19歳の朝の吐き気―CTより先に確かめるべき「最初の一手」
第102回医師国家試験 F問題 第26問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,26と27の問いに答えよ。 19歳の女性。5日前からの嘔気と嘔吐とを主訴に来院した。 現病歴:症状は早朝と空腹時とに悪化する傾向がある。下痢や腹痛はない。 既往歴・生活歴:特記すべきことはない。最終月経は35日前から5日間。 現症:意識は清明。身長162cm,体重58kg。体温36.8℃。脈拍72/分,整。血圧102/68 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知せず,圧痛や抵抗を認めない。 検査所見:血液所見と血液生化学所見とに異常を認めない。
次に行う検査はどれか。
- a.妊娠反応
- b.頭部単純CT
- c.腹部エックス線単純撮影
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.Hamiltonうつ病評価尺度
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
妊娠可能年齢の女性が嘔気・嘔吐を訴えた場合、まず妊娠を疑うのが臨床の鉄則であり、早朝・空腹時の増悪や予定月経の遅れはつわりを強く示唆します。最終月経開始日を0週0日とすると35日後は妊娠5週0日で、尿中hCGを調べる妊娠反応は簡便・無侵襲で、この時期なら判定可能です。頭部CTや腹部エックス線、上部消化管内視鏡、うつ病評価尺度は、それぞれを疑う根拠が乏しく、妊娠の確認より先に行う検査ではありません。妊娠反応陽性だけでは異所性妊娠や胞状奇胎を区別できないため、経腟超音波での確認が続きます。放射線検査や投薬の前に妊娠の有無を確かめる習慣は、診療科を問わず若い女性を診るすべての医師に求められる基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・19歳の女性、すなわち妊娠可能年齢の女性である。 ・5日前から嘔気・嘔吐があり、早朝と空腹時に悪化する。 ・下痢・腹痛はなく、腹部は平坦・軟で圧痛や抵抗もない。 ・最終月経は35日前に始まっている。 ・バイタルサインは安定しており、血液検査・生化学検査にも異常はない。
診断へのプロセス
妊娠可能年齢の女性が嘔気・嘔吐を訴えたら、まず妊娠を考えるのが臨床の鉄則である。本例では最終月経開始日から35日が経過しており、月経周期が28日前後であれば予定月経を1週間ほど過ぎていることになる。最終月経の開始日を妊娠0週0日とする数え方では、妊娠していれば現在は妊娠5週0日に相当し、つわり(妊娠初期の嘔気・嘔吐)が始まる時期と矛盾しない。 さらに、症状が早朝と空腹時に強いことはつわりの典型的な特徴である(英語でmorning sicknessと呼ばれる)。下痢・腹痛がなく腹部所見も正常であることから急性胃腸炎や腹部外科疾患は考えにくく、頭痛・意識障害などの神経症状もないため頭蓋内疾患を積極的に疑う根拠もない。
設問の考え方
「次に行う検査」では、最も疑わしい病態を簡便・迅速・低侵襲に確認できる検査を選ぶ。尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を調べる妊娠反応は、尿を採るだけで数分で結果が得られ、胎児への影響も皆無である。また、妊娠の有無は後に行う画像検査(放射線被曝)や投薬の選択にも直結するため、それらに先立って確認しておく必要がある。妊娠反応が陰性であれば、そこで初めて消化器疾患・中枢神経疾患・代謝内分泌疾患・精神疾患などの検索に進む。
選択肢考察
- ○a. 妊娠反応
妊娠可能年齢の女性の嘔気・嘔吐で、早朝・空腹時に増悪し、最終月経から35日経過しているため、つわり(妊娠悪阻)を最初に疑う。尿中hCGを検出する市販・院内の妊娠検査薬は、予定月経のころ(妊娠4週前後)から陽性となることが多く、本例の時期であれば判定可能である。検査は尿を採取するだけで簡便かつ無侵襲であり、結果によってその後の検査・治療方針(放射線検査や薬剤の可否など)が大きく変わるため、最初に行うべき検査である。
- ×b. 頭部単純CT
嘔吐の原因として頭蓋内圧亢進や脳出血などの中枢性疾患はあり得るが、本例には頭痛、意識障害、神経脱落症状、頭部外傷の既往などの手がかりがなく、第一に行う検査ではない。放射線被曝を伴う検査であり、妊娠の可能性が否定されていない段階で安易に選択すべきではない(頭部CTの胎児被曝線量自体はごくわずかだが、適応のない検査を行う理由はない)。
- ×c. 腹部エックス線単純撮影
腸閉塞や消化管穿孔の評価に用いられる検査だが、本例は腹痛がなく腹部が平坦・軟で圧痛・抵抗もないため、これらを疑う所見に乏しい。また腹部の撮影は子宮が照射野に含まれるため、妊娠の可能性がある女性では妊娠の有無を確認してから適応を慎重に判断すべき検査である。1回の腹部単純撮影による胎児被曝は奇形などが問題となる閾値(およそ100mGy)よりはるかに低く、絶対禁忌というわけではないが、必要性の低い被曝は避けるのが原則である。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査
消化性潰瘍や胃癌などの上部消化管疾患の評価には有用だが、侵襲を伴う検査であり、妊娠反応のような簡便な検査で原因の見当がつく段階で最初に選ぶものではない。なお、妊娠悪阻が重症化し吐血や強い胸やけなどが出現した場合には、妊娠中でも内視鏡検査は施行可能であり、エックス線造影より望ましい評価法となる。
- ×e. Hamiltonうつ病評価尺度
Hamiltonうつ病評価尺度(HAM-D)は、面接によりうつ病の重症度を評価する尺度である。うつ病や摂食障害などの精神疾患でも食欲不振や嘔吐がみられることはあるが、本例には抑うつ気分や意欲低下などを示す情報がなく、器質的・身体的原因(特に妊娠)を除外する前に行う評価ではない。
つわりと妊娠悪阻
・つわり:妊娠初期にみられる嘔気・嘔吐・食欲不振・嗜好の変化などで、妊婦の50〜80%程度にみられる。妊娠5〜6週ごろに始まり、8〜10週ごろに最も強くなり、多くは12〜16週ごろまでに自然に軽快する。早朝空腹時に悪化しやすい。 ・妊娠悪阻:つわりが重症化し、食事摂取が著しく障害されて脱水、体重減少、電解質異常、ケトーシス(尿中ケトン体陽性)などをきたし、治療を要する状態である。 ・原因:hCGの上昇との関連が重視されている(hCGが高値となる多胎妊娠や胞状奇胎では悪阻が重くなりやすい)ほか、エストロゲン、心理社会的要因なども関与するとされる。
妊娠週数の数え方
最終月経の開始日を妊娠0週0日とし、28日周期を前提に計算する(Naegele概算法で分娩予定日は最終月経開始日+280日)。本例のように最終月経開始から35日なら妊娠5週0日に相当する。ただし月経周期が長い・不規則な場合は排卵が遅れるため、実際の週数は超音波検査(頭殿長など)で確認・修正する。
妊娠反応
尿中hCGを免疫学的に検出する。一般的な検査薬は予定月経のころ(妊娠4週前後)から陽性となりやすい。妊娠反応陽性だけでは正常妊娠か異所性妊娠か胞状奇胎かは区別できないため、陽性であれば経腟超音波検査で子宮内の胎嚢の確認などを行う。
妊娠可能年齢女性の診療上の注意
患者が「月経があった」と申告していても、妊娠初期の不正出血を月経と誤認している場合がある。問診のみで妊娠を否定せず、嘔気・嘔吐、腹痛、無月経などを訴える女性では妊娠反応で確認することが、放射線検査や薬剤投与の前提として重要である。
POINT
・妊娠可能年齢の女性の嘔気・嘔吐(特に早朝・空腹時に増悪)では、まず妊娠を疑い妊娠反応(尿中hCG)を行う。 ・最終月経開始日を0週0日として妊娠週数を数える(35日後=5週0日)。 ・つわりは5〜6週に始まり8〜10週にピーク、12〜16週ごろに軽快する。 ・妊娠の可能性がある女性では、放射線検査や投薬の前に妊娠の有無を確認する。
