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お産のあとこそ要注意―産褥期の「血栓」「出血」「悪露」を一気に整理

第102回医師国家試験 F問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第102回 F問題 第6問

産褥について正しいのはどれか。

  1. a.血栓塞栓症の発症は妊娠中よりも多い。
  2. b.産褥出血の原因は頸管裂傷が最も多い。
  3. c.初乳中の蛋白質は成熟乳中よりも少ない。
  4. d.産褥熱の起因菌はグラム陽性球菌が多い。
  5. e.赤色悪露 ―― 黄色悪露 ―― 褐色悪露 ―― 白色悪露と変化する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産褥、つまり分娩後に母体が妊娠前の状態へ戻っていくおよそ6〜8週間の知識を幅広く問う問題だ。生理的な変化として悪露と乳汁、合併症として血栓塞栓症・産褥出血・産褥熱が並んでいる。それぞれ「最も多いのは何か」「どの順に変わるか」を正確に言えるかがポイントだよ。
医学生医学生
血栓塞栓症は妊娠中のほうが多いと思っていました。お腹が大きくて下肢の静脈が圧迫されますし、期間も長いので。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも実は、1日あたりの発症リスクは産褥期のほうが高いんだ。妊娠中から凝固因子やフィブリノゲンが増えて凝固能が高まっているところに、分娩で胎盤剥離面や産道の血管が傷つき、凝固系がさらに活性化される。そこに産後の臥床による静脈うっ滞、出血や授乳による脱水、帝王切開の手術侵襲が重なるわけだ。
医学生医学生
Virchowの3徴でいう血液性状の変化、血流のうっ滞、血管内皮障害が全部そろうということですね。病理の講義で習ったのがそのまま当てはまります。
ドクタードクター
その通り。特に分娩後早期、産褥1週以内に多い。だから血栓塞栓症の発症は妊娠中よりも多い、という記述が正解になる。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、帝王切開の翌日に助産師さんが歩行を促していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
まさに早期離床はVTE予防の基本だよ。では産褥出血の原因で最も多いのは何だと思う?
医学生医学生
頸管裂傷も大出血になると聞きますが……最多は弛緩出血でしょうか。
ドクタードクター
正解。胎盤が出たあと子宮筋が十分に収縮しないと、剥離面の血管が締まらずに出血が続く。多胎や羊水過多による子宮の過伸展、遷延分娩などが危険因子だ。頸管裂傷などの産道損傷も原因になるけれど、頻度は弛緩出血に及ばない。子宮の収縮は良好なのに鮮紅色の出血が続くときに産道損傷を疑う、という使い分けを覚えておこう。
医学生医学生
初乳はどうでしょう。量が少ないので、栄養も少ないイメージがあります。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。初乳は黄色く粘り気があって、蛋白質はむしろ成熟乳より多い。分泌型IgAやラクトフェリンといった感染防御にかかわる蛋白質が豊富で、新生児の腸管を守ってくれる。一方、乳糖や脂肪、エネルギー量は成熟乳のほうが多いんだ。
医学生医学生
なるほど、初乳は「免疫の乳」、成熟乳は「エネルギーの乳」と覚えればよさそうです。産褥熱の起因菌は、劇症型のA群溶連菌の話をよく聞くのでグラム陽性球菌かと思っていました。
ドクタードクター
A群溶連菌は劇症化するので臨床では絶対に忘れてはいけない菌だ。ただ、産褥熱の多くは産道や胎盤剥離面から腟・腸管の常在菌が上行性に入り込む子宮内膜炎で、大腸菌などのグラム陰性桿菌や嫌気性菌の混合感染が中心とされる。だから「グラム陽性球菌が多い」とは言えないね。
医学生医学生
最後の悪露の順番は、CBTの前に語呂で覚えたはずなんですが、黄色と褐色のどちらが先か自信がありません。
ドクタードクター
理屈で覚えると忘れにくいよ。子宮の創面が治るにつれて血液成分が減っていくから、赤色から始まり、古い血液の色である褐色、次に白血球を多く含む黄色、最後に白色となる。つまり赤、褐、黄、白の順で、選択肢は褐色と黄色が逆になっている。
医学生医学生
血が古くなって、血が減って、白血球が目立ってくる、という流れですね。
ドクタードクター
いいまとめだ。臨床的な注意点も押さえよう。赤色悪露がいつまでも続いたり、悪臭を伴ったりする場合は、子宮復古不全や胎盤遺残、子宮内感染を疑う。また、授乳の乳頭刺激でオキシトシンが分泌されると子宮が収縮して後陣痛が起こるが、これは子宮復古を助けることにもなる。VTEについては、早期離床と水分摂取、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法、リスクが高ければ抗凝固療法で予防する。産後の女性が突然の呼吸困難や胸痛を訴えたら、肺血栓塞栓症を真っ先に考えてほしい。
医学生医学生
産後は「おめでたい時期」というだけでなく、母体の急変が起こりうる時期でもあるんですね。
ドクタードクター
その意識が大切だよ。お産が無事に終わってからも、母体の観察は続いているんだ。

まとめ

産褥期は、妊娠中からの凝固能亢進に分娩時の血管損傷、臥床、脱水、帝王切開などが重なるため、静脈血栓塞栓症のリスクが妊娠中を上回り、特に分娩後早期に注意が必要です。産褥出血の原因で最も多いのは子宮筋の収縮不良による弛緩出血で、産道損傷は子宮収縮が良好なのに出血が続く場合に疑います。初乳は分泌型IgAやラクトフェリンなどの蛋白質が多く、成熟乳は乳糖・脂肪が多いのが特徴です。産褥熱は子宮内膜炎が中心で大腸菌などのグラム陰性桿菌や嫌気性菌が多く、悪露は赤色、褐色、黄色、白色の順に変化します。これらの正常経過と合併症の頻度を理解しておくことは、産後の母体の異常を早期に見抜く臨床判断の基礎となります。

解答・解説

正解はaです

産褥とは、分娩が終わってから、妊娠・分娩によって生じた母体の変化(子宮・産道・全身)が非妊時の状態に戻るまでの期間をいい、おおよそ分娩後6〜8週間である。この時期には、子宮が元の大きさに戻る「子宮復古」、悪露(子宮や産道からの分泌物)の排出、乳汁分泌の開始といった生理的変化が起こる。一方で、産褥出血、産褥熱(産褥期の感染症)、静脈血栓塞栓症などの合併症が起こりやすい時期でもある。 本問は、産褥期の生理(悪露の変化、初乳の成分)と合併症(血栓塞栓症、産褥出血の原因、産褥熱の起因菌)を幅広く問う知識問題である。それぞれについて「最も多いものは何か」「どの順に変化するか」という基本事項を整理しておけば解ける。特に静脈血栓塞栓症は、妊娠中から高まっている血液凝固能に、分娩時の血管損傷、産後の安静・脱水、帝王切開などが重なるため、分娩直後から産褥早期にリスクが最も高くなる点が重要である。

選択肢考察

  1. ○a.  血栓塞栓症の発症は妊娠中よりも多い。

    産褥期は静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症)が最も起こりやすい時期であり、1日あたりの発症リスクは妊娠中を上回る。背景には、妊娠中から続くフィブリノゲンや凝固因子の増加による凝固能亢進に加え、分娩時の胎盤剥離面・産道の血管損傷による凝固系の活性化、産後の臥床による下肢の静脈うっ滞、出血や授乳に伴う脱水、帝王切開術(手術侵襲)などが重なることがある。発症は分娩後の早い時期、特に産褥1週以内に多い。したがって本選択肢は正しい。

  2. ×b.  産褥出血の原因は頸管裂傷が最も多い。

    分娩後の異常出血の原因として最も多いのは弛緩出血であり、頸管裂傷ではない。弛緩出血とは、胎盤が娩出された後に子宮筋が十分に収縮せず、胎盤剥離面の血管が圧迫・閉鎖されないために起こる出血である。多胎・羊水過多などによる子宮の過伸展、遷延分娩、子宮筋腫などが危険因子となる。頸管裂傷や腟壁裂傷などの産道損傷、胎盤・卵膜の遺残、子宮内反症、凝固障害も原因となるが、頻度は弛緩出血より低い。子宮収縮が良好なのに鮮紅色の出血が続く場合には、産道損傷を疑う。

  3. ×c.  初乳中の蛋白質は成熟乳中よりも少ない。

    初乳(分娩後およそ数日間に分泌される黄色で粘りのある乳汁)は、成熟乳よりも蛋白質が多い。とくに分泌型IgA(免疫グロブリンA)やラクトフェリンなどの感染防御にかかわる蛋白質を豊富に含み、新生児の腸管での感染防御に役立つ。反対に、乳糖や脂肪は成熟乳のほうが多く、エネルギー量も成熟乳のほうが高い。したがって「少ない」とする本選択肢は誤りである。

  4. ×d.  産褥熱の起因菌はグラム陽性球菌が多い。

    産褥熱は、分娩時にできた産道や胎盤剥離面の創から細菌が上行性に侵入して起こる感染症であり、子宮内膜炎が最も多い。起因菌は腟や腸管に常在する菌が中心で、大腸菌などのグラム陰性桿菌が多いとされ、嫌気性菌を含む複数菌による感染も多い。グラム陽性球菌であるB群溶血性レンサ球菌やA群溶血性レンサ球菌、ブドウ球菌なども原因となり、とくにA群溶血性レンサ球菌は劇症化することがあるため注意が必要であるが、「グラム陽性球菌が多い」とするのは一般的な理解に合わず、誤りである。

  5. ×e.  赤色悪露 ―― 黄色悪露 ―― 褐色悪露 ―― 白色悪露と変化する。

    悪露は、赤色悪露 → 褐色悪露 → 黄色悪露 → 白色悪露の順に変化する。本選択肢は褐色と黄色の順序が逆になっている。子宮の創面が治癒していくにつれて血液成分が減るため、色が赤から褐色、さらに黄色、白色へと薄くなっていく、と理解すると覚えやすい。

産褥期の主な生理的変化

・子宮復古:分娩直後の子宮底は臍下付近にあり、分娩後12時間ほどでいったん臍の高さ付近まで上昇した後、日ごとに下降し、産褥10〜14日ごろには腹壁の上から触れなくなる。授乳による乳頭刺激でオキシトシンが分泌され、子宮収縮(後陣痛)を促すため、授乳は子宮復古にも有利にはたらく。 ・悪露:おおよそ産褥2〜3日ごろまでは血液を主体とする赤色悪露、1週前後は褐色悪露、2週前後からは白血球を多く含む黄色悪露となり、4〜6週ごろには白色悪露となって消失する。赤色悪露がいつまでも続く場合や悪臭を伴う場合は、子宮復古不全、胎盤遺残、子宮内感染を疑う。 ・乳汁分泌:分娩で胎盤が娩出されると、エストロゲン・プロゲステロンが急激に低下し、プロラクチンの作用で乳汁産生が本格的に始まる。オキシトシンは射乳(乳汁を押し出すこと)を起こす。

初乳と成熟乳の比較

・初乳:蛋白質(分泌型IgA、ラクトフェリンなど)が多い。黄色で粘稠。 ・成熟乳:乳糖・脂肪が多く、エネルギー量が高い。

産褥期の主な合併症

・産褥出血(分娩後異常出血):弛緩出血が最多。ほかに産道損傷、胎盤遺残、子宮内反症、凝固障害(DIC:播種性血管内凝固)など。 ・産褥熱:分娩後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くものと定義されることが多い。子宮内膜炎が中心で、大腸菌などのグラム陰性桿菌や嫌気性菌が多い。 ・静脈血栓塞栓症:妊娠中から続く凝固能亢進に加え、分娩時の血管損傷、臥床、脱水、帝王切開術などが重なる。予防として、早期離床、十分な水分摂取、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、リスクの高い場合は抗凝固療法が行われる。

POINT

・静脈血栓塞栓症は妊娠中より産褥期(特に分娩後早期・帝王切開後)に起こりやすい。 ・産褥出血(分娩後異常出血)の原因で最も多いのは弛緩出血である。 ・初乳は蛋白質(分泌型IgA、ラクトフェリン)が多く、成熟乳は乳糖・脂肪が多い。 ・産褥熱の起因菌は大腸菌などのグラム陰性桿菌が多く、嫌気性菌との混合感染も多い。 ・悪露は赤色 → 褐色 → 黄色 → 白色の順に変化する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。