ドレーンの先に肝臓あり―解剖で読み解く右胸腔ドレナージの落とし穴
第100回医師国家試験 E問題 第39問
国試問題にチャレンジ
右胸腔ドレナージの合併症はどれか。
- a.乳び胸
- b.肺梗塞
- c.肝損傷
- d.脾損傷
- e.腎損傷
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胸腔ドレーンは安全三角内の第4〜5肋間から、肋骨下縁を走る肋間動静脈・神経を避けて肋骨上縁に沿って挿入します。挿入位置が低すぎたり横隔膜が挙上していたりすると、チューブが横隔膜を貫いて腹腔内臓器を損傷する危険があり、右では肝臓、左では脾臓や胃が損傷されやすい臓器です。胸管は後縦隔の深部を走るため乳び胸は通常起こりにくく、肺梗塞や腎損傷も胸腔ドレナージの合併症としては考えにくいものです。ほかに出血、肺損傷、皮下気腫、感染、再膨張性肺水腫が重要な合併症で、超音波による横隔膜位置の確認や適切な排液速度の管理が予防につながります。解剖学的な位置関係から合併症を予測する考え方は、あらゆる穿刺・挿入手技を安全に行うための基本となります。
解答・解説
正解はcです
胸腔ドレナージ(胸腔内にチューブを留置して空気・胸水・血液・膿などを体外へ排出する処置)の合併症を、解剖学的位置関係から考える一般問題である。 胸腔ドレーンは通常、中腋窩線〜前腋窩線上の第4〜5肋間(いわゆる「安全三角」:大胸筋外縁・広背筋前縁・腋窩底部と乳頭の高さを結ぶ水平線で囲まれた領域)から、肋骨上縁に沿って挿入する。肋骨下縁には肋間動静脈・神経が走行するため、これを避けるためである。 挿入部位が低すぎる場合や、呼気時に挙上した横隔膜の位置を見誤った場合には、チューブが横隔膜を貫いて腹腔内臓器を損傷する危険がある。横隔膜直下に位置する臓器は、右側では肝臓、左側では脾臓(および胃)である。したがって右胸腔ドレナージで問題となる腹部臓器損傷は肝損傷である。 その他、胸腔ドレナージ一般の合併症として、肋間動静脈損傷による出血(血胸)、肺実質の損傷、皮下気腫、感染(膿胸)、ドレーンの位置異常、急速な大量排液による再膨張性肺水腫などが重要である。
選択肢考察
- ×a. 乳び胸
乳び胸は胸管(下半身と左上半身のリンパを集める最大のリンパ管)の損傷や閉塞により、リンパ液(乳び)が胸腔内に貯留した状態である。胸管は腹部の乳び槽から大動脈裂孔を通って胸腔に入り、椎体の前面(後縦隔)を上行して最終的に左静脈角に注ぐ。すなわち胸管は正中付近の縦隔深部を走行しており、側胸壁から挿入するドレーンで損傷することは通常考えにくい。乳び胸の主な原因は食道切除術などの胸部手術、悪性リンパ腫などの腫瘍、外傷である。
- ×b. 肺梗塞
肺梗塞は、肺動脈が血栓塞栓(多くは下肢深部静脈血栓由来)によって閉塞し、その支配領域の肺組織が壊死に陥った状態である。胸腔ドレーン挿入時に肺実質をチューブで損傷して肺裂傷・気胸・出血を起こすことはあるが、肺動脈の血流途絶による梗塞を生じる機序はない。
- ○c. 肝損傷
肝臓は右横隔膜の直下に位置し、その上面(横隔面)はドーム状に胸腔側へ大きく張り出している。呼気時には横隔膜が第4〜5肋間の高さまで挙上することもあるため、ドレーンの挿入位置が低すぎる、あるいは横隔膜挙上(肝腫大、無気肺、横隔神経麻痺など)がある場合には、チューブが横隔膜を貫通して肝臓を損傷しうる。肝は血流が豊富で、損傷すると大量出血につながりうるため重大な合併症である。予防のため、挿入部位は乳頭の高さ(第5肋間)より尾側にしない、挿入前に超音波で横隔膜・肝の位置を確認する、指で胸腔内を確認してからチューブを進める、トロカーを強い力で押し込まない、といった配慮が行われる。
- ×d. 脾損傷
脾臓は左上腹部、左横隔膜の直下(第9〜11肋骨の高さ)に位置する。したがって脾損傷は左胸腔ドレナージで横隔膜を貫いた場合に起こりうる合併症であり、右胸腔ドレナージでは起こらない。
- ×e. 腎損傷
腎臓は後腹膜腔の脊椎両側に位置する臓器で、右腎は肝臓の下方にあるため左腎よりやや低い位置にある。胸腔ドレーンを挿入する側胸部からは距離があり、横隔膜を越えたとしても先に肝臓に当たるため、腎を損傷することは通常考えにくい。
胸腔ドレナージの適応
気胸(特に緊張性気胸、中等度以上の気胸)、血胸、膿胸、大量胸水・悪性胸水(胸膜癒着術を含む)、乳び胸、胸部手術後など。
挿入部位と手技の要点
・安全三角(大胸筋外縁、広背筋前縁、乳頭の高さの水平線で囲まれる範囲)内の第4〜5肋間、中腋窩線〜前腋窩線から挿入するのが標準的である。 ・肋間動静脈・神経は肋骨下縁の肋骨溝を走るため、肋骨上縁に沿って胸腔に入る。 ・気胸では空気が上方に集まるためチューブ先端を肺尖部(頭側・腹側)へ、胸水や血胸では液体が下方に集まるため背側・下方へ向ける。
主な合併症
・出血: 肋間動静脈損傷、肺損傷 ・臓器損傷: 肺、横隔膜、腹腔内臓器(右: 肝臓、左: 脾臓・胃)、まれに心臓・大血管 ・皮下気腫、ドレーンの位置異常(皮下迷入、葉間迷入) ・感染(創部感染、膿胸) ・再膨張性肺水腫: 長期間虚脱していた肺を急速に再膨張させたときに起こる。大量胸水では一度に多量を排液しない、気胸では強い陰圧をかけ過ぎないことで予防する。
胸管の走行
乳び槽(第1〜2腰椎前面)→大動脈裂孔→後縦隔(大動脈と奇静脈の間を椎体前面で上行)→第4〜5胸椎付近で左側へ移る→左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)。
POINT
・胸腔ドレーンが横隔膜を貫くと、右では肝臓、左では脾臓(や胃)を損傷しうる。 ・予防には、安全三角内の第4〜5肋間から挿入し、低すぎる位置を避け、超音波で横隔膜の位置を確認する。 ・肋間動静脈・神経は肋骨下縁を走るため、肋骨上縁に沿って挿入する。 ・胸腔ドレナージの他の重要合併症: 出血、肺損傷、皮下気腫、感染、再膨張性肺水腫。
