まぶたが下がり瞳が開いたら―動眼神経が教える「破裂寸前」の動脈瘤
第101回医師国家試験 F問題 第53問
国試問題にチャレンジ
動眼神経麻痺をきたしやすいのはどれか。
- a.内頸動脈瘤
- b.椎骨動脈瘤
- c.前大脳動脈瘤
- d.前交通動脈瘤
- e.中大脳動脈瘤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
動眼神経は中脳の脚間窩から出て、後大脳動脈と上小脳動脈の間を通り、後交通動脈に沿って内頸動脈の外側下方を前進するため、内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤で最も圧迫されやすくなります。脳底動脈先端部や海綿静脈洞部の内頸動脈瘤でも動眼神経麻痺は起こりえますが、前交通動脈瘤や前大脳動脈瘤は視交叉など視覚路の障害、椎骨動脈瘤は下位脳神経や延髄の障害、中大脳動脈瘤は破裂時の側頭葉血腫による局所症状が中心です。動脈瘤による外からの圧迫では神経表面の副交感神経線維が先に障害されて散瞳を伴いやすく、瞳孔が保たれやすい糖尿病性の動眼神経麻痺との鑑別点になります。散瞳を伴う急性の動眼神経麻痺は動脈瘤の増大や切迫破裂を示すことがあり、緊急の血管評価が必要です。脳神経の走行と血管の位置関係を結びつけて理解することは、神経症候から病変部位を推定する臨床推論の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
脳動脈瘤は破裂してくも膜下出血を起こす前に、周囲の脳神経を圧迫して症状を出すことがある。どの神経が障害されるかは、動脈瘤の発生部位とその近くを通る脳神経との位置関係で決まる。本問は、動眼神経(第III脳神経)の近くにできやすい動脈瘤を問うている。
動眼神経の走行
動眼神経は中脳の腹側(大脳脚の間の脚間窩)から出て、後大脳動脈(PCA)と上小脳動脈(SCA)の間を通り抜ける。その後、後交通動脈(Pcom)に沿うように前方へ進み、内頸動脈(ICA)のすぐ外側下方を通って海綿静脈洞の外側壁へ入り、上眼窩裂から眼窩に至る。 この経路上にあるため、内頸動脈と後交通動脈の分岐部にできる動脈瘤(IC-PC動脈瘤)は動眼神経を圧迫しやすい。ほかに脳底動脈先端部・脳底動脈-上小脳動脈分岐部の動脈瘤や、海綿静脈洞部の内頸動脈瘤でも動眼神経麻痺が起こりうる。
臨床的な意味
動眼神経の表面近くには、瞳孔を縮める副交感神経線維が走っている。そのため外から圧迫されると、早い段階で散瞳と対光反射の消失が起こる(瞳孔障害を伴う動眼神経麻痺)。瞳孔障害を伴う急性の動眼神経麻痺は、IC-PC動脈瘤が大きくなっている、あるいは切迫破裂のサインとみなし、緊急でMRA・CTA・脳血管造影を行う。
選択肢考察
- ○a. 内頸動脈瘤
動眼神経は内頸動脈の外側下方を、後交通動脈に沿って走る。このため内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤(IC-PC動脈瘤)は動眼神経を直接圧迫しやすく、動眼神経麻痺の原因となる動脈瘤として最も代表的である。症状は眼瞼下垂、眼球の外下方偏位(内転・上転・下転の障害)、複視、散瞳であり、動脈瘤による圧迫では瞳孔障害を伴いやすい。海綿静脈洞部の内頸動脈瘤でも、動眼神経・滑車神経・外転神経・三叉神経第1枝などが障害されることがある。
- ×b. 椎骨動脈瘤
椎骨動脈は延髄の外側を上行し、橋と延髄の境界付近で左右が合流して脳底動脈となる。延髄の近くにあるため、動脈瘤(解離性動脈瘤を含む)では舌咽神経・迷走神経・舌下神経など下位脳神経の障害や、延髄の圧迫・虚血による症状(Wallenberg症候群など)が問題となる。中脳から出る動眼神経とは離れており、動眼神経麻痺の原因としては考えにくい。なお、同じ椎骨脳底動脈系でも脳底動脈先端部の動脈瘤は動眼神経を圧迫しうるので、区別しておく。
- ×c. 前大脳動脈瘤
前大脳動脈は内頸動脈から分かれた後、正中に向かい、前頭葉内側面・脳梁に沿って走る。動眼神経は後方外側を通るため離れており、前大脳動脈瘤で動眼神経麻痺が起こることはまれである。前大脳動脈の近位部(A1部)は視神経・視交叉の上を走るため、大きな動脈瘤では視覚障害の方が問題になる。
- ×d. 前交通動脈瘤
前交通動脈は左右の前大脳動脈を結ぶ短い血管で、視交叉の前上方、正中にある。脳動脈瘤の発生部位として最も多い部位の一つだが、動眼神経から離れているため動眼神経麻痺は起こしにくい。未破裂のまま大きくなると視交叉を圧迫して視野障害をきたすことがあり、破裂すると前頭葉内側や脳梁への出血により、意識障害や記銘力障害などの精神症状が問題になる。
- ×e. 中大脳動脈瘤
中大脳動脈瘤は、主に中大脳動脈の最初の大きな分岐部(M1-M2分岐部)にでき、シルビウス裂の中に位置する。近くに脳神経がないため、脳神経麻痺は起こしにくい。破裂すると側頭葉内に血腫をつくりやすく、片麻痺や失語などの局所症状がみられることが多い。
脳動脈瘤の好発部位
嚢状動脈瘤の多くは、Willis動脈輪とその近くの血管の分岐部にできる。主な部位は、前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部であり、これらで大部分を占める。椎骨脳底動脈系(脳底動脈先端部など)は比較的少ない。
動脈瘤の部位と圧迫されやすい構造
・内頸動脈-後交通動脈分岐部:動眼神経 ・脳底動脈先端部、脳底動脈-上小脳動脈分岐部:動眼神経 ・海綿静脈洞部内頸動脈:動眼神経、滑車神経、外転神経、三叉神経第1・2枝(海綿静脈洞症候群) ・内頸動脈-眼動脈分岐部(傍床突起部):視神経(片眼の視力低下・視野障害) ・前交通動脈(大型):視交叉(視野障害) ・椎骨動脈:下位脳神経、延髄
動眼神経麻痺の原因の見分け方
動眼神経の外側表面には瞳孔を縮める副交感神経線維が走り、中心部には外眼筋へ向かう線維が走る。 ・動脈瘤などによる外からの圧迫:表面の副交感神経線維が先に障害され、散瞳・対光反射消失を伴いやすい。 ・糖尿病などによる神経内部の虚血:中心部の線維が主に障害されるため、瞳孔は障害されにくい(瞳孔回避)。痛みを伴うこともあり、数か月で自然に回復することが多い。 また、テント切痕ヘルニアで鉤回が動眼神経を圧迫する場合も、片側の散瞳が早期に現れる。
POINT
・動眼神経麻痺をきたす動脈瘤の代表は内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤である。 ・脳底動脈先端部の動脈瘤や海綿静脈洞部の内頸動脈瘤でも動眼神経麻痺が起こりうる。 ・動脈瘤による圧迫では散瞳(瞳孔障害)を伴いやすく、切迫破裂の徴候として緊急の精査対象となる。 ・糖尿病性の動眼神経麻痺は瞳孔が障害されにくい。
