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補体が「減る」腎炎はどれ?―C3が語る膜性増殖性糸球体腎炎の正体

第101回医師国家試験 F問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第44問

血清補体価が低下するのはどれか。

  1. a.IgA腎症
  2. b.膜性腎症
  3. c.紫斑病性腎炎
  4. d.巣状分節性糸球体硬化症
  5. e.膜性増殖性糸球体腎炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、糸球体疾患のなかで血清補体価が下がるものを選ぶ問題だ。腎炎の多くは免疫の仕組みで起こるけれど、血液検査で補体がはっきり低下する疾患は実はかなり限られている。そのリストを頭に入れているかがポイントだよ。
医学生医学生
免疫複合体が関わる腎炎なら、どれでも補体を消費して下がるイメージがありました。
ドクタードクター
そう考えがちなんだけど、そこが落とし穴。補体は免疫複合体の形成や補体系の異常な活性化で大量に消費されると血中濃度が下がる。ただ、腎臓の局所で補体が動いていても、血清レベルまで下がる疾患は多くないんだ。まず覚えてほしいのは三本柱、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎だ。
医学生医学生
溶連菌感染後の腎炎は小児科の実習で見ました。咽頭炎のあと1〜2週間で血尿とむくみが出て、C3が下がっていた子でした。
ドクタードクター
いい経験だね。急性糸球体腎炎では主に第二経路が動いてC3が下がるけれど、その低下は一過性で、通常は発症から約8週以内に正常化する。これに対して低補体が持続するのが膜性増殖性糸球体腎炎の特徴なんだ。だから今回の正解は膜性増殖性糸球体腎炎になる。
医学生医学生
膜性増殖性糸球体腎炎は病理の講義で、基底膜が二重に見えるって習いました。
ドクタードクター
そう。メサンギウム細胞が増殖して、メサンギウム基質が基底膜の内側に入り込むため、PAM染色で基底膜が二重化して見える。double contour、tram-trackと呼ばれる所見だね。現在は、免疫グロブリンと補体が沈着する免疫複合体型と、主にC3だけが沈着するC3腎症に整理されていて、いずれも低補体血症をきたしやすい。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。IgA腎症はメサンギウムにC3も沈着するので、補体が下がりそうな気もしますが。
ドクタードクター
鋭い引っかけポイントだね。IgA腎症は組織にはC3が沈着するけれど、血清補体価は通常正常なんだ。「組織への沈着」と「血清での低下」は別物と考えよう。むしろ血清IgAが高値になることがある疾患だね。
医学生医学生
紫斑病性腎炎もIgAが沈着するので、同じ考え方でいいですか。
ドクタードクター
その通り。紫斑病性腎炎はIgA血管炎に伴う腎炎で、腎の組織像はIgA腎症とよく似ている。血清補体価も同じく通常は正常だ。小児に多く、触知できる紫斑、関節痛、腹痛を伴うのが特徴だよ。
医学生医学生
膜性腎症は上皮下に免疫複合体が沈着するんですよね。それでも下がらないんでしょうか。
ドクタードクター
下がらないのが原則だ。一次性膜性腎症の多くはPLA2Rなど足細胞上の抗原に対する自己抗体で起こり、局所で補体が活性化されて膜侵襲複合体が足細胞を傷つける。でも血清補体価は通常正常。ただしSLEに伴う二次性の膜性腎症、つまりループス腎炎V型ではSLEの活動性によって補体が下がることがあるので、そこは区別しておこう。
医学生医学生
巣状分節性糸球体硬化症は、そもそも免疫複合体の病気ではないですよね。
ドクタードクター
そうだね。本態は足細胞の障害で、免疫複合体による腎炎ではないから補体は正常だ。ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群を呈することが多い疾患として覚えておこう。
医学生医学生
整理すると、補体が下がるのは急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎の三つで、急性糸球体腎炎は一過性、膜性増殖性糸球体腎炎は持続性ということですね。
ドクタードクター
完璧。臨床的には、溶連菌感染後の腎炎だと思っていたのに8週を過ぎても低補体が続く場合は、膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎を疑って腎生検を考える、という流れが大切だ。
医学生医学生
C3とC4のどちらが下がっているかも見たほうがいいですか。CBTの勉強で補体の経路がややこしかった記憶があります。
ドクタードクター
ぜひ見てほしい。古典経路は抗原抗体複合体でC1から始まりC4、C2、C3と進むので、C3とC4がともに下がりやすい。ループス腎炎が典型で、抗ds-DNA抗体とともに活動性の指標になる。第二経路はC3が直接活性化されるので、C3だけが下がってC4は保たれやすい。溶連菌感染後の腎炎やC3腎症がこのパターンだね。
医学生医学生
C4が特に下がる病気もありましたよね。
ドクタードクター
クリオグロブリン血症性糸球体腎炎だね。多くはC型肝炎ウイルス感染に関連し、組織像は膜性増殖性糸球体腎炎の形をとって、C4の著明な低下が目立つ。ほかに感染性心内膜炎やシャント感染に伴う腎炎、コレステロール塞栓症も低補体をきたしうる。補体の値は鑑別を絞る強力な手がかりになるから、腎炎を診たら必ずチェックする習慣をつけよう。

まとめ

血清補体価が低下する糸球体腎炎の三本柱は、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎です。急性糸球体腎炎の低補体は約8週以内に回復する一過性である一方、膜性増殖性糸球体腎炎ではC3の低下が持続し、組織ではPAM染色で基底膜の二重化がみられます。IgA腎症や紫斑病性腎炎は組織にC3が沈着しても血清補体価は正常で、一次性膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症も原則として正常です。C3とC4のどちらが下がるかで古典経路と第二経路のどちらが主に動いているかを推測でき、ループス腎炎やクリオグロブリン血症性腎炎の鑑別にも役立ちます。補体値の読み方を身につけることは、腎炎の鑑別と腎生検の判断に直結する重要な臨床スキルです。

解答・解説

正解はeです

問われていること

糸球体疾患のうち、血清補体価(CH50:血清の総補体活性、およびC3・C4などの補体成分)が低下するものを選ぶ問題である。

考え方

補体は免疫複合体の形成や補体系の異常な活性化によって消費されると、血中濃度が下がる。糸球体腎炎の多くは免疫学的機序で起こるが、血清補体価が明らかに低下する疾患は限られており、次の3つをまず押さえる。 1. 急性糸球体腎炎(代表は溶連菌感染後急性糸球体腎炎:PSAGN):主に第二経路(副経路)の活性化によりC3が低下し、CH50も低下する。低下は一過性で、通常は発症から約8週以内に正常化する。 2. 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN):C3が持続的に低下するのが特徴である。 3. ループス腎炎(全身性エリテマトーデス:SLE):免疫複合体による古典経路の活性化でC3・C4ともに低下し、疾患活動性の指標となる。 このほか、クリオグロブリン血症性糸球体腎炎(C型肝炎関連が多く、C4の低下が目立つ)、感染性心内膜炎やシャント感染に伴う腎炎、コレステロール塞栓症なども低補体血症をきたしうる。 選択肢の中でこれに該当するのは膜性増殖性糸球体腎炎のみであり、他の4疾患では血清補体価は原則として正常である。

選択肢考察

  1. ×a.  IgA腎症

    IgA腎症はメサンギウム領域にIgA(主に糖鎖異常IgA1)とC3が沈着する慢性糸球体腎炎で、日本の成人で最も多い原発性糸球体腎炎である。腎組織にはC3が沈着するものの、血清補体価は通常正常に保たれる。血清IgAが高値(315 mg/dL以上が参考所見)となることはあるが、低補体血症は本症の特徴ではない。

  2. ×b.  膜性腎症

    膜性腎症は糸球体基底膜の上皮下に免疫複合体が沈着する疾患で、中高年のネフローゼ症候群の主要な原因である。一次性の多くは足細胞上の抗原(PLA2R:ホスホリパーゼA2受容体など)に対する自己抗体による。局所で補体が活性化され膜侵襲複合体(C5b-9)が足細胞を傷害するが、血清補体価は通常正常である。なお、SLEに伴う二次性膜性腎症(ループス腎炎V型)では、SLE自体の活動性により補体が低下することがある。

  3. ×c.  紫斑病性腎炎

    紫斑病性腎炎はIgA血管炎(旧称:Henoch-Schönlein紫斑病、アレルギー性紫斑病)に伴う腎炎で、腎組織所見はIgA腎症とよく似ており、メサンギウムにIgAとC3が沈着する。IgA腎症と同様に血清補体価は通常正常である。小児に多く、触知可能な紫斑、関節痛、腹痛を伴うことが特徴である。

  4. ×d.  巣状分節性糸球体硬化症

    巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、一部の糸球体(巣状)の一部分(分節性)に硬化病変を生じる疾患で、足細胞(ポドサイト)の障害が本態である。免疫複合体による腎炎ではないため、血清補体価は正常である。ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群を呈することが多い。

  5. ○e.  膜性増殖性糸球体腎炎

    膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)では、補体の持続的な活性化・消費によりC3を中心とした低補体血症が長期に続くことが特徴である(溶連菌感染後急性糸球体腎炎の低補体血症が一過性であるのと対照的)。組織学的には、メサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の糸球体基底膜内側への入り込み(mesangial interposition)により、PAM染色で基底膜の二重化(double contour、tram-track)がみられる。現在は、免疫グロブリンと補体が沈着する免疫複合体型(感染症・自己免疫疾患・単クローン性免疫グロブリン血症などが背景)と、主にC3のみが沈着するC3腎症(C3 glomerulopathy:補体第二経路の制御異常やC3腎炎因子などが関与)に整理されており、いずれも低補体血症をきたしやすい。

血清補体価と糸球体疾患

低下する主な疾患 ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎:C3低下(C4はほぼ正常)。第二経路優位。約8週以内に正常化する一過性の低下。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:C3の持続的低下。C3腎症では第二経路の異常、免疫複合体型では古典経路の関与でC4も下がることがある。 ・ループス腎炎:C3・C4・CH50ともに低下。抗ds-DNA抗体とともに活動性の指標。 ・クリオグロブリン血症性腎炎:C4の著明な低下が特徴的。多くはC型肝炎ウイルス感染に関連し、組織像はMPGN型をとる。 ・その他:感染性心内膜炎・シャント腎炎、コレステロール塞栓症。 正常であることが多い主な疾患 ・IgA腎症、紫斑病性腎炎(IgA血管炎) ・膜性腎症(一次性) ・微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症 ・ANCA関連血管炎による急速進行性糸球体腎炎、抗GBM抗体病

補体の経路

・古典経路:抗原抗体複合体でC1が活性化され、C4・C2・C3と進む。C4とC3がともに低下しやすい。 ・第二経路(副経路):C3が直接活性化される。C3のみが低下し、C4は保たれやすい。 ・レクチン経路:マンノース結合レクチンを介し、C4・C2から進む。 C3とC4のどちらが下がっているかをみると、どの経路が主に動いているかの手がかりになる。

POINT

・低補体血症をきたす糸球体腎炎の三本柱は「急性糸球体腎炎(溶連菌感染後)」「膜性増殖性糸球体腎炎」「ループス腎炎」。 ・急性糸球体腎炎の補体低下は一過性(約8週で回復)、MPGNは持続性。8週を超えて低補体が続けばMPGNやループス腎炎を考える。 ・IgA腎症、紫斑病性腎炎、膜性腎症、微小変化型、FSGSでは血清補体価は原則正常。 ・クリオグロブリン血症(C型肝炎)ではC4の低下が目立つ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。