StudyMed医師国家試験

酢酸で白く浮かぶモザイク―コルポスコピーで見抜く子宮頸部上皮内癌

第100回医師国家試験 F問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第100回 F問題 第43問

28歳の女性。帯下の増加を主訴に来院した。内診と細胞診とを行った後,コルポスコピーを施行した。酢酸加工後のコルポスコピー写真を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

第100回 F問題 第43問の問題画像
  1. a.トリコモナス腟炎
  2. b.クラミジア頸管炎
  3. c.上皮内癌
  4. d.浸潤扁平上皮癌
  5. e.浸潤腺癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、コルポスコピー所見から子宮頸部病変の「進み具合」を判断する問題だ。注目してほしいのは、内診と細胞診のあとにコルポスコピーへ進んでいるという検査の流れと、酢酸加工後の写真に何が見えるかの2点だよ。
医学生医学生
帯下の増加が主訴なので、最初は腟炎や頸管炎のような感染症を考えてしまいました。
ドクタードクター
主訴だけ見ればそう考えるのは自然だね。でも、細胞診の次にコルポスコピーをするのは、細胞診で異型細胞が見つかって、病変の場所と程度を確かめ、狙い組織診をする必要があるときの標準的な流れなんだ。つまり出題者は腫瘍性病変を念頭に置いている。
医学生医学生
そういえば産婦人科の講義で「細胞診、コルポスコピー、狙い組織診」の三段階を習いました。
ドクタードクター
その流れが基本だ。では写真の読み方。頸部に3〜5%の酢酸を塗ると、核の密度が高い異型上皮では細胞内のタンパクが凝固して白く変わる。これが酢酸白色上皮だ。本例では、白い上皮と赤い部分がタイルを敷き詰めたように入り組んだ像、つまりモザイクが見える。
医学生医学生
白い上皮を血管が区切っているから、網目のように見えるわけですね。
ドクタードクター
その通り。異型上皮の中に入り込んだ血管が、上皮を敷石状に区画するとモザイク、血管の断端が赤い点として見えると赤点斑と呼ぶ。どちらも扁平上皮系の異型上皮、つまり上皮内病変を示す所見だ。本例は上皮内に限局した高度病変、上皮内癌と考えられる。
医学生医学生
でも、異型上皮があるなら、もう浸潤扁平上皮癌まで進んでいる可能性はないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。浸潤癌になると、口径や走行が不規則なコンマ状・コルクスクリュー状の異型血管が目立ち、表面は凹凸不整で、隆起や潰瘍、壊死を伴い、触れると簡単に出血する。肉眼でも腫瘍がわかることが多い。本例は平坦なモザイクが主体で、そうした所見が中心ではないから、浸潤前の段階と判断するんだ。
医学生医学生
浸潤腺癌はどうでしょう。若い女性で腺癌が増えていると聞いたことがあります。
ドクタードクター
確かに腺癌は増えているけれど、頸管腺の円柱上皮から発生して頸管の奥に病変ができやすく、コルポスコピーではむしろ捉えにくいことが多い。浸潤すれば乳頭状・絨毛状の不整な隆起や異型血管が見られる。モザイクは扁平上皮系の所見だから、腺癌の典型像ではないね。
医学生医学生
感染症の2つは、写真の見え方がまったく違うということですか。
ドクタードクター
そうだね。トリコモナス腟炎は黄緑色で泡沫状、悪臭のある帯下と強いかゆみが特徴で、頸部には点状出血が散らばる「いちご状」の発赤が見られる。クラミジア頸管炎は女性の性感染症で最も多く、多くは無症状だけど、頸管から黄色の粘液膿性分泌物が出たり、易出血性のびらん様発赤が見られたりする。どちらも炎症所見で、酢酸白色上皮のモザイクは説明できない。
医学生医学生
上皮内癌は、CINの分類ではどこに入るんでしたっけ。CBTの勉強では軽度・中等度・高度異形成までしか覚えていなくて。
ドクタードクター
そこは整理しておこう。CIN 1が軽度異形成、CIN 2が中等度異形成、CIN 3に高度異形成と上皮内癌がまとめて含まれる。細胞診のベセスダ分類ではHSILに相当する。かつて上皮内癌は子宮頸癌0期とされていたけれど、現在の進行期分類では0期は削除され、上皮内病変はCINとして別に扱われているよ。
医学生医学生
治療は円錐切除でしょうか。28歳なので妊孕性も気になります。
ドクタードクター
その視点は大切だ。CIN 3の治療は子宮頸部円錐切除術が基本で、レーザーやLEEPで行う。子宮を残しつつ病理診断を確定できる、診断と治療を兼ねた手技なんだ。ただし術後は早産のリスクが上がるので、妊娠時には注意が必要になる。一方、CIN 1は多くが自然に消えるので経過観察が基本だね。
医学生医学生
背景にはHPVの持続感染があるから、予防はワクチンと検診の両輪ということですね。
ドクタードクター
その通り。HPV16型・18型などのハイリスク型が扁平円柱上皮境界付近の移行帯に持続感染し、異形成から上皮内癌、浸潤癌へと進んでいく。ワクチンが一次予防、検診が二次予防だ。実際の診療では、コルポスコピーで最も異常の強い部位を狙って生検し、病理で確定診断することを忘れないでおこう。

まとめ

細胞診で異常が出たあとにコルポスコピーを行い、酢酸加工で白色上皮が血管により敷石状に区画されたモザイク所見を認める場合は、扁平上皮系の上皮内病変、特に上皮内癌などの高度病変を考えます。不規則な異型血管、隆起や潰瘍、易出血性が目立てば浸潤癌を疑い、腺癌は頸管内に生じやすくコルポスコピーで捉えにくい点も押さえておきましょう。トリコモナス腟炎のいちご状発赤や、クラミジア頸管炎の粘液膿性分泌物は炎症所見であり、モザイクとは区別されます。上皮内癌は高度異形成とともにCIN 3(HSIL)に分類され、円錐切除術で診断と治療を兼ねますが、術後の早産リスクにも配慮が必要です。HPV持続感染から浸潤癌に至る流れと、細胞診からコルポスコピー、狙い組織診へ進む診断手順を理解することが、子宮頸癌の予防と早期発見の土台になります。

解答・解説

正解はcです

問題の要点

28歳の若い女性が帯下の増加で受診し、内診・細胞診ののちにコルポスコピー(腟拡大鏡診)が行われている。細胞診の次にコルポスコピーへ進むのは、細胞診で異常(異型細胞)が指摘され、病変の局在と程度を評価して狙い組織診を行う必要がある場合の標準的な流れである。したがって、本問は子宮頸部の腫瘍性病変を念頭に、コルポスコピー所見からその進行度を判断させる問題である。

コルポスコピー所見の読み方

3〜5%酢酸を頸部に塗布すると、核の密度が高い異型上皮は細胞内タンパクが凝固して白く変化する(酢酸白色上皮)。異型上皮の中に血管が入り込むと、その並び方によって次の所見が現れる。 ・モザイク(mosaic):白色上皮が血管によって敷石状・タイル状に区画された像 ・赤点斑(punctation):白色上皮の中に血管の断端が赤い点として見える像 本例の写真では、酢酸加工後に白色の上皮と赤色の部分がモザイク状に入り組んだ像がみられる。これは扁平上皮系の異型上皮の典型所見であり、上皮内に限局した高度病変(上皮内癌)に合致する。

浸潤癌との区別

浸潤癌に進むと、口径や走行が不規則な異型血管(コンマ状・コルクスクリュー状など)が出現し、表面の不整、隆起・潰瘍形成、易出血性、壊死などのより高度な変化が加わる。本例はモザイクを主体とした所見で、腫瘤形成や異型血管を主体とする像ではないため、浸潤癌よりも上皮内癌と考える。 実際の診療では、コルポスコピーで最も異常の強い部位から狙い組織診を行い、病理組織で確定診断する。

選択肢考察

  1. ×a.  トリコモナス腟炎

    腟トリコモナス原虫による性感染症で、黄緑色で泡沫状、悪臭のある帯下の増加と強い外陰部掻痒感をきたす。腟壁や頸部に点状の出血斑が散在する「いちご状」の発赤(strawberry cervix)が特徴で、酢酸加工でモザイク状の白色上皮を呈する病変ではない。診断は帯下の鏡検で運動する原虫を確認して行い、治療はメトロニダゾールなど(パートナーも同時治療)である。

  2. ×b.  クラミジア頸管炎

    Chlamydia trachomatisによる子宮頸管炎で、女性の性感染症として最も多い。多くは無症状だが、帯下増加、不正出血、性交痛、下腹痛を起こすことがあり、上行感染で骨盤内炎症性疾患や肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、卵管性不妊の原因となる。所見は頸管からの黄色の粘液膿性分泌物や、易出血性の頸部びらん様の発赤であり、酢酸白色上皮によるモザイクは炎症所見では説明できない。診断は頸管擦過検体の核酸増幅法で行う。

  3. ○c.  上皮内癌

    酢酸加工後に白色上皮が血管で区画されたモザイク所見を示しており、扁平上皮系の異型上皮を示唆する。浸潤を示す異型血管や腫瘤・潰瘍形成は主体でなく、上皮内に限局する高度病変と考えられる。上皮内癌は現在、高度異形成とともにCIN 3(子宮頸部上皮内腫瘍グレード3)に分類され、細胞診ではHSIL(高度扁平上皮内病変)に相当する。治療は子宮頸部円錐切除術が基本で、診断と治療を兼ねる。

  4. ×d.  浸潤扁平上皮癌

    間質に浸潤した扁平上皮癌では、コルポスコピーで不規則に拡張・蛇行した異型血管が目立ち、表面は凹凸不整で、腫瘤の隆起や潰瘍・壊死を伴い接触で容易に出血する。肉眼的にも腫瘍が確認できることが多い。本例のような平坦なモザイク主体の所見は、浸潤前の上皮内病変を示すものと考える。

  5. ×e.  浸潤腺癌

    腺癌は頸管腺(円柱上皮)から発生し、頸管内の奥に病変が生じやすいため、コルポスコピーで捉えにくいことが多い。浸潤腺癌では乳頭状・絨毛状の不整な隆起や異型血管がみられる。モザイクは扁平上皮系の異型上皮の所見であり、腺癌の典型像ではない。

子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)

ヒトパピローマウイルス(HPV、特に16型・18型などのハイリスク型)の持続感染により、扁平円柱上皮境界(SCJ)付近の移行帯(transformation zone)に異形成が生じ、一部が上皮内癌、さらに浸潤癌へと進行する。 ・CIN 1:軽度異形成(異型細胞が上皮の下1/3まで) ・CIN 2:中等度異形成(下2/3まで) ・CIN 3:高度異形成および上皮内癌(2/3を超える〜全層) 近年はCIN 2とCIN 3をまとめてHSIL、CIN 1をLSILと呼ぶ2段階の分類も用いられる。 かつて上皮内癌は「子宮頸癌0期」として進行期分類に含まれていたが、現在の進行期分類(FIGO分類、日本では2011年から採用)では0期は削除され、上皮内病変はCINとして別に扱われる。

細胞診のベセスダシステム(扁平上皮系)

NILM(陰性)、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCC に分類する。ASC-USではHPV検査の結果でコルポスコピーの要否を判断し、ASC-H以上はコルポスコピー・狙い組織診を行う。

主なコルポスコピー所見

・酢酸白色上皮(white epithelium) ・モザイク(mosaic) ・赤点斑(punctation) ・白斑(leukoplakia) ・異型血管域(atypical vessels):浸潤癌を強く疑う モザイクや赤点斑は、目が粗く不規則なほど高度病変を示唆する。

CINの管理

・CIN 1:多くは自然消退するため経過観察 ・CIN 2:経過観察または治療(妊娠希望などを考慮) ・CIN 3:子宮頸部円錐切除術(レーザー、LEEP〈高周波ループ切除術〉など)。円錐切除は妊孕性を温存しつつ病理診断を確定できるが、術後の早産リスク上昇に注意する。

予防

HPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)が柱である。

POINT

・細胞診異常 → コルポスコピー → 狙い組織診 が子宮頸部病変の診断の流れ。 ・酢酸加工で白色上皮、モザイク、赤点斑 → 上皮内病変(CIN)を示唆する。 ・異型血管、腫瘤・潰瘍形成、易出血性 → 浸潤癌を疑う。 ・上皮内癌は高度異形成とともにCIN 3(HSIL)に含まれ、現在の進行期分類では0期は存在しない。 ・CIN 3の治療は子宮頸部円錐切除術が基本。 ・トリコモナス腟炎は泡沫状帯下といちご状発赤、クラミジア頸管炎は粘液膿性の頸管分泌物が特徴。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。