食べているのにやせる―体重減少を「入り」と「出」で読み解く
第102回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
体重減少が摂食量の低下によらないのはどれか。
- a.うつ病
- b.食道癌
- c.消化性潰瘍
- d.アルコール依存症
- e.甲状腺機能亢進症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
体重減少は、摂取量の低下、消化・吸収の障害、栄養素の喪失、消費の増大という機序に分けて考えると整理できます。うつ病・アルコール依存症は食欲低下、食道癌は通過障害、消化性潰瘍は食事に伴う痛みや幽門狭窄などにより、いずれも摂取量の低下でやせます。一方、甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモン過剰により基礎代謝が亢進し、食欲が増して食べる量が増えても消費がそれを上回るため体重が減ります。「食べているのにやせる」ときは、甲状腺機能亢進症のほか、コントロール不良の糖尿病、吸収不良症候群、褐色細胞腫などを考えます。体重減少の患者では、まず食欲・摂食量の変化を確認することが、効率的な鑑別の第一歩になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
体重減少をきたす疾患を、その機序によって分けられるかが問われている。
体重減少の機序の整理
体重は「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」の差で決まる。体重減少は次のいずれか、あるいはその組み合わせで起こる。 1. 摂取量の低下:食欲不振(うつ病、アルコール依存症、悪性腫瘍、慢性疾患など)、摂食・嚥下の障害(食道癌など)、食事に伴う症状への恐れ(腹痛・嘔吐など) 2. 消化・吸収の障害:慢性膵炎、吸収不良症候群、炎症性腸疾患など 3. 栄養素の喪失:コントロール不良の糖尿病(尿糖としてのエネルギー喪失)など 4. 消費の増大(代謝亢進):甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、発熱・感染症、悪性腫瘍の悪液質など
考え方
選択肢のうち、食欲がむしろ亢進して食べる量が増えているのに体重が減るのは甲状腺機能亢進症である。「食べているのにやせる」という病歴は、代謝亢進、吸収障害、糖尿病などを疑う重要な手がかりになる。
選択肢考察
- ×a. うつ病
うつ病では抑うつ気分や興味・喜びの喪失とともに食欲低下が高頻度にみられ、摂食量が減ることで体重が減少する。米国精神医学会の診断基準(DSM-5)でも、有意な体重減少(1か月で5%を超える変化が目安)または食欲の減退・増加が症状の一つとして挙げられている。なお非定型の病像では過食・体重増加を示すこともある。
- ×b. 食道癌
食道癌では腫瘍が内腔を狭めるため、つかえ感(嚥下困難)が生じ、固形物から順に食べられなくなる。この通過障害による摂食量の低下が体重減少の主な原因である。進行例では腫瘍による悪液質(サイトカインなどによる代謝異常と筋肉量減少)も加わるが、本症の体重減少の中心は摂取量の低下と理解してよい。
- ×c. 消化性潰瘍
消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)では、心窩部痛や悪心のために食事が十分とれなくなり、摂食量が低下して体重が減る。特に胃潰瘍では食後に痛みが出やすいため、痛みを避けて食事を控えるようになる。また潰瘍の瘢痕による幽門狭窄をきたすと嘔吐が続き、摂取不良がさらに進む。一方、十二指腸潰瘍は空腹時痛が特徴で食事により痛みが和らぐことがあり、必ずしも摂食量が減るとは限らない点も知っておくとよい。
- ×d. アルコール依存症
アルコール依存症では、エネルギーの多くを飲酒で摂り、食事をとらなくなる。さらにアルコールによる胃炎・食欲不振、肝障害や膵障害も加わり、食事からの摂取量が低下して体重減少や低栄養をきたす。ビタミンB1(チアミン)不足によるWernicke脳症などの栄養障害を伴いやすい。
- ○e. 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモン(T3・T4)は全身の細胞の基礎代謝を高める。過剰になると熱産生と酸素消費が増え、消費エネルギーが著しく増大する。食欲はむしろ亢進し食べる量は増えるが、それを上回るエネルギー消費のため体重が減る。つまり体重減少は摂食量の低下によるものではなく、代謝亢進によるものである。同時に、発汗過多、暑がり、動悸・頻脈、手指振戦、排便回数の増加などがみられる。
甲状腺機能亢進症(代表はBasedow病)の要点
・Basedow病(Graves病)は、TSH受容体を刺激する自己抗体(TRAb)により甲状腺ホルモンが過剰に産生される自己免疫疾患で、若年〜中年女性に多い。 ・古典的3徴(Merseburgの3徴):甲状腺腫、眼球突出、頻脈。 ・代謝亢進症状:体重減少(食欲亢進にもかかわらず)、発汗、暑がり、微熱、動悸、手指振戦、下痢・排便回数増加、易疲労感、月経異常。 ・検査:遊離T4・遊離T3の上昇、TSHの低下(ネガティブフィードバックによる)。
食欲亢進を伴う体重減少をきたす主な病態
・甲状腺機能亢進症(代謝亢進) ・コントロール不良の糖尿病(インスリン作用不足によりブドウ糖を利用できず、尿糖として失われ、脂肪・筋肉が分解される) ・吸収不良症候群(食べても吸収されない) ・褐色細胞腫(カテコールアミン過剰による代謝亢進)
臨床での体重減少の評価
一般に6〜12か月で5%以上の意図しない体重減少は臨床的に意義があるとされ、原因検索が必要である。まず食欲・摂食量が減っているかどうかを確認すると、摂取低下型か、吸収障害・消費亢進型かの見当がつく。
POINT
・体重減少の機序は、摂取量低下、消化吸収障害、栄養素の喪失、消費の増大に分けて考える。 ・甲状腺機能亢進症は、食欲亢進があるのに代謝亢進でやせるのが特徴である。 ・「食べているのにやせる」ときは、甲状腺機能亢進症、糖尿病、吸収不良症候群などを考える。 ・うつ病・アルコール依存症は食欲低下、食道癌は通過障害、消化性潰瘍は食事に伴う痛みなどにより、摂取量が低下して体重が減る。
