その検査は何を測っている?―BT-PABA試験が急性膵炎に使えない理由
第100回医師国家試験 G問題 第91問
国試問題にチャレンジ
検査と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.食道内圧検査 ―― 食道アカラシア
- b.胃液検査 ―― Zollinger-Ellison症候群
- c.ICG試験 ―― 肝硬変
- d.消化吸収試験 ―― 蛋白漏出性胃腸症
- e.BT-PABA試験 ―― 急性膵炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
消化器の機能検査は、それぞれが何の機能を測っているかを押さえると、対象疾患との組合せを正しく判断できます。食道内圧検査はLESの弛緩不全や蠕動消失を捉えて食道アカラシアの確定診断に、胃液検査は基礎酸分泌量の著増からZollinger-Ellison症候群の評価に、ICG試験はR15の上昇から肝硬変などの肝予備能評価に用いられます。BT-PABA試験はキモトリプシン活性を介して膵外分泌機能を測る検査で、膵実質が荒廃した慢性膵炎の評価に使うものであり、腹痛・血中尿中膵酵素の上昇・画像所見で診断する急性膵炎の検査ではありません。蛋白漏出性胃腸症では漏出の証明にα1-アンチトリプシン便中クリアランスを用い、吸収不良の合併評価に消化吸収試験が役立つこともあります。検査と疾患の間に「測定している機能」をはさんで理解することは、国試の組合せ問題だけでなく、臨床で適切な検査を選ぶ力にもつながります。
解答・解説
正解はeです
消化器疾患と、その診断・評価に用いる機能検査の組合せを問う問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。 各検査が「何の機能を測るのか」を押さえれば判断できる。 ・食道内圧検査: 食道の蠕動と下部食道括約筋(LES)の圧・弛緩を測る → 食道運動障害の診断 ・胃液検査: 胃酸の分泌量を測る → 胃酸分泌が異常に増える疾患の評価 ・ICG試験: 色素の肝臓からの排泄速度を測る → 肝予備能(肝臓に残っている働きの余力)の評価 ・消化吸収試験: 栄養素の消化・吸収の状態を調べる → 吸収不良をきたす腸疾患の評価 ・BT-PABA試験: 膵臓から分泌される消化酵素キモトリプシンの働きを測る → 膵外分泌機能の評価 BT-PABA試験は膵外分泌機能の低下を検出する検査であり、膵実質が長い時間をかけて荒廃する慢性膵炎(特に進行例)の診断・評価に用いる。急性膵炎は膵酵素が膵内で活性化されて起こる急性の炎症であり、その診断は臨床症状、血中・尿中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)の上昇、画像検査(CT、超音波)で行う。急性期に膵外分泌機能検査を行う意義はないため、BT-PABA試験と急性膵炎の組合せが誤りである。
選択肢考察
- ×a. 食道内圧検査 ―― 食道アカラシア
組合せは正しい。食道アカラシアは、食道壁内のAuerbach神経叢(筋層間神経叢)の神経細胞が減少・消失し、嚥下時にLESが弛緩しなくなり、食道体部の蠕動も失われる食道運動障害である。食道内圧検査では、嚥下に伴うLESの弛緩不全(嚥下性弛緩の消失)、LES静止圧の上昇、食道体部の一次蠕動波の消失が認められ、確定診断に最も有用な検査である。現在は多数のセンサーで圧を連続的に表示する高解像度食道内圧検査(HRM)が普及しており、その結果によって病型分類も行われる。食道造影でのバリウムの停留や下部食道の平滑な先細り像(鳥のくちばし状)、内視鏡による悪性腫瘍の除外も併せて行う。
- ×b. 胃液検査 ―― Zollinger-Ellison症候群
組合せは正しい。Zollinger-Ellison症候群は、ガストリンを産生する神経内分泌腫瘍(ガストリノーマ。膵臓や十二指腸に好発する)によって胃酸が過剰に分泌され、難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢をきたす疾患である。胃液検査では基礎酸分泌量(BAO)が著明に増加し、すでに最大に近い刺激を受けているため、ガストリン刺激後の最大酸分泌量(MAO)との比(BAO/MAO)が高くなる。高ガストリン血症は萎縮性胃炎や酸分泌抑制薬の使用でも起こるため、胃液検査で胃酸が多いことを確認することは、両者を区別するうえで意味がある。ほかに空腹時血中ガストリン値の測定や、セクレチン負荷で血中ガストリンが逆説的に上昇することを確かめるセクレチン試験が行われる。
- ×c. ICG試験 ―― 肝硬変
組合せは正しい。ICG(インドシアニングリーン)は静注すると血中で蛋白と結合し、肝細胞に取り込まれて、代謝を受けずにそのまま胆汁中に排泄される色素である。その血中からの消失の速さは、肝血流量と肝細胞の取り込み・排泄能を反映するため、肝予備能の指標となる。一般に静注15分後の血中停滞率(ICG R15)で評価し、正常は10%以下である。肝硬変では肝細胞の減少や門脈血流の変化によりICG R15が上昇する。肝切除術の前に切除可能な範囲を決める際にも重要な検査である。なお、体質性ICG排泄異常症では肝機能が正常でも高値となる点に注意する。
- ×d. 消化吸収試験 ―― 蛋白漏出性胃腸症
組合せは誤りとまではいえない。蛋白漏出性胃腸症は、血漿蛋白(主にアルブミン)が消化管の粘膜から管腔内へ異常に漏れ出し、低蛋白血症と浮腫をきたす症候群である。原因として腸リンパ管拡張症、Ménétrier病、炎症性腸疾患、膠原病などがある。漏出そのものの証明には、α1-アンチトリプシンの便中クリアランスや、99mTc標識ヒト血清アルブミンを用いたシンチグラフィが用いられる。一方、原因疾患によっては腸粘膜の障害やリンパ流のうっ滞のために脂肪などの吸収不良を伴うことがあり(特に腸リンパ管拡張症)、便中脂肪の測定やD-キシロース試験などの消化吸収試験で吸収障害の有無を評価することは、病態把握に役立つ。そのため、他の選択肢と比べて明らかに誤りとはいえない。
- ○e. BT-PABA試験 ―― 急性膵炎
誤った組合せであり、これが正解である。BT-PABA試験(PFD試験)は、BT-PABA(ベンゾイル-チロシル-パラアミノ安息香酸)を経口投与し、それが十二指腸で膵液中のキモトリプシンによって分解されて生じるPABA(パラアミノ安息香酸)が小腸から吸収され、尿中に排泄される量(6時間尿中排泄率)を測る検査である。排泄率が低ければ膵外分泌機能の低下を意味し、慢性膵炎(特に進行して膵実質が荒廃した例)の診断に用いられる。急性膵炎は急激な腹痛と血中・尿中膵酵素の上昇、CTなどの画像所見で診断する急性炎症性疾患であり、膵外分泌機能を測るBT-PABA試験の対象ではない。なお、BT-PABA試験は近年、検査薬の供給が終了しており、日常診療ではほとんど行われていない。
急性膵炎と慢性膵炎の診断の違い
・急性膵炎: 上腹部の急性腹痛と圧痛、血中または尿中の膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇、超音波・CT・MRIでの膵の異常所見のうち2項目以上を満たし、他の疾患を除外して診断する(厚生労働省の急性膵炎診断基準)。重症度は予後因子と造影CT所見で判定する。原因はアルコールと胆石が多い。 ・慢性膵炎: 膵臓の線維化・石灰化が徐々に進み、腹痛や、進行すると膵外分泌機能不全(脂肪便・体重減少)や膵内分泌機能不全(糖尿病)を生じる。画像での膵石・膵管の不整な拡張などが診断の中心で、膵外分泌機能の低下も診断の補助となる。膵外分泌機能検査は慢性膵炎の評価に用いるものである。
膵外分泌機能検査
・BT-PABA試験(PFD試験): 経口で簡便に行えるが、腎機能障害や小腸での吸収障害があると偽陽性となる。 ・セクレチン試験: 十二指腸に管を入れ、セクレチン刺激後の膵液量・重炭酸濃度・酵素量を直接測る。最も直接的な方法である。 ・便中エラスターゼ測定、便中脂肪定量なども用いられる。
消化器の主な機能検査と対象疾患
・食道内圧検査: 食道アカラシア、びまん性食道痙攣などの食道運動障害 ・24時間食道pHモニタリング: 胃食道逆流症 ・胃液検査: Zollinger-Ellison症候群(酸分泌亢進)、萎縮性胃炎(酸分泌低下) ・ICG試験: 肝予備能(肝硬変、肝切除前評価) ・α1-アンチトリプシン便中クリアランス: 蛋白漏出性胃腸症 ・D-キシロース試験: 小腸の吸収能(小腸性か膵性かの吸収不良の鑑別) ・尿素呼気試験: Helicobacter pylori感染 ・BT-PABA試験: 膵外分泌機能(慢性膵炎)
POINT
・BT-PABA試験は膵外分泌機能検査 → 慢性膵炎の評価に用いる(急性膵炎の診断には用いない) ・急性膵炎の診断は、腹痛+血中・尿中膵酵素上昇+画像所見 ・食道アカラシアの確定診断は食道内圧検査(LESの弛緩不全、蠕動消失) ・Zollinger-Ellison症候群では胃液検査で基礎酸分泌量が著増する ・ICG R15(正常10%以下)は肝予備能の指標で、肝硬変で上昇する ・蛋白漏出性胃腸症の漏出証明はα1-アンチトリプシン便中クリアランス
