片耳だけの静かな後遺症―治らないムンプス難聴とワクチンの意味
第102回医師国家試験 A問題 第16問
国試問題にチャレンジ
ムンプスについて正しいのはどれか。
- a.潜伏期は約30日である。
- b.ワクチン接種は義務である。
- c.ムンプス難聴は一側性である。
- d.ムンプス難聴の予後は良好である。
- e.ムンプス難聴はワクチンで予防できない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
ムンプスはムンプスウイルスによる全身性感染症で、潜伏期はおよそ2〜3週間(多くは16〜18日前後)であり、無菌性髄膜炎、精巣炎、膵炎、ムンプス難聴などの合併症が重要です。ムンプス難聴は内耳の感覚細胞が障害される感音難聴で、大部分が一側性・高度であり、治療に反応しにくく一側聾として残ることが多いため予後は不良です。片側性のため小児では気づかれにくく、不顕性感染でも起こりうるので、原因不明の一側性高度感音難聴の鑑別に挙げる必要があります。ワクチンでムンプスもムンプス難聴も予防できますが、日本ではMMRワクチンの中止以降、任意接種のままで、2回接種が推奨されています。治せない合併症だからこそ予防が重要だという視点は、ワクチンで防げる疾患全般を理解するうえで欠かせません。
解答・解説
正解はcです
ムンプス(流行性耳下腺炎、いわゆる「おたふくかぜ」)は、パラミクソウイルス科のムンプスウイルスによる全身性感染症である。飛沫や接触で感染し、潜伏期はおよそ2〜3週間(通常16〜18日前後)である。発熱とともに耳下腺(ときに顎下腺)が両側または片側に腫れて痛む。感染しても症状の出ない不顕性感染が約30%あるとされる。 ムンプスはウイルス血症を介して全身の臓器を侵すため、合併症が多いことが重要である。代表的なものは無菌性髄膜炎、精巣炎・卵巣炎、膵炎、そしてムンプス難聴である。ムンプス難聴は内耳(蝸牛)がウイルスによって直接障害される感音難聴で、大部分が一側性、しかも高度難聴〜聾となることが多く、治療(ステロイドなど)に反応しにくく聴力の回復はほとんど期待できない。片側性のため、幼小児では本人が訴えず発見が遅れることもある。 予防にはワクチンが有効であるが、日本では現在も定期接種には含まれず任意接種である。そのため周期的な流行が続き、ムンプス難聴の発生が問題となっている。本問はこれらの基本事項を一つずつ照合すれば解ける。
選択肢考察
- ×a. 潜伏期は約30日である。
ムンプスの潜伏期は約2〜3週間(14〜24日程度、多くは16〜18日)であり、約30日ではない。なお、ウイルスの排出は耳下腺腫脹の数日前から始まり、腫脹出現後5日程度まで続く。学校保健安全法では、耳下腺・顎下腺・舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止とされている。
- ×b. ワクチン接種は義務である。
ムンプスワクチン(弱毒生ワクチン)は日本では任意接種であり、予防接種法に基づく定期接種ではない。かつて麻疹・ムンプス・風疹の混合ワクチン(MMRワクチン)が定期接種として用いられたが、ワクチン株による無菌性髄膜炎の多発が問題となり1993年に中止され、以後ムンプスワクチンは単独の任意接種として残っている。なお、定期接種であっても現在の日本の予防接種は法的な強制(義務)ではなく「接種するよう努める」努力義務にとどまる。
- ○c. ムンプス難聴は一側性である。
ムンプス難聴はウイルスが内耳(蝸牛)に達して感覚細胞を障害する感音難聴であり、大部分は一側性に生じる(両側性は少数である)。耳下腺腫脹の前後に突然発症し、高度難聴〜聾となることが多い。反対側の聴力が保たれているため小児では気づかれにくく、就学時健診などで偶然発見されることもある。耳下腺腫脹のない不顕性感染でも起こりうるため、原因不明の一側性高度感音難聴の鑑別にも挙がる。
- ×d. ムンプス難聴の予後は良好である。
ムンプス難聴は内耳の感覚細胞が不可逆的に障害されるため、ステロイド治療などを行っても聴力はほとんど回復せず、予後は不良である。多くは一側聾として残る。同じ急性感音難聴でも、突発性難聴では約1/3が治癒するのと対照的である。予後不良であるからこそ、ワクチンによる発症予防が重要となる。
- ×e. ムンプス難聴はワクチンで予防できない。
ムンプスワクチンの接種によりムンプスそのものの発症が予防でき、それに伴ってムンプス難聴も予防できる。ムンプス難聴は発症後に治療で回復させることが困難なため、ワクチンは難聴を防ぐほぼ唯一の手段である。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会や日本小児科学会は、1歳以降と就学前の2回接種を推奨している。
ムンプスの主な合併症
・無菌性髄膜炎:頻度が高く(症候性は1〜10%程度)、多くは予後良好である。 ・精巣炎:思春期以降の男性で起こりやすく、多くは一側性。両側性でも完全な不妊となることはまれとされる。 ・卵巣炎、膵炎(腹痛、血清アミラーゼ上昇) ・脳炎(まれだが重篤) ・ムンプス難聴:一側性・高度・回復困難が特徴。 なお、耳下腺炎そのものでも血清アミラーゼ(唾液腺型)は上昇するため、膵炎の判断には膵型アミラーゼやリパーゼを参考にする。
ムンプスワクチン
弱毒生ワクチンで、日本では任意接種である。1回接種では予防効果が不十分なことがあり、2回接種が推奨されている。生ワクチンのため妊婦には接種しない。MMRワクチンの中止(1993年)以降、日本ではワクチン接種率が低く、数年ごとに流行を繰り返している。世界の多くの国ではMMRワクチンとして2回の定期接種が行われている。
診断
臨床症状に加え、血清ムンプスIgM抗体の検出やペア血清でのIgG抗体価上昇、唾液などからのウイルス遺伝子検出(RT-PCR)で確定する。
治療
特異的な抗ウイルス薬はなく、解熱鎮痛薬などの対症療法が中心である。
POINT
・ムンプスの潜伏期は約2〜3週間(16〜18日前後)。 ・ムンプス難聴は一側性・高度の感音難聴で、聴力予後は不良(一側聾になりやすい)。 ・ワクチンでムンプスもムンプス難聴も予防できるが、日本では任意接種である(MMRワクチンは無菌性髄膜炎の問題で1993年に中止)。 ・合併症として無菌性髄膜炎、精巣炎、膵炎、難聴を押さえる。
