胆石は「材料」で決まる―肝硬変がコレステロール胆石を作りにくい理由
第100回医師国家試験 B問題 第32問
国試問題にチャレンジ
コレステロール胆石の原因として考えにくいのはどれか。
- a.肥満
- b.妊娠
- c.肝硬変
- d.糖尿病
- e.中心静脈栄養
対話形式の解説
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ドクターまとめ
コレステロール胆石は、コレステロール過飽和胆汁、ムチンなどによる核形成の促進、胆囊収縮能の低下によるうっ滞という3条件が重なってできます。肥満・妊娠・糖尿病・中心静脈栄養(CCK分泌低下による胆囊収縮不全)はいずれもこれらの条件を満たす危険因子です。一方、肝硬変ではコレステロール合成が低下し、脾機能亢進による溶血で非抱合型ビリルビンが増えるため、できやすいのは色素胆石の黒色石です。胆管内に多いビリルビンカルシウム石は細菌感染によるビリルビンの脱抱合が原因であり、結石の種類と成因・部位を対応させて理解しておくと、診断や治療選択(溶解療法の適応など)の判断に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
胆石はその主成分によって、コレステロール胆石と色素胆石(ビリルビンを主成分とする黒色石・ビリルビンカルシウム石)に大別される。日本では胆囊結石の多くがコレステロール胆石である。本問は、それぞれの胆石ができる仕組みを押さえていれば解ける。
コレステロール胆石ができる3つの条件
(1) 胆汁中のコレステロールが過剰になる(過飽和胆汁): 胆汁中のコレステロールは胆汁酸とリン脂質(レシチン)がつくるミセルに溶け込んでいる。コレステロールが相対的に多くなる、あるいは胆汁酸が減ると溶けきれずに結晶が析出しやすくなる。 (2) 結晶化を促す因子が働く(核形成の促進): 胆囊粘膜から分泌されるムチンなどが結晶の核となる。 (3) 胆囊の収縮が弱く胆汁がうっ滞する: 結晶が胆囊外に排出されず、胆囊内で大きく成長する。 肥満・妊娠・糖尿病・中心静脈栄養は、いずれもこれらの条件のうち一つ以上を満たすため、コレステロール胆石の危険因子である。 一方、肝硬変では肝臓でのコレステロール合成そのものが低下するうえ、脾腫による脾機能亢進で赤血球が壊されやすく(溶血)、胆汁中の非抱合型ビリルビンが増える。このため肝硬変でできやすいのは色素胆石のうちの黒色石である。したがって、コレステロール胆石の原因として考えにくいのは肝硬変である。
選択肢考察
- ×a. 肥満
肥満では肝臓でのコレステロール合成が亢進し(律速酵素であるHMG-CoA還元酵素の活性が高まる)、胆汁中に分泌されるコレステロールが増えて過飽和胆汁になりやすい。コレステロール胆石の代表的な危険因子である。なお、急激な減量(超低カロリー食や肥満外科手術の後など)も、脂肪組織から動員されたコレステロールが胆汁に出ることと、食事量の減少による胆囊収縮の低下によって胆石形成を促す。
- ×b. 妊娠
妊娠中はエストロゲンとプロゲステロンが増える。エストロゲンは肝臓からのコレステロール分泌を増やして胆汁を過飽和にし、プロゲステロンは平滑筋を弛緩させて胆囊の収縮を弱め、胆汁うっ滞を招く。この両方の作用によりコレステロール胆石ができやすくなる。女性に胆石が多いこと、多産や経口避妊薬・エストロゲン製剤の使用が危険因子とされることも同じ仕組みで説明できる。
- ○c. 肝硬変
肝硬変では肝細胞の機能低下によってコレステロールの合成が減り、胆汁中へのコレステロール分泌も少なくなるため、コレステロール過飽和胆汁は生じにくい。一方、門脈圧亢進に伴う脾腫で脾機能が亢進し、赤血球の破壊(溶血)が増えるため、胆汁中の非抱合型ビリルビンが増加する。これがカルシウムと結合して重合し、黒色石(色素胆石)を形成する。したがってコレステロール胆石の原因としては考えにくい。黒色石は溶血性貧血(遺伝性球状赤血球症など)や心臓の人工弁による機械的溶血でもできやすい。
- ×d. 糖尿病
糖尿病、特に2型糖尿病では、肥満・インスリン抵抗性・脂質異常症を合併しやすく、肝臓からのコレステロール分泌が増えて胆汁が過飽和になりやすい。さらに糖尿病性の自律神経障害によって胆囊の収縮能が低下し、胆汁がうっ滞する。これらによりコレステロール胆石の危険因子となる。
- ×e. 中心静脈栄養
胆囊の収縮は、食物(特に脂肪)が十二指腸に入ったときに分泌される消化管ホルモンのコレシストキニン(CCK)によって起こる。中心静脈栄養で経口摂取・経腸栄養が行われない期間が長くなると、CCKの分泌刺激がなくなり胆囊がほとんど収縮しなくなる。その結果、胆囊内で胆汁がうっ滞・濃縮して胆泥(biliary sludge)が生じ、そこから胆石が形成される。コレステロール胆石の原因となるほか、色素胆石の形成にも関与しうる。
胆石の種類と成因
・コレステロール胆石(純コレステロール石、混成石、混合石): 最も多い。胆囊内に多い。コレステロール過飽和胆汁、核形成の促進、胆囊収縮能の低下によってできる。X線透過性で単純X線に写りにくい。 ・黒色石(色素胆石): 胆囊内に多い。溶血(溶血性貧血、肝硬変に伴う脾機能亢進、人工弁など)による非抱合型ビリルビンの増加が原因。胃切除後にもみられる。 ・ビリルビンカルシウム石(色素胆石): 胆管内に多い。腸内細菌の感染による胆汁うっ滞が原因で、細菌のβ-グルクロニダーゼが抱合型ビリルビンを分解(脱抱合)し、非抱合型ビリルビンがカルシウムと結合して生じる。かつて日本で多かったが、衛生状態の改善とともに減少した。
コレステロール胆石の危険因子(英語圏での語呂 5F)
Female(女性)、Forty(40歳代以降)、Fatty(肥満)、Fertile(多産・妊娠)、Fair(白人)。このほか、急激な減量、脂質異常症、糖尿病、中心静脈栄養・絶食、エストロゲン製剤、回腸切除やクローン病(胆汁酸の腸肝循環の途絶で胆汁酸が減る)、フィブラート系薬、オクトレオチド(胆囊収縮の抑制)などがある。
治療との関連
純コレステロール石など一部のコレステロール胆石は、ウルソデオキシコール酸による溶解療法の対象となりうる(胆囊の機能が保たれ、石灰化がなく、小さい結石が対象)。有症状例の標準治療は腹腔鏡下胆囊摘出術である。
POINT
・コレステロール胆石の成因: 過飽和胆汁+核形成の促進+胆囊収縮能の低下(うっ滞)。 ・危険因子: 肥満、妊娠・エストロゲン、糖尿病、脂質異常症、急激な減量、中心静脈栄養・絶食、回腸切除。 ・肝硬変・溶血性貧血は黒色石(色素胆石)の原因。 ・胆管内のビリルビンカルシウム石は胆道感染(細菌のβ-グルクロニダーゼ)による。 ・中心静脈栄養ではCCK分泌の低下で胆囊が収縮せず、胆泥・胆石ができやすい。
