赤ちゃんの「大きくてきれいな目」に潜む危険―牛眼から読み解く原発先天緑内障
第101回医師国家試験 H問題 第13問
国試問題にチャレンジ
2か月の乳児。左眼の角膜混濁と流涙とを主訴に来院した。左眼の角膜径は縦径,横径ともに13.0mmである。右眼に異常はない。 考えられるのはどれか。
- a.強膜肥厚
- b.前(眼)房混濁
- c.水晶体混濁
- d.硝子体混濁
- e.眼圧上昇
対話形式の解説
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ドクターまとめ
乳児で角膜径の拡大、角膜混濁、流涙がそろった場合は、隅角形成異常による原発先天緑内障を考え、その本態は眼圧上昇です。乳児の眼球壁は伸展しやすいため高眼圧で眼球が拡大して牛眼となり、デスメ膜の断裂(Haab線条)による角膜浮腫が混濁を、刺激症状が流涙・羞明・眼瞼けいれんの三主徴を生みます。強膜は肥厚ではなく菲薄化し、混濁は前房や水晶体ではなく角膜に生じる点が鑑別の要であり、先天鼻涙管閉塞や巨大角膜、先天白内障との区別も重要です。治療は線維柱帯切開術や隅角切開術などの手術が第一選択で、早期発見が生涯の視力を守るため、乳児の角膜径の目安(1歳未満で12mm以上は要注意)を押さえておきましょう。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・生後2か月の乳児で、片眼(左眼)のみに異常がある。 ・主訴は角膜混濁と流涙である。 ・左眼の角膜径は縦・横ともに13.0mmである。新生児の角膜横径は約10mm、1歳でおよそ11〜11.5mm、成人で約11.5〜12mmであり、生後2か月で13mmは明らかな拡大(巨大化)である。
診断へのプロセス
乳児期に「角膜径の拡大」「角膜混濁」「流涙」がそろえば、まず小児の緑内障(原発先天緑内障。かつては先天緑内障、その後は発達緑内障の早発型と呼ばれた)を考える。 乳児では眼球壁(角膜・強膜)のコラーゲン線維がまだ柔らかく伸びやすい。そのため、隅角(角膜と虹彩の付け根の間にある房水の出口)の形成異常で房水が流出できず眼圧が上がると、眼球全体が内側から押し広げられて大きくなる。この状態を牛眼(buphthalmos)という。角膜が引き伸ばされると角膜内皮とデスメ膜に亀裂(Haab線条)が入り、房水が角膜実質へ入り込んで角膜浮腫を起こし、角膜が混濁して見える。角膜浮腫は刺激症状を生み、流涙・羞明(まぶしがる)・眼瞼けいれんの三主徴として現れる。
鑑別
・先天鼻涙管閉塞:乳児の流涙の原因として最も多いが、眼脂を伴い、角膜径の拡大や角膜混濁はない。 ・巨大角膜(megalocornea):角膜径は大きいが、角膜は透明で眼圧は正常であり、通常は両眼性である。 ・Peters異常などの先天角膜混濁:出生時から角膜中央に混濁があるが、角膜径はむしろ小さいことが多い。 ・先天白内障:混濁は水晶体にあり、瞳孔領が白く見える(白色瞳孔)。角膜径は拡大しない。 以上より本症例は緑内障による眼圧上昇が背景にあると考えられ、設問の「考えられる所見」は眼圧上昇である。
選択肢考察
- ×a. 強膜肥厚
乳児の強膜は伸展性に富むため、眼圧が上昇すると厚くなるのではなく引き伸ばされて薄くなる。薄くなった強膜からは下のぶどう膜が透けて見え、強膜が青みを帯びることがある(青色強膜)。眼球の拡大に伴って眼軸長も延長する。肥厚は本症の所見と逆である。
- ×b. 前(眼)房混濁
本症の混濁は、高眼圧によるデスメ膜断裂と角膜浮腫に起因する角膜(上皮・実質)の混濁であり、前房そのものが濁るわけではない。前房混濁(房水中の細胞や蛋白の増加、前房蓄膿など)はぶどう膜炎や眼内炎などでみられる所見である。なお、本症では眼球拡大に伴いむしろ前房が深くなる。
- ×c. 水晶体混濁
水晶体の混濁は先天白内障の所見であり、瞳孔が白く見える白色瞳孔として気付かれることが多い。先天白内障では角膜径の拡大や流涙は主症状とならない。本症例の角膜混濁・角膜径拡大の説明にはならない。
- ×d. 硝子体混濁
硝子体混濁は硝子体出血、眼内炎、第一次硝子体過形成遺残などでみられるが、角膜径の拡大や角膜混濁・流涙を説明しない。原発先天緑内障で硝子体が混濁することは通常ない。
- ○e. 眼圧上昇
隅角の形成異常により房水の流出が妨げられ、眼圧が上昇する。乳児では眼球壁のコラーゲン線維間の架橋が未熟で伸びやすいため、高眼圧によって眼球が拡大し、角膜径が大きくなる(牛眼)。さらに角膜の伸展でデスメ膜に亀裂が生じて角膜浮腫・混濁が起こり、その刺激で流涙が生じる。本症例の角膜径13.0mm、角膜混濁、流涙はすべて眼圧上昇で一元的に説明できる。
小児の緑内障の分類と名称
隅角の形成異常による小児の緑内障は、かつて「先天緑内障」と呼ばれ、その後「発達緑内障」(早発型・遅発型・他の先天異常を伴うもの)に改められた。現行の緑内障診療ガイドライン(第5版)では国際分類に合わせて「小児緑内障」とまとめられ、隅角形成異常のみによる典型例は「原発先天緑内障」、より年長で発症するものは「若年開放隅角緑内障」と整理されている。ほかに、Sturge-Weber症候群、Axenfeld-Rieger症候群、無虹彩症、先天風疹症候群などに伴う続発性のものがある。
原発先天緑内障の特徴
・多くは生後1年以内に発症し、約3分の2が両眼性(本症例のように片眼性もある)。男児にやや多い。 ・三主徴:流涙、羞明、眼瞼けいれん。 ・他覚所見:角膜径拡大(牛眼)、角膜浮腫・混濁、Haab線条(デスメ膜断裂線)、前房が深い、視神経乳頭陥凹の拡大、眼軸長延長(近視化)。 ・角膜横径の目安:新生児で11mm以上、1歳未満で12mm以上、年齢を問わず13mm以上なら異常を強く疑う。
治療
薬物療法の効果は限られ、観血的治療(線維柱帯切開術、隅角切開術など)が第一選択である。放置すると視神経障害による不可逆的な視力低下を来すため、早期発見・早期手術が重要である。乳児では診察時の協力が得られないため、鎮静下・全身麻酔下で眼圧測定や隅角検査を行う。
POINT
・乳児の「角膜径拡大+角膜混濁+流涙」は原発先天緑内障(牛眼)を考える。 ・機序:隅角形成異常 → 房水流出障害 → 眼圧上昇 → 伸展しやすい乳児の眼球が拡大。 ・三主徴は流涙・羞明・眼瞼けいれん。 ・強膜は肥厚せず菲薄化する。角膜混濁は角膜浮腫(Haab線条)による。 ・1歳未満で角膜横径12mm以上なら疑う。治療は手術(線維柱帯切開術・隅角切開術)が第一選択。
