StudyMed医師国家試験

便秘の陰に甲状腺あり―「腸の外」から便秘を読み解く

第100回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第100回 E問題 第37問

便秘症の原因として考えられるのはどれか。

  1. a.胆石症
  2. b.慢性肝炎
  3. c.慢性膵炎
  4. d.高尿酸血症
  5. e.甲状腺機能低下症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、便秘を起こしうる基礎疾患を選ぶ問題だ。便秘というと腸そのものの病気ばかり思い浮かべがちだけど、実は全身の病気が腸の動きを鈍らせて便秘を起こすことがある。腸の外にある原因、という視点で選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
消化器の問題なので、つい胆石症や膵炎のような消化器の病気から探してしまいました。
ドクタードクター
その発想になるのは自然だね。まずは便秘の分類を整理しておこう。大腸癌や炎症性腸疾患による狭窄のように腸に形の異常がある器質性便秘、腸の運動や排便機能の異常による機能性便秘、そして全身疾患や薬剤によって二次的に腸管運動が落ちる症候性便秘・薬剤性便秘がある。今回問われているのは、この症候性便秘の原因なんだ。
医学生医学生
全身疾患で腸の動きが落ちるとなると、内分泌の病気が怪しい気がします。
ドクタードクター
いい勘だね。甲状腺ホルモンは全身の代謝を高めるとともに、消化管平滑筋の運動も促進している。だから甲状腺機能低下症ではホルモン不足で腸管蠕動が低下し、便秘になる。これが正解だ。
医学生医学生
内分泌の講義で、機能亢進症だと逆に下痢や排便回数の増加が起こると習いました。ちょうど裏返しなんですね。
ドクタードクター
その通り。亢進と低下を対にして覚えると忘れにくい。甲状腺機能低下症では便秘のほかに、寒がり、易疲労感、体重増加、皮膚乾燥、圧痕を残さない粘液水腫、嗄声、徐脈、アキレス腱反射の弛緩相の遅れ、検査では高コレステロール血症やCK上昇もみられる。原因として多いのは橋本病だ。では、ほかの選択肢も確認しよう。胆石症はどうかな。
医学生医学生
胆石が腸に詰まる胆石イレウスというのを聞いたことがあるので、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いところを突いてきたね。確かに大きな胆石が胆嚢と腸管の瘻孔を通って腸に落ち、回腸末端などに詰まることがある。でもそれは急性の腸閉塞で、慢性的な便秘症とは病態が違う。胆石症の主な症状は脂肪食後の右季肋部痛や心窩部痛、胆嚢炎や胆管炎を合併すれば発熱や黄疸だ。
医学生医学生
慢性肝炎はどうでしょう。消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんに排便コントロールをしていたのを覚えています。
ドクタードクター
よく見ていたね。ただ、あれは便秘が腸内でのアンモニアの産生と吸収を増やして肝性脳症の誘因になるから、便通を整えているんだ。つまり便秘が肝疾患を悪化させる関係であって、肝炎が便秘を起こすわけではない。慢性肝炎自体は多くが無症状で、腸管運動を落とす機序はないよ。
医学生医学生
慢性膵炎は、消化不良でお腹の調子が悪くなりそうですが……。
ドクタードクター
便通異常は起こるけれど、向きが逆なんだ。膵外分泌機能が落ちると脂肪が消化・吸収されず、量が多く白っぽい悪臭のある脂肪便、つまり下痢になる。CBTでも頻出の脂肪性下痢だね。高尿酸血症は痛風関節炎、痛風結節、尿路結石、腎障害が臨床像の中心で、消化管運動には影響しない。
医学生医学生
そうすると、腸を動かす力そのものに作用する病気を探せばよかったんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の考え方だ。少し視野を広げて、症候性便秘の原因をまとめておこう。内分泌・代謝では甲状腺機能低下症のほか、自律神経障害を伴う糖尿病、副甲状腺機能亢進症などによる高カルシウム血症、低カリウム血症。神経疾患ではParkinson病、脳血管障害、脊髄損傷、多発性硬化症。膠原病では消化管平滑筋が線維化する全身性強皮症がある。
医学生医学生
薬でも便秘になりますよね。病棟で、オピオイドを始めた患者さんに下剤がセットで処方されていました。
ドクタードクター
そう、薬剤性便秘はとても多い。オピオイドのほか、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬なども原因になる。便秘の患者さんを診たら、まずお薬手帳を確認する習慣をつけたいね。
医学生医学生
逆に下痢を起こす内分泌疾患もありましたよね。
ドクタードクター
甲状腺機能亢進症のほか、カルチノイド症候群、VIP産生腫瘍によるWDHA症候群、ガストリノーマによるZollinger-Ellison症候群が代表だ。最後に臨床で一番大事な注意点を言っておく。中高年で新たに出てきた便秘や、血便、体重減少、貧血を伴う便秘では、大腸癌などの器質的疾患を必ず除外すること。安易に下剤だけで済ませないのが鉄則だよ。
医学生医学生
便秘を診たら、腸の形の異常、全身疾患、薬の3方向から原因を探す、ということですね。
ドクタードクター
その整理ができれば十分だ。原因に対処できれば、便秘そのものが改善することも多いからね。

まとめ

便秘は器質性便秘、機能性便秘、そして全身疾患や薬剤による症候性・薬剤性便秘に分けて考えると整理しやすくなります。甲状腺ホルモンは消化管の蠕動運動を促進するため、甲状腺機能低下症では腸管運動が低下して便秘をきたし、反対に機能亢進症では下痢や排便回数の増加がみられます。胆石症・慢性肝炎・高尿酸血症は便秘の原因とはならず、慢性膵炎の外分泌不全ではむしろ脂肪性下痢が問題になります。症候性便秘の原因には糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症、Parkinson病、全身性強皮症などがあり、オピオイドや抗コリン薬などの薬剤性便秘も見逃せません。中高年の新規発症の便秘や警告症状を伴う便秘では大腸癌の除外を優先する、という臨床判断とあわせて身につけておきたいテーマです。

解答・解説

正解はeです

便秘をきたしうる基礎疾患を問う一般問題である。 便秘は、大腸そのものに器質的な狭窄や閉塞がある「器質性便秘」と、腸管の運動や排便機能の異常による「機能性便秘」に大別される。さらに、全身疾患や薬剤によって二次的に腸管運動が低下して起こる便秘(症候性便秘・薬剤性便秘)がある。症候性便秘の原因として代表的なのは、内分泌・代謝疾患(甲状腺機能低下症、糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症など)、神経疾患(Parkinson病、脊髄損傷、多発性硬化症など)、膠原病(全身性強皮症など)である。 選択肢のうち、腸管運動を低下させる機序が明確なのは甲状腺機能低下症である。甲状腺ホルモンは全身の代謝と消化管の蠕動運動を促進する働きをもつため、その不足によって腸の動きが鈍くなり便秘を生じる。他の選択肢はいずれも便秘の原因として一般的なものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  胆石症

    胆石症の症状は、食後(特に脂肪食後)の右季肋部痛・心窩部痛(胆石発作)や、胆囊炎・胆管炎合併時の発熱・黄疸などであり、慢性的な便秘の原因とはならない。まれに大きな胆石が胆囊と腸管の瘻孔を通って腸管内に落下し、回腸末端などに詰まって胆石イレウスを起こすことがあるが、これは急性の腸閉塞であり便秘症とは病態が異なる。便秘と胆石症が同一患者に併存することはあっても、因果関係はない。

  2. ×b.  慢性肝炎

    慢性肝炎はB型・C型肝炎ウイルスなどによる肝の持続的な炎症であり、多くは無症状で、自覚症状があっても全身倦怠感や食欲不振程度である。腸管運動を低下させる機序はなく、便秘の原因とはならない。なお、肝硬変に進行した段階では、便秘が腸内でのアンモニア産生・吸収を増やして肝性脳症の誘因となるため排便管理が重要になるが、これは「便秘が肝疾患を悪化させる」関係であり、逆ではない。

  3. ×c.  慢性膵炎

    慢性膵炎が進行して膵外分泌機能不全に陥ると、脂肪の消化・吸収が障害され、量の多い脂肪便(白っぽく悪臭のある下痢便)や消化不良がみられる。したがって慢性膵炎で問題となる便通異常は便秘ではなく下痢(脂肪性下痢)である。その他の症状は上腹部痛・背部痛、膵内分泌機能低下による糖尿病などである。

  4. ×d.  高尿酸血症

    高尿酸血症(血清尿酸値7.0 mg/dLを超える状態)の臨床像は、痛風関節炎、痛風結節、尿路結石、腎障害(痛風腎)などであり、消化管運動に影響して便秘を起こすことはない。

  5. ○e.  甲状腺機能低下症

    甲状腺ホルモンは基礎代謝を高めるとともに消化管平滑筋の運動を促進する。甲状腺機能低下症(代表的原因は橋本病=慢性甲状腺炎)ではホルモン不足により腸管蠕動が低下し、便秘を生じる。ほかに寒がり、易疲労感、体重増加、皮膚乾燥、粘液水腫(圧痕を残さない浮腫)、嗄声、徐脈、アキレス腱反射の弛緩相遅延、高コレステロール血症、CK上昇などがみられる。逆に甲状腺機能亢進症では腸管運動が亢進し、排便回数の増加や下痢をきたす。

便秘の分類

・器質性便秘: 大腸癌、炎症性腸疾患による狭窄、腸管癒着、Hirschsprung病(先天的な腸管神経節細胞の欠如)など、腸管の形態的異常によるもの。 ・機能性便秘: 腸管運動の低下(弛緩性便秘)、腸管の痙攣的な収縮による便通異常(痙攣性便秘、過敏性腸症候群の便秘型など)、直腸・肛門の排出障害(直腸性便秘・便排出障害)など。 ・症候性便秘: 全身疾患に伴うもの。  内分泌・代謝: 甲状腺機能低下症、糖尿病(自律神経障害)、副甲状腺機能亢進症などによる高カルシウム血症、低カリウム血症  神経: Parkinson病、脳血管障害、脊髄損傷、多発性硬化症  膠原病: 全身性強皮症(消化管平滑筋の線維化) ・薬剤性便秘: オピオイド、抗コリン薬、三環系抗うつ薬、カルシウム拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陽イオン交換樹脂など。

便秘と下痢をきたす内分泌疾患の対比

・便秘: 甲状腺機能低下症、高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症など) ・下痢: 甲状腺機能亢進症(Basedow病)、カルチノイド症候群、WDHA症候群(VIP産生腫瘍)、ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)

臨床での注意

新たに出現した便秘や、血便・体重減少・貧血を伴う便秘(特に中高年)では、大腸癌などの器質的疾患を除外する必要がある。

POINT

・甲状腺機能低下症は腸管蠕動を低下させ便秘をきたす(甲状腺機能亢進症では下痢)。 ・症候性便秘の原因: 甲状腺機能低下症、糖尿病、高カルシウム血症、低カリウム血症、Parkinson病、全身性強皮症など。 ・慢性膵炎(外分泌不全)は便秘ではなく脂肪性下痢をきたす。 ・胆石症・慢性肝炎・高尿酸血症は便秘の原因とならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。