腰仙部の嚢状病変が教える将来像―脊髄髄膜瘤で「排尿」がいちばん大切な理由
第101回医師国家試験 H問題 第47問
国試問題にチャレンジ
出生直後の新生児。妊娠35週,帝王切開で出生した。胎児エコーで軽度の脳室拡大と腰仙部の腫瘤とを認めていた。患部の写真を別に示す。 この児で将来最も必要となるのはどれか。

- a.言語訓練
- b.嚥下訓練
- c.排尿訓練
- d.作業療法
- e.生活技能訓練
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰仙部正中の開放性嚢状病変に脳室拡大を伴う新生児は脊髄髄膜瘤と考えられ、キアリII型奇形とそれによる水頭症を高率に合併します。脊髄病変では病変より下位の髄節の機能が失われ、排尿中枢である仙髄(S2〜S4)が障害される腰仙部病変では神経因性膀胱がほぼ必発です。神経因性膀胱を放置すると尿路感染や膀胱尿管逆流から腎機能障害に進み生命予後に関わるため、清潔間欠導尿を中心とした排尿管理・排尿訓練が最も重要になります。一方、言語・嚥下・上肢機能は病変そのものでは基本的に障害されず、下肢麻痺には理学療法や装具が中心となります。病変の高さから障害される機能を推定する考え方に加え、出生後早期の閉鎖術、シャント術、妊娠前からの葉酸摂取による予防まで一連で理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・出生前の胎児超音波検査で、腰仙部の腫瘤と軽度の脳室拡大が指摘されていた。 ・妊娠35週に帝王切開で出生している。 ・患部の写真では、腰仙部の正中に皮膚で覆われていない嚢状の病変があり、神経組織(神経板)と髄膜が露出・膨隆している。
診断
腰仙部正中の開放性の嚢状病変と脳室拡大(水頭症の始まり)の組み合わせから、脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎)と診断できる。脊髄髄膜瘤は神経管の尾側部分が閉じないまま生まれる先天奇形であり、ほとんどの例でキアリ(Chiari)II型奇形を伴い、それによる髄液の流れの障害から水頭症を合併しやすい。露出した神経組織を分娩時の圧迫や感染から守る目的で、胎児診断がついている場合は帝王切開が選ばれることが多い。
設問の考え方
脊髄は障害部位より下位の髄節が支配する機能を失う。腰仙部の病変では、下肢の運動・感覚と、仙髄(S2〜S4)が中枢となる排尿・排便の機能が障害される。一方、上肢の運動や言語・知的機能の中枢はこれより上位にあり、病変そのものによっては直接障害されない。したがって、将来ほぼ全例で問題となり、生命予後にも直結するのは神経因性膀胱(膀胱直腸障害)への対応であり、排尿の管理と訓練が最も必要になる。
選択肢考察
- ×a. 言語訓練
言語の中枢は大脳にあり、腰仙部の脊髄病変で直接障害されることはない。水頭症を合併しても、適切にシャント手術などで管理されれば言語発達は多くの場合保たれる。したがって最も必要な訓練とはいえない。
- ×b. 嚥下訓練
嚥下を担うのは脳幹(延髄)と下位脳神経であり、腰仙部の病変そのものでは障害されない。キアリII型奇形が高度な一部の乳児では脳幹の圧迫による嚥下障害や喘鳴が問題となることもあるが、全例に生じるわけではなく、本問で最も必要なものとはいえない。
- ○c. 排尿訓練
排尿反射の中枢は仙髄(S2〜S4)にあるため、腰仙部の脊髄髄膜瘤ではほぼ必発で神経因性膀胱をきたす。膀胱がうまく空にならない、あるいは膀胱内圧が高いまま放置されると、尿路感染症や膀胱尿管逆流を繰り返して腎機能が悪化し、生命予後を左右する。このため清潔間欠導尿(CIC:患者自身や家族が一定時間ごとにカテーテルで導尿する方法)の習得を中心とした排尿管理・排尿訓練が長期にわたって必要となる。排便障害への対応(排便コントロール)も同様に重要である。
- ×d. 作業療法
作業療法は主に上肢を使った日常生活動作の訓練を行うものである。腰仙部病変では上肢の運動機能は保たれるため、作業療法の必要性は排尿管理に比べて低い。下肢の麻痺に対しては装具や歩行訓練などの理学療法が中心となる。
- ×e. 生活技能訓練
生活技能訓練(SST:social skills training)は、統合失調症などの精神疾患患者が対人関係や社会生活に必要な技能を身につけるための訓練である。下肢の障害で移動能力が落ちる可能性はあっても、社会的な生活技能そのものが障害されるわけではないため、本児で最も必要とはいえない。
二分脊椎の分類
・潜在性二分脊椎:皮膚に覆われ、椎弓の癒合不全のみのもの。腰仙部の皮膚陥凹、発毛、血管腫、脂肪腫などが手がかりとなる。脊髄脂肪腫や脊髄係留症候群を伴うことがある。 ・嚢胞性(顕在性)二分脊椎:髄膜瘤(髄膜と髄液のみが脱出)と脊髄髄膜瘤(脊髄・神経根も脱出)がある。脊髄髄膜瘤は神経組織が露出した開放性病変であることが多く、神経症状が重い。
脊髄髄膜瘤の合併症と管理
・キアリII型奇形:小脳虫部・脳幹が大後頭孔から脊柱管内へ下垂する奇形で、脊髄髄膜瘤のほとんどに合併する。 ・水頭症:大多数に合併し、脳室腹腔(V-P)シャント術などが必要になることが多い。 ・下肢の運動・感覚障害:病変レベルに応じて弛緩性麻痺、足の変形(内反足など)、股関節脱臼などをきたす。感覚障害部位の褥瘡にも注意する。 ・膀胱直腸障害:神経因性膀胱と排便障害。清潔間欠導尿、抗コリン薬などで膀胱内圧を下げ、腎機能を守る。 ・その他:脊髄係留症候群(成長に伴い症状が悪化)、ラテックスアレルギーの頻度が高いことも知られる。
治療
出生後早期(通常48時間以内)に感染予防のため欠損部の閉鎖手術を行う。水頭症にはシャント術を行う。胎児期に閉鎖手術を行う胎児手術も一部で行われている。
予防
妊娠前からの葉酸摂取(一般には1日0.4mg)により神経管閉鎖障害の発生リスクが低下する。母体血清AFP(α-フェトプロテイン)高値や胎児超音波で出生前診断されることがある。
POINT
・腰仙部正中の開放性嚢状病変+脳室拡大 → 脊髄髄膜瘤(キアリII型奇形・水頭症を高率に合併)。 ・排尿中枢は仙髄(S2〜S4)→ 腰仙部病変では神経因性膀胱がほぼ必発。 ・神経因性膀胱の放置は尿路感染・腎機能障害を招き生命予後に直結するため、清潔間欠導尿を含む排尿管理が最重要。 ・上肢機能、言語、嚥下は病変そのものでは障害されない。 ・予防には妊娠前からの葉酸摂取。
