血圧を上げる黒幕はどのホルモン?―レニンとコルチゾール、そしてバソプレシンの意外な落とし穴
第101回医師国家試験 F問題 第45問
国試問題にチャレンジ
分泌亢進が高血圧をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.レニン
- b.プロラクチン
- c.カルシトニン
- d.コルチゾール
- e.バソプレシン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ホルモン過剰による高血圧は、腎でのナトリウム・水の再吸収増加か血管収縮の持続によって生じます。レニン過剰は腎血管性高血圧やレニン産生腫瘍でみられ、RAA系を介して血管収縮とアルドステロン増加を起こします。コルチゾール過剰(Cushing症候群)では、大量のコルチゾールが11β-HSD2の処理能を超えて鉱質コルチコイド受容体を刺激し、高血圧と低カリウム血症をきたします。一方、バソプレシンは薬理的には昇圧作用をもつものの、SIADHではエスケープ現象により体液量が保たれ、高血圧ではなく希釈性低ナトリウム血症が主体となり、プロラクチンやカルシトニンは血圧に直接関与しません。ホルモンごとの昇圧機序を理解しておくことは、日常診療で二次性高血圧を見逃さないための土台になります。
解答・解説
正解はa, dです
問われていること
ホルモンが過剰に分泌されたとき、持続的な高血圧(内分泌性高血圧)の原因となるものを2つ選ぶ問題である。
考え方
血圧は「循環血液量(体液量)」と「末梢血管抵抗」、そして心拍出量で決まる。したがって、腎でのナトリウム(Na)と水の再吸収を持続的に増やすホルモンや、血管を持続的に収縮させるホルモンが過剰になると高血圧をきたす。 代表的な内分泌性高血圧には、原発性アルドステロン症、Cushing症候群(コルチゾール過剰)、褐色細胞腫(カテコラミン過剰)、腎血管性高血圧やレニン産生腫瘍(レニン過剰)、先端巨大症(成長ホルモン過剰)、甲状腺機能亢進症(収縮期高血圧)、原発性副甲状腺機能亢進症などがある。 選択肢のうち、レニンはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)の起点として、コルチゾールは鉱質コルチコイド作用などを介して、いずれも持続的な高血圧をきたす。一方、バソプレシンは血管収縮作用をもつが、過剰分泌の病態(SIADH)では高血圧ではなく低ナトリウム血症が前面に出る点が紛らわしいので注意する。
選択肢考察
- ○a. レニン
レニンは腎の傍糸球体細胞から分泌されるタンパク分解酵素で、肝で作られるアンジオテンシノゲンをアンジオテンシンⅠに変換する。アンジオテンシンⅠはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンⅡとなり、①強力な血管収縮による末梢血管抵抗の上昇、②副腎皮質球状層からのアルドステロン分泌促進(遠位ネフロンでのNa再吸収増加→体液量増加)、③近位尿細管でのNa再吸収促進、④口渇・バソプレシン分泌の刺激、などを通じて血圧を上げる。腎動脈狭窄による腎血管性高血圧や、傍糸球体細胞腫(レニン産生腫瘍)ではレニン分泌亢進により高血圧をきたし、しばしば二次性アルドステロン症による低カリウム血症を伴う。
- ×b. プロラクチン
プロラクチンは下垂体前葉から分泌され、乳腺の発達と乳汁産生を促す。過剰分泌(プロラクチノーマや薬剤性など)では、視床下部のゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)分泌が抑えられ、無月経・乳汁漏出・不妊・性欲低下などの性腺機能低下症状をきたすが、血圧を上げる作用はない。
- ×c. カルシトニン
カルシトニンは甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から分泌され、破骨細胞の骨吸収を抑えて血清カルシウム(Ca)を下げる方向に働く。甲状腺髄様癌では著明に高値となり腫瘍マーカーとして用いられるが、高カルシトニン血症そのものは血圧に影響しない。なお、髄様癌は多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の一部として褐色細胞腫を合併することがあり、その場合の高血圧はカテコラミン過剰によるもので、カルシトニンによるものではない。
- ○d. コルチゾール
コルチゾール過剰(Cushing症候群)では約8割に高血圧がみられる。機序として、①鉱質コルチコイド受容体への作用:通常、腎尿細管では11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)がコルチゾールを不活性なコルチゾンに変換して受容体を保護しているが、コルチゾールが大量になるとこの処理能力を超え、アルドステロン様にNa貯留とカリウム(K)排泄を促す、②肝でのアンジオテンシノゲン産生増加、③カテコラミンなど昇圧物質に対する血管の反応性の増強、などがある。特にACTH(副腎皮質刺激ホルモン)産生腫瘍による異所性ACTH症候群ではコルチゾールが著しく高値となり、高血圧と低カリウム血症が顕著になりやすい。
- ×e. バソプレシン
バソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)は下垂体後葉から分泌され、腎集合管のV2受容体を介して水の再吸収を促す。高濃度では血管平滑筋のV1受容体を介した血管収縮作用ももち、薬理学的には敗血症性ショックなどで昇圧薬として用いられることがある。しかし、分泌が持続的に過剰となる抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)では、水が貯留して体液量がやや増えると、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌増加やRAA系の抑制によって尿中Na排泄が増え、体液量はほぼ正常に保たれる。その結果、浮腫や高血圧は生じず、希釈性の低ナトリウム血症が主な所見となる。したがって「分泌亢進が高血圧をきたす」ホルモンとはいえない。
内分泌性高血圧の整理
・原発性アルドステロン症:アルドステロン過剰。高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシス。レニンは抑制され低値。二次性高血圧の中で頻度が高い。 ・腎血管性高血圧/レニン産生腫瘍:レニン高値、アルドステロンも二次的に高値(二次性アルドステロン症)。腎血管性高血圧は腹部の血管雑音が手がかり。 ・Cushing症候群:コルチゾール過剰。中心性肥満、満月様顔貌、赤色皮膚線条、耐糖能異常、骨粗鬆症などを伴う。 ・褐色細胞腫:カテコラミン過剰。発作性高血圧、頭痛・動悸・発汗、高血糖。 ・先端巨大症:成長ホルモン・IGF-1過剰。Na貯留などにより高血圧を合併しやすい。 ・甲状腺機能亢進症:心拍出量増加により収縮期高血圧・脈圧拡大。 ・その他:原発性副甲状腺機能亢進症、デオキシコルチコステロン(DOC)過剰をきたす先天性副腎過形成(11β-水酸化酵素欠損症、17α-水酸化酵素欠損症)など。
RAA系の流れ
アンジオテンシノゲン(肝)→レニン→アンジオテンシンⅠ→ACE(主に肺血管内皮)→アンジオテンシンⅡ→AT1受容体を介して血管収縮・アルドステロン分泌・Na再吸収促進。レニン分泌は腎灌流圧の低下、遠位尿細管(緻密斑)へのNaCl到達量の減少、交感神経β1刺激で促進される。
SIADHで高血圧・浮腫が出ない理由
水貯留による軽度の体液量増加がANP分泌増加・RAA系抑制を招き、Na利尿が生じる(いわゆるエスケープ現象)。結果として体液量はほぼ正常に保たれ、低ナトリウム血症のみが残る。
POINT
・レニン過剰(腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍)とコルチゾール過剰(Cushing症候群)はいずれも高血圧をきたす。 ・コルチゾール過剰で高血圧・低カリウム血症が起こるのは、大量のコルチゾールが11β-HSD2の処理能を超えて鉱質コルチコイド受容体を刺激するため。 ・バソプレシン過剰(SIADH)は高血圧ではなく、浮腫を伴わない希釈性低ナトリウム血症をきたす。 ・プロラクチン、カルシトニンは血圧と直接の関係がない。
