涙の告白に「質問攻め」は禁物―医療面接で見抜く調査的態度
第100回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
初診患者(田中○子,56歳)に対する担当医(山本医師)の会話を以下に示す。 医師① 「おはようございます。私は内科医の山本です。お名前をお聞かせください」 患者 「田中○子と申します」(下をみつめて低い声) 医師② 「どうされましたか。来院された理由を詳しくお話しください」 患者 「実は1週前から体がだるくなり,夜よく眠れなくなりました…」 医師 「それは大変ですね」 ③ 「1週前から体がだるく,夜よく眠れなくなったのですね。他に何かありませんか」 患者 「あの…,息子が勤める化学薬品工場で10日前に事故があり,巻き込まれて失明しそうなんです」(涙を流す) 医師④ 「どんな事故だったのですか。どうして事故が起こったのですか。息子さんはどこに入院しておられるのですか」 患者 「もう,顔が工場の薬でメチャメチャになり…」(涙を流す) 医師⑤ 「なるほど,そのようなことがあれば,辛いですね」 患者 「…」 医師 「ところで,体のだるさについて伺いたいのですが,例えば,横になるともう起き上がれないほどのだるさですか」 患者 「それほどでもありません」 医師の発言で調査的なのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療面接での医師の応答は、ポーターの分類で評価的・解釈的・支持的・調査的・理解的(共感的)の5つの態度に分けられます。調査的態度とは、面接者の関心に沿って事実関係を次々と聞き出そうとする態度で、患者が涙ながらに心理的背景を語り始めた場面で事故の内容・原因・入院先を立て続けに尋ねる発言がその典型です。一方、自己紹介と本人確認、開放型質問による受診理由の聴取、要約・確認と促し、「辛いですね」という共感的応答は、いずれも適切な面接技法です。面接は開放型から閉鎖型へと進めるのが原則で、感情が動いている場面ではまず共感で受け止めることが信頼関係の構築につながります。こうした態度の違いを意識することは、OSCEだけでなく実際の診療で症状の背景にある問題を引き出す力の土台になります。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
医療面接で医師が発する言葉には、患者に与える影響の異なるいくつかの「型」がある。カウンセリングの分野ではポーター(Porter)が面接者の応答態度を、評価的・解釈的・支持的・調査的・理解的(共感的)の5つに分類しており、本問はその中の「調査的態度」にあたる発言を選ばせている。
調査的態度とは
調査的態度とは、面接者が自分の関心に沿って、事実関係をさらに詳しく聞き出そうと問いを重ねる態度である。情報収集には必要な面もあるが、患者の感情が大きく動いている場面で用いると、患者は「気持ちを受け止めてもらえず、根掘り葉掘り尋ねられている」と感じ、心を閉ざしやすい。
会話の流れの整理
患者は初診時から下を向いて小声で話し、倦怠感と不眠を訴えている。さらに医師が話を促すと、息子が化学薬品工場の事故に巻き込まれ失明しそうだという、症状の背景にある強い心理的ストレスを涙ながらに語り始める。この場面で求められるのは、まず患者のつらさを受け止める共感的な応答である。ところが医師は④で、事故の様子、原因、入院先という、患者本人の症状とは直接関係の薄い事実を立て続けに尋ねている。これは医師側の関心に基づく質問を重ねたもので、典型的な調査的態度にあたる。 各発言を「挨拶・自己紹介」「開放型質問」「要約・確認と促し」「調査的質問」「共感的応答」のどれにあたるかという視点で見分けるとよい。
選択肢考察
- ×a. ①
挨拶をして自分の名前と診療科を名乗り、続いて患者の氏名を確認している。面接の導入として適切な自己紹介・本人確認であり、患者から情報を掘り下げる調査的な発言ではない。
- ×b. ②
「どうされましたか」と、患者が自由に答えられる形で受診理由(主訴)を尋ねている。これは開放型質問(open-ended question)であり、面接の初めに患者自身の言葉で語ってもらうための適切な問いかけである。医師の関心に沿って特定の事実を問い詰める調査的な発言ではない。
- ×c. ③
患者の話した内容(1週前からの倦怠感と不眠)を医師が言い換えて返しており、要約・確認の技法にあたる。これにより患者は話を正しく聞いてもらえたと感じることができる。そのうえで「他に何かありませんか」と開放型の問いかけで話の続きを促しており、実際にこの問いをきっかけに患者は心理的背景を語り出している。調査的な発言ではない。
- ○d. ④
息子の事故について泣きながら話し始めた患者に対し、事故の内容、原因、入院先という3つの事実を立て続けに尋ねている。患者の感情に応答することなく、医師側の関心から事実関係を次々と聞き出そうとしており、調査的態度の典型である。患者本人の症状の評価にもほとんど役立たない質問であり、この場面ではまず患者のつらい気持ちを受け止める応答をすべきであった。
- ×e. ⑤
「そのようなことがあれば、辛いですね」と、患者が抱えている感情を言葉にして受け止めており、共感的(理解的)な応答である。患者の気持ちに寄り添う発言であり、調査的ではない。
ポーターによる面接者の5つの態度
・評価的態度:面接者の価値基準で患者の考えや行動の善し悪しを判断する(例:「それはよくないですね」)。 ・解釈的態度:患者の言動の意味や原因を面接者が説明づける(例:「それはストレスのせいでしょう」)。 ・支持的態度:患者を励ましたり安心させたりする(例:「きっと大丈夫ですよ」)。根拠のない保証になると逆効果になりうる。 ・調査的態度:面接者の関心に沿って、さらに情報を聞き出そうと質問を重ねる(例:本問の④)。 ・理解的(共感的)態度:患者の感情や考えをそのまま受け止め、理解したことを伝える(例:本問の⑤)。患者との信頼関係の形成に最も役立つとされる。
医療面接で用いる主な技法
・開放型質問:「どうされましたか」のように、患者が自由に答えられる質問。面接の初めに用いる。 ・閉鎖型質問:「はい」「いいえ」や単語で答えられる質問。情報の確認や絞り込みに用いる。 ・焦点を絞った質問:「だるさはどの程度ですか」のように、話題を限定しつつ自由に答えられる質問。 ・促し(促進):うなずき、相づち、「それで」「他には」などで話の続きを促す。 ・要約・確認:患者の話をまとめて返し、理解が正しいかを確認する。 ・共感:患者の感情を察し、それを言葉にして伝える。 ・沈黙:患者が考えをまとめたり感情を整理したりする時間を尊重する。 一般に、面接は開放型質問から始め、必要に応じて焦点を絞った質問、閉鎖型質問へと移っていく(開放型から閉鎖型へ)のが原則である。
POINT
・調査的態度は、面接者の関心から事実を次々と聞き出そうとする態度で、患者の感情が動いている場面では不適切になりやすい。 ・④は事故の内容・原因・入院先を立て続けに問う典型的な調査的発言である。 ・①は自己紹介、②は開放型質問、③は要約・確認と促し、⑤は共感的応答。 ・ポーターの5分類:評価的、解釈的、支持的、調査的、理解的(共感的)。
