アトピーの顔に一斉に広がる水疱―発熱が告げるヘルペスの急襲
第102回医師国家試験 A問題 第32問
国試問題にチャレンジ
14歳の男子。発熱と顔面の皮疹とを主訴に来院した。乳児期から顔面と四肢屈曲部とに痒みのある皮疹を繰り返し,小学校に入学するころから体幹に乾燥肌を伴うようになった。来院の3日前から38℃台の発熱があり,顔面全体に多数の小水疱とびらんとを認める。 考えられるのはどれか。
- a.種痘様水疱症
- b.多形滲出性紅斑
- c.自家感作性皮膚炎
- d.Kaposi水痘様発疹症
- e.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児期から顔面や四肢屈曲部に痒みのある湿疹を繰り返し、乾燥肌を伴う経過はアトピー性皮膚炎の典型です。バリア機能が低下した皮膚に単純ヘルペスウイルスが感染すると、発熱などの全身症状とともに臍窩を伴う小水疱が湿疹部位に急速に多発するKaposi水痘様発疹症を生じ、Tzanck試験や抗原検査・PCRで確認し、抗ヘルペスウイルス薬(重症例はアシクロビル点滴)で治療します。伝染性膿痂疹は全身症状に乏しく、種痘様水疱症は日光曝露と関連し、多形滲出性紅斑は標的状紅斑、SSSSは乳幼児の表皮剝離とNikolsky現象が特徴である点で鑑別できます。アトピー性皮膚炎の増悪と決めつけてステロイドを増量すると感染を悪化させるおそれがあるため、発熱と小水疱の集簇という変化に気づくことが診療上とても重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・背景: 乳児期から顔面と四肢屈曲部(肘の内側、膝の裏など)に痒みのある皮疹を繰り返している。さらに学童期から体幹の乾燥肌(ドライスキン)を伴っている。 ・今回: 3日前からの38℃台の発熱と、顔面全体に広がる多数の小水疱とびらん。
診断へのプロセス
まず基礎疾患を考える。痒みのある湿疹が慢性に良くなったり悪くなったりを繰り返し、乳児期は顔面、幼児期以降は四肢屈曲部に好発し、皮膚の乾燥を伴うという経過は、年齢によって皮疹の分布が変わるアトピー性皮膚炎の典型像である。 アトピー性皮膚炎の皮膚はバリア機能が低下し、皮膚の局所免疫も弱まっているため、ウイルスや細菌の感染が広がりやすい。代表的な合併症が、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染が湿疹病変上に急速に広がるKaposi水痘様発疹症と、黄色ブドウ球菌などによる伝染性膿痂疹(とびひ)である。 本例では、発熱という全身症状を伴って、顔面という湿疹の好発部位に小水疱とびらんが一斉に多発している。小水疱が密集して多発し、発熱を伴う点は単純ヘルペスウイルス感染の特徴に合致し、Kaposi水痘様発疹症と診断できる。伝染性膿痂疹では弛緩性の水疱や痂皮が主体で、発熱などの全身症状は通常目立たない点が異なる。 確認には、水疱内容の塗抹で多核巨細胞を確認するTzanck試験や、HSV抗原検査(イムノクロマト法・蛍光抗体法)、PCR法を用いる。
選択肢考察
- ×a. 種痘様水疱症
種痘様水疱症は、主に小児期に発症し、顔面や手背などの日光が当たる部位に、日光曝露をきっかけとして紅斑・水疱が生じ、痘瘡(天然痘)に似たくぼんだ瘢痕を残して治る光線過敏症である。Epstein-Barr(EB)ウイルスの潜伏感染が関与する。夏に悪化するのが特徴で、典型例では発熱などの全身症状を伴わない(発熱や肝障害を伴う重症型は、EBウイルス関連のリンパ増殖性疾患として扱われる)。本例は小児で顔面の水疱という点は似るが、日光との関連の記載がなく、アトピー性皮膚炎を基礎に発熱とともに急激に発症した経過は合わない。
- ×b. 多形滲出性紅斑
多形滲出性紅斑は、単純ヘルペスウイルスやマイコプラズマなどの感染症、薬剤に対するアレルギー反応として生じる。四肢伸側(手背、肘、膝など)を中心に、中心部が暗赤色で周囲に環状の紅斑を伴う標的状(虹彩状)の浮腫性紅斑が左右対称に多発するのが特徴である。発熱を伴うことはあり、重症型では水疱や口唇・口腔などの粘膜症状もみられる(Stevens-Johnson症候群との鑑別が問題になる)。本例は紅斑ではなく顔面の小水疱とびらんが主体で、アトピー性皮膚炎の病変部に一致した分布であり、合わない。
- ×c. 自家感作性皮膚炎
自家感作性皮膚炎は、うっ滞性皮膚炎や接触皮膚炎などのもとになる湿疹病変(原発巣)が急に悪化した後、1〜2週間ほどして、原発巣から離れた体幹や四肢に、痒みの強い小丘疹や小水疱(散布疹)が左右対称に多発するものである。原発巣で生じた抗原に対する感作が関与すると考えられている。通常は発熱を伴わず、顔面に限局して水疱とびらんが集簇する経過も合わない。
- ○d. Kaposi水痘様発疹症
Kaposi水痘様発疹症は、アトピー性皮膚炎などのバリア機能が障害された皮膚に単純ヘルペスウイルス(主に1型)が感染し、病変部を中心に小水疱が急速に多発・拡大するものである。水疱は中心がくぼんだ(臍窩を伴う)ものが多く、すぐにびらんや痂皮となる。初感染では特に、発熱、倦怠感、所属リンパ節の腫脹など全身症状が強い。顔面や頸部など湿疹の強い部位に好発する。本例は、乳児期からのアトピー性皮膚炎を基礎に、38℃台の発熱とともに顔面全体に小水疱とびらんが多発しており、典型的である。治療はアシクロビルやバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬で、発熱などを伴う重症例では入院のうえアシクロビルを点滴静注する。細菌の二次感染にも注意し、眼の周囲に病変がある場合はヘルペス性角膜炎の有無を眼科で確認する。
- ×e. ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS: staphylococcal scalded skin syndrome)は、黄色ブドウ球菌が産生する表皮剝脱毒素が血流にのって全身の皮膚に達し、表皮の細胞同士の接着分子(デスモグレイン1)を切断することで起こる。主に乳幼児(おおむね6歳未満)にみられ、発熱とともに口や眼の周囲の発赤・痂皮、放射状の亀裂から始まり、頸部・腋窩・鼠径部などの間擦部から全身に、触れると痛い紅斑が広がる。その後、熱傷のように表皮が薄く剝がれ、Nikolsky現象(一見正常な皮膚をこすると表皮が剝がれる)が陽性となる。粘膜は侵されない。本例は14歳と年齢が合わず、びまん性の紅斑や表皮剝離ではなく小水疱が主体である点も異なる。
アトピー性皮膚炎の概要
増悪と寛解を繰り返す痒みのある湿疹を主病変とし、多くはアトピー素因(本人や家族の気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の既往、IgE抗体を産生しやすい体質)を持つ。皮膚のバリア機能障害(フィラグリン遺伝子変異などによる角層の異常)が発症に深く関わる。 皮疹の分布は年齢で変化する。乳児期は顔面・頭部から始まり体幹・四肢に広がる。幼小児期は頸部や肘窩・膝窩などの四肢屈曲部に多く、皮膚全体が乾燥する。思春期・成人期には上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強くなる傾向がある。
アトピー性皮膚炎に合併しやすい皮膚感染症
・Kaposi水痘様発疹症: 単純ヘルペスウイルス。発熱を伴い、小水疱が顔面などに集簇・多発する。抗ヘルペスウイルス薬で治療する。初感染だけでなく、潜伏していたウイルスの再活性化でも起こりうる。 ・伝染性膿痂疹(とびひ): 黄色ブドウ球菌(水疱性膿痂疹)や化膿レンサ球菌(痂皮性膿痂疹)。夏季の小児に多い。抗菌薬で治療する。 ・伝染性軟属腫(みずいぼ): 伝染性軟属腫ウイルス。中心にくぼみのある光沢のある小丘疹。
Kaposi水痘様発疹症の診断と治療のポイント
・診断: Tzanck試験(水疱底の細胞を塗抹・染色し、ウイルス性巨細胞=多核巨細胞を確認)、HSV抗原検査、PCR法。 ・治療: アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬。重症例ではアシクロビル点滴静注。 ・注意点: ステロイド外用薬は感染部位では原則として中止・控える。眼周囲の病変ではヘルペス性角結膜炎の合併に注意する。細菌の二次感染を伴うこともある。
POINT
・乳児期から顔面・四肢屈曲部に痒みのある湿疹を繰り返し、乾燥肌を伴う → アトピー性皮膚炎。 ・アトピー性皮膚炎患者に、発熱とともに顔面などの小水疱・びらんが急速に多発 → Kaposi水痘様発疹症(単純ヘルペスウイルス感染)。 ・診断はTzanck試験(多核巨細胞)、抗原検査、PCRで行い、治療は抗ヘルペスウイルス薬(重症例はアシクロビル点滴)。 ・アトピー性皮膚炎の重要な合併症として、伝染性膿痂疹(細菌)との鑑別を押さえる。 ・SSSSは乳幼児に多く、表皮剝離とNikolsky現象が特徴で、粘膜は侵されない。
