StudyMed医師国家試験

のどの風邪から10日後のコーラ色の尿―溶連菌感染後急性糸球体腎炎の「時間差」を読み解く

第101回医師国家試験 F問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第43問

急性糸球体腎炎について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.A群β溶血性レンサ球菌感染が関連する。
  2. b.上気道炎とほぼ同時に腎炎の症状が出現する。
  3. c.突然の浮腫と血尿とで発症する。
  4. d.腎生検では糸球体に半月体形成を認める。
  5. e.無治療では慢性腎不全に至る。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は急性糸球体腎炎の基本的な特徴を問う問題だ。ポイントは3つ。何が原因で起こるのか、感染からどれくらい後に発症するのか、そしてどんな経過をたどるのか。代表疾患である溶連菌感染後急性糸球体腎炎をイメージしながら考えていこう。
医学生医学生
急性糸球体腎炎というと、A群β溶血性レンサ球菌の感染後に起こる、と腎臓内科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎・扁桃炎や、皮膚の膿痂疹の後に起こるのが典型だ。好発年齢は学童期、おおむね3〜12歳くらいの小児に多い。では、なぜ感染した菌が腎臓に炎症を起こすのか、仕組みはわかるかな。
医学生医学生
菌が腎臓に直接入り込むわけではなくて、免疫の反応でしたよね。III型アレルギーだったと思います。
ドクタードクター
正解。レンサ球菌の抗原と、それに対する抗体からなる免疫複合体が糸球体に沈着・形成され、補体が活性化されて炎症が起こる。だから血液検査では、先行感染の証拠としてASOやASKが上昇し、補体のC3やCH50が低下するのが特徴なんだ。
医学生医学生
感染してすぐ腎炎になるのではなく、抗体ができるのを待つ必要があるということですね。
ドクタードクター
鋭いね。それがまさに「上気道炎とほぼ同時に腎炎症状が出る」という記述が誤りである理由だ。抗体がつくられて免疫複合体ができるまで時間がかかるから、咽頭炎の後なら約1〜3週間、平均10日前後の潜伏期がある。皮膚感染の後だと3〜6週間ほどだ。
医学生医学生
あれ、風邪をひいてすぐに血尿が出る病気もありませんでしたっけ。
ドクタードクター
よく思い出したね。上気道炎とほぼ同時期、数日以内に肉眼的血尿が出るのはIgA腎症の特徴だ。しかもIgA腎症では補体は通常下がらない。「時間差があって低補体なら溶連菌感染後」「同時期で補体正常ならIgA腎症」という対比は、鑑別の定番だよ。
医学生医学生
発症のしかたは、突然むくんで血尿が出る、というイメージで合っていますか。
ドクタードクター
合っている。元気だった子どもが、まぶたや顔のむくみと、コーラ色や紅茶色の肉眼的血尿で突然気づかれることが多い。糸球体の炎症で糸球体濾過量が急に落ち、水とナトリウムが体にたまるから、浮腫に加えて高血圧や乏尿も伴う。重症だとうっ血性心不全や、頭痛・けいれんを起こす高血圧性脳症に至ることもあるから油断は禁物だ。これが正しい選択肢のもう一つだね。
医学生医学生
腎生検で半月体が見えるという記述はどうでしょう。病理実習で半月体のスライドを見たとき、重症の腎炎というイメージを持ちました。
ドクタードクター
そのイメージは正しい方向だ。多数の糸球体に半月体ができるのは、数週〜数か月で腎機能が急速に悪化する急速進行性糸球体腎炎の特徴だ。溶連菌感染後急性糸球体腎炎の典型像は、糸球体係蹄内に好中球や単球が入り込み、内皮細胞やメサンギウム細胞が増殖する「びまん性管内増殖性糸球体腎炎」。電子顕微鏡では基底膜の上皮側に、こぶのような沈着物、humpが見えるのが特徴だ。まれに半月体を伴う重症例もあるけれど、典型ではない。
医学生医学生
そもそも小児の典型例では腎生検はあまりしないんですよね。小児科実習でも、臨床経過と採血で診断していました。
ドクタードクター
そう。典型例なら臨床的に診断がつくから、腎生検は低補体が長引く、腎機能の悪化が続く、ネフローゼ症候群を合併する、といった非典型的な経過のときに考慮する。
医学生医学生
最後の、無治療だと慢性腎不全に至るという記述は、自然に治ることが多いので誤りということですね。
ドクタードクター
その通り。安静、塩分・水分制限、必要に応じた利尿薬や降圧薬といった対症療法で、小児の大多数は回復する。浮腫や高血圧、肉眼的血尿は1〜2週間ほどで消え、補体は6〜8週以内に正常化する。顕微鏡的血尿は数か月から1年ほど残ることがあるけれど、慢性腎不全へ進むのはまれだ。ステロイドや免疫抑制薬も原則として不要だよ。
医学生医学生
逆に、補体が8週を過ぎても下がったままだったら、別の病気を考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
素晴らしい視点だ。低補体が持続するなら、膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎などを疑って精査する。これは臨床で本当に大切な見張りポイントだ。もう一つ、成人、特に高齢者や基礎疾患のある人では、小児より腎機能障害が残りやすく予後が悪いことがある点も覚えておこう。なお、溶連菌がまだ残っていればペニシリン系抗菌薬を使うけれど、これは主に周囲への感染拡大を防ぐ意味合いで、腎炎そのものの経過を改善するものではないんだ。

まとめ

急性糸球体腎炎の代表は、A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎や皮膚感染の後に、免疫複合体の沈着と補体活性化(III型アレルギー)で生じる溶連菌感染後急性糸球体腎炎で、学童期の小児に好発します。咽頭炎後1〜3週間の潜伏期をおいて、浮腫・血尿・高血圧・乏尿が突然出現し、ASO・ASKの上昇と一過性の低補体血症を伴います。上気道炎と同時期の肉眼的血尿はIgA腎症を、多数の半月体形成は急速進行性糸球体腎炎を示唆し、本症の典型像はびまん性管内増殖性糸球体腎炎と上皮下のhumpです。小児では対症療法で多くが自然に回復し慢性腎不全への移行はまれですが、補体の低下が6〜8週を超えて続く場合は他の腎炎を疑う必要があります。発症までの時間差、補体の推移、病理像という3つの軸で整理すると、糸球体疾患全般の鑑別が見通しよく理解できます。

解答・解説

正解はa, cです

急性糸球体腎炎は、先行感染の後に一定の潜伏期間をおいて、血尿・蛋白尿・浮腫・高血圧・乏尿などの腎炎症候(急性腎炎症候群)が急激に出現する疾患である。代表はA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)感染後の急性糸球体腎炎(poststreptococcal acute glomerulonephritis:PSAGN)で、学童期(おおむね3〜12歳)の小児に多い。

病態

・レンサ球菌の抗原(腎炎惹起性抗原として NAPlr〈腎炎関連プラスミン受容体〉やSpeB〈発熱性外毒素B〉が知られる)と、それに対する抗体とからなる免疫複合体が糸球体に沈着・形成され、補体が活性化されて糸球体に炎症が起こる(III型アレルギー)。 ・抗体が作られ免疫複合体が形成されるまでに時間を要するため、感染から発症までに潜伏期間がある(咽頭炎・扁桃炎後は約1〜3週間、平均10日前後。皮膚感染〈膿痂疹〉後は3〜6週間程度)。

症状・検査

・肉眼的血尿(コーラ色・紅茶色の尿)や顕微鏡的血尿、蛋白尿、眼瞼・顔面の浮腫、高血圧、乏尿が急激に出現する。 ・糸球体濾過量が低下して水とナトリウムが体内に貯留するため、浮腫や高血圧、重症例ではうっ血性心不全や高血圧性脳症をきたす。 ・ASO(抗ストレプトリジンO抗体)やASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇が先行感染の証拠となる。 ・補体の低下(血清C3、CH50の低下)が特徴で、通常6〜8週以内に正常化する。低補体が長引く場合は膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎などを疑う。

病理

・光顕:糸球体係蹄内に好中球や単球が浸潤し、内皮細胞・メサンギウム細胞が増殖する「びまん性管内増殖性糸球体腎炎」。 ・蛍光抗体法:IgGとC3が係蹄壁に顆粒状に沈着(starry sky パターンなど)。 ・電顕:糸球体基底膜の上皮下にこぶ状の沈着物(hump)を認める。

経過

小児では予後良好で、安静・水分や塩分の制限・利尿薬や降圧薬による対症療法により、多くは数週間で自然に回復する。以上から、正しいのはA群β溶血性レンサ球菌感染との関連(a)と、突然の浮腫・血尿での発症(c)である。

選択肢考察

  1. ○a.  A群β溶血性レンサ球菌感染が関連する。

    正しい。急性糸球体腎炎の大部分は、A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎・扁桃炎や皮膚感染(膿痂疹)の後に発症する。菌体成分に対する抗体と抗原からなる免疫複合体が糸球体に沈着し、補体を活性化して糸球体炎を起こす。先行感染の証明にはASOやASKの上昇が用いられ、咽頭培養や迅速抗原検査で菌が検出されることもある。なお、ブドウ球菌やウイルスなど他の病原体の感染後にも同様の腎炎が起こることがある。

  2. ×b.  上気道炎とほぼ同時に腎炎の症状が出現する。

    誤り。PSAGNでは、上気道炎(咽頭炎・扁桃炎)の後、約1〜3週間(平均10日前後)の潜伏期間をおいて腎炎症状が出現する。免疫複合体の形成に時間を要するためである。これに対し、上気道炎とほぼ同時期(数日以内)に肉眼的血尿が出現するのはIgA腎症の特徴であり、両者の鑑別点として重要である。IgA腎症では補体は通常低下しない点も鑑別に役立つ。

  3. ○c.  突然の浮腫と血尿とで発症する。

    正しい。急性糸球体腎炎は、それまで健康だった小児に、眼瞼・顔面の浮腫と血尿(しばしばコーラ色の肉眼的血尿)が突然出現して気づかれることが多い。糸球体の炎症により糸球体濾過量が急に低下し、水とナトリウムが貯留するため、浮腫に加えて高血圧や乏尿を伴う。蛋白尿もみられるが、ネフローゼ域に達することは少ない。重症例ではうっ血性心不全や高血圧性脳症(頭痛、けいれん、意識障害)をきたすことがあり注意を要する。

  4. ×d.  腎生検では糸球体に半月体形成を認める。

    誤り。PSAGNの典型的な組織像は、好中球・単球の浸潤と内皮細胞・メサンギウム細胞の増殖による係蹄内腔の狭小化を示すびまん性管内増殖性糸球体腎炎であり、電顕では上皮下のhumpが特徴である。多数の糸球体に半月体(ボウマン嚢内の細胞増殖)を認めるのは、数週〜数か月で腎機能が急速に悪化する急速進行性糸球体腎炎(RPGN:抗GBM抗体型、ANCA関連型、免疫複合体型)の特徴である。PSAGNでもまれに半月体を伴う重症例はあるが、典型像ではない。なお、典型的な小児例では診断が臨床的につくため、腎生検は通常行わず、経過が非典型的な場合(低補体の遷延、腎機能悪化の持続、ネフローゼ症候群の合併など)に考慮する。

  5. ×e.  無治療では慢性腎不全に至る。

    誤り。PSAGNは自然治癒傾向の強い疾患であり、特に小児では安静、塩分・水分制限、必要に応じた利尿薬や降圧薬などの対症療法のみで、大多数が回復する。浮腫・高血圧・肉眼的血尿は通常1〜2週間ほどで消失し、補体は6〜8週以内に正常化する。顕微鏡的血尿は数か月から1年程度残ることがあるが、慢性腎不全へ進行することはまれである。ステロイドや免疫抑制薬は原則として不要である。ただし成人例、特に高齢者や基礎疾患のある例では、腎機能障害が残るなど小児より予後が悪いことがある。

急性腎炎症候群

血尿・蛋白尿・高血圧・浮腫・糸球体濾過量低下が急激に出現する臨床症候群をいう。代表がPSAGNであり、他にIgA腎症の急性増悪、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA血管炎(紫斑病性腎炎)などでも同様の症候を示すことがある。

PSAGNとIgA腎症の比較

・先行感染からの期間:PSAGN=1〜3週間の潜伏期/IgA腎症=上気道炎と同時期〜数日以内の肉眼的血尿 ・血清補体(C3):PSAGN=一過性に低下/IgA腎症=正常 ・血清IgA:PSAGN=正常/IgA腎症=高値のことがある ・経過:PSAGN=多くは自然治癒/IgA腎症=慢性に経過し、一部は末期腎不全に進行

急速進行性糸球体腎炎(RPGN)との違い

RPGNは数週〜数か月の経過で腎機能が急速に低下する症候群で、病理では多数の糸球体に半月体形成(半月体形成性糸球体腎炎)を認める。抗GBM抗体型(Goodpasture症候群を含む)、ANCA関連型(顕微鏡的多発血管炎など)、免疫複合体型に分けられ、ステロイドや免疫抑制薬による早期治療が必要である。

低補体血症を示す糸球体腎炎

・PSAGN(一過性、6〜8週以内に正常化) ・膜性増殖性糸球体腎炎(持続性) ・ループス腎炎(活動期) ・クリオグロブリン血症性腎炎(C型肝炎関連など)

治療の要点

・急性期は安静、塩分・水分制限、蛋白制限。 ・浮腫・高血圧にはループ利尿薬、降圧薬(カルシウム拮抗薬など)。 ・レンサ球菌感染が残っていればペニシリン系抗菌薬を投与する(周囲への感染拡大防止の意味もあるが、腎炎の発症や経過自体を改善するものではない)。

POINT

・急性糸球体腎炎の代表はA群β溶血性レンサ球菌感染後(PSAGN)で、学童期に好発。 ・咽頭炎後1〜3週間(皮膚感染後は3〜6週間)の潜伏期をおいて、浮腫・血尿・高血圧・乏尿で急性発症。 ・上気道炎と同時期の肉眼的血尿はIgA腎症を示唆。 ・ASO・ASK上昇、一過性の低補体血症(C3・CH50低下、6〜8週以内に正常化)。 ・病理はびまん性管内増殖性糸球体腎炎、電顕で上皮下hump。半月体はRPGN。 ・小児では自然治癒傾向が強く、慢性腎不全への移行はまれ。成人ではやや予後不良。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。