張りつめた胆囊をどう鎮めるか―急性胆囊炎は「炎症の主座」でドレナージを選ぶ
第100回医師国家試験 H問題 第21問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。発熱と右上腹部痛とを主訴に来院した。体温38.5℃。脈拍88/分,整。血圧130/58mmHg。右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触れる。血液所見:赤血球450万,Hb 15.0g/dL,Ht 48%,白血球16,500。血液生化学所見:総ビリルビン1.0mg/dL,AST 40U/L,ALT 52U/L,ALP 220U/L(基準260以下)。腹部超音波写真を示す。 治療として適切なのはどれか。

- a.経口胆石溶解薬投与
- b.経皮経肝胆囊ドレナージ
- c.内視鏡的胆管ドレナージ
- d.内視鏡的乳頭括約筋切開術
- e.体外衝撃波結石破砕術〈ESWL〉
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
胆石を背景に発熱・右上腹部痛・胆囊腫大・白血球増加をみとめ、黄疸や胆道系酵素上昇を欠く場合は、胆管炎ではなく急性胆囊炎と考えます。右季肋部の有痛性腫瘤触知はTokyo Guidelinesで中等症の判定項目であり、炎症の強い胆囊には経皮経肝胆囊ドレナージ(PTGBD)で感染胆汁を排出・減圧し、炎症が治まってから待機的に胆囊摘出術を行います。内視鏡的胆管ドレナージや乳頭括約筋切開術は総胆管結石・胆管炎に対する処置で、嵌頓結石のある胆囊は減圧できず、経口溶解療法やESWLは急性炎症期には適しません。現在は手術可能例での早期腹腔鏡下胆囊摘出術が推奨され、壊疽性・気腫性胆囊炎や穿孔は緊急手術の適応となります。炎症の主座が胆囊か胆管かを見極め、そこに合ったドレナージを選ぶ考え方は、胆道感染症の診療全般の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・68歳男性、発熱(38.5℃)と右上腹部痛。 ・右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触知する(腫大して緊満した胆嚢を触れていると考えられる)。 ・白血球16,500と著明な炎症反応。Ht 48%とやや高値で、脱水傾向もうかがわれる。 ・総ビリルビン1.0mg/dL、ALP 220U/L(基準内)で、AST・ALTも軽度上昇にとどまる。黄疸や胆道系酵素の明らかな上昇はなく、胆管閉塞(総胆管結石や胆管炎)を示す所見に乏しい。 ・腹部超音波:腫大した胆嚢内に、後方に音響陰影(acoustic shadow)を伴う高エコー像(胆嚢結石)を認め、胆嚢頸部付近にも結石がある。
診断
胆嚢結石があり、発熱・右上腹部痛・胆嚢の腫大・炎症反応上昇がそろっていることから、胆石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓して生じた急性胆嚢炎と診断できる。黄疸や胆道系酵素上昇がないため、急性胆管炎や総胆管結石の合併は考えにくい。
重症度と治療の考え方
急性胆嚢炎の重症度判定(Tokyo Guidelines、TG18)では、「右季肋部の有痛性腫瘤触知」は中等症(Grade II)の判定項目の一つである(その他、白血球>18,000/μL、症状出現後72時間以上の持続、壊疽性・気腫性胆嚢炎や胆嚢周囲膿瘍・肝膿瘍・胆汁性腹膜炎などの著しい局所炎症所見)。本例は少なくとも中等症であり、局所炎症が強い状態と考えられる。 急性胆嚢炎の根本治療は胆嚢摘出術であるが、炎症が強く緊満した胆嚢に対しては、まず胆嚢内の感染胆汁を体外へ排出して減圧し、炎症を鎮静化させる胆嚢ドレナージが有効である(その後、待機的に胆嚢摘出術を行う)。選択肢の中で炎症の主座である胆嚢そのものを直接減圧できるのは経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)だけである。胆管へのアプローチ(内視鏡的胆管ドレナージ、乳頭括約筋切開術)では胆嚢は減圧できず、結石を溶かす・砕く治療は急性炎症期には適さない。
選択肢考察
- ×a. 経口胆石溶解薬投与
経口胆石溶解療法にはウルソデオキシコール酸(UDCA)を用いる。対象は、症状が乏しいか軽い胆嚢結石のうち、胆嚢機能が保たれ(胆嚢造影で胆嚢が描出され)、石灰化のない小さなコレステロール結石(おおむね15mm未満、浮遊結石が良い適応)である。溶解には半年〜数年を要し、急性炎症を抑える効果はない。急性胆嚢炎の急性期治療としては不適切である。
- ○b. 経皮経肝胆囊ドレナージ
経皮経肝胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)は、超音波ガイド下に皮膚から肝臓を経由して胆嚢を穿刺し、カテーテルを留置して感染した胆汁を持続的に体外へ排出する処置である。肝臓を経由することで、穿刺部からの胆汁漏出による胆汁性腹膜炎を起こしにくい。緊満した胆嚢を減圧し炎症を速やかに鎮静化させるため、抗菌薬治療だけで改善しにくい中等症以上の急性胆嚢炎や、全身状態が悪く緊急手術のリスクが高い患者に対して有効である。炎症が治まった後に待機的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行う。本例では胆嚢腫大と有痛性腫瘤を伴う局所炎症の強い急性胆嚢炎であり、選択肢の中で最も適切な治療である。
- ×c. 内視鏡的胆管ドレナージ
内視鏡的胆管ドレナージ(内視鏡的経鼻胆管ドレナージ:ENBD、内視鏡的胆管ステント留置術:EBSなど)は、内視鏡を十二指腸乳頭まで進め、総胆管内にチューブを留置して胆管を減圧する処置である。総胆管結石や悪性腫瘍による閉塞性黄疸、急性胆管炎が適応となる。本例は黄疸も胆道系酵素上昇もなく、胆管閉塞の所見はない。炎症の主座は胆嚢であり、胆石が胆嚢頸部・胆嚢管に嵌頓していれば胆管側を減圧しても胆嚢の減圧は得られない。
- ×d. 内視鏡的乳頭括約筋切開術
内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)は、十二指腸乳頭の括約筋を電気メスで切開して胆管の出口を広げる処置であり、主に総胆管結石の除去(バスケットカテーテルなどで結石を取り出す)や、胆管ドレナージを行う際の補助として用いられる。本例は総胆管結石を示唆する黄疸・胆道系酵素上昇がなく、胆嚢内の結石や胆嚢の炎症には効果がないため、適応とならない。
- ×e. 体外衝撃波結石破砕術〈ESWL〉
体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)は、体外から衝撃波を結石に集束させて砕く治療である。胆石では、胆嚢機能が保たれた、石灰化のない比較的小さな少数のコレステロール結石が対象で、多くは破砕後に経口溶解薬を併用する。急性炎症期には行わない(急性胆嚢炎・胆管炎は禁忌とされる)。また、胆嚢摘出術が標準治療となった現在では、胆嚢結石に対してはほとんど行われていない。
急性胆嚢炎の診断(TG18の診断基準の要点)
A 局所の炎症所見:Murphy徴候(右季肋部を圧迫しながら深吸気させると痛みで吸気が止まる)、右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛 B 全身の炎症所見:発熱、CRP上昇、白血球数上昇 C 画像所見:急性胆嚢炎に特徴的な画像所見(胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚、嵌頓した胆石、胆嚢周囲の液体貯留、sonographic Murphy sign など) Aのいずれか+Bのいずれかで疑診、さらにCを満たせば確診。
重症度(TG18)
・重症(Grade III):臓器障害(循環障害、中枢神経障害、呼吸機能障害、腎機能障害、肝機能障害、血液凝固異常)を伴う。 ・中等症(Grade II):白血球>18,000/μL、右季肋部の有痛性腫瘤触知、症状出現後72時間以上の持続、顕著な局所炎症所見(壊疽性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍、肝膿瘍、胆汁性腹膜炎、気腫性胆嚢炎)のいずれかを伴う。 ・軽症(Grade I):上記に該当しない。
治療の原則
・全例で絶食、輸液、鎮痛、抗菌薬投与を行う。 ・根本治療は胆嚢摘出術(原則として腹腔鏡下)。手術に耐えられる例では、発症早期の腹腔鏡下胆嚢摘出術が推奨される。 ・炎症が強い例や手術リスクが高い例では、胆嚢ドレナージ(PTGBDのほか、経皮経肝胆嚢吸引穿刺法:PTGBA、内視鏡的経鼻胆嚢ドレナージ:ENGBD、超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ:EUS-GBDなど)で炎症を鎮めてから待機的に胆嚢摘出術を行う。 ・壊疽性胆嚢炎、胆嚢穿孔・胆汁性腹膜炎、気腫性胆嚢炎などは緊急手術の適応となる。
急性胆管炎との区別
急性胆管炎は胆管の閉塞(総胆管結石など)と感染による病態で、発熱・腹痛・黄疸(Charcot三徴)や胆道系酵素(ALP、γ-GTP)・ビリルビンの上昇を伴う。治療の中心は内視鏡的胆管ドレナージ(ERCPによるENBD・EBS、必要に応じてEST)である。急性胆嚢炎では胆嚢、急性胆管炎では胆管、というように炎症・閉塞の部位に合わせてドレナージ法を選ぶ。
超音波での胆石の所見
胆石は胆嚢内の高エコー像(strong echo)として描出され、後方に音響陰影を伴い、体位変換で移動するのが典型である。
POINT
・胆石+発熱・右上腹部痛・胆嚢腫大(有痛性腫瘤)・白血球増加 → 急性胆嚢炎。 ・黄疸・胆道系酵素上昇がなければ胆管の閉塞(胆管炎・総胆管結石)は考えにくい。 ・右季肋部の有痛性腫瘤触知は急性胆嚢炎の中等症(Grade II)の判定項目。 ・炎症の強い急性胆嚢炎や手術ハイリスク例 → 経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)で減圧し、後日待機的に胆嚢摘出術。 ・胆管ドレナージ・ESTは胆管疾患(胆管炎・総胆管結石)の治療。溶解療法・ESWLは急性炎症期には行わない。
