若い男性の突然の胸痛、血圧が下がり始めたら一刻を争う―緊張性気胸はまず「抜く」
第102回医師国家試験 A問題 第56問
国試問題にチャレンジ
23歳の男性。仕事中に突然の胸痛を発症し,次第に呼吸困難を生じたため搬入された。不穏状態である。呼吸数36/分。脈拍112/分,整。血圧94/60mmHg。胸部エックス線写真を別に示す。 まず行うのはどれか。

- a.鎮静薬投与
- b.昇圧薬投与
- c.人工呼吸
- d.胸腔ドレーン挿入
- e.緊急手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年男性に突然の胸痛と呼吸困難がみられたら自然気胸を考え、そこに頻脈・血圧低下・不穏などのショック徴候と縦隔の健側偏位、患側横隔膜の低下を伴えば緊張性気胸と判断します。肺の破綻部がチェックバルブとして働いて胸腔内圧が上昇し続け、静脈還流が妨げられる閉塞性ショックであり、最優先は胸腔ドレーン挿入(必要なら先に緊急脱気)による減圧です。昇圧薬や鎮静薬は原因を解決せず、陽圧換気はドレナージ前に行うと病態を急激に悪化させ、手術は空気漏れの持続や再発例などで検討するものです。緊張性気胸は身体所見から臨床的に診断し、画像を待たずに処置すべき病態であることを押さえておくことが、救急現場で命を救う判断につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・23歳の男性。仕事中に突然胸痛が出現し、その後呼吸困難が次第に増悪した。 ・不穏状態、呼吸数36/分(頻呼吸)、脈拍112/分(頻脈)、血圧94/60 mmHg(低下傾向)であり、呼吸不全と循環不全を伴うショックに近い状態である。不穏は低酸素血症や脳灌流低下を反映していると考えられる。 ・胸部エックス線写真:左胸腔は透過性が著しく亢進し、末梢に肺血管影がみられない。左肺は肺門側へ高度に虚脱している。左横隔膜は低下・平坦化し、縦隔(心陰影・気管)は健側である右側へ偏位している。
診断へのプロセス
若年男性の突然発症の胸痛と呼吸困難では、自然気胸をまず考える(原発性自然気胸は長身・痩せ型の10~20歳代男性に好発する)。突然の胸痛とショックを来す疾患として、急性冠症候群、急性大動脈解離、肺血栓塞栓症、特発性食道破裂なども鑑別に挙がるが、胸部エックス線写真で左肺の虚脱と肺紋理の消失が明らかであり、気胸と診断できる。 さらに、縦隔の健側偏位と患側横隔膜の低下は患側胸腔内圧が陽圧になっていることを示し、頻脈・血圧低下という循環障害を伴っていることから、緊張性気胸と判断する。緊張性気胸では、臓側胸膜の破綻部が一方向弁(チェックバルブ)として働き、吸気のたびに空気が胸腔内へ流入するが呼気で抜けないため、胸腔内圧が上昇し続ける。その結果、縦隔が健側へ押されて大静脈が圧迫・屈曲され、静脈還流が低下して心拍出量が減少する(閉塞性ショック)。
設問の考え方
緊張性気胸は放置すると短時間で心停止に至りうる致死的病態であり、原因である胸腔内の陽圧を直ちに解除すること(脱気)が最優先である。選択肢の中では胸腔ドレーン挿入がこれに該当する。昇圧薬や鎮静薬は原因を解決せず、陽圧換気はむしろ病態を悪化させる。なお、本来緊張性気胸は臨床所見で診断して直ちに処置すべき病態であり、画像確認のために処置を遅らせてはならない。
選択肢考察
- ×a. 鎮静薬投与
本例の不穏は低酸素血症や循環不全による症状であり、その原因である胸腔内の陽圧を解除しない限り改善しない。鎮静薬は呼吸を抑制し、血管拡張作用による血圧低下を来すことも多く、ショックに近い状態の患者では状態をさらに悪化させる危険がある。まず行う処置として不適切である。
- ×b. 昇圧薬投与
緊張性気胸による血圧低下は、胸腔内圧の上昇により静脈還流が妨げられて心臓に血液が戻らないこと(閉塞性ショック)が原因である。心収縮力や血管抵抗を高める昇圧薬を投与しても、静脈還流の障害という根本原因は解消されず効果は乏しい。胸腔の減圧を優先すべきである。
- ×c. 人工呼吸
気管挿管による陽圧換気を行うと、肺内の圧が上がって破綻部から胸腔へ流入する空気がさらに増え、胸腔内圧が急上昇して静脈還流が一層低下し、心停止を招くおそれがある。気胸、特に緊張性気胸では、陽圧換気の前に胸腔ドレナージ(または緊急脱気)を行うことが原則である。自発呼吸がある本例でまず行う処置ではない。
- ○d. 胸腔ドレーン挿入
緊張性気胸の治療の本質は、胸腔内に貯留した陽圧の空気を速やかに体外へ排出し、縦隔の偏位と静脈還流障害を解除することである。胸腔ドレーンを挿入して持続吸引(または水封)することで、胸腔内圧が下がり、虚脱した肺が再膨張し、循環動態が改善する。ドレーンは通常、中腋窩線~前腋窩線上の第4~5肋間(安全三角)から挿入する。ドレーン準備に時間を要する場合は、太い留置針で胸腔を穿刺する緊急脱気(針脱気)を先行させ、その後ドレーン挿入を行う。
- ×e. 緊急手術
気胸に対する手術(多くは胸腔鏡下のブラ切除術)は、胸腔ドレナージ後も空気漏れが持続する場合や肺の再膨張が得られない場合、再発を繰り返す場合、両側気胸、血気胸で出血が持続する場合などに適応となる。緊張性気胸で循環が破綻しかけている状況では、手術の準備を待つ余裕はなく、まずベッドサイドで行える胸腔の減圧が優先される。
気胸の分類
・自然気胸:原発性(基礎疾患のない若年者、肺尖部のブラ・ブレブの破綻による。長身・痩せ型の男性、喫煙者に多い)と、続発性(COPD、間質性肺炎、肺癌、月経随伴性気胸、リンパ脈管筋腫症などに伴う)に分かれる。 ・外傷性気胸:胸部外傷、肋骨骨折など。 ・医原性気胸:中心静脈カテーテル挿入、経気管支肺生検、陽圧換気などに伴う。
緊張性気胸の臨床像
・症状:高度の呼吸困難、頻呼吸、頻脈、血圧低下、不穏・意識障害、チアノーゼ。 ・身体所見:患側の呼吸音減弱・消失、打診で鼓音、患側胸郭の膨隆と呼吸運動の低下、気管の健側偏位、頸静脈怒張(静脈還流障害による。循環血液量が少なければ目立たないこともある)、皮下気腫。 ・画像:患側の透過性亢進と肺紋理の消失、虚脱肺の辺縁線、縦隔の健側偏位、患側横隔膜の低下・平坦化、肋間腔の開大。 ・ショックの分類上は閉塞性ショックに属する(ほかに心タンポナーデ、肺血栓塞栓症など)。
治療の流れ
・緊張性気胸を臨床的に疑ったら、画像確認を待たずに減圧を行う。 ・緊急脱気:太い留置針(14~16 G程度)を用いて胸腔を穿刺する。穿刺部位は鎖骨中線上第2肋間とされてきたが、胸壁が厚い成人では針が胸腔に達しないことがあるため、現在は中腋窩線~前腋窩線上の第4~5肋間も推奨されている。 ・その後、胸腔ドレーンを挿入して持続ドレナージを行う。 ・非緊張性の気胸では、虚脱の程度に応じて安静・経過観察、穿刺脱気、胸腔ドレナージを選択する。 ・再膨張後、空気漏れが持続する場合や再発例では、胸腔鏡下手術や胸膜癒着術を検討する。 ・急速に再膨張させると再膨張性肺水腫を起こすことがあるため、長期間虚脱していた肺では注意する。
POINT
・若年男性の突然の胸痛・呼吸困難 → 自然気胸を考える。 ・気胸に頻脈・血圧低下・不穏などのショック徴候と縦隔の健側偏位を伴えば緊張性気胸である(閉塞性ショック)。 ・緊張性気胸はまず胸腔の減圧(緊急脱気・胸腔ドレーン挿入)を行う。臨床診断で処置し、画像のために治療を遅らせない。 ・陽圧換気は胸腔内圧をさらに上げるため、ドレナージ前に行ってはならない。昇圧薬・鎮静薬は根本治療にならない。
