卵巣は腎臓の近くで生まれた―発生学で解く腹部大動脈の分枝
第102回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
腹部大動脈から分枝するのはどれか。
- a.子宮動脈
- b.上殿動脈
- c.上膀胱動脈
- d.閉鎖動脈
- e.卵巣動脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
骨盤内臓器や殿部、大腿内側を栄養する子宮動脈・上殿動脈・上膀胱動脈(臍動脈の枝)・閉鎖動脈は、いずれも内腸骨動脈系の枝です。これに対して卵巣動脈は、腎動脈のやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈から直接分枝し、卵巣提索を通って卵巣に達します。これは性腺が胎生期に腎臓の近くで発生してから下降するためで、男性の精巣動脈も同じ理由で腹部大動脈から起こります。性腺静脈が右は下大静脈、左は左腎静脈へ注ぐ左右差や、子宮動脈と尿管の交叉、異常閉鎖動脈(死冠)なども手術や画像診断で重要です。血管の起始を発生学と結びつけて理解することで、解剖の知識が臨床の場面でも生きてきます。
解答・解説
正解はeです
本問は、腹部大動脈から直接分かれる動脈と、骨盤内で内腸骨動脈から分かれる動脈とを区別できるかを問う解剖学の問題である。
考え方
腹部大動脈は横隔膜の大動脈裂孔(第12胸椎の高さ)を通って腹腔に入り、第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分岐する。総腸骨動脈はさらに外腸骨動脈(下肢へ向かう)と内腸骨動脈(骨盤内臓器・骨盤壁・殿部・会陰へ向かう)に分かれる。したがって、骨盤内にある臓器(子宮、膀胱、直腸下部など)や殿部・大腿内側を栄養する動脈は、原則として内腸骨動脈の枝である。 その中で例外的なのが性腺(卵巣・精巣)の動脈である。性腺は胎生期に腎臓の近く(後腹壁の上方)で発生し、その後骨盤内(卵巣)や陰嚢内(精巣)まで下降する。血管は発生した場所から連れて行かれるため、卵巣動脈・精巣動脈は腎動脈のやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈から直接分枝し、長い距離を下行して性腺に達する。 選択肢のうち、骨盤内に位置する臓器・部位を栄養していても腹部大動脈から直接起こるのは卵巣動脈だけである。
選択肢考察
- ×a. 子宮動脈
誤り。子宮動脈は内腸骨動脈の前枝(臓側枝)から分かれる。子宮広間膜の基部(基靱帯)を内側へ走り、子宮頸部の外側で尿管の前上方を交叉する(「橋の下を水が流れる」と表現される)ため、子宮全摘術で尿管損傷が起こりやすい部位として重要である。子宮側縁を上行して卵巣動脈と吻合する。男性で発生学的に対応するのは精管動脈で、これも内腸骨動脈系(多くは臍動脈から)の枝である。
- ×b. 上殿動脈
誤り。上殿動脈は内腸骨動脈の後枝から分かれる最大の枝である。大坐骨孔の梨状筋より上(梨状筋上孔)を通って骨盤外へ出て、中殿筋・小殿筋・大殿筋などの殿部の筋を栄養する。
- ×c. 上膀胱動脈
誤り。上膀胱動脈は内腸骨動脈から分かれる臍動脈のうち、出生後も開存している近位部から分枝し、膀胱上部を栄養する。臍動脈の遠位部は出生後に閉塞して内側臍索(内側臍ヒダ)となる。
- ×d. 閉鎖動脈
誤り。閉鎖動脈は内腸骨動脈の前枝から分かれ、閉鎖神経とともに閉鎖管を通って大腿内側の内転筋群などを栄養する。なお、下腹壁動脈(外腸骨動脈の枝)から起こる変異(異常閉鎖動脈)があり、鼠径・大腿ヘルニアの手術で損傷すると大出血をきたすことから「死冠(corona mortis)」と呼ばれる。いずれにしても腹部大動脈から直接出る動脈ではない。
- ○e. 卵巣動脈
正しい。卵巣動脈は腎動脈のやや下方(おおむね第2腰椎の高さ)で腹部大動脈の前面から左右一対で直接分枝する。後腹壁を下行し、総腸骨動脈(または外腸骨動脈)の前を越えて骨盤に入り、卵巣提索(骨盤漏斗靱帯)の中を通って卵巣に達し、子宮動脈とも吻合する。男性ではこれに相当する精巣動脈が同様に腹部大動脈から起こり、鼠径管・精索を通って精巣に至る。胎生期に性腺が腎臓の近くで発生して下降することが、このような高い位置からの分枝の理由である。一方、卵巣静脈は右が下大静脈へ、左が左腎静脈へ注ぐという左右差がある。
腹部大動脈の主な枝(上から順に)
・臓側枝(不対): 腹腔動脈(第12胸椎付近。左胃動脈・脾動脈・総肝動脈)、上腸間膜動脈(第1腰椎付近)、下腸間膜動脈(第3腰椎付近) ・臓側枝(対): 中副腎動脈、腎動脈(第1〜2腰椎付近)、性腺動脈(卵巣動脈/精巣動脈、第2腰椎付近) ・壁側枝: 下横隔動脈(対)、腰動脈(通常4対)、正中仙骨動脈(不対、大動脈分岐部の後面から) ・終枝: 左右の総腸骨動脈(第4腰椎の高さで分岐)
内腸骨動脈の主な枝
・前枝: 臍動脈(→上膀胱動脈)、下膀胱動脈(男性)、子宮動脈(女性)、膣動脈、中直腸動脈、閉鎖動脈、内陰部動脈、下殿動脈 ・後枝: 腸腰動脈、外側仙骨動脈、上殿動脈
臨床との関連
・子宮動脈と尿管の交叉は子宮全摘術での尿管損傷の好発部位である。 ・分娩後異常出血などでは子宮動脈や内腸骨動脈の塞栓術が行われる。 ・卵巣には卵巣動脈と子宮動脈の卵巣枝という二重の血流がある。 ・左精巣静脈が左腎静脈へ直角に流入することが、精索静脈瘤が左側に多い理由の一つとされる。
POINT
・卵巣動脈(精巣動脈)は腎動脈のやや下方で腹部大動脈から直接分枝する。性腺が腎臓近くで発生して下降するためである。 ・子宮動脈、上殿動脈、閉鎖動脈、上膀胱動脈(臍動脈の枝)はいずれも内腸骨動脈系の枝である。 ・卵巣静脈・精巣静脈は右が下大静脈、左が左腎静脈へ注ぐ。
