StudyMed医師国家試験

血を吐いたら上部消化管―食道静脈瘤破裂が「吐血」の代表である理由

第102回医師国家試験 F問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第102回 F問題 第5問

吐血が主訴となるのはどれか。

  1. a.食道静脈瘤
  2. b.急性腸炎
  3. c.腸閉塞
  4. d.急性胆嚢炎
  5. e.急性膵炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、吐血を主訴とする疾患を選ぶ問題だ。ポイントは「吐血がどこからの出血で起こるか」。出血源の部位を押さえれば、選択肢はすっきり整理できるよ。
医学生医学生
吐血は口から血を吐くことなので、消化管のどこかから出血しているということですよね。
ドクタードクター
そう。そして原則として出血源は上部消化管、つまりTreitz靱帯より口側の食道・胃・十二指腸だ。Treitz靱帯は十二指腸空腸曲を吊り下げる靱帯で、上部と下部消化管の境界の目安になる。
医学生医学生
解剖実習で十二指腸空腸曲を探した記憶があります。あそこが境目なんですね。
ドクタードクター
そうだね。もう一つ、血液の色も覚えておこう。血液が胃酸に触れるとヘモグロビンが塩酸ヘマチンに変わって黒褐色、いわゆるコーヒー残渣様になる。一方で大量かつ急速な出血だと、胃酸の影響を受ける前に吐き出されるので鮮紅色になるんだ。
医学生医学生
そうすると、上部消化管から一気に大量出血する病気が答えですね。食道静脈瘤でしょうか。
ドクタードクター
正解。肝硬変などで門脈圧亢進症が起こると、門脈血が肝臓を迂回して大循環へ戻る側副血行路が発達する。その一つが左胃静脈などを経由する食道・胃上部の粘膜下静脈で、これが拡張・蛇行したものが静脈瘤だ。普段は無症状だけれど、破裂すると短時間で大量の鮮紅色の吐血を起こし、出血性ショックに陥りうる。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんが夜間に吐血して緊急内視鏡になったのを見学しました。なかなか止まらず大変そうでした。
ドクタードクター
肝硬変では血小板減少や凝固因子の産生低下があるから、止血しにくく致命的になりやすいんだ。では、ほかの疾患がなぜ違うかも確認しよう。急性腸炎はどうかな。
医学生医学生
腸管出血性大腸菌の腸炎では血便が出ると習いました。出血はするけど吐血ではない、ということですか。
ドクタードクター
そのとおり。急性腸炎の主症状は下痢と腹痛で、出血があっても病変は小腸・大腸だから下血や血便として出てくる。吐血の原因にはならないね。
医学生医学生
腸閉塞は嘔吐が目立つので、吐血と混同しそうになりました。
ドクタードクター
いい気づきだね。腸閉塞では腸内容がうっ滞して、進行すると胆汁性や糞便臭のある吐物を嘔吐する。でもこれは血液ではないから吐血ではない。主症状は腹痛、腹部膨満、嘔吐、排便・排ガスの停止だ。
医学生医学生
急性胆嚢炎と急性膵炎は、どちらも腹痛がメインですよね。
ドクタードクター
そう。急性胆嚢炎は右季肋部痛と発熱、悪心・嘔吐が主で、Murphy徴候が特徴的。急性膵炎は背部に放散する激しい上腹部痛と嘔吐が主で、前屈位で痛みが和らぐことがある。重症膵炎では消化管出血やDICによる出血傾向を合併しうるけれど、吐血が主訴となる疾患ではないよ。
医学生医学生
吐血を起こす病気として、ほかに押さえておくべきものはありますか。
ドクタードクター
上部消化管出血の原因として最も多いのは消化性潰瘍だ。ほかに、NSAIDsやストレスによる急性胃粘膜病変、飲酒後の激しい嘔吐で食道胃接合部に縦走する裂創ができるMallory-Weiss症候群、胃癌や食道癌がある。それと、気道からの出血である喀血との鑑別も大切だ。喀血は咳とともに出て、鮮紅色で泡沫状、アルカリ性なのが特徴だよ。
医学生医学生
食道静脈瘤が破裂したときは、まず内視鏡で止血ですか。
ドクタードクター
まずは輸液・輸血で循環を安定させることが優先で、そのうえで緊急内視鏡による止血を行う。内視鏡的静脈瘤結紮術や硬化療法が中心で、止血困難な場合や準備までの一時的止血としてSengstaken-Blakemoreチューブによるバルーン圧迫もある。また肝硬変患者の消化管出血では、腸内で血液中の蛋白が分解されてアンモニアが増え、肝性脳症を誘発しやすい。細菌感染も合併しやすいので、予防的な抗菌薬投与も行われる。
医学生医学生
止血だけでなく、肝性脳症や感染まで見越して管理するんですね。内視鏡で破裂しそうな静脈瘤を見つけておくことも大事そうです。
ドクタードクター
そのとおり。内視鏡ではred color signなどの破裂の危険を示す所見を評価し、リスクが高ければ予防的に結紮術や硬化療法を行う。肝硬変の患者さんを診るときは、静脈瘤のスクリーニングを忘れないようにしよう。

まとめ

吐血は、Treitz靱帯より口側の食道・胃・十二指腸からの出血で起こり、胃酸に触れるとコーヒー残渣様、大量・急速な出血では鮮紅色になります。食道静脈瘤は肝硬変などによる門脈圧亢進症で生じる側副血行路で、破裂すると大量吐血から出血性ショックに至りやすく、血小板減少や凝固能低下のため止血も困難です。急性腸炎は下痢・血便、腸閉塞は非血性の嘔吐、急性胆嚢炎・急性膵炎は腹痛が主症状で、吐血を主訴とはしません。破裂時は循環の安定化と内視鏡的止血(結紮術・硬化療法)が中心で、肝性脳症や感染症の予防も重要です。出血源の部位から症状を考える習慣は、吐血・下血・喀血の鑑別や救急での初期対応の基礎になります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

吐血の出血源となる部位と、それを主症状とする代表的な疾患を理解しているかが問われている。

吐血とは

吐血は、消化管内に出た血液を口から吐き出すことである。出血源は原則として上部消化管、すなわちTreitz靱帯(十二指腸空腸曲を吊り下げる靱帯で、上部・下部消化管の境界の目安)より口側の食道・胃・十二指腸である。血液が胃酸に触れるとヘモグロビンが塩酸ヘマチンに変化して黒褐色(コーヒー残渣様)になり、大量かつ急速な出血では胃酸の影響を受ける前に吐き出されるため鮮紅色になる。なお、上部消化管出血では黒色便(タール便)を伴うことも多い。

考え方

選択肢の中で、上部消化管の血管から直接大量に出血し、吐血そのものを主訴として受診する疾患は食道静脈瘤(破裂)である。その他の疾患は腹痛・下痢・嘔吐・発熱などが主症状であり、吐血を主訴とすることはない。なお、吐血と紛らわしいものとして、気道からの出血である喀血(鮮紅色・泡沫状・アルカリ性)や鼻出血の嚥下があり、鑑別が必要である。

選択肢考察

  1. ○a.  食道静脈瘤

    肝硬変などによる門脈圧亢進症では、門脈血が肝臓を迂回して大循環へ戻るための側副血行路が発達し、その一つとして左胃静脈などを経由する食道・胃上部の粘膜下静脈が拡張・蛇行して静脈瘤を形成する。静脈瘤は無症状で経過することが多いが、破裂すると短時間で大量の鮮紅色の吐血を起こし、出血性ショックに陥りうる。肝硬変患者の上部消化管出血では静脈瘤が主要な原因であり、さらに基礎疾患による血小板減少や凝固因子の産生低下のため止血しにくく、致命的になりやすい。

  2. ×b.  急性腸炎

    急性腸炎(感染性腸炎など)の主症状は下痢と腹痛であり、発熱や悪心・嘔吐を伴うこともある。腸管出血性大腸菌やカンピロバクターなどによる腸炎では血便(下血)をみることはあるが、病変は小腸・大腸にあるため吐血の原因にはならない。

  3. ×c.  腸閉塞

    腸閉塞(イレウス)では、腹痛、腹部膨満、嘔吐、排便・排ガスの停止が主な症状である。閉塞部位より口側に腸内容がうっ滞するため、進行すると胆汁性や糞便臭のある吐物を嘔吐するが、これは血液ではなく吐血ではない。

  4. ×d.  急性胆嚢炎

    急性胆嚢炎は多くが胆嚢結石の嵌頓による胆嚢管の閉塞から起こり、主症状は右季肋部痛・心窩部痛と発熱、悪心・嘔吐である。右季肋部を圧迫したまま深呼吸させると痛みで吸気が止まるMurphy徴候が特徴的である。吐血が主訴となることはない。

  5. ×e.  急性膵炎

    急性膵炎は膵酵素が膵内で活性化して膵臓自体を消化する炎症で、主な原因はアルコールと胆石である。主症状は背部に放散する激しい上腹部痛と悪心・嘔吐で、前屈姿勢で痛みが和らぐことがある。重症例では消化管出血や播種性血管内凝固症候群(DIC)による出血傾向を合併しうるが、吐血が主訴となる疾患ではない。

吐血をきたす主な疾患

・消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍):上部消化管出血の原因として最も多い。 ・急性胃粘膜病変(AGML)・急性胃炎:ストレス、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アルコールなどが誘因。 ・食道・胃静脈瘤破裂:門脈圧亢進症(主に肝硬変)が背景。 ・Mallory-Weiss症候群:飲酒後などの激しい嘔吐の反復で、食道胃接合部付近の粘膜に縦走する裂創ができて出血する。 ・胃癌・食道癌などの悪性腫瘍。

食道静脈瘤の管理の要点

・診断:上部消化管内視鏡で形態・色調・発赤所見(red color sign、破裂の危険を示す)を評価する。 ・破裂時の初期対応:輸液・輸血による循環の安定化を優先し、緊急内視鏡で止血する。 ・止血法:内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、内視鏡的硬化療法(EIS)が中心。内視鏡で止血できない場合や準備までの一時的止血として、Sengstaken-Blakemore(S-B)チューブによるバルーン圧迫止血法がある。 ・薬物療法:門脈圧を下げる薬剤(バソプレシンなど)が用いられることがある。 ・合併症予防:肝硬変患者の消化管出血では、血液中の蛋白が腸内で分解されてアンモニアが増えるため肝性脳症を誘発しやすい。また細菌感染を合併しやすく、予防的な抗菌薬投与が行われる。 ・待機的・予防的治療:破裂の危険が高い静脈瘤には予防的にEVL・EISを行う。胃静脈瘤にはバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)などがある。

吐血と喀血の鑑別

・吐血:嘔吐とともに出る、暗赤色〜黒褐色(大量なら鮮紅色)、食物残渣を含む、酸性、黒色便を伴いやすい。 ・喀血:咳とともに出る、鮮紅色、泡沫状、アルカリ性。

POINT

・吐血はTreitz靱帯より口側(食道・胃・十二指腸)からの出血で起こる。 ・食道静脈瘤は門脈圧亢進症(主に肝硬変)が原因で、破裂すると大量の吐血と出血性ショックをきたす。 ・肝硬変では血小板減少・凝固能低下のため止血が困難で、出血を契機に肝性脳症も起こしやすい。 ・止血は内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)・硬化療法(EIS)が中心、一時的止血にS-Bチューブ。 ・急性腸炎・腸閉塞・急性胆嚢炎・急性膵炎は吐血を主訴としない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。