StudyMed医師国家試験

食べているのにやせる―体重減少を「入り」と「出」で読み解く

第102回医師国家試験 F問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第102回 F問題 第4問

体重減少が摂食量の低下によらないのはどれか。

  1. a.うつ病
  2. b.食道癌
  3. c.消化性潰瘍
  4. d.アルコール依存症
  5. e.甲状腺機能亢進症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は体重減少の「機序」を問う問題だ。どの疾患でも体重は減るけれど、なぜ減るのかが違う。体重は摂取エネルギーと消費エネルギーの差で決まる、という基本に立ち返ると整理しやすいよ。
医学生医学生
選択肢は全部やせる病気ですよね。どれも食欲が落ちそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこで機序を4つに分けてみよう。摂取量の低下、消化・吸収の障害、栄養素の喪失、そして消費の増大。この問題は、5つの疾患のうちどれが「摂取量の低下」以外のルートでやせるかを見分けるものだ。
医学生医学生
精神科の実習で、うつ病の患者さんが「何を食べても味がしない」と話していました。うつ病は食欲低下ですね。
ドクタードクター
その通り。うつ病では抑うつ気分や興味の喪失とともに食欲低下が高頻度にみられ、診断基準にも体重減少や食欲の変化が含まれている。ただし非定型の病像では逆に過食で体重が増えることもある点は知っておこう。
医学生医学生
食道癌はつかえ感で食べられなくなるんでしたよね。
ドクタードクター
そう。腫瘍が内腔を狭めて嚥下困難を起こし、固形物から順に通らなくなる。進行すれば悪液質も加わるけれど、体重減少の中心は通過障害による摂取量の低下と考えていい。
医学生医学生
消化性潰瘍は少し迷いました。十二指腸潰瘍は食べると痛みが和らぐと講義で習ったので。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに十二指腸潰瘍の空腹時痛は食事で軽くなることがあり、必ずしも摂食量が減るとは限らない。ただ胃潰瘍では食後に痛みが出やすく、痛みを避けて食事を控えるようになるし、幽門狭窄をきたせば嘔吐でさらに摂取できなくなる。全体としては摂取量低下でやせる疾患と理解しておこう。
医学生医学生
アルコール依存症はお酒でカロリーを摂ってしまって、食事をとらなくなるイメージです。
ドクタードクター
そうだね。飲酒が食事の代わりになるうえ、アルコール性胃炎による食欲不振、肝障害や膵障害も加わって、食事からの摂取が減る。ビタミンB1不足によるWernicke脳症など、栄養障害を合併しやすいのも重要だ。
医学生医学生
そうなると残るのは甲状腺機能亢進症。食欲はむしろ増えるんでしたっけ。
ドクタードクター
正解。甲状腺ホルモンは全身の細胞の基礎代謝を高めるから、過剰になると熱産生と酸素消費が増え、消費エネルギーが大きく増える。食欲が亢進して食べる量は増えているのに、それを上回る消費でやせる。だから体重減少は摂食量の低下によらないんだ。
医学生医学生
内分泌内科を回ったとき、Basedow病の若い女性が「よく食べるのにやせる」と話していたのを思い出しました。暑がりで汗もかいていました。
ドクタードクター
典型的だね。発汗過多、暑がり、動悸・頻脈、手指振戦、排便回数の増加もセットで出てくる。Basedow病はTSH受容体を刺激する自己抗体による自己免疫疾患で、甲状腺腫・眼球突出・頻脈の3徴が有名だ。検査では遊離T4・T3が上がり、フィードバックでTSHが下がる。
医学生医学生
「食べているのにやせる」という病歴そのものが手がかりになるんですね。ほかにはどんな病気がありますか。
ドクタードクター
代表的なのは、コントロール不良の糖尿病だ。インスリン作用不足でブドウ糖を利用できず、尿糖としてエネルギーが失われ、脂肪や筋肉が分解される。ほかに吸収不良症候群、カテコールアミン過剰で代謝が亢進する褐色細胞腫も覚えておこう。
医学生医学生
医療面接では、体重が減ったと聞いたら、まず食欲や食べる量が減っているかを確認すればいいんですね。OSCEの練習でも聞き忘れそうです。
ドクタードクター
それが一番効率的な最初の質問だよ。一般に6〜12か月で5%以上の意図しない体重減少は臨床的に意味があるとされ、原因検索が必要になる。食欲が落ちていれば摂取低下型、保たれているか増えていれば吸収障害や消費亢進型を考える、という分け方で鑑別がぐっと絞れる。

まとめ

体重減少は、摂取量の低下、消化・吸収の障害、栄養素の喪失、消費の増大という機序に分けて考えると整理できます。うつ病・アルコール依存症は食欲低下、食道癌は通過障害、消化性潰瘍は食事に伴う痛みや幽門狭窄などにより、いずれも摂取量の低下でやせます。一方、甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモン過剰により基礎代謝が亢進し、食欲が増して食べる量が増えても消費がそれを上回るため体重が減ります。「食べているのにやせる」ときは、甲状腺機能亢進症のほか、コントロール不良の糖尿病、吸収不良症候群、褐色細胞腫などを考えます。体重減少の患者では、まず食欲・摂食量の変化を確認することが、効率的な鑑別の第一歩になります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

体重減少をきたす疾患を、その機序によって分けられるかが問われている。

体重減少の機序の整理

体重は「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」の差で決まる。体重減少は次のいずれか、あるいはその組み合わせで起こる。 1. 摂取量の低下:食欲不振(うつ病、アルコール依存症、悪性腫瘍、慢性疾患など)、摂食・嚥下の障害(食道癌など)、食事に伴う症状への恐れ(腹痛・嘔吐など) 2. 消化・吸収の障害:慢性膵炎、吸収不良症候群、炎症性腸疾患など 3. 栄養素の喪失:コントロール不良の糖尿病(尿糖としてのエネルギー喪失)など 4. 消費の増大(代謝亢進):甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、発熱・感染症、悪性腫瘍の悪液質など

考え方

選択肢のうち、食欲がむしろ亢進して食べる量が増えているのに体重が減るのは甲状腺機能亢進症である。「食べているのにやせる」という病歴は、代謝亢進、吸収障害、糖尿病などを疑う重要な手がかりになる。

選択肢考察

  1. ×a.  うつ病

    うつ病では抑うつ気分や興味・喜びの喪失とともに食欲低下が高頻度にみられ、摂食量が減ることで体重が減少する。米国精神医学会の診断基準(DSM-5)でも、有意な体重減少(1か月で5%を超える変化が目安)または食欲の減退・増加が症状の一つとして挙げられている。なお非定型の病像では過食・体重増加を示すこともある。

  2. ×b.  食道癌

    食道癌では腫瘍が内腔を狭めるため、つかえ感(嚥下困難)が生じ、固形物から順に食べられなくなる。この通過障害による摂食量の低下が体重減少の主な原因である。進行例では腫瘍による悪液質(サイトカインなどによる代謝異常と筋肉量減少)も加わるが、本症の体重減少の中心は摂取量の低下と理解してよい。

  3. ×c.  消化性潰瘍

    消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)では、心窩部痛や悪心のために食事が十分とれなくなり、摂食量が低下して体重が減る。特に胃潰瘍では食後に痛みが出やすいため、痛みを避けて食事を控えるようになる。また潰瘍の瘢痕による幽門狭窄をきたすと嘔吐が続き、摂取不良がさらに進む。一方、十二指腸潰瘍は空腹時痛が特徴で食事により痛みが和らぐことがあり、必ずしも摂食量が減るとは限らない点も知っておくとよい。

  4. ×d.  アルコール依存症

    アルコール依存症では、エネルギーの多くを飲酒で摂り、食事をとらなくなる。さらにアルコールによる胃炎・食欲不振、肝障害や膵障害も加わり、食事からの摂取量が低下して体重減少や低栄養をきたす。ビタミンB1(チアミン)不足によるWernicke脳症などの栄養障害を伴いやすい。

  5. ○e.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺ホルモン(T3・T4)は全身の細胞の基礎代謝を高める。過剰になると熱産生と酸素消費が増え、消費エネルギーが著しく増大する。食欲はむしろ亢進し食べる量は増えるが、それを上回るエネルギー消費のため体重が減る。つまり体重減少は摂食量の低下によるものではなく、代謝亢進によるものである。同時に、発汗過多、暑がり、動悸・頻脈、手指振戦、排便回数の増加などがみられる。

甲状腺機能亢進症(代表はBasedow病)の要点

・Basedow病(Graves病)は、TSH受容体を刺激する自己抗体(TRAb)により甲状腺ホルモンが過剰に産生される自己免疫疾患で、若年〜中年女性に多い。 ・古典的3徴(Merseburgの3徴):甲状腺腫、眼球突出、頻脈。 ・代謝亢進症状:体重減少(食欲亢進にもかかわらず)、発汗、暑がり、微熱、動悸、手指振戦、下痢・排便回数増加、易疲労感、月経異常。 ・検査:遊離T4・遊離T3の上昇、TSHの低下(ネガティブフィードバックによる)。

食欲亢進を伴う体重減少をきたす主な病態

・甲状腺機能亢進症(代謝亢進) ・コントロール不良の糖尿病(インスリン作用不足によりブドウ糖を利用できず、尿糖として失われ、脂肪・筋肉が分解される) ・吸収不良症候群(食べても吸収されない) ・褐色細胞腫(カテコールアミン過剰による代謝亢進)

臨床での体重減少の評価

一般に6〜12か月で5%以上の意図しない体重減少は臨床的に意義があるとされ、原因検索が必要である。まず食欲・摂食量が減っているかどうかを確認すると、摂取低下型か、吸収障害・消費亢進型かの見当がつく。

POINT

・体重減少の機序は、摂取量低下、消化吸収障害、栄養素の喪失、消費の増大に分けて考える。 ・甲状腺機能亢進症は、食欲亢進があるのに代謝亢進でやせるのが特徴である。 ・「食べているのにやせる」ときは、甲状腺機能亢進症、糖尿病、吸収不良症候群などを考える。 ・うつ病・アルコール依存症は食欲低下、食道癌は通過障害、消化性潰瘍は食事に伴う痛みなどにより、摂取量が低下して体重が減る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。