StudyMed医師国家試験

卵巣は腎臓の近くで生まれた―発生学で解く腹部大動脈の分枝

第102回医師国家試験 E問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第6問

腹部大動脈から分枝するのはどれか。

  1. a.子宮動脈
  2. b.上殿動脈
  3. c.上膀胱動脈
  4. d.閉鎖動脈
  5. e.卵巣動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨盤の臓器に向かう動脈のうち、どれが腹部大動脈から直接出ているかを問う解剖の問題だ。カギは、骨盤内の動脈の多くは内腸骨動脈の枝だという大原則と、その例外を発生学から説明できるかどうか。まずは大動脈の走行から確認しよう。
医学生医学生
腹部大動脈は横隔膜の大動脈裂孔から入って、第4腰椎あたりで左右の総腸骨動脈に分かれるんでしたよね。
ドクタードクター
そう。総腸骨動脈はさらに、下肢へ向かう外腸骨動脈と、骨盤内臓器・骨盤壁・殿部・会陰へ向かう内腸骨動脈に分かれる。だから骨盤の中にある臓器や殿部の筋を養う動脈は、原則として内腸骨動脈から来ていると考えていい。
医学生医学生
そうすると、選択肢はどれも骨盤に関係する動脈なので、全部内腸骨動脈の枝に見えてしまいます。
ドクタードクター
そこが問題の仕掛けだね。一つだけ、骨盤内の臓器を養うのに遠く離れた腹部大動脈から直接出てくる動脈がある。性腺の動脈、つまり卵巣動脈だ。なぜだと思う?
医学生医学生
発生学の講義で、性腺は最初は後腹壁の高い位置にできて、後から下降すると習いました。精巣が陰嚢まで降りてくる話は覚えています。
ドクタードクター
その通り。性腺は胎生期に腎臓の近くで発生し、卵巣は骨盤内へ、精巣は陰嚢内へと下降する。血管は生まれた場所から連れて行かれるから、卵巣動脈も精巣動脈も腎動脈のやや下、だいたい第2腰椎の高さで腹部大動脈から左右一対で分かれ、長い距離を下って性腺に達するんだ。
医学生医学生
血管の起始部を見れば、その臓器がどこで生まれたかがわかるということですね。だから正解は卵巣動脈。
ドクタードクター
正解。卵巣動脈は後腹壁を下行して総腸骨動脈の前を越え、卵巣提索、いわゆる骨盤漏斗靱帯の中を通って卵巣に届く。では、ほかの動脈も確認しておこう。子宮動脈はどうかな。
医学生医学生
子宮は卵巣のすぐ隣なので、同じ系統なのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。でも子宮動脈は内腸骨動脈の前枝から出る。基靱帯の中を内側へ走り、子宮頸部の外側で尿管の前上方を交叉する。橋の下を水が流れる、という表現で覚えた人も多いと思う。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、子宮全摘のときにこの部分で尿管を傷つけないよう注意している、と指導医の先生が説明してくれました。
ドクタードクター
臨床的にとても大事なポイントだね。子宮動脈は子宮の側縁を上行して卵巣動脈と吻合するから、卵巣は卵巣動脈と子宮動脈の卵巣枝の二重支配を受けている。次に上殿動脈は?
医学生医学生
殿部の筋を養う動脈なので、内腸骨動脈の後枝でしょうか。
ドクタードクター
その通り。上殿動脈は内腸骨動脈の後枝の最大の枝で、梨状筋上孔を通って骨盤の外に出て、中殿筋・小殿筋などを栄養する。続いて上膀胱動脈はどうかな。
医学生医学生
解剖実習で、臍動脈の先が索状になっていたのを見ました。上膀胱動脈はその臍動脈から出ているんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。臍動脈は内腸骨動脈の枝で、出生後も開いている近位部から上膀胱動脈が出て膀胱上部を養う。遠位部は閉じて内側臍索になる。最後に閉鎖動脈は、内腸骨動脈の前枝から出て閉鎖管を通り、大腿内側の内転筋群を栄養する。ここで知っておきたいのが、下腹壁動脈から閉鎖動脈が起こる変異があることだ。
医学生医学生
死冠、corona mortisですね。ヘルニア手術で損傷すると大出血する、と外科の講義で聞きました。
ドクタードクター
そう、手術の際は意識しておくべき血管だ。いずれにせよ腹部大動脈から直接出る動脈ではない。発展知識として、腹部大動脈の主な枝を上から並べておこう。腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、性腺動脈、下腸間膜動脈の順で、ほかに下横隔動脈、中副腎動脈、腰動脈、正中仙骨動脈がある。
医学生医学生
静脈のほうは左右で違いましたよね。
ドクタードクター
いい質問だ。卵巣静脈・精巣静脈は、右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈へ注ぐ。左精巣静脈が左腎静脈に直角に流れ込むことが、精索静脈瘤が左側に多い理由の一つとされている。また分娩後の異常出血などでは、子宮動脈や内腸骨動脈の塞栓術が行われることがあるから、この血管の地図は臨床でもそのまま役立つんだ。
医学生医学生
骨盤の動脈はまず内腸骨動脈、ただし性腺だけは発生の都合で腹部大動脈から、と整理します。
ドクタードクター
それで十分だ。例外には必ず理由がある、と考えると解剖は覚えやすくなるよ。

まとめ

骨盤内臓器や殿部、大腿内側を栄養する子宮動脈・上殿動脈・上膀胱動脈(臍動脈の枝)・閉鎖動脈は、いずれも内腸骨動脈系の枝です。これに対して卵巣動脈は、腎動脈のやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈から直接分枝し、卵巣提索を通って卵巣に達します。これは性腺が胎生期に腎臓の近くで発生してから下降するためで、男性の精巣動脈も同じ理由で腹部大動脈から起こります。性腺静脈が右は下大静脈、左は左腎静脈へ注ぐ左右差や、子宮動脈と尿管の交叉、異常閉鎖動脈(死冠)なども手術や画像診断で重要です。血管の起始を発生学と結びつけて理解することで、解剖の知識が臨床の場面でも生きてきます。

解答・解説

正解はeです

本問は、腹部大動脈から直接分かれる動脈と、骨盤内で内腸骨動脈から分かれる動脈とを区別できるかを問う解剖学の問題である。

考え方

腹部大動脈は横隔膜の大動脈裂孔(第12胸椎の高さ)を通って腹腔に入り、第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分岐する。総腸骨動脈はさらに外腸骨動脈(下肢へ向かう)と内腸骨動脈(骨盤内臓器・骨盤壁・殿部・会陰へ向かう)に分かれる。したがって、骨盤内にある臓器(子宮、膀胱、直腸下部など)や殿部・大腿内側を栄養する動脈は、原則として内腸骨動脈の枝である。 その中で例外的なのが性腺(卵巣・精巣)の動脈である。性腺は胎生期に腎臓の近く(後腹壁の上方)で発生し、その後骨盤内(卵巣)や陰嚢内(精巣)まで下降する。血管は発生した場所から連れて行かれるため、卵巣動脈・精巣動脈は腎動脈のやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈から直接分枝し、長い距離を下行して性腺に達する。 選択肢のうち、骨盤内に位置する臓器・部位を栄養していても腹部大動脈から直接起こるのは卵巣動脈だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  子宮動脈

    誤り。子宮動脈は内腸骨動脈の前枝(臓側枝)から分かれる。子宮広間膜の基部(基靱帯)を内側へ走り、子宮頸部の外側で尿管の前上方を交叉する(「橋の下を水が流れる」と表現される)ため、子宮全摘術で尿管損傷が起こりやすい部位として重要である。子宮側縁を上行して卵巣動脈と吻合する。男性で発生学的に対応するのは精管動脈で、これも内腸骨動脈系(多くは臍動脈から)の枝である。

  2. ×b.  上殿動脈

    誤り。上殿動脈は内腸骨動脈の後枝から分かれる最大の枝である。大坐骨孔の梨状筋より上(梨状筋上孔)を通って骨盤外へ出て、中殿筋・小殿筋・大殿筋などの殿部の筋を栄養する。

  3. ×c.  上膀胱動脈

    誤り。上膀胱動脈は内腸骨動脈から分かれる臍動脈のうち、出生後も開存している近位部から分枝し、膀胱上部を栄養する。臍動脈の遠位部は出生後に閉塞して内側臍索(内側臍ヒダ)となる。

  4. ×d.  閉鎖動脈

    誤り。閉鎖動脈は内腸骨動脈の前枝から分かれ、閉鎖神経とともに閉鎖管を通って大腿内側の内転筋群などを栄養する。なお、下腹壁動脈(外腸骨動脈の枝)から起こる変異(異常閉鎖動脈)があり、鼠径・大腿ヘルニアの手術で損傷すると大出血をきたすことから「死冠(corona mortis)」と呼ばれる。いずれにしても腹部大動脈から直接出る動脈ではない。

  5. ○e.  卵巣動脈

    正しい。卵巣動脈は腎動脈のやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈の前面から左右一対で直接分枝する。後腹壁を下行し、総腸骨動脈(または外腸骨動脈)の前を越えて骨盤に入り、卵巣提索(骨盤漏斗靱帯)の中を通って卵巣に達し、子宮動脈とも吻合する。男性ではこれに相当する精巣動脈が同様に腹部大動脈から起こり、鼠径管・精索を通って精巣に至る。胎生期に性腺が腎臓の近くで発生して下降することが、このような高い位置からの分枝の理由である。一方、卵巣静脈は右が下大静脈へ、左が左腎静脈へ注ぐという左右差がある。

腹部大動脈の主な枝(上から順に)

・臓側枝(不対): 腹腔動脈(第12胸椎付近。左胃動脈・脾動脈・総肝動脈)、上腸間膜動脈(第1腰椎付近)、下腸間膜動脈(第3腰椎付近) ・臓側枝(対): 中副腎動脈、腎動脈(第1〜2腰椎付近)、性腺動脈(卵巣動脈/精巣動脈、第2腰椎付近) ・壁側枝: 下横隔動脈(対)、腰動脈(通常4対)、正中仙骨動脈(不対、大動脈分岐部の後面から) ・終枝: 左右の総腸骨動脈(第4腰椎の高さで分岐)

内腸骨動脈の主な枝

・前枝: 臍動脈(→上膀胱動脈)、下膀胱動脈(男性)、子宮動脈(女性)、膣動脈、中直腸動脈、閉鎖動脈、内陰部動脈、下殿動脈 ・後枝: 腸腰動脈、外側仙骨動脈、上殿動脈

臨床との関連

・子宮動脈と尿管の交叉は子宮全摘術での尿管損傷の好発部位である。 ・分娩後異常出血などでは子宮動脈や内腸骨動脈の塞栓術が行われる。 ・卵巣には卵巣動脈と子宮動脈の卵巣枝という二重の血流がある。 ・左精巣静脈が左腎静脈へ直角に流入することが、精索静脈瘤が左側に多い理由の一つとされる。

POINT

・卵巣動脈(精巣動脈)は腎動脈のやや下方で腹部大動脈から直接分枝する。性腺が腎臓近くで発生して下降するためである。 ・子宮動脈、上殿動脈、閉鎖動脈、上膀胱動脈(臍動脈の枝)はいずれも内腸骨動脈系の枝である。 ・卵巣静脈・精巣静脈は右が下大静脈、左が左腎静脈へ注ぐ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。