StudyMed医師国家試験

「回る」か「気が遠くなる」か―末梢性めまいに眼前暗黒感が起こらない理由

第100回医師国家試験 G問題 第74問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第74問

末梢性めまいの発作時に出現しないのはどれか。

  1. a.眼振
  2. b.嘔気
  3. c.回転感
  4. d.歩行障害
  5. e.眼前暗黒感

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、末梢性めまいの発作でどんな症状がそろうのかを問う問題だ。ポイントは、症状ひとつひとつを「前庭のどの反射が乱れた結果か」という視点で説明できるかどうか。そうすれば、仲間外れの症状が自然に浮かび上がってくるよ。
医学生医学生
末梢性というと、内耳や前庭神経の障害ですよね。めまいって全部同じ「くらくら」に聞こえてしまって、正直区別があいまいです。
ドクタードクター
患者さんも「めまい」の一言で表現するから、そこを分けるのが医師の仕事なんだ。大きく分けて、周囲が回る回転性めまい、ふわふわする浮動性めまい、そして目の前が暗くなって気が遠くなる前失神の3つがある。前の2つは前庭系やその中枢の問題が中心だけど、前失神は脳全体の血流が一時的に足りなくなって起こるもので、仕組みがまったく違う。
医学生医学生
なるほど。では末梢性めまいでは、左右の前庭のバランスが崩れることで症状が出るという理解でいいですか。
ドクタードクター
その通り。左右の前庭からの入力が急に不均衡になると、いくつかの反射が同時に乱れる。まず前庭眼反射の左右差によって、眼球がゆっくり一方へ流れ、それを素早く引き戻す運動が繰り返される。これが眼振だ。
医学生医学生
耳鼻科の講義で、末梢性は水平回旋混合性で、方向が一定の眼振になると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。しかも固視で抑制されやすいので、Frenzel眼鏡で固視を外すと観察しやすくなる。次に、脳は「頭が回っている」という誤った信号を受け取るから、天井がぐるぐる回るような回転感が生じる。
医学生医学生
吐き気が強いのも特徴ですよね。救急外来の実習で、めまいの患者さんがずっと嘔吐していたのが印象に残っています。
ドクタードクター
まさにそれ。前庭神経核は延髄の嘔吐中枢や自律神経系と密接につながっているので、強い悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白が出やすい。そして前庭脊髄路を介した姿勢制御も乱れるから、体が障害側へ傾き、ふらついて歩けなくなる。歩行障害も末梢性めまいの症状として十分ありうるんだ。
医学生医学生
歩行障害というと小脳とか中枢の症状だと思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。末梢性でも偏倚やふらつきは起こり、Romberg試験や足踏み検査で確認できる。ただし、立つことも歩くこともまったくできないほどの強い体幹失調があれば、小脳など中枢病変を疑う手がかりになる。程度で見分ける視点が大事なんだ。
医学生医学生
そうすると、残る眼前暗黒感だけが前庭の反射では説明できませんね。
ドクタードクター
そう、それが正解だ。眼前暗黒感は網膜や後頭葉を含む脳全体の血流が一過性に低下したときの症状で、起立性低血圧、血管迷走神経反射、不整脈、大動脈弁狭窄症などで起こる。内耳や前庭神経が障害されても脳血流は下がらないから、末梢性めまいの発作では出現しない。
医学生医学生
OSCEの医療面接で「めまい」の訴えを聞くとき、どんな感じかを具体的に聞くよう指導されたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。「回る感じですか」「ふわふわしますか」「目の前が暗くなって気が遠くなる感じですか」と聞き分けるだけで、前庭性か循環性かの見当がつく。眼前暗黒感を伴うなら、耳鼻科的評価より先に血圧測定や起立試験、心電図で心血管系を評価すべきだ。不整脈による前失神は見逃すと命に関わるからね。
医学生医学生
末梢性めまいの代表疾患も整理しておきたいです。
ドクタードクター
頭位変換で1分以内の回転性めまいを繰り返す良性発作性頭位めまい症、難聴・耳鳴を伴う発作を反復するMénière病、激しい回転性めまいが数日続く前庭神経炎が代表だ。一方で、構音障害や複視、四肢の運動失調を伴ったり、注視方向で向きが変わる眼振や垂直性眼振があれば、中枢性を考えて画像検査を急ぐ。めまい診療では、まず危険なものを除外する姿勢を忘れないでほしい。

まとめ

末梢性めまいの発作では、左右の前庭入力の急激な不均衡により、前庭眼反射の乱れによる眼振、回転感、前庭と嘔吐中枢・自律神経の連絡による悪心・嘔吐、前庭脊髄反射の乱れによる偏倚や歩行障害がそろって出現します。これに対し眼前暗黒感は、起立性低血圧や血管迷走神経反射、不整脈などで脳全体の血流が一過性に低下する前失神の症状であり、前庭障害そのものからは生じません。末梢性でも歩行障害は起こりえますが、起立・歩行不能なほどの体幹失調や神経症状、注視方向で変わる眼振などは中枢性を疑う所見です。めまいの訴えを「回る」「ふわふわする」「気が遠くなる」に問診で分けることが、前庭性か循環性かを見極め、危険な疾患を見逃さないための第一歩になります。

解答・解説

正解はeです

めまい(眩暈)は、自分や周囲が動いているように感じる異常感覚の総称であり、原因部位によって末梢性(内耳・前庭神経)と中枢性(脳幹・小脳など)に分けられる。さらに、前庭系とは無関係な「失神性めまい(前失神)」と呼ばれる病態があり、これは脳全体の血流が一時的に不足することで生じる。 末梢性めまいでは、左右の前庭からの入力が急に不均衡になるため、次のような症状がそろって出現する。 ・前庭眼反射の不均衡による眼振 ・「天井がぐるぐる回る」といった回転性めまい(回転感) ・前庭と自律神経中枢(嘔吐中枢など)の連絡を介した悪心・嘔吐 ・前庭脊髄反射の不均衡による体の傾き、ふらつき、歩行障害 一方、「目の前が暗くなる」「血の気が引いて気が遠くなる」といった眼前暗黒感は、脳(特に網膜・後頭葉を含む全脳)への血流が一過性に低下したときの症状であり、起立性低血圧、血管迷走神経反射、不整脈などの循環器系の原因で起こる。前庭の障害そのものからは生じない。 したがって、末梢性めまいの発作時に出現しないのは眼前暗黒感である。めまいを訴える患者では「回る感じか」「気が遠くなる感じか」を問診で区別することが、前庭性か循環性かを見分ける第一歩となる。

選択肢考察

  1. ×a.  眼振

    出現する。一側の前庭機能が急に低下(または亢進)すると、前庭眼反射の左右差によって眼球が一方向にゆっくり偏位し、それを急速相で引き戻す運動が繰り返される。これが眼振である。末梢性では、多くの場合方向が一定の定方向性眼振で、水平成分と回旋成分が混ざった水平回旋混合性眼振となるのが典型である。また固視によって抑制されやすく、フレンツェル眼鏡などで固視を除くと観察しやすくなる。

  2. ×b.  嘔気

    出現する。前庭神経核は延髄の嘔吐中枢や自律神経系と密接に結合しているため、前庭入力の急激な不均衡は強い悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白などの自律神経症状を引き起こす。末梢性めまいでは、この悪心・嘔吐が強く出ることが多い。

  3. ×c.  回転感

    出現する。半規管や前庭神経の障害では、実際には動いていないのに自分や周囲が回転しているように感じる回転性めまいが特徴的である。末梢性めまいでは、この回転感が強く、発症も急激であることが多い。なお中枢性めまいでは、回転感よりも浮動感(ふわふわ感)が主体となることが比較的多い。

  4. ×d.  歩行障害

    出現する。前庭は前庭脊髄路を介して姿勢保持に関わる抗重力筋の緊張を調整している。一側の前庭が障害されると体は一定方向(通常は障害側)へ偏倚し、立位や歩行が不安定になる。ロンベルグ試験や足踏み検査で偏倚をみることができる。ただし末梢性では、代償が進めば歩けるようになることが多く、起立・歩行がまったく不能なほどの強い体幹失調は中枢性(小脳病変など)を疑う手がかりとなる。

  5. ○e.  眼前暗黒感

    出現しない。眼前暗黒感は、脳への血流が一時的に不足する前失神(失神の前段階)の症状であり、起立性低血圧、血管迷走神経反射、自律神経障害による血圧低下、徐脈性・頻脈性不整脈、大動脈弁狭窄症などの循環器系の異常で生じる。内耳や前庭神経の障害では脳血流は低下しないため、末梢性めまいの発作でこの症状はみられない。眼前暗黒感を伴うめまいでは、耳鼻科的疾患よりも心血管系の評価(血圧測定、起立試験、心電図など)を優先する。

めまいの分類

・回転性めまい: 周囲や自分が回っている感覚。末梢前庭障害で典型的。 ・浮動性めまい: ふわふわ、ふらふらする感覚。中枢性、薬剤性、心因性など原因は多彩。 ・前失神(失神性めまい): 眼前暗黒感、気が遠くなる感覚。脳全体の低灌流による。

末梢性めまいの代表疾患

・良性発作性頭位めまい症(BPPV): 頭位変換で数十秒〜1分以内の回転性めまい。難聴なし。 ・メニエール病: 数十分〜数時間の回転性めまい発作を反復し、変動する難聴・耳鳴・耳閉感を伴う。 ・前庭神経炎: 突然の激しい回転性めまいが数日持続。難聴なし。 ・突発性難聴(めまいを伴うもの): 急性の感音難聴にめまいを伴うことがある。

末梢性と中枢性の鑑別点

・末梢性: 回転感が強い、自律神経症状が強い、定方向性の水平回旋混合性眼振、固視で眼振が抑制される、蝸牛症状(難聴・耳鳴)を伴うことがある、他の神経症状なし。 ・中枢性: 浮動感が主体のことが多い、注視方向で向きが変わる眼振や垂直性眼振、固視で抑制されにくい、構音障害・複視・四肢の運動失調・感覚障害など他の神経症状を伴う、起立・歩行が困難なほどの体幹失調。

前失神の主な原因

起立性低血圧(脱水、降圧薬、自律神経障害など)、血管迷走神経反射、徐脈性不整脈(洞不全症候群、房室ブロック)、頻脈性不整脈、大動脈弁狭窄症などの器質的心疾患。

POINT

・末梢性めまい発作: 眼振、回転感、悪心・嘔吐、平衡障害(偏倚・歩行障害)がそろう。 ・眼前暗黒感は脳全体の低灌流による前失神の症状で、循環器系(低血圧・不整脈など)の問題を示唆し、前庭障害では生じない。 ・めまいの問診では「回る」「ふわふわする」「気が遠くなる」を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。