思春期男子の鼻出血は要注意―「生検してはいけない」若年性鼻咽腔血管線維腫
第102回医師国家試験 A問題 第46問
国試問題にチャレンジ
16歳の男子。鼻閉と鼻出血とを主訴に来院した。1か月前から耳閉感と軽度難聴とを自覚していた。経鼻内視鏡検査で,鼻腔後端に暗赤色調の腫瘤を認める。頭部造影MRIのT1強調像(A)と右外頸動脈造影写真正面像(B)とを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.乳頭腫
- b.脊索腫
- c.血管線維腫
- d.悪性黒色腫
- e.悪性リンパ腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
思春期男子に反復する鼻出血と鼻閉があり、鼻腔後部から上咽頭に暗赤色で強く造影される多血性腫瘤を認めた場合は、若年性鼻咽腔血管線維腫を考えます。耳閉感や難聴は上咽頭の腫瘤による耳管閉塞から生じる滲出性中耳炎で、病変の局在を示す手がかりになります。乳頭腫や悪性黒色腫は中高年に多く色調も異なり、脊索腫は斜台由来で骨破壊や脳神経症状、悪性リンパ腫は粘膜に覆われた非多血性の腫瘤という点で鑑別できます。本症は主に顎動脈から血流を受けるため、生検は大量出血の危険から原則避け、術前塞栓術を行ったうえで切除するのが基本です。「年齢・性別・色調・血流」を組み合わせて診断し、危険な検査を避けるという判断は、上咽頭腫瘍の診療全般で役立つ考え方です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・患者:16歳の男子(思春期の男性)。 ・主訴:鼻閉と鼻出血。 ・随伴症状:1か月前からの耳閉感と軽度難聴。 ・経鼻内視鏡:鼻腔の後端(後鼻孔付近)に暗赤色の腫瘤。 ・造影MRI T1強調像(A):右鼻腔後方から上咽頭にかけて、よく造影される境界明瞭な腫瘤。 ・右外頸動脈造影(B):外頸動脈の枝(主に顎動脈)から血流を受ける、強い腫瘍濃染。
診断へのプロセス
1. 鼻閉と鼻出血が同時にみられることから、鼻腔〜上咽頭を占める腫瘍性病変をまず考える。 2. 耳閉感と難聴は、上咽頭の側壁に開口する耳管が腫瘤で圧迫・閉塞され、耳管機能障害から滲出性中耳炎が生じたためと説明できる。上咽頭に病変があることを示す重要な手がかりである。 3. 腫瘤が暗赤色で、造影MRIで強く造影され、血管造影で著明な腫瘍濃染を示すことから、非常に血管に富む(多血性の)腫瘍である。 4. 思春期の男子に生じる、鼻腔後部〜上咽頭の多血性腫瘍で、繰り返す鼻出血を伴うという組み合わせは、若年性鼻咽腔血管線維腫に典型的である。 以上より、血管線維腫(若年性鼻咽腔血管線維腫)が最も考えられる。
臨床上の注意
本症は極めて出血しやすいため、外来での安易な生検は大量出血を招く危険があり避ける。診断は年齢・性別・内視鏡所見・画像所見(造影CT/MRI、血管造影)で行い、治療は術前に流入血管を塞栓したうえで外科的に切除するのが基本である。
選択肢考察
- ×a. 乳頭腫
鼻副鼻腔の乳頭腫(とくに内反性乳頭腫)は中高年の男性に多い良性腫瘍で、片側の鼻腔側壁(中鼻道付近)から発生することが多い。表面は乳頭状・分葉状で、色調は白色〜灰白色から淡紅色であり、暗赤色の多血性腫瘤とはならない。出血はあまり目立たない。再発しやすく、扁平上皮癌を合併することがある点が臨床上重要である。16歳男子で、外頸動脈造影で強く濃染する本例とは合わない。
- ×b. 脊索腫
脊索腫は胎生期の脊索の遺残から生じる腫瘍で、頭蓋底では斜台に好発する。斜台から蝶形骨を破壊して上咽頭や鼻腔に進展することはあるが、腫瘤は正常粘膜に覆われた硬めの平滑な腫瘤として見え、鼻出血を主訴とすることは少ない。骨破壊を伴い、外転神経麻痺など脳神経症状をきたしやすい。成人に多く、暗赤色の多血性腫瘍という本例の特徴とは合わない。
- ○c. 血管線維腫
若年性鼻咽腔血管線維腫は、10〜20歳前後の思春期男性にほぼ限って発生する良性腫瘍で、蝶口蓋孔付近から生じて鼻腔後部と上咽頭を占拠する。血管と線維組織からなり、極めて血流が豊富なため、反復する鼻出血と鼻閉が主症状となる。耳管の閉塞による耳閉感・難聴を伴うこともある。内視鏡では暗赤色〜赤紫色の腫瘤としてみえ、造影MRIで強く造影され、外頸動脈造影で顎動脈などからの流入を伴う腫瘍濃染を示す。本例の年齢・性別・症状・画像所見のすべてが合致する。
- ×d. 悪性黒色腫
粘膜悪性黒色腫は鼻腔・副鼻腔や咽頭の粘膜に生じうる悪性腫瘍で、鼻閉や鼻出血をきたすことがある。しかし好発年齢は中高年〜高齢者であり、16歳での発症は極めてまれである。腫瘤はメラニン色素によって黒色〜黒褐色を示すことが多い(色素の乏しいタイプもある)。若年男子の暗赤色で強く濃染する腫瘤という本例の像には合わない。
- ×e. 悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は上咽頭や鼻腔などリンパ組織のある部位に生じうる。上咽頭の悪性リンパ腫は正常粘膜に覆われた平滑な腫瘤となることが多く、色調も周囲の粘膜やアデノイドに近い。画像では周囲へびまん性に広がる充実性腫瘤として描出され、血管造影で強く濃染する多血性腫瘍の像は通常とらない。なお、鼻腔に生じるNK/T細胞リンパ腫は壊死や潰瘍を伴い血性の鼻漏をきたすことがあるが、暗赤色の境界明瞭な多血性腫瘤とは所見が異なる。
若年性鼻咽腔血管線維腫の概要
・疫学:思春期の男性(10歳代)にほぼ限られる。男性ホルモン(アンドロゲン)への依存性が指摘されている。 ・発生部位:蝶口蓋孔付近から発生し、鼻腔後部・上咽頭に広がる。進行すると翼口蓋窩、上顎洞、眼窩、頭蓋内へ進展することがある。 ・症状:反復する鼻出血(しばしば大量)、片側の鼻閉、耳管閉塞による滲出性中耳炎(耳閉感・難聴)、進展例では頬部の腫脹や眼球突出。 ・所見:内視鏡で暗赤色〜赤紫色の平滑な腫瘤。造影CT/MRIで強く造影される。CTでは翼口蓋窩の拡大や上顎洞後壁の前方への弯曲がみられることがある。 ・血流:主に外頸動脈の枝である顎動脈(蝶口蓋動脈)から供給される。進展例では内頸動脈系からの血流を受けることもある。 ・注意:生検は大量出血の危険があるため原則として行わない。 ・治療:術前に血管造影を行い流入血管を塞栓して出血を減らしたうえで、外科的に切除する(近年は内視鏡下手術が広く行われる)。切除困難な例では放射線治療が検討される。
上咽頭を占める病変の鑑別
・アデノイド(咽頭扁桃増殖症):小児、正常リンパ組織の色調、鼻出血はまれ。 ・若年性鼻咽腔血管線維腫:思春期男子、暗赤色、多血性、鼻出血。 ・上咽頭癌:中高年に多い、EBウイルスとの関連、頸部リンパ節転移や滲出性中耳炎で見つかることがある。 ・悪性リンパ腫:粘膜に覆われた平滑な腫瘤、鼻出血は目立たないことが多い。 ・脊索腫:斜台由来、骨破壊、脳神経症状。
一側性の滲出性中耳炎に注意
小児のアデノイドを除き、とくに成人で片側だけの滲出性中耳炎をみたら、上咽頭の腫瘍(上咽頭癌など)を必ず内視鏡で確認する。
POINT
・思春期男子+反復する鼻出血+鼻閉+上咽頭の暗赤色腫瘤=若年性鼻咽腔血管線維腫。 ・極めて多血性の腫瘍で、主な栄養血管は外頸動脈系(顎動脈)である。 ・生検は大量出血の危険があるため原則禁忌。 ・治療は術前塞栓術後の外科的切除。 ・耳閉感・難聴は耳管閉塞による滲出性中耳炎で、上咽頭病変を示唆する。
