮期血圧低下、脈圧低下、それを代償する頻脈、最終的にはショック 3. 呼吸による心室充満の変動が強調される → 奇脈 一方、心タンポナーデでは右心系への静脈還流が妨げられるため、右心室から肺へ送られる血液そのものが減る。このため肺血流は少なく、胸部エックス線写真では心陰影が拡大しているのに肺野はむしろ明るく見えるのが特徴である。左心不全のように肺に血液がうっ滞して肺水腫を起こす所見(肺うっ血)は通常みられない。 したがって「みられないもの」を選ぶ本問では、左心不全の所見である肺うっ血が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  奇脈

    奇脈(paradoxical pulse)は、吸気時に収縮期血圧が10 mmHgを超えて低下する現象である(正常でも吸気時にわずかに低下するが、その程度が異常に大きい)。心タンポナーデでは心臓全体の容積が固定されているため、吸気で右心室への静脈還流が増えると心室中隔が左心室側へ押され、左心室の充満が減って拍出量が低下する。これが奇脈の機序であり、心タンポナーデの代表的な所見である。収縮性心膜炎や重症の気管支喘息発作などでもみられることがある。心タンポナーデでみられる所見なので誤り。

  2. ×b.  頻脈

    拡張障害によって1回拍出量が減少すると、交感神経が活性化し、心拍数を上げることで心拍出量(1回拍出量×心拍数)を保とうとする。この代償性の頻脈は心タンポナーデでほぼ必発の所見である。病状が極めて進行すると代償が破綻し、徐脈や無脈性電気活動(PEA:心電図上は電気活動があるが脈が触れない状態)に移行することもある。心タンポナーデでみられる所見なので誤り。

  3. ×c.  脈圧低下

    脈圧とは収縮期血圧と拡張期血圧の差である。心タンポナーデでは1回拍出量が減るため収縮期血圧が低下する。一方、拡張期血圧は末梢血管の収縮(代償機構)などにより比較的保たれるため、両者の差である脈圧は小さくなる。心膜腔内圧がさらに上昇すると血圧全体が下がり、ショックに陥る。心タンポナーデでみられる所見なので誤り。

  4. ○d.  肺うっ血

    肺うっ血は、左心室が血液を十分に送り出せず、左心房から肺静脈、肺毛細血管へと血液がうっ滞する状態で、左心不全の代表的所見である。心タンポナーデでは、心臓への静脈還流そのものが妨げられ、右心室から肺へ送り出される血液量が減るため、肺に血液がたまることはない。胸部エックス線写真では、心陰影が左右対称に大きく広がる(いわゆる水瓶型・氷嚢型)一方で、肺血管陰影は目立たず肺野は明るいのが特徴である。したがって、心タンポナーデでみられない所見であり、これが正解である。

  5. ×e.  頸静脈怒張

    心臓が拡張できないため、上大静脈・下大静脈から右心房へ戻る血液が滞り、中心静脈圧が上昇する。その結果、頸静脈が怒張する。頸静脈怒張(静脈圧上昇)は、血圧低下・心音減弱とともにBeckの三徴の一つに数えられる。なお、吸気時に頸静脈圧がかえって上昇するKussmaul(クスマウル)徴候は収縮性心膜炎に特徴的な所見であり、心タンポナーデでは通常みられない点に注意する。頸静脈怒張自体は心タンポナーデでみられる所見なので誤り。

心タンポナーデの原因

悪性腫瘍の心膜転移、急性心膜炎(ウイルス性、結核性など)、心臓手術後、急性心筋梗塞後の心破裂、急性大動脈解離(Stanford A型)の心膜腔への破裂、胸部外傷、尿毒症、甲状腺機能低下症などがある。心膜腔にたまる液体の量よりも、たまる速度が重要である。急速にたまれば100〜200 mL程度でもタンポナーデとなるが、ゆっくりたまれば心膜が伸展し、1 Lを超えても症状が乏しいことがある。

Beckの三徴

1. 血圧低下 2. 静脈圧上昇(頸静脈怒張) 3. 心音減弱(心膜液が音を遮るため)

検査所見

・心エコー:心膜液貯留が心臓周囲のエコーフリースペース(無エコー域)として描出される。拡張期に右心房・右心室が内側へ押しつぶされる所見(虚脱)はタンポナーデを強く示唆する。下大静脈は拡張し、呼吸による径の変動が乏しくなる。 ・心電図:低電位、電気的交互脈(心臓が心膜液の中で揺れ、QRS波の高さが1拍ごとに変わる)。 ・胸部エックス線:心陰影拡大(水瓶型)、肺野は明るく肺うっ血を欠く。 ・カテーテル検査:右心房圧、右心室拡張期圧、肺動脈楔入圧(左心房圧の代わり)がほぼ等しくなる(拡張期圧の均等化)。

治療

心膜穿刺(心エコーガイド下で心膜腔に針を刺し液を抜く)が第一選択である。心拍出量が前負荷に強く依存しているため、利尿薬や血管拡張薬は血圧をさらに下げるので禁忌に近い。心破裂や大動脈解離による場合は外科手術が必要となる。

収縮性心膜炎との違い

収縮性心膜炎は、心膜が線維化・石灰化して硬くなり拡張が障害される病態である。Kussmaul徴候、心膜ノック音(拡張早期の過剰心音)、心室圧曲線のdip and plateau(平方根記号型)が特徴である。奇脈は心タンポナーデでより典型的である。

POINT

・心タンポナーデ=心膜腔内圧上昇による拡張障害。右心不全様の所見(頸静脈怒張)+低拍出(血圧低下・脈圧低下・頻脈)+奇脈。 ・Beckの三徴:血圧低下、静脈圧上昇、心音減弱。 ・肺への血流が減るため、肺うっ血は起こらない(胸部エックス線で肺野は明るい)。 ・Kussmaul徴候は収縮性心膜炎に特徴的で、心タンポナーデでは通常みられない。 ・治療は心膜穿刺。利尿薬・血管拡張薬は血圧を下げるため避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。