描けないのは手でも頭でもない―図形模写が語る「頭頂葉」のサイン
第102回医師国家試験 E問題 第7問
国試問題にチャレンジ
運動障害はなく,全般的な知能の低下は顕著ではないが,図形の模写ができなくなった。 障害部位はどれか。
- a.前頭葉
- b.頭頂葉
- c.側頭葉
- d.後頭葉
- e.視床
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
運動麻痺や全般的な知能低下がないにもかかわらず図形の模写ができない状態は構成失行(構成障害)であり、視覚と体性感覚を統合して空間を認識する頭頂葉の障害で生じます。後頭葉障害は見本自体が見えない視野障害、側頭葉(後頭側頭葉)障害は形を認識できない物体失認・相貌失認、前頭葉障害は麻痺や遂行機能障害が前景に立つ点で区別されます。構成失行は左右どちらの頭頂葉障害でも起こりますが、右では配置が崩れた図、左では細部が省かれた単純な図になりやすく、右頭頂葉の半側空間無視・着衣失行、左頭頂葉の観念運動失行・観念失行、優位半球角回のGerstmann症候群もあわせて押さえておきましょう。MMSEの図形模写や時計描画検査は、Alzheimer型認知症の早期発見にも役立つ頭頂葉機能の評価法であり、症候から病巣を推定する神経診察の基本となります。
解答・解説
正解はbです
本問は、高次脳機能障害の症候から責任病巣を推定する問題である。
所見の整理
・運動障害がない: 麻痺、失調、不随意運動などで描けないのではない。 ・全般的な知能低下が目立たない: 認知症や意識障害のために課題が理解できないのではない。 ・図形の模写ができない: 見本を見ながら図形(立方体、重なった五角形など)を写すことができない。
症候の解釈
運動機能と理解力が保たれ、視力も課題遂行に足りているにもかかわらず、物の形や部分どうしの空間的な位置関係をとらえて組み立てることができない状態を構成失行(構成障害)という。図形の模写のほか、積み木の組み立て、マッチ棒で形を作る課題、時計の文字盤を描く課題などで検出される。
責任病巣
構成失行は、視覚情報と体性感覚情報を統合して空間を認識し、それを動作へ結びつける頭頂葉(特に下頭頂小葉付近)の障害で生じる。左右どちらの頭頂葉障害でも起こりうるが、描かれる図の特徴に違いがある。右半球障害では空間の把握自体が崩れ、線のつながりや配置がばらばらで全体のバランスを欠いた図になりやすい(左半側空間無視を伴うこともある)。左半球障害では全体の配置はおおむね保たれるが、細部が省かれた単純な図になりやすい。 したがって、本問の障害部位は頭頂葉と考えられる。
選択肢考察
- ×a. 前頭葉
誤り。前頭葉は運動の計画・実行(一次運動野、運動前野)、発語(優位半球のBroca野)、注意・計画・判断・抑制などの遂行機能、人格・意欲を担う。障害されると対側の運動麻痺、Broca失語(運動性失語)、遂行機能障害、脱抑制・反社会的行動、自発性・意欲の低下、把握反射などの前頭葉徴候がみられる。前頭葉障害でも計画性の低下から描画が拙くなることはあるが、運動障害がなく図形模写の障害が前景に立つ構成失行の代表的な責任病巣ではない。
- ○b. 頭頂葉
正しい。頭頂葉は体性感覚(中心後回の一次体性感覚野)の処理に加え、視覚・体性感覚など複数の感覚情報を統合して、自分の身体と周囲の空間の位置関係を認識する働きをもつ。この統合が障害されると、運動麻痺や知能低下がなくても、形を空間的に組み立てられず図形の模写ができない構成失行が生じる。頭頂葉障害ではほかに、半側空間無視(特に右頭頂葉障害による左側無視)、着衣失行(右頭頂葉)、観念運動失行・観念失行(左頭頂葉)、優位半球角回障害によるGerstmann症候群(手指失認、左右失認、失算、失書)などもみられる。
- ×c. 側頭葉
誤り。側頭葉は聴覚(一次聴覚野)、言語理解(優位半球のWernicke野)、記憶(内側側頭葉の海馬)、物の形や顔の認識(下側頭回から紡錘状回にかけての腹側視覚経路)などを担う。障害されると感覚性失語(Wernicke失語)、記憶障害、上1/4同名半盲(視放線のMeyerループ障害)、後頭葉から側頭葉にかけての病変による物体失認や相貌失認(よく知る人の顔がわからない)などが生じる。形を「認識」する障害はありうるが、空間的に「構成」する障害である構成失行の主病巣ではない。
- ×d. 後頭葉
誤り。後頭葉には一次視覚野(鳥距溝周囲)があり、視覚の中枢である。一側の障害では対側の同名半盲(黄斑回避を伴うことが多い)、両側の障害では皮質盲(瞳孔反射は保たれる)が生じる。視覚連合野の障害では視覚失認なども生じうる。見本そのものが見えない・認識できないために描けないことはあっても、視覚入力が保たれたうえで模写ができない構成失行の責任病巣としては頭頂葉が挙げられる。
- ×e. 視床
誤り。視床は間脳に属し、嗅覚以外の感覚(体性感覚、視覚、聴覚など)を大脳皮質へ中継する中継核である。障害されると対側の感覚障害、視床痛(Dejerine-Roussy症候群)、視床性失語や記憶障害などが生じうる。大脳皮質の連合機能として説明される構成失行の代表的な責任病巣ではない。
失行とは
運動麻痺、失調、不随意運動、感覚障害、意識障害、理解障害などがないにもかかわらず、目的に沿った動作を正しく行えない状態を失行という。
主な失行・失認と責任病巣
・構成失行: 図形の模写や積み木の組み立てができない。頭頂葉(左右どちらでも)。 ・着衣失行: 衣服を正しく着られない。右頭頂葉。 ・観念運動失行: 「バイバイをしてください」などの指示による慣習的動作や道具使用のまねができない。左頭頂葉(縁上回付近)。 ・観念失行: 複数の物品を使う一連の動作(お茶を入れるなど)の順序が混乱する。左頭頂葉。 ・肢節運動失行: 手指の細かい動作がぎこちなくなる。中心前回・中心後回付近。 ・半側空間無視: 病巣と反対側の空間を無視する。右頭頂葉(左側無視が多い)。 ・Gerstmann症候群: 手指失認、左右失認、失算、失書。優位半球(通常左)の角回。 ・相貌失認: 顔がわからない。両側または右の後頭葉~側頭葉(紡錘状回)。
構成失行の検査
立方体透視図や重なった五角形の模写(MMSEの図形模写課題)、時計描画検査、積み木課題などが用いられる。Alzheimer型認知症では早期から頭頂葉の機能が低下するため、図形模写や時計描画の障害がみられやすい。
POINT
・運動障害や知能低下がないのに図形の模写ができない状態は構成失行である。 ・構成失行の責任病巣は頭頂葉である(右半球障害では配置が崩れた図、左半球障害では細部が省かれた単純な図になりやすい)。 ・頭頂葉障害では、ほかに半側空間無視・着衣失行(右)、観念運動失行・観念失行・Gerstmann症候群(左)がみられる。
