サーファクタントを出すのはII型―肺を支える細胞たちの役割分担
第102回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
肺の細胞と機能の組合せで誤っているのはどれか。
- a.杯細胞 ―― 粘液分泌
- b.線維芽細胞 ―― 膠原線維産生
- c.神経内分泌細胞 ―― セロトニン分泌
- d.Ⅰ型肺胞上皮細胞 ―― サーファクタント分泌
- e.肺胞マクロファージ ―― 細菌貪食
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肺の細胞は、気道の細胞(杯細胞・線毛細胞・神経内分泌細胞など)、肺胞の細胞(I型・II型肺胞上皮細胞)、間質・免疫の細胞(線維芽細胞・肺胞マクロファージ)に分けて整理すると理解しやすくなります。サーファクタントを分泌するのはII型肺胞上皮細胞で、I型は肺胞表面の大部分を覆う薄い細胞として血液空気関門をつくり、ガス交換を担います。杯細胞は粘液、線維芽細胞は膠原線維、神経内分泌細胞はセロトニンなど、肺胞マクロファージは細菌や不要なサーファクタントの貪食を担っています。サーファクタント不足は新生児呼吸窮迫症候群の原因となり、II型細胞由来のKL-6やSP-Dは間質性肺炎の評価に使われるなど、細胞レベルの知識は臨床と直結します。I型とII型の役割の取り違えは頻出のひっかけなので、確実に区別しておきましょう。
解答・解説
正解はdです
気道と肺胞を構成する細胞それぞれの役割を問う問題で、「誤っている組合せ」を選ぶ形式である。 肺の細胞は、大きく「気道(気管〜細気管支)の細胞」「肺胞の細胞」「間質・免疫の細胞」に分けて整理するとよい。 ・気道:多列線毛上皮からなり、線毛細胞・杯細胞・基底細胞・神経内分泌細胞などが並ぶ。細気管支ではクラブ細胞(旧称Clara細胞)が加わる。杯細胞が出す粘液で異物を捕らえ、線毛運動で口側へ送り出す仕組みを粘液線毛クリアランスという。 ・肺胞:扁平なI型肺胞上皮細胞と、立方状のII型肺胞上皮細胞からなる。I型はガス交換の場となる薄い壁をつくり、II型はサーファクタント(肺表面活性物質)を分泌するとともに、傷害時には増殖してI型へ分化し上皮を修復する。 ・間質・免疫:線維芽細胞が膠原線維などの細胞外基質を産生して肺胞壁を支え、肺胞マクロファージが肺胞腔内の異物や細菌を処理する。 本問で問われている「サーファクタント分泌」はII型肺胞上皮細胞の代表的な機能であり、I型に結び付けた組合せが誤りとなる。I型とII型の役割の取り違えは頻出のひっかけである。
選択肢考察
- ×a. 杯細胞 ―― 粘液分泌
正しい組合せである。杯細胞は気管・気管支の上皮に散在する、ワイングラス(杯)のような形をした粘液分泌細胞で、細胞質に粘液顆粒(ムチン)をため込んでいる。分泌された粘液は吸入された粉じんや微生物を捕らえ、線毛細胞の線毛運動によって咽頭側へ運ばれる(粘液線毛クリアランス)。喫煙や慢性気管支炎、気管支喘息では杯細胞が増生(杯細胞化生)し、痰の増加の原因となる。
- ×b. 線維芽細胞 ―― 膠原線維産生
正しい組合せである。線維芽細胞は肺の間質(肺胞壁や気管支・血管の周囲)に存在し、膠原線維(コラーゲン)や弾性線維、基質を産生して肺の構造を支持している。肺が傷害されると線維芽細胞が増殖し筋線維芽細胞へ分化して修復を行うが、これが過剰になると膠原線維が沈着し、特発性肺線維症などの肺線維症に至る。
- ×c. 神経内分泌細胞 ―― セロトニン分泌
正しい組合せである。肺神経内分泌細胞(Kulchitsky細胞)は気道上皮の基底側に単独または小集団(神経上皮小体)で存在し、セロトニン、ガストリン放出ペプチド(ボンベシン)、カルシトニンなどを分泌する。低酸素を感知する働きがあると考えられている。肺カルチノイドや小細胞肺癌はこの細胞に類似した神経内分泌性の性格をもつ腫瘍であり、カルチノイド症候群(セロトニンによる紅潮・下痢など)やホルモン産生の背景となる。
- ○d. Ⅰ型肺胞上皮細胞 ―― サーファクタント分泌
誤った組合せであり、これが正解である。サーファクタントを分泌するのはII型肺胞上皮細胞で、細胞内の層板小体(lamellar body)に貯蔵したサーファクタントを肺胞腔へ放出する。I型肺胞上皮細胞は非常に薄く扁平な細胞で、数はII型より少ないものの肺胞表面の約90〜95%を覆い、毛細血管内皮・基底膜とともに血液空気関門を形成してガス交換を担う。I型は分裂能に乏しく、傷害されるとII型が増殖してI型へ分化し、上皮を再生する。
- ×e. 肺胞マクロファージ ―― 細菌貪食
正しい組合せである。肺胞マクロファージは肺胞腔内に存在する食細胞で、吸入された粉じんや細菌、不要になったサーファクタントなどを貪食・消化する。自然免疫の初期防御を担うとともに、サイトカイン産生や抗原提示によって免疫応答を調節する。サーファクタントの処理にはGM-CSFが必要で、抗GM-CSF抗体によりこの機能が障害されると、自己免疫性肺胞蛋白症を生じる。
サーファクタントの働きと関連疾患
サーファクタントはリン脂質(主成分はジパルミトイルホスファチジルコリン、DPPC)と特異的蛋白質(SP-A、SP-B、SP-C、SP-D)からなる。肺胞内面の液層の表面張力を下げ、Laplaceの法則(肺胞内圧=2×表面張力/半径)に従って小さい肺胞ほどつぶれやすくなるのを防ぎ、呼気終末の肺胞虚脱を防止する。SP-A、SP-Dは病原体に結合して貪食を助ける自然免疫の役割ももつ。 ・新生児呼吸窮迫症候群(RDS):早産児ではII型肺胞上皮細胞が未熟でサーファクタントが不足し、肺胞が虚脱する。人工サーファクタントの気管内投与が有効で、母体への副腎皮質ステロイド投与は胎児の肺成熟を促す。在胎34週前後に産生が十分となる。 ・肺胞蛋白症:サーファクタントの処理障害により、肺胞腔内にサーファクタント由来の物質が貯留する。
気道・肺胞を構成するその他の細胞
・線毛細胞:線毛運動により粘液を口側へ輸送する。線毛の構造異常は原発性線毛機能不全症(Kartagener症候群など)の原因となる。 ・基底細胞:気道上皮の幹細胞として線毛細胞や杯細胞へ分化する。 ・クラブ細胞(旧称Clara細胞):細気管支に存在し、クラブ細胞分泌蛋白(CC16)などを分泌するほか、薬物・異物の代謝や細気管支上皮の再生に関わる。 ・II型肺胞上皮細胞:血清マーカーKL-6やSP-A、SP-Dの産生源であり、間質性肺炎の活動性評価に用いられる。
POINT
・サーファクタントを分泌するのはII型肺胞上皮細胞(層板小体) ・I型肺胞上皮細胞は肺胞表面の大部分を覆う扁平な細胞で、ガス交換(血液空気関門)を担う。 ・II型はI型の前駆細胞として肺胞上皮の修復も担う。 ・杯細胞=粘液、線維芽細胞=膠原線維、神経内分泌細胞=セロトニンなど、肺胞マクロファージ=貪食 ・サーファクタント不足は新生児呼吸窮迫症候群の原因となる。
