数値が少しずつ高いとき、まず薬ではなく生活から―一次予防の脂質異常症の初期対応
第101回医師国家試験 H問題 第21問
国試問題にチャレンジ
53歳の女性。健康診査で脂質異常症を指摘されて来院した。喫煙習慣と飲酒習慣とはない。父が脳卒中で死亡している。身長160cm,体重67kg,腹囲86cm。脈拍76/分,整。血圧142/90mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:空腹時血糖128mg/dL,総コレステロール246mg/dL,LDL-コレステロール159mg/dL(基準60~140),HDL-コレステロール54mg/dL,トリグリセリド156mg/dL。心電図では上室性期外収縮が散発している。 対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.生活指導
- b.3か月後の血液生化学検査
- c.血糖降下薬の投与
- d.スタチン系薬の投与
- e.フィブラート系薬の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
動脈硬化性疾患の既往がない一次予防の脂質異常症では、まず食事療法・運動療法・減量といった生活習慣の改善を行い、3〜6か月程度で効果を判定して、管理目標値に届かない場合に薬物療法を考慮するのが原則です。本症例は軽度の高LDL-C血症と高TG血症、Ⅰ度高血圧、1回のみの糖尿病型空腹時血糖、肥満をもちますが、いずれも軽度で減量により改善が期待できるため、生活指導と3か月後の再検査が適切です。空腹時血糖126mg/dL以上が1回だけでは糖尿病と確定できず、メタボリックシンドロームは女性で腹囲90cm以上が必須である点も重要です。一方、二次予防や家族性高コレステロール血症が疑われる場合は早期から薬物療法を検討します。数値の程度と患者のリスクを総合して介入の順序を決める考え方は、生活習慣病診療の基本となります。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・53歳女性。健康診査で脂質異常症を指摘され受診。自覚症状の記載はない。 ・喫煙・飲酒習慣なし。父が脳卒中で死亡。 ・身長160cm、体重67kg → BMI=67÷(1.6×1.6)≒26.2で、日本の基準(BMI 25以上)では肥満にあたる。 ・腹囲86cm:日本のメタボリックシンドローム診断基準の女性の基準(90cm以上)に達しない。 ・血圧142/90mmHg:Ⅰ度高血圧(収縮期140〜159mmHg かつ/または 拡張期90〜99mmHg)の範囲。 ・尿蛋白(-)、尿糖(-)。 ・空腹時血糖128mg/dL:126mg/dL以上であり「糖尿病型」に該当する。 ・脂質:LDL-コレステロール(LDL-C)159mg/dL(140mg/dL以上で高LDL-C血症)、トリグリセリド(TG)156mg/dL(空腹時150mg/dL以上で高TG血症)、HDL-コレステロール(HDL-C)54mg/dL(40mg/dL以上で正常)。non-HDL-C(総コレステロール−HDL-C)は192mg/dL。 ・心電図で上室性期外収縮が散発しているが、心音・脈拍に異常はなく、単発の上室性期外収縮は健常者にもよくみられ、治療対象とならない。
評価
本症例は、軽度の高LDL-C血症と軽度の高TG血症(表現型としてはⅡb型に相当)、Ⅰ度高血圧、1回だけの糖尿病型空腹時血糖、軽度の肥満をもつ、冠動脈疾患などの動脈硬化性疾患の既往のない女性である。すなわち脂質異常症の治療区分では「一次予防」にあたる。
設問の考え方
一次予防の脂質異常症では、まず生活習慣の改善(食事療法・運動療法・減量など)を行い、3〜6か月程度で効果を判定し、それでも管理目標値に達しない場合に、リスクに応じて薬物療法を考慮するのが原則である。高血圧もⅠ度で、臓器障害などを示す所見がないため、まず生活習慣の修正から始めるのが一般的である。血糖についても1回の検査だけでは糖尿病と診断できず、再検査やHbA1cでの確認が必要である。 いずれの異常値も軽度であり、しかも共通して肥満(過体重)の是正で改善が見込めるものばかりである。したがって、初診の時点で行うべきは生活指導と、一定期間(3か月程度)後の再検査による効果判定であり、いきなりの薬物投与ではない。
選択肢考察
- ○a. 生活指導
動脈硬化性疾患の既往のない一次予防の脂質異常症では、生活習慣の改善が治療の第一歩である。具体的には、総エネルギー摂取量の適正化と適正体重の維持、飽和脂肪酸・コレステロール・トランス脂肪酸の摂取制限、食物繊維や魚(n-3系多価不飽和脂肪酸)の摂取、減塩、中等度以上の有酸素運動を1日合計30分以上を目安に定期的に行うことなどを指導する。本症例は肥満(BMI 26.2)を伴い、高LDL-C、高TG、高血圧、空腹時高血糖のいずれも減量と運動で改善が期待できるため、生活指導が最も適切な初期対応である。
- ○b. 3か月後の血液生化学検査
一次予防では、生活習慣の改善を3〜6か月程度続けたうえで脂質値の改善を評価し、管理目標値に達しない場合に薬物療法を検討する。したがって、生活指導を行ったうえで3か月後に血液生化学検査を再度行い、脂質・血糖の推移を確認するのは適切である。空腹時血糖が糖尿病型であったことから、再検査の際にはHbA1cも併せて測定し、糖尿病の有無を確定させることが望ましい。
- ×c. 血糖降下薬の投与
空腹時血糖128mg/dLは「糖尿病型」ではあるが、糖尿病と診断するには、別の日に再度糖尿病型を確認するか、同時に測定したHbA1cが6.5%以上であること、あるいは口渇・多飲・多尿など典型的症状や確実な糖尿病網膜症の存在などが必要である。本症例は糖尿病の診断が確定しておらず、仮に糖尿病であったとしても、軽症であればまず食事療法・運動療法を行うのが原則である。初診で血糖降下薬を投与するのは不適切である。
- ×d. スタチン系薬の投与
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)はLDL-Cを低下させる第一選択薬だが、一次予防では生活習慣の改善を数か月行っても管理目標値に達しない場合に、リスクに応じて使用を考慮する。本症例のLDL-Cは159mg/dLと軽度上昇にとどまり、肥満を伴うため食事・運動・減量によって目標値に近づく可能性が十分ある。初診の時点での投与は時期尚早である(なお、LDL-Cが180mg/dL以上の場合は家族性高コレステロール血症の可能性を考慮し、薬物療法を早めに検討する)。
- ×e. フィブラート系薬の投与
フィブラート系薬は主にTGを低下させ、HDL-Cを増加させる薬である。本症例のTGは156mg/dLで、高TG血症の基準(空腹時150mg/dL以上)をわずかに超える程度にすぎない。TGは食事内容・飲酒・体重の影響を受けやすく、生活習慣の改善で低下しやすいため、まずは生活指導を優先する。TGが著しく高い場合(おおむね500mg/dL以上で急性膵炎のリスクが高まる)などとは異なり、薬物療法の適応はない。
脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
・高LDL-C血症:LDL-C 140mg/dL以上(120〜139mg/dLは境界域高LDL-C血症) ・低HDL-C血症:HDL-C 40mg/dL未満 ・高TG血症:空腹時TG 150mg/dL以上(随時TGでは175mg/dL以上) ・高non-HDL-C血症:non-HDL-C 170mg/dL以上(150〜169mg/dLは境界域)
治療の進め方
・一次予防(動脈硬化性疾患の既往なし):まず生活習慣の改善を行い、3〜6か月後に効果を評価。目標未達なら薬物療法を考慮する。管理目標値は、年齢・性別・血圧・糖尿病・喫煙・家族歴などから推定される絶対リスクによって、低・中・高リスクに分けて設定される(例:LDL-C 低リスク160未満、中リスク140未満、高リスク120未満mg/dL)。 ・二次予防(冠動脈疾患の既往あり):生活習慣の改善と同時に薬物療法を開始し、LDL-C 100mg/dL未満(高リスク病態では70mg/dL未満)を目指す。 ・なお、動脈硬化リスク因子としての家族歴は、第一度近親者の早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満の発症)が評価に用いられる。
主な脂質異常症治療薬
・スタチン:HMG-CoA還元酵素阻害。LDL-C低下作用が最も強い。副作用に横紋筋融解症、肝障害。 ・エゼチミブ:小腸コレステロールトランスポーター阻害。 ・陰イオン交換樹脂(レジン):胆汁酸の再吸収阻害。 ・PCSK9阻害薬:LDL受容体の分解を抑える注射薬。 ・フィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーター(ペマフィブラート):TG低下、HDL-C上昇。 ・n-3系多価不飽和脂肪酸(EPAなど):TG低下。
糖尿病の診断
糖尿病型:空腹時血糖126mg/dL以上、75gOGTT 2時間値200mg/dL以上、随時血糖200mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上のいずれか。 ・別の日の検査で再び糖尿病型(うち少なくとも一方が血糖値)なら糖尿病。 ・血糖値とHbA1cが同一採血でともに糖尿病型なら、初回検査のみで糖尿病と診断できる。 ・血糖値が糖尿病型で、典型的症状または確実な糖尿病網膜症があれば、初回検査のみで診断できる。
メタボリックシンドロームの診断基準(日本)
必須項目:腹囲 男性85cm以上、女性90cm以上 これに加えて以下の2項目以上: ・TG 150mg/dL以上 かつ/または HDL-C 40mg/dL未満 ・収縮期血圧130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上 ・空腹時血糖110mg/dL以上 本症例は脂質・血圧・血糖の3項目を満たすが、腹囲が必須基準に届かないため、メタボリックシンドロームとは診断されない。
POINT
・動脈硬化性疾患の既往がない脂質異常症(一次予防)は、まず生活習慣の改善を行い、3〜6か月後に効果判定する。 ・薬物療法は、生活習慣の改善で管理目標に達しない場合に考慮する(二次予防では最初から併用)。 ・空腹時血糖126mg/dL以上1回だけでは「糖尿病型」にとどまり、糖尿病の確定には再検査やHbA1cの確認が必要。 ・メタボリックシンドロームの腹囲基準は男性85cm以上、女性90cm以上。 ・散発する上室性期外収縮は通常治療不要。
