エストロゲンと癒着で読み解く子宮内膜症―好発年齢・部位・不妊・癌化まで
第101回医師国家試験 F問題 第48問
国試問題にチャレンジ
子宮内膜症で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.閉経後に好発する。
- b.不妊の原因となる。
- c.性交痛はまれである。
- d.仙骨子宮靱帯に好発する。
- e.卵巣癌の発生とは関連しない。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
子宮内膜症は子宮内膜類似組織が子宮腔外、主に骨盤内に発生する疾患で、エストロゲン依存性に増殖し出血と炎症を繰り返して癒着を生じます。そのため性成熟期に好発して閉経後は退縮し、月経血がたまりやすいDouglas窩・仙骨子宮靱帯・卵巣に好発します。症状は月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛が代表的で、卵管周囲の癒着や卵巣予備能の低下、腹腔内の炎症環境などを介して不妊の重要な原因となります。また卵巣のチョコレート囊胞は明細胞癌や類内膜癌の発生母地となりうるため、40歳以上、大きな囊胞、充実部の出現には注意が必要です。病態の2つの軸から特徴を整理しておくことは、診断・治療方針の決定や長期経過観察の際の判断に直結します。
解答・解説
正解はb, dです
問われていること
子宮内膜症の疫学・症状・好発部位・合併症に関する基本知識を問う問題である。
疾患の要点
子宮内膜症は、子宮内膜またはそれに類似した組織が子宮腔以外の場所(主に骨盤内)に発生・増殖する疾患である。発生機序としては、月経血が卵管を通って腹腔内へ逆流し内膜細胞が腹膜に生着するという月経血逆流説(Sampson説)が代表的で、ほかに腹膜の上皮が内膜様組織へ変化する体腔上皮化生説なども提唱されている。 病変はエストロゲン依存性に増殖し、月経のたびに出血と炎症を繰り返すため、周囲の組織と癒着を起こす。この「エストロゲン依存性」「炎症と癒着」という2つの性質から、好発年齢、症状、不妊との関係が説明できる。
選択肢を考える軸
・エストロゲン依存性 → 性成熟期(20〜40歳代)に多く、閉経後は退縮する。 ・腹腔内の低い位置(重力で月経血がたまりやすい部位)に好発 → Douglas窩、仙骨子宮靱帯、卵巣。 ・癒着と炎症 → 月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、不妊。 ・卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)は卵巣癌(明細胞癌・類内膜癌)の発生母地となりうる。
選択肢考察
- ×a. 閉経後に好発する。
子宮内膜症はエストロゲンに依存して増殖する疾患であり、卵巣機能が活発な性成熟期、とくに20〜40歳代(ピークは30歳代前後)に好発する。閉経後はエストロゲンが低下するため、病変は通常退縮し症状も軽快する。閉経後に新たに発症することはまれである(ホルモン補充療法中などの例外はある)。
- ○b. 不妊の原因となる。
子宮内膜症は女性不妊の重要な原因であり、不妊症女性では子宮内膜症が高頻度に見つかる。機序として、①骨盤内の癒着による卵管の閉塞・卵管采の癒着や、卵管と卵巣の位置関係の異常による卵子の捕捉障害、②卵巣子宮内膜症性囊胞による卵巣予備能の低下や排卵障害、③卵胞が黄体化しても破裂せず卵子が放出されない黄体化未破裂卵胞(LUF)、④腹水中のマクロファージやサイトカイン(炎症性物質)の増加による卵子・精子・受精卵への悪影響、などが挙げられる。
- ×c. 性交痛はまれである。
性交痛は子宮内膜症の主要な症状の一つであり、まれではない。Douglas窩や仙骨子宮靱帯の病変・癒着があると、性交時に腟の奥(後腟円蓋)が突き上げられて深部の痛みを生じる。同じ理由で排便痛も起こりやすい。子宮内膜症の疼痛症状としては、月経困難症(最も多い)、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、腰痛などを押さえておく。内診では、Douglas窩の硬結や圧痛、子宮の可動性制限(後屈固定)がみられる。
- ○d. 仙骨子宮靱帯に好発する。
子宮内膜症は、骨盤腹膜のなかでも立位で最も低い位置にあたるDouglas窩(直腸子宮窩)とその周囲の仙骨子宮靱帯、そして卵巣に好発する。逆流した月経血がこれらの部位にたまりやすいことが、月経血逆流説を支持する根拠の一つとされる。仙骨子宮靱帯の病変は内診で硬結・圧痛として触れ、性交痛や排便痛の原因となる。
- ×e. 卵巣癌の発生とは関連しない。
卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)は卵巣癌の発生と関連し、特に明細胞癌と類内膜癌の発生母地となることが知られている。囊胞内に貯留した古い血液由来の鉄による酸化ストレスが、遺伝子変異(ARID1A、PIK3CAなど)の蓄積に関与すると考えられている。癌化の頻度は1%未満とされるが、40歳以上、囊胞径が大きい(おおむね10 cm以上)、囊胞内に充実部分が出現する、といった場合は悪性化を疑って精査する。出題当時は両者の関連が現在ほど確立していなかったが、現在では明らかな関連があると考えられている。
子宮内膜症の概要
・性成熟期女性の約1割にみられるとされる、頻度の高い疾患である。 ・好発部位:卵巣(チョコレート囊胞)、Douglas窩、仙骨子宮靱帯、子宮漿膜、膀胱子宮窩など。まれに腸管、膀胱、肺・胸膜(月経随伴性気胸)、臍、手術瘢痕などにも発生する。 ・子宮筋層内に内膜様組織が発生するものは子宮腺筋症と呼び、子宮内膜症の類縁疾患として扱われる。
診断
・確定診断は腹腔鏡による病変の直接観察と組織診断である。 ・画像診断:超音波ではチョコレート囊胞がびまん性の点状(すりガラス状)の内部エコーを示す。MRIでは囊胞内の血液成分がT1強調像で高信号を示し、脂肪抑制画像でも高信号のまま残る(脂肪を含む成熟囊胞性奇形腫との鑑別点)。 ・血液検査:CA125が軽度〜中等度上昇することが多いが特異的ではない。 ・重症度分類には、腹腔鏡所見に基づく米国生殖医学会の分類(revised ASRM分類)が用いられる。
治療
・薬物療法:鎮痛薬(NSAIDs)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)、黄体ホルモン製剤(ジエノゲストなど)、GnRHアゴニスト・GnRHアンタゴニスト(低エストロゲン状態をつくる。骨量減少に注意し長期連用は避ける)。 ・手術療法:腹腔鏡下の病巣切除・焼灼、囊胞摘出術、癒着剥離。挙児希望のない重症例では子宮・付属器摘出も考慮する。 ・不妊を伴う場合は、年齢や卵巣予備能を踏まえて手術や生殖補助医療(体外受精など)を選択する。囊胞摘出は卵巣予備能を低下させうるため適応を慎重に判断する。
POINT
・子宮内膜症はエストロゲン依存性で、性成熟期(20〜40歳代)に好発し、閉経後は退縮する。 ・好発部位は卵巣、Douglas窩、仙骨子宮靱帯。 ・症状は月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、そして不妊。 ・チョコレート囊胞は卵巣明細胞癌・類内膜癌の発生母地となりうる(40歳以上・大きな囊胞・充実部出現は要注意)。 ・MRIでT1強調像高信号かつ脂肪抑制で信号が落ちない囊胞はチョコレート囊胞を示唆する。
