「パルボ」と「パピローマ」を取り違えるな―胎児の皮下浮腫から始める原因検索
第101回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
30歳の2回経妊未産婦。妊娠26週時に超音波検査を行った。胎児に皮下浮腫を認めるが,胸水と腹水とは認めない。 検査として適切でないのはどれか。
- a.染色体
- b.不規則抗体
- c.胎児心エコー
- d.中大脳動脈血流速度
- e.ヒト乳頭腫〈human papilloma〉ウイルス抗体
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
胎児水腫は皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液のうち2か所以上に液体が貯留した状態で、皮下浮腫のみでもその初期像として原因検索を進めます。母体の抗赤血球抗体による免疫性と、それ以外の非免疫性に分かれ、現在は非免疫性が約9割を占めます。検索の柱は、不規則抗体(免疫性の確認)、胎児心エコー(心奇形・不整脈・心不全)、染色体検査、中大脳動脈収縮期最高血流速度(胎児貧血で上昇)、感染症検査で、感染症の代表はヒトパルボウイルスB19です。ヒトパピローマウイルスは子宮頸癌などの原因であり胎児水腫とは無関係なので、名前の似た病原体の混同に注意が必要です。胎児輸血や抗不整脈薬投与など原因に応じた胎内治療が可能な場合もあり、系統的な原因検索が予後改善の第一歩となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・30歳、2回経妊未産婦(妊娠2回、出産0回。過去2回の妊娠は流産や人工妊娠中絶などで終わっている) ・妊娠26週の超音波検査で、胎児に皮下浮腫がある ・胸水・腹水はない
考え方
胎児水腫は、胎児の体内の2か所以上(皮下浮腫、胸水、腹水、心嚢液など)に液体が異常にたまった状態と定義される。本例は現時点では皮下浮腫のみで、厳密な定義は満たさないが、胎児水腫の初期像やその前段階である可能性があり、原因を探って進行を見極める必要がある。 胎児水腫は原因により、母児間の血液型不適合(母体の抗赤血球抗体)による「免疫性胎児水腫」と、それ以外の「非免疫性胎児水腫」に分けられる。現在は非免疫性が大部分を占め、その原因として以下が重要である。 ・心血管系の異常:先天性心疾患、頻脈性・徐脈性不整脈など(胎児心エコーで評価) ・染色体異常:ターナー症候群(45,X)、21トリソミーなど(羊水穿刺などで染色体検査) ・胎児貧血:母児間輸血症候群、パルボウイルスB19感染、α-サラセミアなど(中大脳動脈血流速度で評価) ・感染症:パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒など(母体の血清抗体検査など) ・その他:双胎間輸血症候群、胸腔内の腫瘤(先天性嚢胞性腺腫様奇形など)、胎盤の腫瘍、先天代謝異常など また本例は2回の妊娠歴があるため、過去の妊娠で母体が胎児の赤血球抗原に感作された可能性があり、免疫性胎児水腫も確認が必要である。
設問の考え方
問われているのは「適切でない」検査、すなわち胎児水腫の原因検索や重症度評価に役立たない検査である。胎児水腫の原因となる感染症かどうかに注目して選択肢を検討する。
選択肢考察
- ×a. 染色体
適切な検査である。胎児水腫、特に妊娠前半に見つかる例では染色体異常が主な原因の一つである。ターナー症候群(45,X)ではリンパ管の発生異常による頸部嚢胞状リンパ管腫(cystic hygroma)や全身の皮下浮腫がよくみられ、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなども原因となる。羊水穿刺や臍帯穿刺で得た胎児細胞を用いて核型を調べる。染色体異常の有無は予後の推定や今後の方針決定に大きく関わる。
- ×b. 不規則抗体
適切な検査である。不規則抗体とは、ABO血液型の抗A・抗B抗体以外の赤血球抗原に対する抗体(抗D抗体など)である。過去の妊娠・分娩・流産・中絶や輸血で母体が胎児の赤血球抗原に感作されると、IgG型の抗体が胎盤を通って胎児の赤血球を壊し、胎児貧血から免疫性胎児水腫を起こす(代表はRh(D)不適合妊娠)。本例は2回の妊娠歴があり、感作の可能性がある。母体血の間接クームス試験で不規則抗体を調べ、陽性であれば抗体の種類と抗体価を確認する。
- ×c. 胎児心エコー
適切な検査である。心血管系の異常は非免疫性胎児水腫の原因として最も多いものの一つである。胎児心エコーで、先天性心疾患などの構造異常の有無、心拡大や心収縮能の低下、房室弁逆流、静脈管や下大静脈の血流異常といった心不全の徴候を評価する。上室頻拍や完全房室ブロックなどの不整脈も水腫の原因となり、特に頻脈性不整脈は母体への抗不整脈薬投与による胎内治療で改善しうるため、見逃さないことが重要である。
- ×d. 中大脳動脈血流速度
適切な検査である。胎児が貧血になると血液の粘稠度が下がり、脳への酸素供給を保とうとして心拍出量が増えるため、中大脳動脈(MCA)の収縮期最高血流速度(PSV)が上昇する。パルスドプラ法でMCA-PSVを測り、妊娠週数ごとの中央値の1.5倍(1.5 MoM)以上であれば中等度以上の胎児貧血が疑われる。血液型不適合妊娠やパルボウイルスB19感染による胎児貧血を、侵襲的な臍帯穿刺をせずに評価でき、胎児輸血が必要かどうかの判断にも用いられる。なお、胎児発育不全など低酸素状態では、脳への血流を優先するためMCAの血管抵抗が下がる(脳保護効果)ことも知られており、胎児の状態評価に広く使われる検査である。
- ○e. ヒト乳頭腫〈human papilloma〉ウイルス抗体
適切でない検査であり、これが正解である。ヒトパピローマウイルス(HPV、ヒト乳頭腫ウイルス)は子宮頸癌や尖圭コンジローマの原因となるウイルスで、胎児水腫の原因にはならない。また、HPV感染の評価は通常、子宮頸部の細胞診やHPV-DNA検査で行い、血清抗体を測ることは診断に用いられない。胎児水腫の原因として調べるべき感染症は、名前の似たヒトパルボウイルスB19(胎児の赤芽球系前駆細胞に感染して重い貧血を起こす)や、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒などである。「パピローマ」と「パルボ」の取り違えを狙った選択肢である。
胎児水腫の定義と分類
・定義:胎児の2か所以上(皮下浮腫、胸水、腹水、心嚢液)に異常な液体貯留がある状態。羊水過多や胎盤の肥厚を伴うことが多い。 ・免疫性胎児水腫:母体の抗赤血球抗体(抗D抗体など)が胎盤を通過して胎児の溶血性貧血を起こし、高度の貧血から心不全・低タンパク血症をきたして生じる。抗D免疫グロブリンによる感作予防が普及し、現在は少ない。 ・非免疫性胎児水腫:胎児水腫の大部分(約9割)を占める。原因は多岐にわたり、心血管系異常、染色体異常、胎児貧血、感染症、胸腔内病変、双胎間輸血症候群、リンパ管の異常、先天代謝異常など。原因が特定できない例もある。
胎児水腫を起こしうる主な感染症
・ヒトパルボウイルスB19:伝染性紅斑の原因。胎児の赤芽球系前駆細胞に感染して高度の貧血を起こし、心筋炎を伴うこともある。重度の貧血には胎児輸血が行われる。 ・サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、梅毒、風疹など(いわゆるTORCH症候群の病原体)。 ・評価には母体血清の特異的IgM・IgG抗体、羊水のPCRなどを用いる。
評価の進め方の例
1. 母体の検査:血液型と不規則抗体(間接クームス試験)、感染症の血清学的検査、母体血中の胎児赤血球の確認(母児間輸血の評価)、血糖(糖尿病)など 2. 超音波検査:胎児形態の精査、胎児心エコー(構造異常、不整脈、心機能)、中大脳動脈血流速度(胎児貧血)、胎盤・臍帯・羊水量の評価 3. 侵襲的検査:羊水穿刺(染色体検査、感染症のPCR)、必要に応じて臍帯穿刺(胎児血の血算・血液型・直接クームス試験など)
治療の例
胎児貧血に対する胎児輸血、頻脈性不整脈に対する母体への抗不整脈薬投与、胸水に対する胸腔–羊水腔シャント術、双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー凝固術など、原因に応じて胎内治療が行われることがある。胎児の状態によっては早期娩出を検討する。
ヒトパピローマウイルス(HPV)
皮膚や粘膜に感染し、疣贅や尖圭コンジローマ、子宮頸癌・肛門癌・中咽頭癌などの原因となる。妊娠中の尖圭コンジローマは、まれに産道感染によって児の再発性呼吸器乳頭腫症の原因となるが、胎児水腫とは関係がない。
POINT
・胎児水腫=胎児の2か所以上(皮下浮腫、胸水、腹水、心嚢液)への液体貯留。 ・免疫性(血液型不適合)と非免疫性に分かれ、現在は非免疫性が大部分。 ・原因検索の柱:不規則抗体(免疫性の除外)、胎児心エコー(心奇形・不整脈・心不全)、染色体検査、中大脳動脈収縮期最高血流速度(胎児貧血。1.5 MoM以上で貧血を疑う)、感染症検査。 ・胎児貧血ではMCA-PSVは「上昇」する。 ・胎児水腫を起こす感染症の代表はヒトパルボウイルスB19。ヒトパピローマウイルス(HPV)は関係しない。
