声がかれるだけか、息が止まるか―喉頭疾患を「気道の狭さ」で見分ける
第102回医師国家試験 A問題 第17問
国試問題にチャレンジ
呼吸困難をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.声帯結節
- b.慢性喉頭炎
- c.急性喉頭蓋炎
- d.咽喉頭異常感症
- e.両側反回神経麻痺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
喉頭は上気道で最も内腔が狭い部位であり、喉頭疾患が呼吸困難を起こすかどうかは、声門周囲の内腔をどれだけ狭めるかで決まります。急性喉頭蓋炎は喉頭蓋の急速な浮腫で上気道を塞ぎ、強い咽頭痛・流涎・含み声・吸気性喘鳴を呈して短時間で窒息し得るため、気道確保が最優先です。両側反回神経麻痺では声帯が正中近くで固定されて吸気時に声門が開かず、声は比較的保たれるのに呼吸困難を生じ、気管切開が必要になることが多い一方、片側麻痺は気息性嗄声が主体です。声帯結節や慢性喉頭炎は嗄声の原因、咽喉頭異常感症は器質的病変のない違和感であり、いずれも呼吸困難はきたしません。「声の病気」と「気道の病気」を病態から区別する視点は、救急外来で見逃してはならない上気道閉塞を拾い上げる力につながります。
解答・解説
正解はc, eです
本問は喉頭(のど仏の奥にある、声を出し気道の入口を守る器官)の疾患のうち、呼吸困難の原因となるものを選ぶ問題である。
考え方
喉頭は上気道のなかで最も内腔が狭い部位であり、特に声帯の間の隙間(声門)は成人でも断面積が小さい。このため、喉頭の病変が呼吸困難を起こすかどうかは「気道の内腔をどれだけ狭くするか」で決まる。 ・気道を狭める仕組みが二つある:①組織の腫れ(浮腫・炎症・腫瘍)で内腔が物理的に塞がる、②声帯を開く運動が障害され、吸気時に声門が開かない。 ・一方、声帯の表面にできる小さな病変や粘膜の慢性的な発赤、器質的異常のない違和感は、声の変化(嗄声)やのどの不快感の原因にはなっても、気道を塞ぐほどにはならない。 急性喉頭蓋炎は①の代表で、喉頭蓋が急速に腫れて短時間で窒息に至り得る。両側反回神経麻痺は②の代表で、両側の声帯が正中近くで動かなくなり、声門が開かないため吸気性の呼吸困難(吸気性喘鳴)を生じる。
選択肢考察
- ×a. 声帯結節
声帯結節は、声の酷使(歌手、教師、よく叫ぶ小児など)によって声帯膜様部の前1/3付近に両側対称性に生じる小さな隆起である。大きさは数mm程度にとどまり、声門の閉鎖不全による嗄声(声がれ)を起こすが、気道を狭めて呼吸困難をきたすことはない。治療は発声を控える音声安静や音声治療が中心で、改善しなければ手術で切除する。
- ×b. 慢性喉頭炎
慢性喉頭炎は喫煙、飲酒、声の酷使、胃食道逆流などを背景に喉頭粘膜の炎症が長く続く状態で、粘膜の発赤や肥厚がみられる。主な症状は嗄声、咳払い、のどの乾燥感などであり、急性の強い浮腫を伴わないので気道狭窄による呼吸困難は通常起こらない。原因の除去(禁煙など)が治療の基本となる。
- ○c. 急性喉頭蓋炎
急性喉頭蓋炎は、喉頭の入口にある蓋(喉頭蓋)とその周囲に細菌感染が起こり、急速に高度な浮腫をきたす疾患である。腫れた喉頭蓋が声門の上を覆うため上気道が閉塞し、数時間の経過で窒息に至ることがある。したがって呼吸困難をきたす代表的疾患であり正しい。強い咽頭痛・嚥下痛、嚥下困難による流涎、こもった声(含み声)、吸気性喘鳴などが特徴で、咽頭痛が強いのに口腔内の診察では所見が乏しいことが手がかりとなる。起炎菌としてはインフルエンザ菌b型(Hib)が代表的である。
- ×d. 咽喉頭異常感症
咽喉頭異常感症は、のどに何かが引っかかる・詰まる感じ(いわゆるヒステリー球と呼ばれた症状を含む)を訴えるが、診察や検査で原因となる器質的病変を認めない状態である。気道に狭窄はないため呼吸困難はきたさない。背景に心理的要因、胃食道逆流、甲状腺疾患などが関与することがあり、また悪性腫瘍を見逃さないよう除外診断を行うことが重要である。
- ○e. 両側反回神経麻痺
反回神経は迷走神経の枝で、声帯を開く唯一の筋である後輪状披裂筋を含め、ほとんどの内喉頭筋を支配している。両側が麻痺すると両側の声帯が正中位ないし傍正中位で固定し、吸気時に声門を開けなくなるため、吸気性喘鳴と呼吸困難を生じる。したがって正しい。声帯が正中近くに寄っているため声は比較的保たれることが多く、「声は出るのに息が苦しい」のが特徴である。原因として甲状腺手術、甲状腺癌、食道癌などがあり、気道確保のために気管切開が必要になることが多い。なお片側麻痺では健側の声帯が動くので呼吸困難は通常起こらず、声門閉鎖不全による気息性嗄声が主症状となる。
急性喉頭蓋炎
・病態:喉頭蓋および声門上部の急性細菌感染。かつてはHibによる小児例が典型とされたが、Hibワクチンの普及により小児例は減少し、現在では成人例が多い。 ・症状:高熱、強い咽頭痛・嚥下痛、流涎、含み声、吸気性喘鳴。患者は前かがみで顎を突き出した姿勢(sniffing position/三脚姿勢)をとることがある。 ・検査:頸部側面単純X線で腫大した喉頭蓋が親指状に写る(thumb sign)。確定には喉頭内視鏡(ファイバースコープ)で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認する。小児では舌圧子による無理な診察や啼泣が完全閉塞を誘発し得るため、気道確保の準備を整えて慎重に行う。 ・治療:気道確保を最優先(状況により気管挿管・気管切開)し、抗菌薬(第3世代セフェム系など)とステロイドを投与する。
反回神経麻痺
・反回神経は左が大動脈弓、右が鎖骨下動脈の下を回って上行するため、左の方が走行が長く障害されやすい(大動脈瘤、肺癌の縦隔リンパ節転移、食道癌など)。 ・片側麻痺:気息性嗄声(息漏れの多いかすれ声)、誤嚥。呼吸困難はまれ。 ・両側麻痺:声帯が正中近くで固定し、呼吸困難・吸気性喘鳴。声は比較的保たれる。気管切開などの気道確保が必要となる。
嗄声の分類(GRBAS尺度の要素)
・粗糙性(R):ガラガラ声。声帯ポリープ、ポリープ様声帯、喉頭癌など。 ・気息性(B):息漏れ声。反回神経麻痺など声門閉鎖不全。 ・無力性(A):弱々しい声。 ・努力性(S):力んだ声。痙攣性発声障害など。
呼吸困難をきたす喉頭疾患の例
急性喉頭蓋炎、急性声門下喉頭炎(クループ)、喉頭浮腫(血管性浮腫、アナフィラキシー)、両側反回神経麻痺、進行喉頭癌、喉頭異物、喉頭軟弱症(乳児)など。
POINT
・喉頭疾患で呼吸困難が起こるのは、声門周囲の内腔が高度に狭くなるとき(急激な浮腫、両側声帯の開大障害、大きな腫瘍・異物)である。 ・急性喉頭蓋炎:短時間で窒息し得る救急疾患。強い咽頭痛・流涎・含み声・吸気性喘鳴、頸部X線でthumb sign。気道確保が最優先。 ・両側反回神経麻痺:声帯が正中位付近で固定し呼吸困難。声は比較的保たれる。片側麻痺は気息性嗄声が主で呼吸困難はまれ。 ・声帯結節、慢性喉頭炎は嗄声の原因、咽喉頭異常感症は器質的病変のない違和感で、いずれも呼吸困難はきたさない。
