長引く咳の犯人捜し―胸部エックス線写真が正常なら「よくある原因」から考える
第101回医師国家試験 H問題 第25問
国試問題にチャレンジ
65歳の女性。2か月前から続く咳嗽を主訴に来院した。痰は伴わず,胸やけがあり,鼻汁と鼻閉とが時々ある。喫煙歴はない。身体所見に異常を認めない。3か月前の健康診査での胸部エックス線写真は正常である。 原因として頻度が低いのはどれか。2つ選べ。
- a.喘息
- b.肺癌
- c.肺結核
- d.副鼻腔炎
- e.胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
咳嗽は持続期間により急性(3週未満)、遷延性(3〜8週)、慢性(8週以上)に分類され、期間が長くなるほど感染症以外の原因が主体となります。胸部エックス線写真が正常な慢性咳嗽では、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏)、胃食道逆流症、感染後咳嗽が多く、胸やけは胃食道逆流症、鼻汁・鼻閉は副鼻腔炎、夜間〜早朝の乾性咳嗽は咳喘息を示唆します。肺癌や肺結核は必ず鑑別すべき疾患ですが、胸部エックス線写真が正常で喫煙歴や全身症状がなければ原因としての頻度は低く、改善しない場合にCTや喀痰検査で再評価します。ACE阻害薬による空咳や複数原因の重なりにも注意が必要です。頻度の高い原因から順に考えつつ重大な疾患を根拠をもって除外する姿勢は、日常診療でありふれた症状を扱う際の基本となります。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・65歳女性、2か月(約8週)続く咳嗽。 ・痰を伴わない乾性咳嗽。 ・胸やけあり(胃食道逆流を示唆)。 ・鼻汁・鼻閉が時々ある(上気道の病変、後鼻漏を示唆)。 ・喫煙歴なし。身体所見に異常なし。 ・3か月前の健診の胸部エックス線写真は正常。
咳嗽の期間による分類
咳嗽は持続期間で、3週間未満の急性咳嗽、3〜8週間の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分けられる。急性咳嗽の多くはかぜ症候群などの感染症によるが、期間が長くなるほど感染症の割合は減り、感染症以外の原因が主体となる。本症例は慢性咳嗽に相当する。
考え方
胸部エックス線写真に異常がなく、喫煙歴もない慢性咳嗽の原因として頻度が高いのは、咳喘息(咳だけを症状とする喘息の亜型)、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏を含む)、胃食道逆流症(GERD)、感染後咳嗽などである。本症例では胸やけがGERDを、鼻汁・鼻閉が副鼻腔炎(後鼻漏)を示唆しており、咳喘息も乾性咳嗽の慢性化として当てはまる。これらは単独ではなく複数が重なって原因となっていることも少なくない。 一方、肺癌や肺結核は、慢性咳嗽の原因として必ず除外すべき重要な疾患ではあるが、多くは胸部エックス線写真で異常陰影として捉えられる。発症と同時期の胸部エックス線写真が正常で、喫煙歴もなく、痰・血痰・発熱・体重減少などを伴わない本症例では、これらが原因である可能性は低い。設問は「頻度が低いもの」を問うているので、肺癌と肺結核を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 喘息
日本の慢性咳嗽の原因として最も多いものの一つが咳喘息である。咳喘息は喘鳴や呼吸困難を伴わず、乾性咳嗽のみが続く喘息の亜型で、夜間から早朝に悪化しやすく、呼吸機能はほぼ正常だが気道過敏性が亢進している。気管支拡張薬が有効であることが診断の手がかりとなり、治療の中心は吸入ステロイドである。無治療では一部が典型的な喘息に移行する。身体所見(喘鳴)がなく胸部エックス線写真が正常であることとも矛盾せず、本症例の咳嗽の原因として頻度は高い。
- ○b. 肺癌
肺癌は咳嗽を起こしうるが、慢性咳嗽全体に占める頻度は低い。本症例では咳が始まった時期とほぼ同じ3か月前の胸部エックス線写真が正常であり、喫煙歴もなく、血痰や体重減少などの記載もないため、肺癌の可能性は低いと判断できる。ただし、心陰影や横隔膜に重なる部位、中枢気道の病変などは胸部エックス線写真で見落とされることがあるため、症状が持続・悪化する場合や治療に反応しない場合には胸部CTなどでの再評価が必要である。
- ○c. 肺結核
肺結核は長引く咳嗽の鑑別として常に念頭に置くべき疾患だが、本症例では可能性が低い。肺結核による咳嗽は多くの場合、病変の進行に伴って胸部エックス線写真で上肺野を中心とする浸潤影や空洞影などとして描出され、痰(ときに血痰)、微熱、寝汗、体重減少などを伴うことが多い。本症例は乾性咳嗽で全身症状がなく、咳の出始めの時期の胸部エックス線写真も正常であるため、原因としての頻度は低い。ただし、高齢者では症状が乏しいこともあり、改善しない場合には喀痰検査や画像の再検を考慮する。
- ×d. 副鼻腔炎
慢性副鼻腔炎では、鼻汁が咽頭へ垂れ込む後鼻漏が咽頭・喉頭の咳受容体を刺激して慢性咳嗽を起こす(海外では上気道咳症候群、UACSとも呼ばれる)。副鼻腔炎に下気道の慢性炎症が合併する副鼻腔気管支症候群も、慢性咳嗽の代表的な原因である。本症例では鼻汁・鼻閉が時々あることから、副鼻腔炎による咳嗽は十分に考えられ、頻度の高い原因にあたる。なお、副鼻腔気管支症候群では湿性咳嗽(痰を伴う)となることが多い点も押さえておく。
- ×e. 胃食道逆流症〈逆流性食道炎〉
胃食道逆流症(GERD)は慢性咳嗽の主要な原因の一つである。逆流した胃酸が下部食道の迷走神経を介して反射的に咳を起こす機序と、咽頭・喉頭へ逆流した酸が直接気道を刺激する機序が考えられている。咳は乾性で、食後・会話時・臥位などで悪化しやすい。胸やけや呑酸などの逆流症状を伴うことが手がかりとなり、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬で咳が改善すれば診断を支持する。本症例では胸やけがあり、原因として頻度は高い。
慢性咳嗽の主な原因(胸部エックス線写真で異常がない場合)
・咳喘息:乾性咳嗽。夜間〜早朝に悪化。気管支拡張薬が有効。治療は吸入ステロイド。 ・アトピー咳嗽:乾性咳嗽。咽喉頭の掻痒感を伴う。気管支拡張薬は無効で、ヒスタミンH1受容体拮抗薬が有効。 ・副鼻腔気管支症候群(後鼻漏を含む):湿性咳嗽が多い。治療はマクロライド少量長期療法など。 ・胃食道逆流症:胸やけ・呑酸を伴う。治療はPPIなど。 ・感染後咳嗽:かぜ症候群などの後に遷延する咳。自然軽快が多い。 ・薬剤性:ACE阻害薬による空咳(ブラジキニンの分解抑制による)。
見逃してはならない疾患
肺癌、肺結核、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、気道異物など。これらの多くは胸部エックス線写真、喫煙歴、痰の性状や全身症状などで絞り込める。特に結核は感染対策の面からも、長引く咳では常に念頭に置く。
慢性咳嗽の診療の流れ
まず胸部エックス線写真で器質的疾患を除外し、喫煙歴や服用薬(ACE阻害薬)を確認する。そのうえで、咳の性状(乾性か湿性か)、悪化する時間帯・状況、随伴症状(鼻症状、胸やけ、咽喉頭の掻痒感など)から原因を推定し、疑った疾患に対する治療を行って効果をみる(治療的診断)。原因が複数重なることもあるため、1つの治療で効果不十分な場合は他の原因の合併も考える。
POINT
・咳嗽の分類:急性(3週未満)、遷延性(3〜8週)、慢性(8週以上)。 ・胸部エックス線写真正常の慢性咳嗽では、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏)、胃食道逆流症、感染後咳嗽が多い。 ・胸やけ → GERD、鼻汁・鼻閉 → 副鼻腔炎(後鼻漏)、夜間〜早朝の乾性咳嗽 → 咳喘息を想起。 ・肺癌・肺結核は重要な鑑別だが、胸部エックス線写真正常・非喫煙・乾性咳嗽で全身症状がなければ頻度は低い。 ・ACE阻害薬による空咳も忘れない。
