採血管の中で起きる「偽の異常値」―溶血でLDが跳ね上がるわけ
第101回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
溶血が検査値に影響を与えるのはどれか。
- a.LD
- b.尿酸
- c.中性脂肪
- d.ナトリウム
- e.カルシウム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
採血時の強い吸引や検体の激しい振とう、長時間放置などで赤血球が壊れる試験管内溶血は、検査値の見かけ上の変動の代表的な原因です。影響の大きさは成分の「赤血球内濃度/血漿中濃度」の比で決まり、赤血球内に血漿の約160倍含まれるLDは、わずかな溶血でも著明な偽高値を示します。カリウム(約20〜25倍)やASTも溶血で上昇する一方、赤血球内濃度の低いナトリウム・カルシウムや、主に血漿中に存在する尿酸・中性脂肪はほとんど影響を受けません。全血の冷蔵による偽高カリウム血症にも注意が必要で、生体内の溶血ではハプトグロビン低下や間接ビリルビン上昇なども伴います。検査値の異常が検体由来か病態由来かを見極める視点は、不要な検査や治療を避けるための基本的な臨床スキルです。
解答・解説
正解はaです
採血時に細い針で強く吸引する、検体を激しく振る、長時間放置する、冷蔵・凍結するなどの操作によって赤血球が壊れると、赤血球内の成分が血清(血漿)中へ漏れ出る。これを試験管内溶血(in vitro溶血)といい、検査値の見かけ上の変動(偽高値など)の代表的な原因である。 溶血の影響を受けやすいかどうかは、「その成分の赤血球内濃度が血漿中濃度よりどれだけ高いか」で判断できる。赤血球内に血漿よりはるかに高濃度で含まれる成分は、わずかな溶血でも血清中の値を大きく押し上げる。代表がLD(乳酸脱水素酵素)で、赤血球内の濃度は血漿の約160倍とされ、溶血によって著明な偽高値を示す。ほかにカリウム(赤血球内は血漿の約20〜25倍)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、酸性ホスファターゼなども溶血で上昇する。 反対に、赤血球内濃度が血漿と同等以下の成分(ナトリウム、カルシウムなど)や、主に血漿中に存在する成分(中性脂肪、尿酸など)は、溶血による影響をほとんど受けない。
選択肢考察
- ○a. LD
LD(lactate dehydrogenase:乳酸脱水素酵素)は解糖系の最終段階で働く酵素で、ほぼすべての細胞に存在し、赤血球内にも豊富に含まれる。赤血球内の濃度は血漿の約160倍とされるため、採血後の試験管内溶血でも血清LDは見かけ上著しく上昇する。臨床的にも溶血性貧血ではLD(特に赤血球に多いアイソザイムLD1・LD2)が上昇し、溶血の指標として用いられる。したがって検体の溶血は、LDの測定値に大きな影響を与える。
- ×b. 尿酸
尿酸はプリン体の最終代謝産物で、血漿中に溶けて存在し、赤血球内に高濃度で蓄えられているわけではないため、溶血による影響はほとんどない。尿酸値を変動させる要因としては、性差(男性で高い)、年齢、食事(プリン体・アルコール・果糖)、飲酒、脱水、薬剤(サイアザイド系利尿薬など)がある。
- ×c. 中性脂肪
中性脂肪(トリグリセリド)はリポ蛋白(カイロミクロンやVLDL)に含まれて血漿中を運ばれており、溶血の影響はほとんど受けない。一方、食事の影響を強く受け、食後には大きく上昇するため、原則として10時間以上の絶食後の空腹時採血で評価する(空腹時150 mg/dL以上で高トリグリセリド血症)。
- ×d. ナトリウム
ナトリウムは主に細胞外液に分布する陽イオンで、血漿中濃度は約140 mEq/Lであるのに対し、赤血球内濃度は十数mEq/L程度と低い。したがって溶血が起きても血清ナトリウムを上昇させることはなく、通常の溶血の程度では測定値への影響は無視できる。細胞内に多いカリウムとは逆の分布である点を押さえておく。
- ×e. カルシウム
体内のカルシウムの約99%は骨・歯に存在し、残りの大部分は細胞外液中にある。赤血球内のカルシウム濃度は、Ca2+ポンプにより細胞外へくみ出されているため極めて低い。そのため溶血しても血清カルシウム値はほとんど変化しない。なお血清カルシウムは血清アルブミン濃度の影響を受けるため、低アルブミン血症では補正値で評価する。
溶血で偽高値となる主な検査項目
・LD(赤血球内は血漿の約160倍とされる) ・カリウム(赤血球内は約100 mEq/L前後で、血漿の約20〜25倍) ・AST、酸性ホスファターゼ、無機リン、マグネシウムなど ・遊離ヘモグロビン(血清が赤色調になる) なお、ALTも赤血球内に含まれるが、ASTに比べ影響は小さい。
溶血の影響を受けにくい項目
ナトリウム、カルシウム、クロール、尿酸、中性脂肪、コレステロールなど(ただし著しい溶血では、遊離ヘモグロビンの色が比色法による測定に干渉し、一部の項目で誤差が出ることがある)。
試験管内溶血を防ぐ採血・検体処理の注意
・細すぎる針や強い陰圧での吸引を避ける。 ・採血後の検体を激しく振らない(抗凝固薬との混和は静かに転倒混和)。 ・全血のまま長時間放置したり冷蔵したりしない。全血を冷蔵すると、目に見える溶血がなくても赤血球のNa+/K+-ATPaseが働かなくなり、カリウムが血漿中へ移行して偽高カリウム血症となる。
臨床での溶血との区別
溶血性貧血など生体内での溶血でも、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加などがみられる。検査値の異常が検体の溶血によるものか、生体内の病態によるものかを区別することが重要である。
POINT
・溶血の影響の大小は「赤血球内濃度/血漿中濃度」の比で決まる。 ・LD(約160倍)、カリウム(約20〜25倍)、ASTは溶血で偽高値となる代表項目。 ・ナトリウム、カルシウムは赤血球内濃度が低く、尿酸・中性脂肪は血漿中に存在するため、溶血の影響をほとんど受けない。 ・中性脂肪は食事の影響を強く受けるため空腹時に採血する。
