梅雨明けの咳は家に潜むカビから―過敏性肺炎を支える「Ⅲ型+Ⅳ型」の二本柱
第101回医師国家試験 H問題 第20問
国試問題にチャレンジ
34歳の女性。乾性咳嗽と呼吸困難とを主訴に来院した。2年前から梅雨明けのころに同様の症状が出現していたが,今回は息苦しさが強くなった。意識は清明。体温37.5℃。脈拍84/分,整。血圧110/72mmHg。赤沈42mm/1時間。血液生化学所見:総蛋白7.8g/dL,γ-グロブリン34.3%,IgG 2,480mg/dL(基準960~1,960)。ツベルクリン反応陰性。Trichosporon asahiiに対する沈降反応とリンパ球刺激試験とが陽性である。 Gell & Coombs分類でのアレルギー反応型はどれか。2つ選べ。
- a.Ⅰ型
- b.Ⅱ型
- c.Ⅲ型
- d.Ⅳ型
- e.Ⅴ型
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
梅雨明けから夏に繰り返す乾性咳嗽・呼吸困難・発熱に、Trichosporonに対する特異的抗体と感作リンパ球の証明が加われば、夏型過敏性肺炎を考えます。過敏性肺炎は、吸入抗原と特異的IgGが免疫複合体をつくるⅢ型アレルギーと、感作T細胞が肉芽腫形成を導くⅣ型アレルギーの両方が関与する疾患で、沈降反応陽性はⅢ型、リンパ球刺激試験陽性はⅣ型を反映します。即時型でIgEが主役のⅠ型、細胞そのものを抗体が攻撃するⅡ型、受容体刺激型のⅤ型とは機序が異なります。診断にはBAL液のリンパ球増多やCTの小葉中心性粒状影、環境誘発試験が役立ち、治療の基本は抗原回避です。検査所見をアレルギーの機序と対応づけて読む力は、免疫が関わる疾患全般の理解に直結します。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・34歳女性、主訴は乾性咳嗽(痰を伴わない咳)と呼吸困難。 ・2年前から毎年「梅雨明けのころ」に同様の症状を繰り返しており、季節性・反復性がある。今回は呼吸困難が強い。 ・微熱(37.5℃)、赤沈亢進(42mm/1時間)、γ-グロブリン分画の上昇(34.3%)、IgG高値(2,480mg/dL)がみられ、全身性の炎症と液性免疫(抗体産生)の亢進を示す。 ・ツベルクリン反応陰性。 ・真菌であるTrichosporon asahiiに対して、沈降反応(血清中の特異的沈降抗体=IgG抗体の存在を示す)とリンパ球刺激試験(抗原に反応して増殖する感作T細胞の存在を示す)がともに陽性。
診断へのプロセス
高温多湿の季節に発症・再燃する乾性咳嗽と呼吸困難、発熱を伴い、特定の真菌抗原に対する抗体と感作リンパ球の両方が証明されていることから、夏型過敏性肺炎と診断できる。Trichosporon属は日本の夏型過敏性肺炎の主要な原因抗原であり、高温多湿な環境で増殖し、古い木造家屋の腐朽した木材・畳・カーペットなどに多く生息する。梅雨明けに症状が出やすいのはこのためである。自宅を離れる(入院など)と症状が軽快し、帰宅すると再燃する「環境誘発試験」陽性も診断上重要な特徴である。 ツベルクリン反応陰性は、サルコイドーシスと同様に過敏性肺炎の急性期でもしばしばみられる所見であり、本症と矛盾しない。
設問の考え方
過敏性肺炎は、吸入した有機抗原に対して肺胞・細気管支レベルで起こる免疫反応による疾患である。病態には、 (1) 抗原と特異的IgG抗体が結合した免疫複合体が形成され、補体が活性化されて炎症を起こすⅢ型アレルギー(Arthus型) (2) 感作T細胞が抗原に反応してサイトカインを放出し、マクロファージの集簇や類上皮細胞肉芽腫を形成するⅣ型アレルギー(遅延型) の2つが関与する。本問の沈降反応陽性はⅢ型、リンパ球刺激試験陽性はⅣ型の関与をそれぞれ裏付けている。したがってⅢ型とⅣ型を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. Ⅰ型
Ⅰ型アレルギー(即時型)は、IgE抗体が肥満細胞・好塩基球に結合し、抗原曝露後数分でヒスタミンなどが放出される反応である。気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アナフィラキシーなどが代表である。過敏性肺炎は抗原吸入から4〜8時間ほど遅れて発熱・咳嗽・呼吸困難が出現し、喘鳴や好酸球増多、IgE上昇は通常目立たない。本症例でもIgEではなくIgGが上昇しており、Ⅰ型は主病態ではない。
- ×b. Ⅱ型
Ⅱ型アレルギー(細胞傷害型)は、細胞表面や組織の抗原にIgG・IgM抗体が直接結合し、補体活性化や抗体依存性細胞傷害によって標的細胞を破壊する反応である。自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、Goodpasture症候群(抗糸球体基底膜抗体病)などが代表である。過敏性肺炎は吸入した外来抗原と抗体が複合体を作る機序であり、自己の細胞を抗体が直接攻撃するⅡ型には当たらない。
- ○c. Ⅲ型
Ⅲ型アレルギー(免疫複合体型)は、可溶性抗原と特異的IgG抗体が免疫複合体を作って組織に沈着し、補体の活性化と好中球の浸潤によって組織障害を起こす反応である。過敏性肺炎では、吸入されたTrichosporon抗原と血中の特異的IgG抗体が肺胞壁で免疫複合体を形成し、抗原曝露の数時間後に発熱や咳嗽を伴う急性炎症(Arthus型反応)を引き起こす。本症例ではTrichosporon asahiiに対する沈降反応陽性(特異的沈降抗体の存在)、IgG高値、γ-グロブリン上昇、赤沈亢進がこの機序を裏付けている。
- ○d. Ⅳ型
Ⅳ型アレルギー(遅延型、細胞性免疫)は、抗体ではなく感作されたT細胞が抗原に反応し、サイトカインを放出してマクロファージを活性化させることで起こる反応で、ピークは曝露後24〜72時間程度である。過敏性肺炎ではこの機序により肺胞隔壁へのリンパ球浸潤や、境界の不明瞭な小型の類上皮細胞肉芽腫が形成される。気管支肺胞洗浄液(BAL液)でリンパ球が著増し、特にCD8陽性T細胞が優位でCD4/CD8比が低下することが多いのもこの機序を反映する。本症例ではTrichosporon asahiiに対するリンパ球刺激試験陽性が、抗原特異的な感作T細胞の存在、すなわちⅣ型反応の関与を示している。
- ×e. Ⅴ型
Gell & Coombs分類は本来Ⅰ〜Ⅳ型の4分類である。Ⅴ型は後に追加されることがある型で、受容体に対する自己抗体がその受容体を刺激して機能を亢進させる「刺激型」を指し、Basedow病(Graves病:TSH受容体刺激抗体による甲状腺機能亢進症)が代表例である(Ⅱ型の亜型として扱われることも多い)。過敏性肺炎とは関係しない。
過敏性肺炎の概要
有機粉塵や化学物質などの抗原を繰り返し吸入して感作された人に生じる、Ⅲ型・Ⅳ型アレルギーを主体とする間質性肺炎・細気管支炎である。急性(非線維性)と慢性(線維性)の経過をとりうる。
主な病型と原因抗原
・夏型過敏性肺炎:Trichosporon asahii、T. mucoidesなど。日本で最多。高温多湿の夏季に、古い木造住宅の居住者に多い。 ・農夫肺:好熱性放線菌(Saccharopolyspora rectivirgulaなど)。カビの生えた干し草。 ・鳥関連過敏性肺炎(鳥飼病):鳥の糞・羽毛の蛋白。羽毛布団でも起こり、慢性化しやすい。 ・換気装置肺炎(加湿器肺):加湿器・空調内で増殖した真菌・細菌。 ・イソシアネートによる過敏性肺炎:塗装・ウレタン製造など化学物質による。
臨床像と検査
・抗原曝露の4〜8時間後に発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が出現し、抗原回避で軽快する。 ・聴診で両側の捻髪音(fine crackles)。 ・胸部CTで両側びまん性の小葉中心性粒状影、すりガラス陰影。 ・呼吸機能検査で拘束性換気障害と拡散能(DLCO)低下。 ・BAL液でリンパ球著増(CD4/CD8比低下が多いが、慢性型や鳥関連では上昇することもある)。 ・血清KL-6、SP-Dの上昇。 ・特異的抗体(沈降抗体)陽性、抗原によるリンパ球刺激試験陽性。 ・経気管支肺生検で胞隔炎、小型の類上皮細胞肉芽腫、Masson体。 ・環境誘発試験(帰宅誘発試験)陽性。
治療
最も重要なのは抗原回避(夏型では転居、住居の清掃・改修など)である。重症例では副腎皮質ステロイドを用いる。
Gell & Coombs分類のまとめ
・Ⅰ型(即時型・IgE):気管支喘息、アナフィラキシー、花粉症 ・Ⅱ型(細胞傷害型・IgG/IgM):自己免疫性溶血性貧血、不適合輸血、Goodpasture症候群 ・Ⅲ型(免疫複合体型・IgG):血清病、SLE、急性糸球体腎炎、過敏性肺炎 ・Ⅳ型(遅延型・T細胞):ツベルクリン反応、接触皮膚炎、移植拒絶、過敏性肺炎 ・Ⅴ型(刺激型):Basedow病
POINT
・梅雨明け〜夏に反復する乾性咳嗽・呼吸困難・発熱+Trichosporon抗体陽性 → 夏型過敏性肺炎。 ・過敏性肺炎の病態はⅢ型(免疫複合体、沈降抗体)とⅣ型(感作T細胞、肉芽腫)の関与。 ・沈降反応陽性はⅢ型、リンパ球刺激試験陽性はⅣ型を反映する。 ・過敏性肺炎ではBAL液リンパ球増加、CD4/CD8比低下が典型的。 ・治療の基本は抗原回避。
