皮膚は遺伝子の窓―「白斑と結節性硬化症」から学ぶ小児疾患の皮膚・毛髪サイン
第100回医師国家試験 B問題 第13問
国試問題にチャレンジ
症候と疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.赤茶色の毛髪 ―― メープルシロップ尿症
- b.白斑 ―― 結節性硬化症
- c.輪状紅斑 ―― 若年性特発性関節炎
- d.毛細血管拡張 ―― Down症候群
- e.café au lait斑 ―― Hunter症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の先天性・遺伝性疾患では、皮膚や毛髪の所見が診断の糸口になることが多く、所見と疾患を正確に対応づけておく必要があります。結節性硬化症では葉状白斑が出生時から乳児期早期にみられ、顔面血管線維腫が目立つ前の最初の手がかりとなるため、乳児のけいれんではWood灯も活用して皮膚を観察します。赤茶色の毛髪はフェニルケトン尿症、輪状紅斑はリウマチ熱、毛細血管拡張は毛細血管拡張性運動失調症、café au lait斑は神経線維腫症1型が代表で、メープルシロップ尿症は甘い尿臭、全身型若年性特発性関節炎はサーモンピンク疹が特徴です。結節性硬化症はmTOR経路の破綻により全身に過誤腫を生じるため、皮膚所見から脳・心臓・腎臓・肺へと視野を広げることが大切です。「所見から疾患を想起する」力は、外来や新生児・乳児健診での早期発見に直結します。
解答・解説
正解はbです
小児期に発症する先天性疾患・遺伝性疾患の多くは、皮膚や毛髪に特徴的な所見を伴う。これらは診断の糸口として重要であり、「どの疾患でどの皮膚・毛髪所見がみられるか」を正確に対応づけておく必要がある。 本問の5つの組合せは、いずれも「ある疾患の代表的な所見」を「別の疾患」に結びつけるように作られている。正しく対応させると次のようになる。 ・赤茶色(色の薄い)毛髪 → フェニルケトン尿症(メラニン合成の低下) ・白斑(葉状白斑) → 結節性硬化症 ・輪状紅斑 → リウマチ熱 ・毛細血管拡張 → 毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)など ・café au lait斑 → 神経線維腫症1型など したがって、疾患と所見の組合せが一致しているのは結節性硬化症と白斑の組合せである。
選択肢考察
- ×a. 赤茶色の毛髪 ―― メープルシロップ尿症
毛髪が赤茶色〜淡い色調になるのはフェニルケトン尿症(PKU)の特徴である。PKUではフェニルアラニン水酸化酵素の欠損によりチロシンが不足し、さらに蓄積したフェニルアラニンがチロシナーゼを阻害するため、メラニン産生が低下して毛髪・皮膚・虹彩の色が薄くなる。一方、メープルシロップ尿症は分岐鎖ケト酸脱水素酵素複合体の欠損により、分岐鎖アミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)とそのケト酸が蓄積する常染色体劣性(潜性)遺伝の疾患である。新生児期早期から哺乳不良、嘔吐、意識障害、けいれんなどで発症し、尿や汗がメープルシロップ(カラメル)様の甘いにおいを放つのが特徴で、毛髪の色調変化は特徴ではない。
- ○b. 白斑 ―― 結節性硬化症
結節性硬化症では、木の葉のような形をした境界明瞭な脱色素斑(葉状白斑、ash-leaf spot)が出生時または乳児期早期からみられ、しばしば本症の最初の手がかりとなる。色の白い乳児では見逃されやすいが、Wood灯(紫外線ランプ)で照らすと白く浮き出て確認しやすい。顔面の血管線維腫(かつて皮脂腺腫と呼ばれた)が目立つのは幼児期以降であるため、乳児期のけいれん(点頭てんかんなど)と白斑の組合せから本症を疑うことが重要である。現行の診断基準でも、径5mm以上の脱色素斑が3個以上あることは大症状の一つに挙げられている。
- ×c. 輪状紅斑 ―― 若年性特発性関節炎
輪状紅斑(辺縁性紅斑、erythema marginatum)はリウマチ熱に特徴的な皮疹で、Jones診断基準の大症状の一つである。体幹や四肢近位に、中心部が退色し辺縁が淡紅色に縁取られた環状〜蛇行状の紅斑として出現し、かゆみはなく短時間で形を変える。若年性特発性関節炎(JIA、旧称:若年性関節リウマチ)のうち全身型でみられる皮疹は、サーモンピンク色で数mm〜1cm程度の淡い紅斑(リウマトイド疹)であり、弛張熱の発熱時に出現し解熱とともに消える一過性の皮疹が特徴である。輪状紅斑とは区別される。
- ×d. 毛細血管拡張 ―― Down症候群
皮膚・眼球結膜の毛細血管拡張を特徴とするのは、毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia:ATM遺伝子異常による常染色体劣性遺伝疾患で、小脳失調・免疫不全・悪性腫瘍の合併を伴う)や、遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)などである。Down症候群(21トリソミー)の皮膚・外表所見としては、手掌の単一屈曲線(猿線)などの皮膚紋理の異常、皮膚の乾燥、大理石様皮膚などが知られるが、毛細血管拡張は特徴的所見ではない。
- ×e. café au lait斑 ―― Hunter症候群
café au lait斑(ミルクコーヒー色の色素斑)が特徴的なのは神経線維腫症1型(NF1、von Recklinghausen病)で、思春期前で最大径5mm以上、思春期以後で15mm以上のものが6個以上あることが診断基準の一つである。McCune-Albright症候群(辺縁が不整な大型の色素斑)や毛細血管拡張性運動失調症でもみられることがある。Hunter症候群(ムコ多糖症II型)はイズロン酸-2-スルファターゼの欠損によりデルマタン硫酸・ヘパラン硫酸が蓄積するX連鎖劣性(潜性)遺伝疾患で、ガーゴイル様顔貌、巨舌、低身長、関節拘縮、肝脾腫、難聴、知的障害などを示す。Hurler症候群(I型、α-L-イズロニダーゼ欠損)と異なり角膜混濁は原則としてみられない。皮膚所見としては肩甲部などの象牙色の丘疹(小石状皮膚)が知られるが、café au lait斑は特徴ではない。
結節性硬化症の概要
TSC1(ハマルチン)またはTSC2(ツベリン)遺伝子の異常による常染色体優性(顕性)遺伝疾患で、孤発例も多い。これらの遺伝子産物はmTOR経路を抑制しており、その破綻により全身の諸臓器に過誤腫が生じる。古典的三主徴(Vogtの三徴)は、顔面の血管線維腫、てんかん発作、知的障害である。 ・皮膚:葉状白斑、顔面血管線維腫、粒起革様皮(シャグリンパッチ)、爪囲線維腫(Koenen腫瘍) ・中枢神経:皮質結節、上衣下結節(CTで石灰化)、上衣下巨細胞性星細胞腫、点頭てんかん(West症候群) ・心臓:心横紋筋腫(胎児期〜新生児期に発見されやすく、自然退縮することが多い) ・腎臓:腎血管筋脂肪腫、腎嚢胞 ・肺:リンパ脈管筋腫症(LAM、成人女性に多い) ・眼:網膜過誤腫 近年はmTOR阻害薬(エベロリムス)が上衣下巨細胞性星細胞腫や腎血管筋脂肪腫などの治療に用いられる。
皮膚・毛髪所見と疾患の対応(整理)
・淡色・赤茶色の毛髪:フェニルケトン尿症(ほかにクワシオルコルでも毛髪の赤色化がみられる) ・ねじれた縮れ毛(kinky hair):Menkes病(銅輸送障害) ・葉状白斑:結節性硬化症 ・café au lait斑:神経線維腫症1型、McCune-Albright症候群 ・輪状紅斑:リウマチ熱 ・サーモンピンク疹:全身型若年性特発性関節炎、成人Still病 ・眼球結膜・皮膚の毛細血管拡張:毛細血管拡張性運動失調症 ・顔面のポートワイン母斑(三叉神経第1枝領域):Sturge-Weber症候群
メープルシロップ尿症
分岐鎖アミノ酸の代謝障害で、新生児マススクリーニングの対象疾患である。急性期には透析などで蓄積物質を除去し、慢性期は分岐鎖アミノ酸を制限した特殊ミルク・食事療法を行う。
POINT
・葉状白斑は結節性硬化症の早期診断の手がかり(Wood灯で見やすい)。 ・赤茶色(淡色)の毛髪はフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症は尿の甘いにおい。 ・輪状紅斑はリウマチ熱(Jones基準の大症状)、全身型JIAはサーモンピンク疹。 ・毛細血管拡張は毛細血管拡張性運動失調症やOsler病、Down症候群の特徴ではない。 ・café au lait斑は神経線維腫症1型(6個以上が診断基準)、Hunter症候群ではない。
