雷鳴頭痛の次の一手―CTで「見えた」くも膜下出血に何を重ねるか
第100回医師国家試験 H問題 第18問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。突然激しい頭痛が起こり,意識がもうろうとしてきたため救急車で搬入された。頭部単純CTを示す。 次に行う検査はどれか。

- a.脳脊髄液検査
- b.脳波
- c.脳血管造影
- d.頭部MRI
- e.脳シングルフォトンエミッションCT〈SPECT〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
突然発症の激しい頭痛に意識障害を伴い、頭部単純CTで脳底槽やシルビウス裂などのくも膜下腔に高吸収域を認めれば、くも膜下出血と診断できます。原因の大部分は脳動脈瘤破裂で、発症早期の再出血が予後を大きく悪化させるため、診断後は脳血管造影(臨床では3D-CTAも多用)で速やかに出血源を同定し、クリッピング術やコイル塞栓術の方針を決めます。脳脊髄液検査はCTで診断がつかない場合に限られ、診断確定後は脳ヘルニアや再出血の危険から避けるべきです。脳波やSPECTは急性期の出血源検索には役立ちません。「診断がついたら次は原因と治療方針」という段階的な考え方は、救急の場面で検査の優先順位を判断する基本になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
55歳男性に、突然発症の激しい頭痛(いわゆる「雷鳴頭痛」:数秒〜1分以内にピークに達する頭痛)が生じ、続いて意識レベルが低下している。頭部単純CTでは、脳底部のくも膜下腔(鞍上槽・脳底槽からシルビウス裂にかけて)に高吸収域が広がり、いわゆるペンタゴン(五角形)様の高吸収を呈している。
診断
「突然の激しい頭痛+意識障害」という病歴と、CTでくも膜下腔に血液(高吸収域)を認めることから、くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)と診断できる。中高年の非外傷性SAHの原因の大部分(約80%)は脳動脈瘤の破裂であり、そのほか脳動静脈奇形(AVM)、脳動脈解離(特に椎骨動脈)などがある。
設問の考え方
CTでSAHの診断はすでについている。次に必要なのは「なぜ出血したのか(出血源)」を明らかにすることである。破裂脳動脈瘤は発症後24時間以内、特に最初の数時間に再出血しやすく、再出血すると死亡率が大きく上昇する。したがって、出血源となった動脈瘤の部位・大きさ・形・向き(ネックの幅など)を速やかに同定し、開頭によるクリッピング術または血管内治療によるコイル塞栓術といった再出血予防処置の方針を決める必要がある。そのための検査が脳血管造影であり、出血源同定のゴールドスタンダードである。 一方、すでに診断がついている状況で診断目的の検査を追加する意味はなく、再出血や脳ヘルニアを誘発しうる侵襲的・刺激的な操作は避けるべきである。この観点から各選択肢を検討する。
選択肢考察
- ×a. 脳脊髄液検査
腰椎穿刺による脳脊髄液検査は、SAHを強く疑うのにCTで出血が確認できない場合(発症から時間が経って血液が吸収された例、少量出血の例など)に、血性髄液やキサントクロミー(ヘモグロビン分解による黄色調)を確認するために行う検査である。本例ではCTで診断が確定しているので不要である。さらに、頭蓋内圧が亢進した状態で髄液を抜くと、圧較差により脳ヘルニアを誘発したり、動脈瘤壁にかかる圧が変化して再出血を招いたりする危険があるため、診断がついたSAHでは行ってはならない。
- ×b. 脳波
脳波はてんかんの診断、意識障害の原因評価(代謝性脳症など)、脳死判定などで用いる検査である。SAHの診断や出血源の同定には役立たず、記録に時間もかかる。再出血予防のため一刻も早く治療方針を決めたい急性期に優先して行う検査ではない。
- ○c. 脳血管造影
SAHと診断した後に行うべき検査である。カテーテルを用いたデジタルサブトラクション血管造影(DSA)により、出血源である脳動脈瘤(好発部位:前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部など)や脳動静脈奇形を描出できる。動脈瘤の位置・大きさ・ネックの形状・周囲血管との関係が分かり、クリッピング術かコイル塞栓術かの選択に直結する。多発性動脈瘤の有無の確認にも有用である。空間分解能が高く出血源同定のゴールドスタンダードであり、そのまま血管内治療へ移行することもできる。なお近年は、低侵襲で迅速な3D-CTA(CT血管造影)をまず行い、それで治療方針を決める施設も多いが、選択肢の中では脳血管造影が最も適切である。
- ×d. 頭部MRI
MRI(特にFLAIR像)は少量のSAHや亜急性期のSAHの検出に役立つことがあり、MRA(MR血管撮影)で動脈瘤をスクリーニングすることも可能である。しかし、本例ではCTですでにSAHの診断がついており、MRIを追加する必要性は低い。また撮像に時間がかかり、意識障害のある重症患者では体動や全身管理の面で不利であり、騒音などの刺激も再出血予防の観点から好ましくない。出血源の精査・治療方針決定という目的には脳血管造影が優れる。なお、MRIの拡散強調像(DWI)が威力を発揮するのは急性期脳梗塞の診断である。
- ×e. 脳シングルフォトンエミッションCT〈SPECT〉
脳SPECTは放射性医薬品を用いて脳血流の分布を評価する核医学検査である。認知症(Alzheimer型認知症での頭頂葉・後部帯状回の血流低下など)の鑑別、てんかん焦点の検索、慢性脳虚血における血行再建術の適応判断などに用いる。SAH急性期の診断や出血源の同定には役立たない。SAH後の遅発性脳血管攣縮による虚血の評価に用いられることはあるが、急性期に優先して行う検査ではない。
くも膜下出血(SAH)の概要
・原因:脳動脈瘤破裂が約80%と最多。その他、脳動静脈奇形、脳動脈解離、外傷など。 ・症状:突然発症の激しい頭痛(「バットで殴られたような」と表現される)、悪心・嘔吐、意識障害、項部硬直などの髄膜刺激徴候(発症直後は目立たないことがある)。網膜前出血(硝子体下出血)を伴うことがある。 ・重症度分類:Hunt and Hess分類、WFNS分類(Glasgow Coma Scaleと片麻痺・失語の有無で分類)が用いられ、予後や治療適応の判断に使う。
診断の流れ
1. 頭部単純CT:第一選択。脳底槽・シルビウス裂・大脳縦裂などのくも膜下腔に高吸収域を認める。発症早期ほど検出率が高く、時間とともに低下する。 2. CTで所見がはっきりしないが臨床的に強く疑う場合:MRI(FLAIR像)や、頭蓋内圧亢進がないことを確認したうえでの腰椎穿刺(血性髄液、キサントクロミー)。 3. 診断確定後:出血源検索として3D-CTAや脳血管造影(DSA)を行う。
急性期管理と合併症
・再出血:発症24時間以内(特に6時間以内)に多い。予防のため鎮静・鎮痛、厳格な血圧管理を行い、不要な刺激を避け、早期に動脈瘤の処置(開頭クリッピング術またはコイル塞栓術)を行う。 ・遅発性脳血管攣縮:発症4〜14日目頃に起こり、脳梗塞の原因となる。 ・水頭症:急性期にも慢性期(正常圧水頭症)にも起こりうる。 ・その他:低Na血症(中枢性塩類喪失症候群など)、たこつぼ型心筋症・心電図異常などの心合併症。
POINT
・突然の激しい頭痛+CTでくも膜下腔(脳底槽など)の高吸収域 → くも膜下出血。 ・CTで診断がついたら、次は出血源(脳動脈瘤など)の同定:脳血管造影(または3D-CTA)。 ・腰椎穿刺はCTで診断がつかない場合に限る。診断確定後は再出血・脳ヘルニアの危険があり禁忌的。 ・急性期の最大の課題は再出血予防であり、刺激を避け早期に動脈瘤処置(クリッピング/コイル塞栓術)を行う。
