便秘の陰に甲状腺あり―「腸の外」から便秘を読み解く
第100回医師国家試験 E問題 第37問
国試問題にチャレンジ
便秘症の原因として考えられるのはどれか。
- a.胆石症
- b.慢性肝炎
- c.慢性膵炎
- d.高尿酸血症
- e.甲状腺機能低下症
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
便秘は器質性便秘、機能性便秘、そして全身疾患や薬剤による症候性・薬剤性便秘に分けて考えると整理しやすくなります。甲状腺ホルモンは消化管の蠕動運動を促進するため、甲状腺機能低下症では腸管運動が低下して便秘をきたし、反対に機能亢進症では下痢や排便回数の増加がみられます。胆石症・慢性肝炎・高尿酸血症は便秘の原因とはならず、慢性膵炎の外分泌不全ではむしろ脂肪性下痢が問題になります。症候性便秘の原因には糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症、Parkinson病、全身性強皮症などがあり、オピオイドや抗コリン薬などの薬剤性便秘も見逃せません。中高年の新規発症の便秘や警告症状を伴う便秘では大腸癌の除外を優先する、という臨床判断とあわせて身につけておきたいテーマです。
解答・解説
正解はeです
便秘をきたしうる基礎疾患を問う一般問題である。 便秘は、大腸そのものに器質的な狭窄や閉塞がある「器質性便秘」と、腸管の運動や排便機能の異常による「機能性便秘」に大別される。さらに、全身疾患や薬剤によって二次的に腸管運動が低下して起こる便秘(症候性便秘・薬剤性便秘)がある。症候性便秘の原因として代表的なのは、内分泌・代謝疾患(甲状腺機能低下症、糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症など)、神経疾患(Parkinson病、脊髄損傷、多発性硬化症など)、膠原病(全身性強皮症など)である。 選択肢のうち、腸管運動を低下させる機序が明確なのは甲状腺機能低下症である。甲状腺ホルモンは全身の代謝と消化管の蠕動運動を促進する働きをもつため、その不足によって腸の動きが鈍くなり便秘を生じる。他の選択肢はいずれも便秘の原因として一般的なものではない。
選択肢考察
- ×a. 胆石症
胆石症の症状は、食後(特に脂肪食後)の右季肋部痛・心窩部痛(胆石発作)や、胆囊炎・胆管炎合併時の発熱・黄疸などであり、慢性的な便秘の原因とはならない。まれに大きな胆石が胆囊と腸管の瘻孔を通って腸管内に落下し、回腸末端などに詰まって胆石イレウスを起こすことがあるが、これは急性の腸閉塞であり便秘症とは病態が異なる。便秘と胆石症が同一患者に併存することはあっても、因果関係はない。
- ×b. 慢性肝炎
慢性肝炎はB型・C型肝炎ウイルスなどによる肝の持続的な炎症であり、多くは無症状で、自覚症状があっても全身倦怠感や食欲不振程度である。腸管運動を低下させる機序はなく、便秘の原因とはならない。なお、肝硬変に進行した段階では、便秘が腸内でのアンモニア産生・吸収を増やして肝性脳症の誘因となるため排便管理が重要になるが、これは「便秘が肝疾患を悪化させる」関係であり、逆ではない。
- ×c. 慢性膵炎
慢性膵炎が進行して膵外分泌機能不全に陥ると、脂肪の消化・吸収が障害され、量の多い脂肪便(白っぽく悪臭のある下痢便)や消化不良がみられる。したがって慢性膵炎で問題となる便通異常は便秘ではなく下痢(脂肪性下痢)である。その他の症状は上腹部痛・背部痛、膵内分泌機能低下による糖尿病などである。
- ×d. 高尿酸血症
高尿酸血症(血清尿酸値7.0 mg/dLを超える状態)の臨床像は、痛風関節炎、痛風結節、尿路結石、腎障害(痛風腎)などであり、消化管運動に影響して便秘を起こすことはない。
- ○e. 甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは基礎代謝を高めるとともに消化管平滑筋の運動を促進する。甲状腺機能低下症(代表的原因は橋本病=慢性甲状腺炎)ではホルモン不足により腸管蠕動が低下し、便秘を生じる。ほかに寒がり、易疲労感、体重増加、皮膚乾燥、粘液水腫(圧痕を残さない浮腫)、嗄声、徐脈、アキレス腱反射の弛緩相遅延、高コレステロール血症、CK上昇などがみられる。逆に甲状腺機能亢進症では腸管運動が亢進し、排便回数の増加や下痢をきたす。
便秘の分類
・器質性便秘: 大腸癌、炎症性腸疾患による狭窄、腸管癒着、Hirschsprung病(先天的な腸管神経節細胞の欠如)など、腸管の形態的異常によるもの。 ・機能性便秘: 腸管運動の低下(弛緩性便秘)、腸管の痙攣的な収縮による便通異常(痙攣性便秘、過敏性腸症候群の便秘型など)、直腸・肛門の排出障害(直腸性便秘・便排出障害)など。 ・症候性便秘: 全身疾患に伴うもの。 内分泌・代謝: 甲状腺機能低下症、糖尿病(自律神経障害)、副甲状腺機能亢進症などによる高カルシウム血症、低カリウム血症 神経: Parkinson病、脳血管障害、脊髄損傷、多発性硬化症 膠原病: 全身性強皮症(消化管平滑筋の線維化) ・薬剤性便秘: オピオイド、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陽イオン交換樹脂など。
便秘と下痢をきたす内分泌疾患の対比
・便秘: 甲状腺機能低下症、高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症など) ・下痢: 甲状腺機能亢進症(Basedow病)、カルチノイド症候群、WDHA症候群(VIP産生腫瘍)、ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)
臨床での注意
新たに出現した便秘や、血便・体重減少・貧血を伴う便秘(特に中高年)では、大腸癌などの器質的疾患を除外する必要がある。
POINT
・甲状腺機能低下症は腸管蠕動を低下させ便秘をきたす(甲状腺機能亢進症では下痢)。 ・症候性便秘の原因: 甲状腺機能低下症、糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症、Parkinson病、全身性強皮症など。 ・慢性膵炎(外分泌不全)は便秘ではなく脂肪性下痢をきたす。 ・胆石症・慢性肝炎・高尿酸血症は便秘の原因とならない。
