骨髄は満員なのに血液は空っぽ―無効造血が語る骨髄異形成症候群の素顔
第101回医師国家試験 A問題 第32問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。6か月前から徐々に進行する動悸と息切れとを主訴に来院した。体格栄養中等度。脈拍88/分,整。血圧128/76mmHg。四肢に数個の紫斑を認める。頸部リンパ節は触知しない。眼瞼結膜は貧血様であるが,眼球結膜に黄染はない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球198万,Hb 6.8g/dL,Ht 22%,白血球2,300,血小板4.5万。血液生化学所見:総蛋白6.5g/dL,総ビリルビン1.0mg/dL,AST 45U/L,ALT 30U/L,LD 770U/L(基準176~353)。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。 この病態について誤っているのはどれか。

- a.高齢者に多い。
- b.無効造血がある。
- c.染色体異常がみられる。
- d.急性白血病への移行がある。
- e.分化誘導療法の有効性が高い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
汎血球減少に大球性貧血とLD上昇を伴い、骨髄が正〜過形成で多核赤芽球などの異形成を認める場合は、骨髄異形成症候群(MDS)を考えます。MDSは造血幹細胞のクローン性疾患で、無効造血による血球減少、血球の異形成、急性骨髄性白血病への移行を三本柱とし、高齢者に多く、約半数にdel(5q)や7番染色体異常などの染色体異常を認めます。分化誘導療法(ATRA)はPML-RARAを持つ急性前骨髄球性白血病の治療であり、MDSには有効性が高くありません。MDSの治療はリスクに応じて支持療法、レナリドミド、アザシチジンを使い分け、根治が期待できるのは同種造血幹細胞移植のみです。巨赤芽球性貧血や再生不良性貧血との鑑別も含め、汎血球減少の考え方を整理するうえで欠かせない疾患です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
38歳の男性で、半年かけて徐々に強まる動悸・息切れがある。これは緩徐に進行した貧血の症状と考えられる。身体所見では眼瞼結膜の貧血と四肢の紫斑(血小板減少による出血傾向)がみられる一方、黄疸、リンパ節腫大、肝脾腫はない。 血液検査では赤血球198万、Hb 6.8 g/dL、白血球2,300、血小板4.5万と三系統すべてが減少しており、汎血球減少である。赤血球指数を計算すると、平均赤血球容積(MCV)=Ht÷RBC×10=22÷198×1,000≒111 fLとなり、大球性貧血である。LD(乳酸脱水素酵素)が770 U/Lと上昇しているが、総ビリルビンは1.0 mg/dLで黄疸はなく、骨髄内で血球が壊れていること(無効造血)を反映していると解釈できる。
診断へのプロセス
汎血球減少を来す疾患としては、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群(MDS)、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)、急性白血病、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、脾機能亢進症などが挙がる。 ・脾腫がないので脾機能亢進症は考えにくい。 ・骨髄標本では細胞成分に富み(正〜過形成)、形態異常(多核の赤芽球など)を伴う造血細胞がみられる。骨髄が低形成になる再生不良性貧血とは合わない。 ・芽球が骨髄の大半を占める像ではなく、急性白血病とも異なる。 ・大球性貧血とLD高値は巨赤芽球性貧血でもみられるが、形態異常を伴う血球(異形成)が複数系統にみられる点はMDSを示唆する。 「骨髄は細胞が多いのに末梢血では血球が減っている」という乖離こそが無効造血の典型であり、これに異形成を加えて骨髄異形成症候群と診断するのが妥当である。38歳は本症としては若いが、若年発症もまれではない。
設問の考え方
本問はMDSの特徴として「誤っているもの」を選ぶ問題である。疫学(高齢者に多い)、病態(無効造血、クローン性の染色体異常)、自然経過(急性白血病への移行)はいずれも本症の基本的特徴である。一方、分化誘導療法(全トランス型レチノイン酸 ATRA)は急性前骨髄球性白血病(APL)に対する治療であり、MDSに対して有効性が高いとはいえない。
選択肢考察
- ×a. 高齢者に多い。
記述は正しい。MDSは加齢とともに発症率が上昇する疾患で、多くは60歳以上、診断時年齢の中央値は70歳前後である。造血幹細胞に遺伝子変異が蓄積することが発症に関わるため、高齢者に多い。本例は38歳と若いが、疾患全体の傾向としては高齢者に多いと覚えてよい。なお、若年者では抗癌剤・放射線治療後に生じる治療関連MDSや、先天性素因を背景とするものも考慮する。
- ×b. 無効造血がある。
記述は正しい。無効造血とは、骨髄で血球が作られているにもかかわらず、成熟して末梢血に出る前に骨髄内でアポトーシスなどにより壊れてしまう状態である。そのためMDSでは骨髄が正形成〜過形成であるのに末梢血では血球減少を示す。骨髄内での細胞破壊を反映してLD上昇や間接ビリルビンの軽度上昇がみられることがあり、本例のLD 770 U/Lもこれに合致する。
- ×c. 染色体異常がみられる。
記述は正しい。MDSは造血幹細胞のクローン性疾患で、およそ半数の症例で骨髄細胞に染色体異常がみられる。代表的なものは5番染色体長腕欠失(del(5q))、7番染色体の欠失(−7/del(7q))、8トリソミー(+8)、20番染色体長腕欠失(del(20q))、複雑核型などである。核型は予後分類(IPSS-R:改訂国際予後スコアリングシステム)の重要な項目であり、また骨髄が低形成のMDSでは再生不良性貧血との鑑別に役立つ。
- ×d. 急性白血病への移行がある。
記述は正しい。MDSは前白血病状態としての性格をもち、経過中に芽球が増加して急性骨髄性白血病(AML)へ移行することがある。移行の危険度は骨髄芽球比率、染色体異常、血球減少の程度などで評価され、高リスク群ほど白血病化しやすい。死因としては白血病化のほか、血球減少による感染症や出血も重要である。
- ○e. 分化誘導療法の有効性が高い。
記述は誤りであり、これが正解である。分化誘導療法とは、全トランス型レチノイン酸(ATRA)により腫瘍細胞を成熟細胞へ分化させる治療で、PML-RARA融合遺伝子(t(15;17))をもつ急性前骨髄球性白血病(APL)に特異的に高い効果を示す。MDSはこの標的をもたないため、分化誘導療法の有効性は高くない。MDSの治療はリスク分類に応じて選択され、低リスク群では輸血や赤血球造血刺激因子製剤などの支持療法、del(5q)を伴う症例ではレナリドミド、高リスク群では脱メチル化薬(アザシチジン)が用いられる。治癒が期待できる唯一の治療は同種造血幹細胞移植であり、適応は年齢や全身状態を考慮して判断される。
骨髄異形成症候群(MDS)の概要
造血幹細胞に遺伝子変異・染色体異常が生じてできたクローンが骨髄を占め、①無効造血による血球減少、②血球の形態異常(異形成)、③急性骨髄性白血病への移行傾向、を特徴とする疾患群である。
典型的な検査所見
・末梢血:1系統以上の血球減少(貧血はほぼ必発)。大球性〜正球性貧血が多い。網赤血球は増えない。 ・骨髄:多くは正〜過形成(一部は低形成)。 ・異形成の例:赤芽球系では多核赤芽球・核の断片化・環状鉄芽球、顆粒球系では偽ペルゲル核異常(低分葉核)・脱顆粒、巨核球系では微小巨核球・単核や分離多核の巨核球。 ・骨髄芽球が20%以上になれば急性骨髄性白血病として扱う(WHO分類)。
汎血球減少の主な鑑別
・再生不良性貧血:骨髄低形成、異形成なし。 ・巨赤芽球性貧血:大球性、LD著増、ビタミンB12・葉酸低値、補充で改善する。赤芽球系の巨赤芽球性変化はMDSとの鑑別点になるため、MDSの診断前に必ず除外する。 ・急性白血病:骨髄で芽球が著増。 ・PNH:溶血所見(ハプトグロビン低下など)、CD55/CD59欠損血球。 ・脾機能亢進症:脾腫を伴う。
予後分類と治療
IPSS-R(改訂国際予後スコアリングシステム)では、骨髄芽球比率、核型、Hb値、血小板数、好中球数から予後を層別化する。低リスク群は血球減少の改善(輸血、赤血球造血刺激因子製剤、del(5q)症例ではレナリドミドなど)、高リスク群は白血病化の抑制と生存延長(アザシチジン、同種造血幹細胞移植)を目標とする。頻回の赤血球輸血では鉄過剰症に対する鉄キレート療法も考慮する。
POINT
・MDS=造血幹細胞のクローン性疾患。無効造血(骨髄は正〜過形成なのに末梢は血球減少)+異形成+白血病化が三本柱。 ・高齢者に多く、約半数に染色体異常(del(5q)、−7、+8、del(20q)など)。 ・大球性貧血+汎血球減少+LD上昇は巨赤芽球性貧血との鑑別が必要。 ・分化誘導療法(ATRA)はAPLの治療であり、MDSには用いない。 ・MDSの根治療法は同種造血幹細胞移植のみ。高リスク群にはアザシチジン、del(5q)にはレナリドミド。
