「顔面」神経は顔の感覚を担わない―三叉神経が支配する顔の皮膚感覚
第102回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
顔面の皮膚感覚を支配するのはどれか。
- a.三叉神経
- b.顔面神経
- c.舌咽神経
- d.迷走神経
- e.副神経
対話形式の解説
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ドクターまとめ
顔面の皮膚感覚を支配するのは三叉神経で、第1枝(眼神経)が前額部・上眼瞼・角膜、第2枝(上顎神経)が頬・上唇、第3枝(下顎神経)が下唇・下顎部を担い、第3枝は咀嚼筋の運動も支配します。顔面神経は名前に反して主に表情筋の運動神経で、舌前2/3の味覚や涙腺・唾液腺の分泌を担いますが、顔面の皮膚感覚は担当しません。舌咽神経は舌後1/3と咽頭の感覚、迷走神経は咽頭・喉頭の運動と内臓の副交感神経、副神経は胸鎖乳突筋と僧帽筋の運動を担います。下顎角部が頸神経支配であることや、角膜反射の求心路が三叉神経・遠心路が顔面神経であることは、感覚障害の局在診断や神経診察で役立つ知識です。脳神経の感覚と運動の分担を整理しておくことは、脳幹病変の理解や日常の神経診察の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
脳神経の機能分担、とくに「顔面の感覚」と「顔面の運動」を担う神経の違いを問う基本問題である。 顔面では、皮膚の感覚(触覚・痛覚・温度覚)を伝えるのは三叉神経(第V脳神経)であり、表情筋を動かすのは顔面神経(第VII脳神経)である。名前から「顔面の感覚=顔面神経」と取り違えやすいが、顔面神経は主に運動神経で、感覚としては味覚(舌の前2/3)とごく狭い耳介周囲の皮膚感覚を担うにすぎない。 三叉神経は脳神経の中で最大の神経で、橋から出て三叉神経節(半月神経節、Gasser神経節)をつくった後、次の3本に分かれる。 ・第1枝(眼神経、V1):前額部、上眼瞼、鼻背、角膜・結膜 ・第2枝(上顎神経、V2):下眼瞼、頬部、上唇、上顎の歯・歯肉、鼻腔粘膜 ・第3枝(下顎神経、V3):下唇、下顎部・オトガイ部、側頭部の一部、下顎の歯、舌の前2/3の一般感覚 さらに第3枝には運動線維が含まれ、咀嚼筋(咬筋、側頭筋、内側・外側翼突筋)などを支配する。 なお、下顎角付近と耳介の大部分は三叉神経ではなく頸神経(C2〜C3由来の大耳介神経など)の支配であり、この点は三叉神経障害と心因性・頸髄病変による感覚障害を区別する手がかりになる。
選択肢考察
- ○a. 三叉神経
顔面の皮膚感覚を担う神経である。第1枝(眼神経)が前額部・上眼瞼・鼻背、第2枝(上顎神経)が頬部・上唇・下眼瞼、第3枝(下顎神経)が下唇・下顎部を支配する。角膜の感覚も第1枝が担い、角膜反射の求心路となる。第3枝には運動線維も含まれ、咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋などの咀嚼筋を動かす。三叉神経痛や帯状疱疹(とくに第1枝領域の眼部帯状疱疹)は、この分布に沿って症状が現れる。
- ×b. 顔面神経
顔面神経は主に表情筋(前頭筋、眼輪筋、口輪筋など)の運動を支配する。そのほか、アブミ骨筋の運動、舌の前2/3の味覚(鼓索神経)、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌(副交感神経)を担うが、顔面の皮膚感覚は担当しない(感覚としては外耳の一部のごく狭い範囲のみ)。上部顔面の表情筋は両側の大脳皮質から支配されるため、中枢性顔面神経麻痺では額のしわ寄せが保たれ、末梢性(Bell麻痺など)では額のしわ寄せもできなくなる。
- ×c. 舌咽神経
舌咽神経は、舌の後ろ1/3の味覚と一般感覚、咽頭・扁桃・中耳(鼓室)の感覚、頸動脈洞・頸動脈小体からの情報(血圧・血中ガス)を伝える。運動は茎突咽頭筋のみを支配し、副交感線維は耳下腺の分泌を担う。咽頭反射(絞扼反射)の求心路でもある。顔面の皮膚感覚には関与しない。
- ×d. 迷走神経
迷走神経は、軟口蓋・咽頭・喉頭の筋(反回神経・上喉頭神経を介した声帯の運動を含む)を支配して嚥下と発声に関わり、咽頭反射の遠心路となる。感覚では喉頭・気管・食道などの内臓感覚を伝え、副交感神経として心拍の抑制、気管支平滑筋の収縮、消化管の蠕動・分泌を担う。皮膚の感覚は外耳道・耳介後面の一部にとどまり、顔面の皮膚感覚は支配しない。
- ×e. 副神経
副神経は純粋な運動神経で、胸鎖乳突筋(首を反対側へ回す)と僧帽筋(肩をすくめる)を支配する。障害されると、患側への肩の挙上が弱くなり、反対側への頸部の回旋が弱くなる。感覚線維は含まず、顔面の感覚とは関係がない。
顔面・頭頸部に関わる脳神経の主な機能
・三叉神経(V):顔面の皮膚感覚、角膜・鼻腔・口腔粘膜の感覚、舌前2/3の一般感覚、咀嚼筋の運動 ・顔面神経(VII):表情筋・アブミ骨筋の運動、舌前2/3の味覚、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌 ・舌咽神経(IX):舌後1/3の味覚・一般感覚、咽頭・中耳の感覚、茎突咽頭筋の運動、耳下腺の分泌、頸動脈洞・頸動脈小体の求心路 ・迷走神経(X):軟口蓋・咽頭・喉頭の筋の運動、喉頭・胸腹部内臓の感覚、胸腹部内臓の副交感神経支配 ・副神経(XI):胸鎖乳突筋・僧帽筋の運動 ・舌下神経(XII):舌筋の運動
三叉神経が関わる反射
・角膜反射:求心路は三叉神経第1枝、遠心路は顔面神経(眼輪筋の収縮による瞬目) ・下顎反射:求心路・遠心路とも三叉神経第3枝。亢進すれば橋より上位の両側錐体路障害を示唆する。
顔面の感覚障害の分布を読むポイント
・末梢性の三叉神経障害では、第1〜3枝の分布に沿った感覚障害となり、下顎角部は障害されない。 ・延髄外側症候群(Wallenberg症候群)では、三叉神経脊髄路核の障害により同側顔面の温痛覚が低下し、脊髄視床路の障害により反対側の体幹・四肢の温痛覚が低下する(交代性感覚障害)。 ・三叉神経脊髄路核は顔面を同心円状(口の周囲が上位、外側が下位)に再現するため、中枢性障害では玉ねぎの皮様(onion-skin pattern)の感覚障害を呈することがある。
POINT
・顔面の皮膚感覚=三叉神経(V1眼神経・V2上顎神経・V3下顎神経) ・表情筋の運動=顔面神経、咀嚼筋の運動=三叉神経第3枝 ・下顎角部は三叉神経ではなく頸神経(大耳介神経)の支配 ・角膜反射:求心路は三叉神経第1枝、遠心路は顔面神経
