StudyMed医師国家試験

「隣人が見張っている」―寡黙と妄想の裏にある統合失調症と治療薬の選び方

第101回医師国家試験 A問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第101回 A問題 第5問

18歳の男子。1年前から昼夜逆転の生活となり,心配した母親に伴われ来院した。高校2年生までは友人も多く,クラブ活動にも積極的に参加していた。1年前から徐々に口数が減り,最近はほとんど話をしなくなった。隣人が見張っていると言いだし,部屋のカーテンを一日中閉めたままにしていたり,隣人の悪口を言ったりするようになった。意識は清明。身長175cm,体重56kg。表情は硬く,質問に対してもほとんど返答しない。 適切な治療薬はどれか。

  1. a.抗てんかん薬
  2. b.抗精神病薬
  3. c.抗不安薬
  4. d.抗うつ薬
  5. e.睡眠薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若者の行動変化から精神疾患を見抜き、治療薬を選ぶ問題だ。ポイントは、目立つ症状の一部に飛びつかず、経過全体から診断を組み立てること。まずは、この1年間の変化をどう読むかから始めよう。
医学生医学生
口数が減って、昼夜逆転して、表情も硬い……。最初はうつ病かなと思いました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも、もう一つ大事な情報がある。「隣人が見張っている」という訴えだ。これは精神医学的には何と呼ぶ症状かな。
医学生医学生
誰かに監視されていると確信しているので、注察妄想ですか。悪口を言ったりカーテンを閉め切ったりするのは、被害妄想に基づく行動でしょうか。
ドクタードクター
その通り。妄想は統合失調症の陽性症状の代表だ。一方で、口数が減る、表情が硬い、ほとんど返答しないといった変化は、会話の貧困や感情の平板化、意欲低下にあたる。こちらは陰性症状だね。
医学生医学生
精神科の講義で、陽性症状と陰性症状の両方がそろうのが統合失調症の特徴だと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。さらに、病前は友人も多く部活動にも熱心だったのに、1年かけて機能が落ちていること、そして10代後半という年齢。統合失調症の好発年齢にぴったり重なる。意識は清明だから、せん妄などの器質的な問題も考えにくい。
医学生医学生
DSM-5の基準だと、症状が6か月以上続くことが必要でしたよね。1年なので満たしますね。
ドクタードクター
そうだね。診断がつけば、治療薬は抗精神病薬が中心になる。ドパミンD2受容体を遮断して、妄想や幻覚といった陽性症状を改善するんだ。
医学生医学生
では、ほかの薬が外れる理由も確認させてください。寡黙で表情が硬いなら、抗うつ薬も効きそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
うつ病の精神運動制止と紛らわしいのは確かだ。でも本例では妄想が前景にあって、寡黙さは陰性症状や疎通性の低下とみるべきだね。統合失調症に抗うつ薬を単独で使っても、精神病症状は改善しない。
医学生医学生
昼夜逆転には睡眠薬、というのも同じ落とし穴ですね。
ドクタードクター
その通り。昼夜逆転は病気による生活リズムの乱れという二次的な現象だから、睡眠薬だけでは根本的な解決にならない。抗精神病薬で原疾患を治療すれば、鎮静作用も含めて睡眠リズムの改善が期待できる。抗不安薬も、不安症や一時的な緊張には使うけれど、妄想そのものには効かない。強い不安や焦燥に補助的・短期的に使うことはあるけれどね。
医学生医学生
抗てんかん薬は、気分安定薬として双極性障害に使うイメージがあります。
ドクタードクター
そうだね。本例には発作も気分の波もない。ただ、側頭葉てんかんでは精神症状が目立つことがあるから、若年者の精神病状態では鑑別として頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
症状のひとつひとつに薬を当てはめるんじゃなくて、全体像から診断して薬を選ぶ、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれが今回の核心だ。発展知識として、抗精神病薬の分類も押さえておこう。現在は、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどの非定型(第二世代)が主流で、ハロペリドールなどの定型(第一世代)に比べて錐体外路症状が出にくい。
医学生医学生
臨床実習で、オランザピンは糖尿病の患者さんには使えないと教わりました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。オランザピンとクエチアピンは高血糖や体重増加のリスクがあり、糖尿病患者には禁忌だ。また、治療抵抗性の場合はクロザピンを使うけれど、無顆粒球症のリスクがあるため血液検査によるモニタリングが欠かせない。どの抗精神病薬でも、高熱・筋強剛・意識障害・CK上昇をきたす悪性症候群には常に注意しよう。
医学生医学生
薬だけでなく、本人や家族への支援も大切なんですよね。
ドクタードクター
その通り。心理教育や家族支援、社会生活技能訓練(SST)などの心理社会的治療を組み合わせることで、再発予防や社会復帰につなげていく。今回のように、心配した家族が連れてくるケースは多いから、家族を支える視点も忘れないでほしい。

まとめ

病前の適応が良好だった若年者に、注察妄想・被害妄想といった陽性症状と、寡黙・感情の平板化・意欲低下といった陰性症状が1年かけて現れた場合は、統合失調症を第一に考えます。治療の中心はドパミンD2受容体遮断作用をもつ抗精神病薬で、錐体外路症状の少ない非定型抗精神病薬が主に用いられます。寡黙を「うつ」、昼夜逆転を「不眠」と部分的に捉えて抗うつ薬や睡眠薬を選ぶのは誤りで、抗不安薬や抗てんかん薬も主たる治療薬にはなりません。オランザピン・クエチアピンの糖尿病への禁忌、クロザピンの無顆粒球症、悪性症候群といった副作用にも注意が必要です。症状を全体像としてまとめて診断し、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせる姿勢は、精神科診療全般の基本となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・18歳の男子。思春期から青年期にかけては統合失調症の好発年齢である。 ・高校2年生までは友人が多く部活動にも参加しており、病前の社会適応は良好だった。そこから約1年かけて、口数が減り、ほとんど話さなくなった。社会的ひきこもり、会話の貧困(思考の貧困)、意欲低下といった陰性症状が徐々に進んできたと読み取れる。 ・「隣人が見張っている」は、他者から監視されていると確信する注察妄想である。隣人の悪口を言う、カーテンを一日中閉め切るといった行動は、隣人から害を受けているという被害的な確信(被害妄想)と、それに基づく防衛的な行動と考えられる。いずれも陽性症状にあたる。 ・昼夜逆転は、病的体験や意欲低下によって生活リズムが崩れた結果とみるのが自然である。 ・意識は清明で、せん妄や意識障害を伴う器質性疾患は考えにくい。身長175cm・体重56kg(BMI約18.3)とやせ型だが、摂食障害を示唆する記載はない。 ・表情が硬く、質問にもほとんど答えない。感情の平板化や疎通性の低下を示している。

診断へのプロセス

意識清明な若年者に、病前の良好な適応からの明らかな機能低下が1年ほど続き、妄想(陽性症状)と会話・意欲・感情表出の低下(陰性症状)がそろっている。この経過から統合失調症が最も考えられる。DSM-5では、妄想・幻覚・まとまりのない会話・ひどくまとまりのない行動または緊張病性の行動・陰性症状のうち2つ以上(少なくとも1つは妄想・幻覚・まとまりのない会話のいずれか)が1か月間の大半に存在し、障害の徴候が6か月以上続くことが診断の要件とされる。本例はこの要件を満たす。 鑑別としては、うつ病(寡黙や意欲低下はあるが、抑うつ気分が前景に立ち、被害・注察妄想が主症状となることは少ない)、物質誘発性精神病性障害(薬物使用歴の確認が必要)、側頭葉てんかんなどの器質性精神障害が挙がる。いずれも本文の情報からは積極的に疑う根拠が乏しい。

設問への考え方

統合失調症の薬物療法の中心は抗精神病薬(ドパミンD2受容体遮断作用を主とする薬剤)である。症状の一部だけに目を向けて、寡黙だから抗うつ薬、昼夜逆転だから睡眠薬、と選ばないことが大切である。

選択肢考察

  1. ×a.  抗てんかん薬

    抗てんかん薬はてんかん発作を抑える薬で、バルプロ酸やカルバマゼピンなどは双極性障害の気分安定薬としても用いられる。本例には発作を思わせるエピソードも気分の波もなく、統合失調症の治療の中心にはならない。なお、側頭葉てんかんでは精神症状が目立つことがあり、若年発症の精神病状態では鑑別に挙がる。ただし本例の妄想は、発作と関係なく持続的に形成されており、意識も清明である。てんかんを疑う根拠はない。

  2. ○b.  抗精神病薬

    統合失調症の第一選択薬である。中脳辺縁系のドパミンD2受容体を遮断して、妄想・幻覚などの陽性症状を改善する。現在は、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピンなどの非定型(第二世代)抗精神病薬が主に使われる。ハロペリドールなどの定型(第一世代)薬に比べて錐体外路症状が出にくく、陰性症状への一定の効果も期待できる。本例の注察妄想・被害妄想と、寡黙や感情の平板化の両方に対して用いるべき薬剤である。

  3. ×c.  抗不安薬

    ベンゾジアゼピン系などの抗不安薬は、パニック症や全般不安症などの不安症、一時的な不安・緊張の緩和に使う。妄想のような精神病症状そのものには効かないため、統合失調症の主たる治療薬にはならない。精神病に伴う強い不安や焦燥に対して補助的・短期的に使うことはある。また緊張病(カタトニア)ではロラゼパムが有効なことがある。ただし、依存性があるため漫然とは使わない。

  4. ×d.  抗うつ薬

    抗うつ薬(SSRIなど)はうつ病の治療薬である。本例の「ほとんど話さない」「表情が硬い」は、うつ病の精神運動制止と紛らわしい。しかし実際には、注察妄想・被害妄想を伴う統合失調症の陰性症状や疎通性の低下とみるべきである。統合失調症に抗うつ薬を単独で使っても精神病症状は改善しない。

  5. ×e.  睡眠薬

    睡眠薬は不眠症に対する対症的な薬である。本例の昼夜逆転は、統合失調症による生活リズムの乱れという二次的な現象である。睡眠薬だけでは根本的な改善は得られない。そもそも昼夜逆転(概日リズムのずれ)に対して、一般的な睡眠薬の効果は限られる。抗精神病薬による原疾患の治療を行えば、鎮静作用も含めて睡眠リズムの改善が期待できる。

統合失調症の概要

・生涯有病率は約1%。好発年齢は10歳代後半〜30歳代で、男性はやや早く発症する傾向がある。 ・陽性症状:妄想(被害妄想、注察妄想、関係妄想など)、幻覚(特に幻聴)、まとまりのない会話・行動。 ・陰性症状:感情の平板化、思考の貧困(会話量の減少)、意欲低下、社会的ひきこもり、快感消失。 ・認知機能障害:注意・記憶・遂行機能の低下。社会機能の予後に大きく影響する。 ・シュナイダーの一級症状:考想化声、対話形式や行為を批評する幻聴、身体的被影響体験、考想奪取・考想吹入・考想伝播などの思考への干渉、作為体験、妄想知覚。

病型について

従来は妄想型・破瓜型(解体型)・緊張型などに分類されていた。DSM-5ではこの病型分類は廃止され、緊張病(カタトニア)は特定用語として付記する形になった。本例は、陰性症状が潜行性に進む経過に妄想が加わっており、従来分類でいえば破瓜型や妄想型の要素をもつ。昏迷や拒絶症などの明確な緊張病症状は記載されていない。

抗精神病薬

・定型(第一世代):ハロペリドール、クロルプロマジンなど。D2遮断作用が強く、錐体外路症状(パーキンソニズム、アカシジア、急性ジストニア、遅発性ジスキネジア)や高プロラクチン血症を起こしやすい。 ・非定型(第二世代):リスペリドン、パリペリドン(セロトニン・ドパミン拮抗薬、SDA)、オランザピン、クエチアピン(多元受容体作用抗精神病薬、MARTA)、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール(ドパミン部分作動薬)など。 ・オランザピンとクエチアピンは高血糖・体重増加のリスクがあり、糖尿病患者には禁忌である。 ・治療抵抗性統合失調症にはクロザピンを用いる。無顆粒球症のリスクがあるため、血液モニタリングが必須である。 ・重篤な副作用として悪性症候群(高熱、筋強剛、意識障害、CK上昇)に注意する。 ・薬物療法に加え、心理教育、家族支援、社会生活技能訓練(SST)などの心理社会的治療を組み合わせる。

POINT

・若年者で、病前の良好な適応から機能が低下し、注察・被害妄想(陽性症状)と寡黙・感情平板化(陰性症状)がみられる→統合失調症。 ・統合失調症の治療の中心は抗精神病薬であり、第一選択は非定型抗精神病薬である。 ・寡黙を「うつ」、昼夜逆転を「不眠」と部分的な症状に引きずられず、全体像から診断して治療薬を選ぶ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。