腸の病気は腸だけでは終わらない―大腸疾患と合併症をつなぐ「機序」の糸
第101回医師国家試験 F問題 第31問
国試問題にチャレンジ
大腸疾患と合併症の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.腸結核 ―― 溶血性尿毒症症候群〈HUS〉
- b.アメーバ赤痢 ―― 肝膿瘍
- c.潰瘍性大腸炎 ―― 原発性硬化性胆管炎
- d.過敏性腸症候群 ―― ぶどう膜炎
- e.大腸カルチノイド ―― 結節性紅斑
対話形式の解説
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医学生まとめ
大腸疾患の合併症は、疾患の本質(感染・炎症・機能性・腫瘍)と合併症の機序を結びつけると整理できます。アメーバ赤痢では赤痢アメーバが大腸潰瘍から門脈を経て肝臓に達し、右葉単発・チョコレート色内容のアメーバ性肝膿瘍を形成します。潰瘍性大腸炎は原発性硬化性胆管炎を高率に合併し、ほかに関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、ぶどう膜炎など多彩な腸管外合併症を示します。一方、HUSは腸管出血性大腸菌の志賀毒素による合併症、過敏性腸症候群は炎症を伴わない機能性疾患、カルチノイド症候群で起こるのは潮紅発作であり結節性紅斑ではありません。機序に基づいて組合せを理解することは、腸管外症状から背景の腸疾患を見抜く臨床推論にも直結します。
解答・解説
正解はb, cです
問われていること
大腸の各疾患について、その疾患に特徴的な腸管外の合併症を対応づけられるかを問う問題である。合併症には、病原体が腸管から他臓器へ広がって生じるもの(感染症の遠隔病変)と、腸の炎症に伴う免疫学的な機序で生じるもの(腸管外合併症)がある。
考え方
・アメーバ赤痢は、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)が大腸粘膜に潰瘍をつくり、そこから門脈を経て肝臓へ運ばれることで肝膿瘍を形成する。感染の経路をたどれば結びつく組合せである。 ・潰瘍性大腸炎(UC)やCrohn病などの炎症性腸疾患(IBD)は、関節炎、皮膚病変(結節性紅斑・壊疽性膿皮症)、眼病変(ぶどう膜炎・上強膜炎)、肝胆道病変(原発性硬化性胆管炎)など多彩な腸管外合併症をもつ。 ・一方、溶血性尿毒症症候群(HUS)は腸管出血性大腸菌感染症、ぶどう膜炎や結節性紅斑は炎症性腸疾患やBehçet病などに結びつく病態であり、選択肢に組み合わされた腸結核・過敏性腸症候群・大腸カルチノイドとは対応しない。 各選択肢の「疾患」側の病態(感染か、炎症性か、機能性か、腫瘍か)を押さえ、それに見合った合併症かどうかを確認すると判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 腸結核 ―― 溶血性尿毒症症候群〈HUS〉
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、溶血性貧血(破砕赤血球を伴う)、血小板減少、急性腎障害を三徴とする血栓性微小血管症である。典型例は腸管出血性大腸菌(O157など)が産生する志賀毒素(Vero毒素)によって血管内皮が障害されて起こり、下痢・血便の発症から数日〜1週間ほどで出現する。小児に多い。腸結核の合併症ではない。腸結核は結核菌が主に回盲部に感染する疾患で、腸管の短軸方向に広がる輪状・帯状潰瘍や、潰瘍が治癒した後の萎縮瘢痕帯が特徴であり、合併症としては腸管狭窄による通過障害、出血、穿孔などがある。
- ○b. アメーバ赤痢 ―― 肝膿瘍
赤痢アメーバの囊子を経口摂取すると、大腸(特に盲腸・上行結腸と直腸)で栄養型となり粘膜に侵入してタコつぼ状の潰瘍をつくり、粘血便(イチゴゼリー状)をきたす。栄養型が門脈を通って肝臓へ運ばれると、アメーバ性肝膿瘍を形成する。肝右葉に単発で生じることが多く、発熱と右季肋部痛を呈する。穿刺内容はチョコレート色あるいはアンチョビペースト状と表現される。腸炎症状がはっきりしないまま肝膿瘍で見つかることもある。性行為(特に男性同性間)による感染も多く、HIV感染症などの性感染症の合併に注意する。治療はメトロニダゾールで、腸管内に残る囊子の除去にはパロモマイシンを用いる。
- ○c. 潰瘍性大腸炎 ―― 原発性硬化性胆管炎
原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝内・肝外胆管に原因不明の炎症と線維化が起こり、胆管が狭窄と拡張を繰り返して数珠状となる慢性胆汁うっ滞性疾患である。炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎を高率に合併することが知られており、潰瘍性大腸炎の代表的な腸管外合併症の一つである。胆道系酵素(ALP、γ-GTP)の上昇が手がかりとなり、MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)などで胆管像を評価する。PSCを合併した潰瘍性大腸炎では大腸癌の危険性が高まり、PSC自体も胆管癌の発生母地となるため、定期的な監視が必要である。
- ×d. 過敏性腸症候群 ―― ぶどう膜炎
過敏性腸症候群(IBS)は、内視鏡や血液検査で説明できる器質的異常がないのに、腹痛と便通異常(下痢・便秘、またはその混合)が慢性的に繰り返す機能性腸疾患である。腹痛が排便に関連し、排便回数や便の形状の変化を伴うことが特徴で、ストレスなどの心理社会的要因や腸の知覚過敏・運動異常が関わる。全身性の炎症を伴わないため、ぶどう膜炎のような腸管外の炎症性合併症は起こさない。ぶどう膜炎はBehçet病、サルコイドーシス、Vogt-小柳-原田病のほか、潰瘍性大腸炎やCrohn病、強直性脊椎炎などに合併する。
- ×e. 大腸カルチノイド ―― 結節性紅斑
カルチノイドは現在、神経内分泌腫瘍(NET)と呼ばれる。消化管のNETはセロトニンなどの生理活性物質を産生することがあり、これらが肝臓で分解されずに全身へ出る状況(主に肝転移を伴う場合)では、皮膚紅潮(顔面の潮紅発作)、下痢、喘息様の気管支攣縮、右心系の弁膜症などを示すカルチノイド症候群を起こす。紅潮は血管拡張による一過性の発赤であり、皮下脂肪組織の炎症である結節性紅斑とは異なる。なお、日本の大腸NETは直腸に多く、小さなものは内視鏡的に切除され、カルチノイド症候群をきたすことはまれである。結節性紅斑は下腿伸側に生じる有痛性の紅斑性結節で、炎症性腸疾患、Behçet病、サルコイドーシス、溶連菌感染症、結核、薬剤などに伴って起こる。
潰瘍性大腸炎の主な合併症
・腸管合併症:大量出血、中毒性巨大結腸症、穿孔、大腸癌(長期経過・全大腸炎型で危険性が高い)。 ・腸管外合併症: - 関節:末梢関節炎、強直性脊椎炎・仙腸関節炎 - 皮膚:結節性紅斑、壊疽性膿皮症 - 眼:ぶどう膜炎、上強膜炎 - 肝胆道:原発性硬化性胆管炎 - その他:血栓塞栓症、口内炎(アフタ)など ・Crohn病でも同様の腸管外合併症がみられるほか、瘻孔・狭窄・肛門病変、胆石・尿路結石(シュウ酸カルシウム)などが特徴的である。
肝膿瘍の比較
・化膿性(細菌性)肝膿瘍:胆道感染からの波及が多い。起炎菌は肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)や大腸菌などのグラム陰性桿菌、嫌気性菌。多発しやすい。糖尿病が危険因子。 ・アメーバ性肝膿瘍:大腸病変から門脈経由で波及。右葉に単発が多い。内容はチョコレート色。血清抗体検査が診断に役立ち、メトロニダゾールがよく効く。
感染性腸炎と合併症の組合せ
・腸管出血性大腸菌:溶血性尿毒症症候群、脳症。 ・カンピロバクター:Guillain-Barré症候群。 ・エルシニア、サルモネラ、赤痢菌など:反応性関節炎。 ・赤痢アメーバ:肝膿瘍。
POINT
・アメーバ赤痢は門脈を介してアメーバ性肝膿瘍(右葉・単発・チョコレート色の内容)を起こす。治療はメトロニダゾール。 ・潰瘍性大腸炎の腸管外合併症:原発性硬化性胆管炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、ぶどう膜炎、関節炎。 ・溶血性尿毒症症候群は腸管出血性大腸菌(志賀毒素)の合併症で、腸結核とは関係しない。 ・過敏性腸症候群は器質的異常のない機能性疾患で、腸管外の炎症性合併症は起こさない。 ・カルチノイド(神経内分泌腫瘍)で起こるのは皮膚紅潮発作(カルチノイド症候群)であり、結節性紅斑ではない。
