縦隔腫瘍は「住所」で絞り込む―前縦隔の4つのTを攻略する
第101回医師国家試験 F問題 第29問
国試問題にチャレンジ
前縦隔に発生する頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.胸腺腫
- b.奇形腫
- c.神経原性腫瘍
- d.気管支性囊胞
- e.Bochdalek孔ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
縦隔腫瘍は、各区分にもともと存在する臓器・組織から発生するため、部位から候補を推定できます。前縦隔には胸腺腫、奇形腫などの胚細胞腫瘍、胸骨下甲状腺腫、悪性リンパ腫(4つのT)が好発し、中縦隔には気管支性囊胞や心膜囊胞、リンパ節病変、後縦隔には神経原性腫瘍が好発します。Bochdalek孔ヘルニアは横隔膜後外側(左に多い)の先天性横隔膜ヘルニアで、縦隔腫瘍ではありません。胸腺腫は成人の縦隔腫瘍で最多であり、重症筋無力症・赤芽球癆・低γグロブリン血症の合併に注意が必要です。「場所」と「患者背景・検査」を組み合わせて鑑別する姿勢は、胸部画像読影の基本となります。
解答・解説
正解はa, bです
縦隔の区分と好発病変
縦隔は左右の肺にはさまれた領域で、胸骨の後ろから椎体の前までを含む。臨床的には前・中・後(施設や分類により上縦隔を加える)に分けて考え、縦隔腫瘍は「どの区分に、どの臓器・組織があるか」から発生部位を推定できる。 ・前縦隔:胸骨の後方、心臓・大血管の前方。胸腺、リンパ節、脂肪組織があり、胸腺腫などの胸腺上皮性腫瘍、胚細胞腫瘍(奇形腫など)、悪性リンパ腫、胸骨下に伸びた甲状腺腫が好発する。 ・中縦隔:心臓・大血管、気管・主気管支、食道の周辺。気管支性囊胞、心膜囊胞、リンパ節病変(悪性リンパ腫、サルコイドーシス、転移)などが生じる。 ・後縦隔:椎体の前方から両側の傍椎体領域。交感神経幹や肋間神経が走行し、神経原性腫瘍が好発する。
考え方
前縦隔腫瘍は英語の頭文字をとって「4つのT」(thymoma:胸腺腫、teratoma:奇形腫、thyroid:甲状腺腫、terrible lymphoma:悪性リンパ腫)と覚えると整理しやすい。選択肢のうち前縦隔に好発するのは胸腺腫と奇形腫である。神経原性腫瘍は後縦隔、気管支性囊胞は中縦隔が好発部位であり、Bochdalek孔ヘルニアは横隔膜後外側の欠損を通る先天性横隔膜ヘルニアで、縦隔腫瘍ではない。
選択肢考察
- ○a. 胸腺腫
胸腺は前縦隔(上部)に位置する臓器であり、その上皮細胞から発生する胸腺腫は前縦隔に好発する。成人の縦隔腫瘍の中で最も頻度が高い。中高年に多く、重症筋無力症(胸腺腫患者の約3割に合併)、赤芽球癆、低γグロブリン血症(Good症候群)などの自己免疫性・免疫異常性疾患を合併しやすいことが特徴である。治療は外科的切除(胸腺胸腺腫摘出術)が基本で、進行度に応じて放射線療法や化学療法を加える。
- ○b. 奇形腫
奇形腫は胚細胞腫瘍の一つで、外胚葉・中胚葉・内胚葉の3胚葉由来の組織(皮膚、毛髪、歯、脂肪、軟骨など)を含む。性腺外の胚細胞腫瘍は体の正中線上に生じやすく、縦隔では前縦隔に好発する。縦隔胚細胞腫瘍の中では成熟奇形腫が最も多く、若年者に多い。CTで脂肪、石灰化(歯・骨を含む)、囊胞成分が混在する所見が特徴的である。成熟奇形腫は良性であり外科的切除を行う。なお、悪性の胚細胞腫瘍(セミノーマ、卵黄囊腫瘍など)は若年男性に多く、AFP(αフェトプロテイン)やhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が腫瘍マーカーとなる。
- ×c. 神経原性腫瘍
肋間神経や交感神経幹など、胸腔内の末梢神経・神経節から発生する腫瘍である。これらの神経は椎体の両脇(傍椎体領域)を走るため、後縦隔に好発する。成人では神経鞘腫や神経線維腫などの良性腫瘍が多く、小児では神経芽腫や神経節芽腫などの交感神経節由来の腫瘍が多い。椎間孔を通じて脊柱管内へ伸び、砂時計(ダンベル)型の腫瘍となることがある。
- ×d. 気管支性囊胞
胎生期の前腸から気管・気管支が分かれて発生する過程での異常により生じる先天性の囊胞で、壁に気道上皮(線毛円柱上皮)や軟骨を含む。気管分岐部や気管・主気管支の近傍、すなわち中縦隔に好発する。無症状で偶然発見されることが多いが、大きくなると気道や食道を圧迫したり、感染を起こしたりする。
- ×e. Bochdalek孔ヘルニア
横隔膜の後外側にある胸腹裂孔(Bochdalek孔)が閉じずに残り、腹腔内臓器(腸管、胃、脾など)が胸腔内へ脱出する先天性横隔膜ヘルニアである。約8〜9割が左側に生じる。新生児期に呼吸困難やチアノーゼで発症し、胸腔内の臓器により肺が圧迫されて肺低形成や肺高血圧をきたすことが予後を左右する。縦隔の腫瘍性病変ではなく、部位も横隔膜の後外側であり、前縦隔とは関係しない。前方の横隔膜欠損(胸骨後方)を通るヘルニアはMorgagni孔ヘルニアであり、右側に多い。
縦隔の区分と主な病変のまとめ
・前縦隔:胸腺腫・胸腺癌(胸腺上皮性腫瘍)、胸腺囊胞、胚細胞腫瘍(成熟奇形腫、セミノーマ、非セミノーマ性胚細胞腫瘍)、悪性リンパ腫、胸骨下甲状腺腫。 ・中縦隔:気管支性囊胞、心膜囊胞(右の心横隔膜角に多い)、食道囊胞、リンパ節腫大(悪性リンパ腫、サルコイドーシス、結核、癌の転移)。 ・後縦隔:神経原性腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫、神経節細胞腫、神経芽腫)、神経腸囊胞。
縦隔腫瘍の頻度
成人では胸腺腫などの胸腺上皮性腫瘍が最多で、次いで神経原性腫瘍、胚細胞腫瘍、囊胞性疾患、リンパ腫などが続く。小児では神経原性腫瘍(神経芽腫など)の比率が高い。
胸腺腫と自己免疫疾患
胸腺腫では重症筋無力症の合併が最も多く、逆に重症筋無力症の患者の一部(1〜2割程度)に胸腺腫がみられる。重症筋無力症患者には胸部CTで胸腺腫の有無を確認する。
先天性横隔膜ヘルニアの比較
・Bochdalek孔ヘルニア:後外側、左に多い、新生児期の呼吸障害、肺低形成が予後因子。 ・Morgagni孔ヘルニア:前方(胸骨後方)、右に多い、成人で偶然発見されることもある。
POINT
・前縦隔の好発病変は「4つのT」:胸腺腫、奇形腫(胚細胞腫瘍)、甲状腺腫、悪性リンパ腫。 ・胸腺腫は成人の縦隔腫瘍で最多。重症筋無力症、赤芽球癆、低γグロブリン血症を合併しうる。 ・中縦隔:気管支性囊胞、心膜囊胞、リンパ節病変。 ・後縦隔:神経原性腫瘍(成人は神経鞘腫、小児は神経芽腫)。 ・Bochdalek孔ヘルニアは横隔膜後外側・左に多い先天性横隔膜ヘルニアであり、縦隔腫瘍ではない。
