StudyMed医師国家試験

操作室に戻れない検査はどれ?―血管造影で術者が浴びる「散乱線」の正体

第100回医師国家試験 G問題 第89問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第89問

医師の放射線被曝が避けられないのはどれか。

  1. a.CT
  2. b.MRI
  3. c.超音波検査
  4. d.CR〈コンピューテッドラジオグラフィ〉
  5. e.DSA〈digital subtraction angiography〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、画像検査のなかで「検査をする医師自身」が放射線を浴びてしまうのはどれか、という問題だ。患者の被曝ではなく、医師の職業被曝を問うているところがポイント。考える軸は2つで、まず「そもそも電離放射線を使う検査か」、次に「照射中に医師が患者のそばにいる必要があるか」だ。
医学生医学生
まず放射線を使わないものを外せばいいですね。MRIと超音波は放射線を使わないので、被曝はゼロだと思います。
ドクタードクター
その通り。MRIは強い静磁場の中で水素原子核にラジオ波を当て、その共鳴信号を画像にする検査だから、電離放射線は一切使わない。超音波もプローブから出した音波の反射を画像化しているだけだ。
医学生医学生
超音波は医師が患者さんに直接プローブを当てるので、一瞬「近くにいる」側に入るかと思いましたが、そもそも放射線がないんですね。
ドクタードクター
そう、近くにいても線源がなければ被曝はしない。だから妊婦さんや小児にも繰り返し使いやすいんだ。MRIで気をつけるべきは放射線ではなく、金属の吸引事故やペースメーカなど植込み機器への影響だね。
医学生医学生
放射線医学の講義で、MRI室に酸素ボンベが吸い込まれた事故の写真を見て驚いた記憶があります。では残りはCT、CR、DSAの3つで、どれもX線を使いますよね。
ドクタードクター
そこからが本題だ。CTや単純X線撮影では、患者は被曝するけれど、撮影ボタンを押すのは遮蔽された操作室の中。照射中に医師が撮影室にとどまる必要は通常ない。
医学生医学生
CRはデジタルのX線撮影でしたっけ。名前に「コンピューテッド」と付くので、CTの仲間かと勘違いしそうです。
ドクタードクター
間違えやすいところだね。CRはフィルムの代わりにイメージングプレートでX線像を記録し、それを読み取ってデジタル画像にする方式で、要するに単純X線撮影の一種だ。撮影のやり方は従来と同じで、医師や技師は室外や遮蔽の陰から照射する。だから医師の被曝が避けられないわけではない。
医学生医学生
CTも同じ理屈で、操作室から撮るから医師は被曝しない、と。
ドクタードクター
基本はそうだ。ただ例外もあって、暴れてしまう小児を押さえながら撮るときや、CT透視を使うCTガイド下生検では術者が被曝しうる。でもそれはCT検査そのものが医師の被曝を前提にしているわけではない、という整理でいい。
医学生医学生
すると残るのはDSA、デジタルサブトラクション血管造影ですね。臨床実習で放射線科のIVRを見学したとき、先生方が重い鉛のエプロンを着ていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが答えだ。DSAは造影前の画像(マスク像)を造影後の画像から差し引いて、骨などの背景を消して血管だけを浮かび上がらせる方法。現在主流の経動脈性DSAでは、X線透視を見ながらカテーテルを目的の動脈まで進める必要があるから、術者は照射中ずっと患者のすぐ横で手を動かし続けることになる。
医学生医学生
透視中にそばにいるから、X線管から出たX線を直接浴びている、ということですか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。術者被曝の大部分は、X線管から直接届くX線ではなく、患者の体に当たって四方に散らばるX線、つまり散乱線によるものなんだ。散乱線はX線が入射する側に多いから、X線管を寝台の下に置く配置のほうが術者の被曝を減らせる。
医学生医学生
患者さん自身が線源のようになるわけですね。だから防護衣だけでなく、防護眼鏡や天井から吊るす防護板も使うんですね。
ドクタードクター
その通り。外部被曝を防ぐ3原則は「時間・距離・遮蔽」。透視時間をできるだけ短くし、線源から離れ(線量はおおむね距離の2乗に反比例して減る)、防護具でさえぎる。そして線量計を着けて個人の被曝を管理する。特に防護衣で覆えない眼の水晶体は白内障のリスクが指摘されていて、日本でも2021年に水晶体の線量限度が年150 mSvから、5年で100 mSvかつ1年で50 mSvへと引き下げられた。
医学生医学生
DSAに続けて塞栓術をしたり、循環器内科で心臓カテーテル治療をしたりする場合も、同じように術者被曝が問題になりますね。
ドクタードクター
そう、IVR全般に共通する課題だ。最近は静脈から造影剤を入れて多列CTで撮るCT血管造影が普及して、診断だけのカテーテル血管造影は減っている。CT血管造影なら医師は操作室にいられる。それでもDSAは血管内治療の手段として欠かせないから、将来カテ室に入るときは防護の意識を必ず持っておいてほしい。

まとめ

医師の放射線被曝を考えるときは、まず電離放射線を使う検査かどうか、次に照射中に医師が患者のそばにいる必要があるかどうかの2段階で判断します。MRIは磁場とラジオ波、超音波は音波を用いるため被曝はなく、CTやCRを含む単純X線撮影は患者は被曝しても、医師は遮蔽された操作室から撮影するため通常は被曝しません。DSAをはじめとする血管造影やIVRでは、透視下で患者のすぐ横でカテーテル操作を行うため、患者から生じる散乱線による術者被曝が避けられません。対策は時間・距離・遮蔽の3原則と防護衣・防護眼鏡・防護板・線量計による管理であり、特に水晶体の線量限度は2021年に引き下げられています。検査ごとの被曝の仕組みを理解しておくことは、患者への説明だけでなく、医療者自身の安全を守るうえでも重要です。

解答・解説

正解はeです

画像検査・画像下手技のうち、実施する医師(術者)自身が放射線を浴びること(職業被曝)を避けられないものを選ぶ問題である。 考えるべき点は2つある。 1. その検査で電離放射線(X線など)を使うかどうか。MRIは磁場と電波(ラジオ波)、超音波検査は音波を用いるため、放射線被曝はそもそも生じない。 2. 放射線を使う検査のうち、照射中に医師が患者のそばにいなければならないかどうか。一般X線撮影(CRを含む)やCTでは、撮影は遮蔽された操作室から行われ、照射中に医師が撮影室内にとどまる必要は通常ない。一方、血管造影では、X線透視で画像を見ながらカテーテルを血管内に進め、目的の血管まで誘導して造影剤を注入するため、術者は透視中の患者のすぐ横で操作を続けなければならない。このとき術者が主に浴びるのは、患者の体から散乱してくるX線(散乱線)である。 したがって、透視下でのカテーテル操作を伴うDSA(デジタルサブトラクション血管造影)が、医師の被曝を避けられない検査である。

選択肢考察

  1. ×a.  CT

    CT(コンピュータ断層撮影)はX線を用いるため患者は被曝するが、撮影中は医師や診療放射線技師は遮蔽された操作室から装置を操作するため、通常、医師が被曝することはない。例外として、体動の激しい患者や小児を撮影中に押さえる必要がある場合や、CTガイド下生検などCT透視を用いる手技では術者が被曝しうるが、CT検査そのものは医師の被曝を前提としていない。

  2. ×b.  MRI

    MRI(磁気共鳴画像)は、強い静磁場の中で体内の水素原子核にラジオ波を当て、その共鳴信号から画像をつくる検査であり、電離放射線を一切使わない。したがって患者・医師ともに放射線被曝はない。ただし、強磁場によって金属が吸引される事故や、ペースメーカなどの体内植込み機器への影響には注意が必要である。

  3. ×c.  超音波検査

    超音波検査は、プローブから発した高い周波数の音波が組織の境界で反射して戻ってくる信号を画像化する検査で、放射線を使わない。医師がプローブを持って患者に接して検査するが、被曝は生じない。被曝がなく繰り返し施行できるため、妊婦や小児にも用いやすい。

  4. ×d.  CR〈コンピューテッドラジオグラフィ〉

    CR(computed radiography)は、フィルムの代わりにイメージングプレート(輝尽性蛍光体を塗布した板)でX線像を記録し、それをデジタル画像として読み取る単純X線撮影の方式である。デジタル化によって画像処理が容易になり、条件によっては患者被曝の低減も期待できる。撮影自体は従来のX線撮影と同様、医師や技師が室外(または遮蔽の陰)で照射するため、医師の被曝が避けられないものではない。

  5. ○e.  DSA〈digital subtraction angiography〉

    DSA(デジタルサブトラクション血管造影)は、造影剤注入前の画像(マスク像)を造影後の画像から差し引くことで、骨などの背景を消して血管だけを明瞭に描出する血管造影法である。経動脈性DSA(IA-DSA)と経静脈性DSA(IV-DSA)に分けられる。現在主流のIA-DSAでは、医師が患者のそばでX線透視を見ながらカテーテルを目的の動脈まで挿入・誘導する必要があるため、患者からの散乱線による被曝を避けられない。IV-DSAは静脈から自動注入器で造影剤を注入するため術者被曝は少ないが、画質が劣るため現在はあまり行われない。術者は鉛入りの防護衣、甲状腺プロテクター、防護眼鏡(ゴーグル)、天井懸垂型の防護板などを使い、線量計を着けて被曝を管理する。DSAに続けて行う経カテーテル動脈塞栓術(TAE)や心臓カテーテル検査・治療(PCI)などのインターベンショナルラジオロジー(IVR)でも同様に術者被曝が問題となる。

放射線防護の3原則(外部被曝)

・時間: 照射時間(透視時間)をできるだけ短くする。 ・距離: 線源から離れる。線量はおおむね距離の2乗に反比例して減る。 ・遮蔽: 防護衣、防護眼鏡、防護板などで放射線をさえぎる。

血管造影・IVRでの術者被曝

術者被曝の大部分は、X線管から直接届くX線ではなく、患者の体で散乱したX線(散乱線)による。散乱線はX線が入射する側(通常は寝台の下にあるX線管の側)で多いため、X線管を寝台の下に置くオーバーチューブ配置が術者被曝の軽減に有利である。防護衣で覆われない眼の水晶体は被曝しやすく、白内障のリスクが指摘されている。

職業被曝の線量限度(日本の法令)

・実効線量: 5年間で100 mSv、かつ1年間で50 mSvを超えない。 ・眼の水晶体の等価線量: 5年間で100 mSv、かつ1年間で50 mSvを超えない(国際放射線防護委員会ICRPの2011年声明を受けて、2021年4月に年150 mSvから引き下げられた)。

CT血管造影との関係

近年は、静脈から自動注入器で造影剤を注入し、多列CTで撮影して血管像を再構成するCT血管造影(CTA)が普及し、診断目的だけのカテーテル血管造影は減っている。CTAでは医師は操作室にいるため被曝しない。DSAは診断のみならず、血管内治療(塞栓術、ステント留置など)の手段として重要である。

POINT

・MRI、超音波検査は放射線を使わない → 被曝なし ・CT、単純X線撮影(CR)は患者は被曝するが、医師は操作室から撮影するため通常は被曝しない ・血管造影(DSA)やIVRは透視下で患者のそばでカテーテル操作をするため、術者は散乱線による被曝を避けられない ・外部被曝防護の3原則は「時間・距離・遮蔽」

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。