午後になると目が痛む―書類仕事の46歳に隠れた「ピント」と「涙」の問題
第102回医師国家試験 A問題 第37問
国試問題にチャレンジ
46歳の女性。午後になると眼痛と頭重感とが続くことを主訴に来院した。仕事で書類を多く読む。眼位と眼球運動とに異常はない。視力は右1.2(矯正不能),左1.0(1.2×+0.5 D)。眼圧は右16mmHg,左16mmHg。両眼底に異常を認めない。 次に行う検査はどれか。2つ選べ。
- a.仮性同色表検査
- b.近点距離測定
- c.涙液分泌検査
- d.角膜知覚検査
- e.頭部単純CT
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中年の近業者が午後に増悪する眼痛・頭重感を訴え、眼圧・眼底・眼位に異常がない場合は、緑内障発作や頭蓋内疾患よりも眼精疲労を考えます。主な原因として、老視の始まりと遠視による調節負荷、そして瞬目減少と加齢による涙液減少で起こるドライアイが挙げられます。前者は近点距離測定で調節力を、後者はSchirmer試験などの涙液分泌検査やBUTで涙液の量と質を評価します。色覚検査や角膜知覚検査は症状と結びつかず、頭部CTは眼科的検索で原因が見つからない場合や神経学的異常がある場合に考慮します。危険な疾患を除外したうえで症状の出方から原因を想定し、それを確かめる検査を選ぶという考え方は、日常診療でよくある訴えに対応する基本となります。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・46歳の女性:水晶体の弾性低下により調節力が落ち始める年代であり、老視の自覚が出やすい。また涙液分泌も加齢とともに減り、特に中年以降の女性でドライアイが多い。 ・午後になると眼痛と頭重感が出る:朝は楽で、目を使い続けた後に症状が強くなるという経過は、器質的疾患よりも目の使いすぎによる疲労性の病態(眼精疲労)を示唆する。 ・書類を多く読む仕事:近くを見る作業(近業)が長時間続く。近業中は調節を持続的に働かせるうえ、注視によって瞬目(まばたき)の回数が減り、涙液が蒸発しやすい。 ・眼位・眼球運動に異常なし:斜視や眼球運動障害による両眼視の負担(筋性眼精疲労)は考えにくい。 ・視力:右1.2(矯正不能=レンズを入れても改善しない、すなわちほぼ正視)、左1.0で+0.5 D(凸レンズ)を装用すると1.2に上がる。左眼は軽度の遠視である。遠視眼は遠くを見るときにも調節を要し、近くを見るときにはさらに多くの調節を必要とするため、調節力が落ちてくる年代では近業がとりわけつらくなる。 ・眼圧は左右とも16 mmHg(正常範囲はおおむね10〜21 mmHg):急性緑内障発作など眼圧上昇による眼痛・頭痛は否定的である。 ・両眼底に異常なし:うっ血乳頭がなく、頭蓋内圧亢進を伴う占拠性病変の可能性は低い。視神経や網膜の疾患も考えにくい。
診断の方向性
以上から、器質的な眼疾患や頭蓋内疾患を示す所見はなく、(1) 老視の始まりと軽度遠視による調節性眼精疲労、(2) 近業に伴う瞬目減少と加齢性の涙液減少によるドライアイ(乾燥性角結膜炎)、の2つが主な候補となる。
設問への考え方
「次に行う検査」を2つ選ぶ問題である。上記2つの病態をそれぞれ確かめる検査を選べばよい。調節力の評価には近点距離(はっきり見える最も近い距離)の測定、ドライアイの評価には涙液分泌量の測定が適する。頭部画像検査は、眼科的検査で原因が説明できない場合や神経学的異常を伴う場合に考慮する位置づけである。
選択肢考察
- ×a. 仮性同色表検査
石原式などの仮性同色表は、色の見分けにくさ(色覚異常)をスクリーニングする検査である。先天色覚異常は眼痛や頭重感の原因とはならず、本例では視力・眼底にも異常がなく後天色覚異常を疑う根拠もない。午後に増悪する眼痛・頭重感の評価には役立たない。
- ○b. 近点距離測定
近点とは、最大に調節したときにはっきり見える最も近い点であり、その距離(または逆数をとった調節力 D)から調節力を評価できる。40歳代半ばでは調節力が低下し始め、近点が遠ざかる(老視)。本例はこの年代に加えて左眼に軽度遠視があり、近業時に大きな調節負荷がかかっている。近点距離を測定して調節力の低下を確認すれば、調節性眼精疲労と判断でき、近用眼鏡などによる対処につながる。
- ○c. 涙液分泌検査
Schirmer(シルマー)試験などの涙液分泌検査で涙液量を評価する。中年女性であること、書類を注視して瞬目が減る仕事であることから、ドライアイ(乾燥性角結膜炎)が眼痛や眼の疲れの原因となっている可能性が高い。ドライアイは眼精疲労の代表的な原因であり、涙液量の低下を確認することは診断に直結する。Schirmer試験第I法では、ろ紙の湿った長さが5分間で5 mm以下を異常とするのが一般的である。
- ×d. 角膜知覚検査
角膜知覚検査は、角膜の感覚(三叉神経第1枝の支配)が低下しているかをみる検査で、ヘルペス性角膜炎、神経麻痺性角膜症、糖尿病、三叉神経障害などを疑うときに行う。本例にはこれらを疑わせる所見はなく、まず行う検査ではない。
- ×e. 頭部単純CT
頭重感から頭蓋内疾患を心配することはありうるが、本例では眼位・眼球運動が正常で、眼底にうっ血乳頭もなく、神経症状の記載もない。午後に増悪するという経過は疲労性の病態に典型的であり、緊急性は低い。まず眼科的に説明できる原因(調節力低下、ドライアイ)を検査すべきで、頭部CTは眼科的検索で原因が見つからない場合や神経学的異常が出た場合に考慮する。
眼精疲労の原因分類
眼精疲労は、目を使う作業で眼痛、眼の重さ、かすみ、頭痛・頭重感、肩こりなどが生じ、休息しても十分に回復しない状態をいう。原因は大きく次のように分けられる。 ・調節性:老視、遠視、乱視、不適切な眼鏡など。調節の負担が増す。 ・筋性:斜位、輻湊不全など眼位・両眼視の問題。 ・症候性:ドライアイ、緑内障、結膜炎など眼疾患に伴うもの。 ・神経性・心因性:ストレス、自律神経の不調など。 ・環境要因:VDT(visual display terminal、パソコン等の画面)作業、照明、空調による乾燥など。
老視と調節力
水晶体は加齢とともに硬くなり、毛様体筋が収縮しても厚みを増しにくくなる。その結果、調節力(近くにピントを合わせる力)が低下する。調節力は10歳代で約10 D以上あるが、40歳代で数D程度まで低下し、近点が30 cm以上に遠ざかると読書などに支障が出てくる。遠視眼では同じ距離を見るのに正視より多くの調節を要するため、老視症状が早く出やすい。治療は近用眼鏡(凸レンズ)や遠近両用レンズである。
ドライアイの評価
・Schirmer試験:下眼瞼にろ紙を挟み、5分間で湿った長さを測る。5 mm以下を異常とする。 ・涙液層破壊時間(BUT):フルオレセインで染色した涙液膜が瞬目後に破れるまでの時間。5秒以下を異常とし、現在の日本のドライアイ診断基準ではBUTの短縮と自覚症状の両方があることが診断の中心である。 ・フルオレセイン染色、ローズベンガル染色やリサミングリーン染色による角結膜上皮障害の評価。 VDT作業中は瞬目回数が大きく減少し、ドライアイの誘因となる。治療は人工涙液、ヒアルロン酸点眼、ジクアホソルやレバミピド点眼、涙点プラグ、作業環境の調整などである。
POINT
・中年の近業者で、午後に増悪する眼痛・頭重感があり、眼圧・眼底・眼位が正常なら、眼精疲労を考える。 ・原因として老視(+遠視)による調節負荷と、ドライアイを想定する。 ・調節力の評価は近点距離測定、ドライアイの評価は涙液分泌検査(Schirmer試験)やBUT。 ・眼底にうっ血乳頭がなく神経症状もなければ、頭部画像検査は最初の検査ではない。
