膵に実る「ぶどうの房」―画像から読み解く囊胞性膵疾患とIPMN
第101回医師国家試験 A問題 第30問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。2か月前からの上腹部不快感を主訴に来院した。血液所見:赤血球510万,白血球6,800。血液生化学所見:AST 24U/L,ALT 15U/L,アミラーゼ175U/L(基準37~160)。CRP 0.4mg/dL。腹部造影CTを示す。 考えられるのはどれか。

- a.膵形成異常
- b.自己免疫性膵炎
- c.慢性膵炎
- d.囊胞性膵疾患
- e.膵内分泌腫瘍
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
造影CTで膵に隔壁を伴う多房性の囊胞性病変がみられれば囊胞性膵疾患を考え、高齢男性でぶどうの房状を呈する場合は、分枝膵管型の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)が最も疑われます。IPMNは膵管と交通して粘液を産生し、膵液の流出障害から軽いアミラーゼ上昇や上腹部不快感を伴うことがあります。慢性膵炎は膵石と主膵管の不整拡張、自己免疫性膵炎はソーセージ様腫大と主膵管狭細、膵内分泌腫瘍は動脈相で濃染する充実性腫瘍が特徴で、囊胞性腫瘍の中ではMCN・SCN・SPNを年齢・性別・形態で区別します。IPMNは壁在結節や主膵管径などで悪性度を評価して手術か経過観察かを決め、経過観察では併存する膵癌にも注意が必要です。画像で「液体か充実性か」「局所か膵全体か」を見分ける姿勢は、膵疾患の診断全般の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・65歳の男性。2か月前からの上腹部不快感。 ・血液検査:赤血球・白血球は正常範囲、AST・ALTも正常で、肝障害や閉塞性黄疸を示す所見はない。CRP 0.4mg/dLと炎症反応はごく軽度にとどまる。 ・血清アミラーゼは175U/L(基準37〜160)と軽度上昇している。 ・腹部造影CT:椎体・大動脈の前方、正中付近の膵体部に、隔壁で区切られた複数の低吸収域(液体成分)が集まった多房性の囊胞性病変を認める。小さな囊胞がぶどうの房のように集簇した形態である。膵実質の石灰化(膵石)や膵全体のびまん性腫大は認めない。
診断へのプロセス
CTの主所見は「膵の多房性囊胞性病変」であり、選択肢の中では囊胞性膵疾患が該当する。囊胞性膵疾患には、膵炎後などに生じる非腫瘍性の仮性囊胞と、膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)、粘液性囊胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN)、漿液性囊胞腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN)などの腫瘍性囊胞がある。 本例は高齢男性で、膵体部にぶどうの房状の多房性囊胞がみられることから、特にIPMN(分枝膵管型)が最も疑われる。IPMNは膵管上皮から発生して粘液を産生する腫瘍で、粘液により膵管が拡張して囊胞状となる。粘液が膵液の流れを妨げると軽い膵炎様の病態を起こすことがあり、本例のアミラーゼ軽度上昇や上腹部不快感もこれで説明しうる。膵炎の既往や飲酒歴の記載がなく、炎症反応も乏しいため仮性囊胞は考えにくい。
鑑別
慢性膵炎では膵石・膵実質の石灰化や主膵管の不整な拡張、膵萎縮がみられる。自己免疫性膵炎では膵がびまん性(またはソーセージ様)に腫大し、主膵管が細くなる。膵内分泌腫瘍は動脈相で強く造影される充実性の腫瘍が典型である。本例のCT像はいずれとも異なる。なお、体尾部の囊胞では中年女性に多い粘液性囊胞腫瘍(MCN)も鑑別に挙がるが、MCNは厚い被膜に包まれた球形の囊胞が典型であり、高齢男性で小囊胞がぶどうの房状に集簇する本例の像はIPMNにより合致する。 以上より、考えられるのは囊胞性膵疾患(とくにIPMN)である。
選択肢考察
- ×a. 膵形成異常
膵の形成異常には、膵管癒合不全(腹側膵管と背側膵管が癒合しない)、輪状膵(膵組織が十二指腸を輪状に取り囲む)、異所性膵などがある。膵管癒合不全は再発性膵炎の原因となり、輪状膵は十二指腸狭窄による嘔吐をきたすが、いずれも膵に多房性の囊胞を形成する疾患ではなく、本例のCT像とは合わない。
- ×b. 自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎(主に1型、IgG4関連疾患の膵病変)は高齢男性に多いが、画像では膵のびまん性または限局性の腫大(ソーセージ様腫大)と、膵周囲を縁取る低吸収の被膜様構造(capsule-like rim)、主膵管のびまん性・限局性の狭細像が特徴である。血清IgG4高値を伴い、閉塞性黄疸で発症することも多い。多房性の囊胞を形成する病態ではなく、ステロイドがよく効く点も特徴である。
- ×c. 慢性膵炎
慢性膵炎は長期の飲酒などを原因とし、膵実質の線維化・萎縮、膵石・石灰化、主膵管の不整な拡張をきたす。CTでは膵内の石灰化が診断上重要な所見である。経過中に仮性囊胞を合併することはあるが、本例では飲酒歴や膵炎の既往がなく、石灰化もみられないため、慢性膵炎は考えにくい。
- ○d. 囊胞性膵疾患
造影CTで膵体部にぶどうの房状の多房性囊胞性病変を認めることから、囊胞性膵疾患と考えられる。高齢男性に多く、分枝膵管が囊胞状に拡張してぶどうの房状を呈するという特徴から、なかでも膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)が最も疑われる。IPMNは膵頭部に好発するが、本例のように体尾部にも生じる。粘液による膵液の流出障害で、軽度のアミラーゼ上昇や上腹部不快感を伴うことがある。IPMNは腺腫から浸潤癌まで段階的に進行しうるため、主膵管径や囊胞内結節の有無などで悪性度を評価し、手術か経過観察かを判断する。
- ×e. 膵内分泌腫瘍
膵内分泌腫瘍(膵神経内分泌腫瘍)は、造影CTの動脈相で強く濃染する血流豊富な充実性腫瘍として描出されるのが典型で、囊胞を形成することは少ない。ホルモンを産生する機能性腫瘍では、インスリノーマによる低血糖、ガストリノーマによる難治性消化性潰瘍(Zollinger-Ellison症候群)など特有の症状を示す。本例の多房性囊胞の像やホルモン過剰症状のない経過とは合わない。
主な囊胞性膵疾患の比較
・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN):高齢男性に多い。膵頭部(鉤部を含む)に好発するが、体尾部にも生じ、多発することもある。膵管と交通し、粘液産生により膵管が拡張する。分枝膵管型はぶどうの房状の多房性囊胞、主膵管型は主膵管のびまん性拡張を示す。内視鏡では十二指腸乳頭の開口部が開大し粘液が排出される所見(魚の口様開大)がみられる。腺腫→非浸潤癌→浸潤癌と進行しうる。主膵管型は悪性頻度が高い。 ・粘液性囊胞腫瘍(MCN):中年女性に多い。膵体尾部に好発。厚い被膜に包まれた球形の囊胞で、内部に小囊胞を含む「夏みかん(オレンジ)」様の形態。通常、膵管とは交通しない。病理学的に卵巣様間質を伴うのが特徴。悪性化の可能性があり原則切除。 ・漿液性囊胞腫瘍(SCN):中高年女性に多い。微小な囊胞が蜂巣状に集簇し、中心に星芒状の瘢痕・石灰化を伴うことがある。ほとんどが良性。 ・充実性偽乳頭状腫瘍(SPN):若年女性に多い。充実部分と囊胞部分が混在し、低悪性度腫瘍。 ・仮性囊胞:急性膵炎・慢性膵炎・外傷後に生じる、上皮の裏打ちをもたない液体貯留。膵炎の病歴が手がかり。
IPMNの悪性度評価(国際診療ガイドラインの考え方)
・悪性を強く疑う所見(high-risk stigmata):膵頭部病変による閉塞性黄疸、造影される5mm以上の壁在結節、主膵管径10mm以上など。原則として手術適応。 ・精査を要する所見(worrisome features):囊胞径3cm以上、造影される5mm未満の壁在結節、囊胞壁の肥厚・造影効果、主膵管径5〜9mm、主膵管の急な口径変化と尾側膵萎縮、リンパ節腫大、血清CA19-9高値、囊胞の急速な増大、膵炎の合併など。超音波内視鏡などで精査する。 ・これらがなければ定期的な画像検査で経過観察する。IPMNは通常型膵癌を膵内の別の部位に合併しやすい(併存癌)ため、経過観察では囊胞以外の膵実質にも注意する。
画像での膵疾患の鑑別の要点
・慢性膵炎:膵石・石灰化、主膵管の不整拡張、膵萎縮。 ・自己免疫性膵炎:膵のソーセージ様腫大、capsule-like rim、主膵管狭細、IgG4高値。 ・膵内分泌腫瘍:動脈相で濃染する充実性腫瘍。 ・通常型膵癌:乏血性(造影効果の乏しい)の充実性腫瘤と、尾側の主膵管拡張。
POINT
・膵の多房性(ぶどうの房状)囊胞性病変 → 囊胞性膵疾患、特に高齢男性ならIPMN(分枝膵管型)。IPMNは膵頭部に好発するが体尾部にも生じる(本例は体部)。 ・IPMNは膵管と交通し粘液を産生。乳頭開口部の開大と粘液排出がみられる。悪性度は主膵管径・壁在結節・囊胞径などで評価する。 ・MCNは中年女性・膵体尾部・卵巣様間質、SCNは中高年女性・蜂巣状で多くは良性、SPNは若年女性。 ・慢性膵炎は膵石・石灰化、自己免疫性膵炎はびまん性腫大と主膵管狭細・IgG4高値、膵内分泌腫瘍は多血性の充実性腫瘍。
